数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第33話 交流

 マーリンは椅子に座り、話を始める。

 

「改めまして、私がゼンフリード・マルス・マーリンです。つい先日、フィノーヴァー王国から赴任してきました」

「これはご丁寧にどうも……」

「事情は後ろのお二人から聞きました。とても大変な状況だったでしょう。心中お察しします」

「えぇ、まぁ、実際大変でした……」

 

 そういって雨宮は少量のスープをすする。

 

「私がここに赴任してきたのはちょうど元日でした。学院の研究室に向かったところ、お二人が酷く混乱している様子でして、その時に事情を聞いた次第です。せっかくホイターさんが私のことを拾ってくれたのに酷い仕打ちを受けていることを聞いて、いても立ってもいられなくなり、フィノーヴァー王国、ドゥリッヒ王国、モンクア帝国の政府高官から圧力を憲兵にかけてもらうように色々と仕向けていました。時間はかかってしまいましたが、ホイターさんが無事でなりよりです」

 

 マーリンがニッコリ笑う。その笑顔とは裏腹に、各国の政府高官とも繋がっている人脈に雨宮はとても驚いた。驚いたのだが、残念ながら体調が万全ではないため、衝撃具合では中の下くらいになった。

 

「えーと……、マーリンさん。聞きたいことはそれなりにあるのですが、ひとまずはお会いできて光栄です。共に頑張りましょう」

「はい、ホイターさん」

 

 それからマーリンは、イリナと共にホイターの看病をすることになった。特に力仕事に関することはマーリンがしてくれた。

 数日もすればホイターの胃の状態も回復し、釈放から1週間で歩き回れる程度には元気になった。そして同時に、頭を使う作業を増やしていく。まず手始めに、これまで書いた論文のことをマーリンに説明する。

 

「……なるほど。和公式と円陣倍数定理から、魔法陣の性能をある程度予測することが可能なのですね?」

「そういうことになります。その数式はまだ導き出せていませんが、そう遠くない未来で計算可能になると考えています」

「そうなると……、こんな感じになりますね」

 

 そういってマーリンは、書き取り用に使用していた紙に、サラサラと何かを書きこむ。そしてそれを雨宮に見せた。

 数式のようだったが、そこにはこの時代では滅多に使われることのない総和の記号が書かれていた。そしてそれを利用して、魔法陣の出力をホイター定数で求めるということをやってのけている。

 

「こ、これは……」

 

 数式の完成度に、雨宮は思わず絶句する。今やホイターの脳を利用して、瞬時に数式を計算するのは造作もないことだった。しかしその計算結果を見て、概ね実験結果と一致していることが衝撃だったのだ。

 

「天才だ……」

 

 雨宮は思わず舌を巻く。多くを語ったわけではないが、それでも彼の吸収力は異常に早い。雨宮になってから学会に提出した論文も数本読んでいるようだ。それらを脳内で理解し、組み立て、数式として出力できる。それは稀有な能力とも言えるだろう。

 

「マーリンさん、君は本当に天才だ……!」

「いやぁ、ホイター先生には敵いませんよ」

 

 マーリンの言葉に、雨宮は一瞬反応できなかった。

 

「……うん? 先生? 誰が?」

「ホイター先生のことですよ」

「僕が、先生?」

「えぇ。こんな画期的な魔法陣の出力定義をなさるなんて、それは先生とお呼びするほかないでしょう」

「いやいやいやいや……。僕はただの学者であって、先生という器ではないから……」

「でもヌルベーイ先生のことは『先生』呼びですよね? 同じように師と仰ぐ人なのに、先生と呼ばないのは失礼ですよ」

「うぐっ……」

 

 ド正論である。

 

「で、でもね……。君はまだ16歳で、僕はもうじき19歳だ。たったの2,3歳の差で先生と呼ばれるのは少々こそばゆいというか……」

「そこは慣れてください。ホイター先生は先生と呼ばれるのにふさわしい人物なのですから」

 

 マーリンから真顔でそのようなことを言われる雨宮。謙遜よりも恥ずかしさが勝っている。

 

「~っ! ……分かった。その呼び方に慣れるよ……」

「では今後ともよろしくお願いします、ホイター先生」

 

 なんだか主導権がマーリンにあるような気がした雨宮であった。

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