数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第29話 学会

 それから雨宮は、参考になるであろう論文を読みつつ、マーリンと文通をする生活を行っていた。

 文通は2週間ほどで返ってくる。内容は、今の研究の概要や私生活の状況、また取り留めのない会話が多かった。

 雨宮はマーリンの手紙が来れば、時間がかかっても必ず返事を書くようにしていた。手紙を含め、会話というのは言葉のキャッチボールであるからだ。こちらから適切なボールを投げなければ、相手はそれを捕って返すことは出来ない。だからどんなに時間がかかっても手紙はしたためたのだ。

 しかし最近は、それも満足に出来ていない。なぜなら、数学学会総会に出席するために様々な準備をしているからだ。

 3年に一度、年末近くに開催される数学学会の総会は、その3年で発表した論文や学説を様々な数学者が数日かけて意見する場である。今年は、カラーニン科学学院から馬車で一日の所にあるモンクア帝国の首都ロージアで開催される。そこにヨーロッペ中から数学者が参加することになっており、賑わいは大変すごいことになるのだ。

 

「僕が学会に出席するなんて、ちょっと立場が違うというか、力不足な感じが否めないんですが……」

「でもホイター君はこの数ヶ月で論文をいくつも発表しているだろう? それを聞きたい数学者もかなり多いと思うよ」

「そうだよレオ」

「ですがねぇ……。僕の論文のアイディアはほとんど未来の知識を使用している部分が多いんですよ? ほとんど数学の勉強をしていない人が、『神様からお告げがあった』とか言って無茶苦茶な数式を提示しているのと同じ状況で、誰が信用してくれるんですか」

「少なくとも、僕たちは信用しているよ。ホイター君の知識は本物だ。それに、学会に所属している以上、君の数学知識は誰かが証明してくれるはずだ」

「いいんですかね、そんな他人に依存するような形で」

「大丈夫だよ。自信を持って、ホイター君」

 

 雨宮はヌルベーイとイリナに応援される。

 

「じゃあ、やるしかないかぁ……」

 

 雨宮は学会総会のために準備を進める。

 証明は他人がやってくれるかもしれないが、発表や質疑応答に対応するのは雨宮自身であり、他の誰かがやってくれるわけではないのだ。論文を発表したのは雨宮であり、雨宮が論文を一番理解しているはずである。そうでなければ学者としてのメンツが丸つぶれになるだろう。

 雨宮はそのように考え、乗り気ではなかった学会用の資料作りを行うのだった。

 こうして、コラオル暦1710年12月2日を迎える。場所をロージアに移し、いよいよ5日間に渡る数学学会の総会が幕を開けた。

 雨宮たちは、総会の会場であるロージア中央広場からほど近い所にある宿屋の一室で、これまで発表した論文を並べて待機していた。その様子はまるで、未来における同人誌即売会を思わせるだろう。

 そこに、一人、また一人と学者がやってくる。数学者のみならず、興味のある人物なら物理学者でも歴史学者でも学会の発表に参加できるようになっていた。参加する際には追加料金を支払う必要があるが。

 学者がホイターの論文を見て、質問を飛ばしてくる。

 

「失礼、質問よろしいですか?」

「はい、どうぞ」

「この論文……、文章内では和公式と称しているものですが、文字や陣が小さくなると魔法陣として使用できなくなると書かれていますね? なら魔法陣そのものを巨大化させて小さい文字や陣が見えるように書けば問題ないのでしょうか?」

「そうですね、現在はそれで問題ないでしょう。しかし、こちらの論文━━円陣倍数定理に基づくと、円陣は20個以上になると出力や性能が低下することになります。円陣のみならず、文字も同様の性質を持っていると考えられますので、魔法陣を巨大にして文字や陣をかき込んだとしても性能は高止まりするのではないか、というのが僕の見解です」

「なるほど。これは実験を行った結果ですか?」

「はい。実験の結果に関しては論文の8ページ以降に書かれている表をご覧ください」

 

 このような感じで、学者から飛んできた質問を個人の見解を元に返す。現代で言えば、ポスターを使った研究発表に近い形だろう。

 時には痛い質問も飛んでくる。その場面に遭遇するたび、雨宮は額に冷や汗をかきながら澱むことのないように返答していった。

 こうして5日間に及ぶ学会発表は終了する。

 

「うわぁ疲れた……」

 

 発表していた宿の部屋で、ベッドに横になる雨宮。

 

「ホイター君、結構頑張ってたね。評価も上々じゃないか?」

「それならいいんですけどねぇ……」

「大丈夫だよ、レオ。この調子なら、どんな質問があっても的確に返事できるよ」

 

 イリナがそのように褒める。

 

「でも、イリナも大変そうだったじゃないか。途中しどろもどろになってたけど?」

「あ、あれは、想定外の質問が飛んできたから……」

「イリナ君は初めての学会発表だから、緊張していたのもあるだろうさ。とにかく、無事に終わって何よりだ」

「そうですね……」

 

 そうして三人は、カラーニン科学学院へと帰るのだった。

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