数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します 作:紫 和春
それからヌルベーイの研究を手伝いつつ、雨宮自身も自分の研究に取り組んでいた。
ヌルベーイの直近の問題は、魔法が物体中をどのように移動するかを推測することだ。これを実験によって検証しようと考えているらしい。
「というわけで、別の研究をしているホイター君には悪いけど、何か良いアイディアあったりする?」
「ずいぶんと抽象的なことを言いますね……。しかも研究の邪魔をしているという理解があるのが余計に……」
「まぁまぁ、そういわずに」
「……そうですね。空気と言う媒体と、それ以外の媒体を用意して、魔法がどのように発散するのかを確認できれば、ヌルベーイ先生の研究に進展があると思います」
「ほう。具体的には?」
「うーん……。空気に接することができる媒体、例えば金属を用いて魔法の進み具合を確認するとか?」
「なるほど。でもホイター君は、物体が接触しているとそこから魔法が拡散するって話をしていなかったっけ? もし金属でやろうとすると金属の中を覗く必要があるけど、実際にはそのようなことはできない」
「そうなりますね」
「魔法がどうやって物体中を進むのか観察できないのは、正直実験を行う意味がない用にも感じるね」
そういってヌルベーイは腕を組んで頭を悩ませる。
「でしたら、水を入れたガラス容器でやるのはどうでしょう? これなら水という媒体の挙動を観察することができますよ」
「なるほどー」
「ただ、注意しなければならないのは、ガラスが存在していることだと思います。もし完全な挙動を確認したいのなら、ガラスという境界面が存在しない上面のみを使うことをオススメします」
「ガラスが魔法の挙動を変化させるってこと?」
「それに近いですね。ガラスも魔法を伝える媒体になり得ます。なのでガラス容器の横から魔法を放ったとすると、ガラスという媒体で変化が起こるのでは? という懸念が出てきます。なので、厳密な実験を行うのであれば、水と空気が接している容器の上を使用することをオススメします」
「ふむ、大体理解したよ。そうなると、容器の上か底のほうに魔法陣を設置して実験するのが良さそうだね」
「そうなります」
ヌルベーイは実験の概要を考えているのか、ブツブツと呟きながら自分の部屋へと戻っていった。
ヌルベーイの質問に答えた雨宮は、自分の研究に戻っていく。今の雨宮が行っていることは、魔法陣の円陣の個数に関することだ。
円陣の個数なら円陣倍数定理で求めたのだが、それとはまた少し趣旨が異なる。今回は円陣の大きさがバラバラでも、出力が高くなる方法を模索しているのだ。
「何か数学的な方法で、この個数を求めることはできないかな……」
雨宮は自分の記憶を頼りに、そういった自然の摂理のような数を探す。
すると、一つの数列を思い出す。フィボナッチ数列だ。
「フィボナッチ数列は、第ゼロ項0、第一項1の数列だな。第n項は第n-1項と第n-2項を足してできており、それを並べた数列だ……」
すると今度は、ホイターの記憶が呼び起され、フィボナッチ数列に関する知識が出現する。
「なるほど、フィボナッチ数列の一般項には黄金比で出てくる黄金数が出現するのか」
そこまで考えた雨宮に、ある考えがよぎる。
「これ、第一項を2に変えた時は、一般項に変化が生じるのか?」
雨宮は研究ノートを使って計算を始める。かなり複雑な計算になるはずなのに、スラスラと簡単に計算ができる。ホイターの記憶によると、一度算出したことがあるようだ。
その要領で計算を進めていくと、どうやらここにも黄金数が出現するらしい。計算結果は二つだが、フィボナッチ数列のような演算では初期入力に関わらず黄金数が現れる。つまりこれは美しい数として成立しているということである。
「それで、この数式はどんな感じに数字が並ぶんだ?」
そういって、雨宮は数字を並べていく。
0,2,2,4,6,10,16,26,42,68,110。ここから和公式と円陣倍数定理により、最適な円陣の数は2個、4個、6個、10個、16個となる。これ以上の、26個以上の大きい数字でも最適な円陣の個数になるのだろうが、効率が悪くなるだろう。なので16個が最大となる。この数式を、今は仮称でホイター数列と呼ぶ。
「どれ、実験してみるか……」
雨宮は以前使用した魔法陣を引っ張り出し、それぞれ上記にて示した個数の魔法陣を用意する。
そしてそこに冷えたビーカーと水を置いて、初期条件を揃えて水の温度上昇を計測する。その結果、少しであったがホイター数式に登場する数の分だけ円陣を書きこむと、少しであるが能力が上昇した。
つまりこれは、ホイターの考えが間違っていないことを意味している。
「ほう、これは面白い……」
そういって雨宮は、その考察を研究ノートに書きこんでいった。