数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します 作:紫 和春
それからいくつか実験をしてみた。特に円陣が16個の時は、20個の時に匹敵するほどの出力効率を持っていることが分かった。
「これをどうにか数式として立式できれば、今後の魔法学会において大きな進展になると思うんだけどなぁ……」
今の雨宮には、それを作る力が微妙に足りない。ならばやることは決まっている。
「というわけで、なんとか力を貸してくれない?」
「私の力ですか?」
マーリンに力を借りることにした。彼に今回の論文にしたい内容を簡単に説明する。
「……魔法陣に書かれる円陣の個数によって変化する出力を計算によって求めたい、ということですね?」
「そう。理解が早くて助かるよ」
「しかし……、なかなか難しいことを言いますね」
「難しいことなのは重々承知しているつもりだよ。それに完璧じゃなくてもいい。今後数十年から数百年にかけて改良できるような、冗長性のある簡易的な数式が欲しいんだ」
「簡易的ですか……」
そういってマーリンは少し考える。
「できなくはないですよ。ただ、それでも少し複雑な計算式にはなると思いますけど」
「できるんだね?」
「えぇ。実験結果はどのようになりました?」
「こんな感じだよ」
雨宮は実験結果を書いた研究ノートを見せる。それを受け取ったマーリンは、ザーッと実験内容を読み込む。
「……なるほど。実験結果から算出される経験式として算出するなら、この形が一番良いでしょう」
そういってマーリンは、自分のメモ用紙にサラサラと数式を書いた。その数式は非常に複雑で、一見すれば意味のない数字が並んでいるように見える。
「立方根とか使っているけど、これって何か意味があったりする?」
「意味はあるはずなんですが、私の直感で書いたものなので意味は分かりません」
マーリンはそんなことを言う。
(それ、ラマヌジャンみたいな発想してんな……)
雨宮はそのように思う。マーリン自身も意味が分からないのであれば、これ以上の追及は意味を成さない。
「意味は分からなくても、この数式は間違ってないはずなんだよね?」
「そうですね。この式は正しいはずです」
「分かった、ありがとう。この数式を論文に記載するけど、マーリンさんの名前も追加で書いておくね」
「分かりました。よろしくお願いします」
雨宮はそのまま、この数式━━漸化関数と呼ぶ━━を中心とした論文を書き始める。ホイター数列、小規模な実験の結果、それを元にした漸化関数を論文にしていく。
(本当はこの数式も証明できるようにしておけばいいんだろうけど……。今の僕には無理だな)
証明に関しては後々行うことを明記しておいて、この論文を締める。
「ふぃー。ひと段落付いた……」
日付はすでに1711年1月29日になっていた。実験をしていた日々であったが、最近は論文を書くスピードが上がってきた。それにより、次の論文の内容をじっくり考える時間が増えている。
(次の論文は流体方程式かなぁ)
そんなことを考えていると、研究室の扉がノックされる。
「郵便でーす」
「はーい」
郵便物を受け取り、誰宛てなのかを確認する。ヌルベーイ研究室にいる全員宛てだった。雨宮は封筒を開け、中身を確認する。送り主はモンクア帝国の大陸軍造兵工廠運用本部だ。
ざっくり言えば、次の通りである。
『新兵器である鋼鉄製マスケット銃の採用に当たり、弾道計算に関する事務処理を数学者、物理学者問わずお願いしたい。報酬は月額2万マリセンとする。希望者は3月1日までにモンクア帝国大陸軍造兵工廠運用本部に集合されたし』
これを読んだ雨宮は、少し難しい顔をする。
「研究で忙しいってのに、学者を呼ぶのか……。いやでも、月額2万はかなり高い……。今の給料の4倍はあるぞ……。かなりおいしいけど……」
雨宮は悩みに悩んだ末、結論を出す。
「今の生活で満足しているから、この招集には参加しなくてもいいや」
雨宮は行かないことを決めたが、三人はどのように考えているかは分からない。一人ずつ聞いてみることにした。
「僕は一応助教授という立場でもあるから、そういった場所には行けないかな」
「私は軍事に興味ないのよね。だから行かないわ」
「せっかくホイター先生の元にやってきたのに、離れるなんて考えられません」
結局全員行かないことになった。
(でも中には、資金繰りが困難になって、お金目当てに行く人とかもいるんだろうなぁ……)
軍事というのは常に金が付きまとってくる。今も昔も、戦争は大金を呼び寄せるビジネスの側面があったり、逆に戦争をすることで国家の資金が底を尽いたりと……。色々あるのが軍事というものだ。
ただ、戦争や軍事は学問を飛躍的に向上させる力も持っている。そういった部分では、プラスに働くのだろう。
とにかく、ヌルベーイ研究室の面々は行かないことにした。それが正しいことだと信じて。