数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第37話 手伝い

 月が替わり、1711年2月1日。

 雨宮はヌルベーイの実験の手伝いをしていた。

 

「水槽の準備はできた?」

「はい、大丈夫です」

 

 今回行う実験は、水槽の底に沈めた魔法陣から魔力の波を発生させ、それがどれだけ減衰するかを調べる。水中の測定器で測定するものと、水中から飛び出して空気中に設置した測定器で測定するものの二種類を用意した。

 

「まずは水中での様子を確認しよう」

 

 そういってヌルベーイは、発信用の魔法陣を水槽の底に沈める。その上方、水槽の真ん中辺りに受信測定用の魔法陣を設置した。それぞれ魔力伝導性のある銀の導線で接続しており、これを使用して魔力を送り込むのだ。

 そのために、最新の機材も用意した。人の力に頼ることなく魔力を一定量放出する、魔池(まち)と呼ばれる動力源だ。人間が放出する魔力を閉じ込めた、電池のような役割を果たす。しかし、この時代の魔池は性能が悪く、現代に比べれば低出力短時間稼働という性能の悪さが光る。しかし、ないよりかはマシなので、今回は導入することにした。

 このほか、受信測定用の魔法陣には検出器を接続する。この機器の仕組みは至って単純。魔力の波を検出すると、大きなフィラメントが熱せられて発光する。それを目で見ると言うものだ。1711年現在では白熱電球はまだ実用化されておらず、その基礎原理であるフィラメントの発熱や発光がようやく認知されてきたという時代だ。一歩間違えれば火傷や火事が発生する恐れのある危険な一品だが、他の方法が存在しないため、致し方ないと言うほかないだろう。

 

「それじゃあ、実験を始めよう」

 

 ヌルベーイは受信測定用の魔法陣に検出器が接続できたことを確認し、雨宮に確認を取る。

 

「こっちも問題ないです」

「それじゃあ、魔池を接続するよ」

 

 ヌルベーイが魔池を銀の導線に接続した。すると水槽の底に沈んでいる魔法陣が稼働を始め、魔力の波を発する。そしてそれは水中を伝播し、受信測定用の魔法陣に到達する。検出器であるフィラメントがパッ、パッ、パッ、と短く点灯する。ただとても弱い光と熱を発するので、よく観察しないと分からないだろう。

 

「ヌルベーイ先生。発信用の魔法陣に記述された通り、1秒間隔ごとに短い発光が確認できます」

「よしよし。問題なく動作しているね。出力はどうだい?」

「事前に動作確認した空気中での検出時より、少し光や熱の放出が小さい気がします」

「水の中だと減衰が強いのか……」

 

 ヌルベーイも、自身の研究ノートに実験の経過を記載する。

 実験開始から10分と経たずに、魔池の魔力が枯渇した。

 

「魔池の残量が少ないのは少し欠点だね。これでも少し魔力量の多い高級品を使っているのに……」

「仕方ないと思いますよ」

「未来では魔池の問題は解決しているの?」

「……まぁ、そうですね」

 

 雨宮は言葉を濁した。

 

「未来の技術に期待するしかないかぁ」

 

 そういってヌルベーイは実験の結果から、今回の魔法の物理学的特性を見出そうとする。

 

「空気中では魔力の衰退は小さく、水中では大きかった。発信用の魔法陣と受信用の魔法陣の距離は同じに設定していたよね?」

「そうですね」

「そしたら、これは物質中にある何かにぶつかって拡散したほうがよいと見たほうがいいのかもしれない」

「逆2乗の法則を加味しても、それ以上に拡散している可能性はありますね」

 

 そういって雨宮はスラスラと数式を立てる。

 距離であるrの2乗を分母に置き、それに対して物体の密度比を分子に置いた。分数の前には係数として魔力の強さを示すpを置く。

 

「こんな感じの数式になると思います」

「ほう、これは……」

 

 ヌルベーイは雨宮の書いた数式を見て、少し考える。

 

「……これ、アリだね。ちょっとこのアイディア貰ってもいい?」

「いいですよ。ですが、論文には僕の名前も記載してくださいね」

「もちろんだよ。最近のホイター君は聡明だねぇ」

 

 そんなことを言われたら、かつての雨宮は照れてしまうか、自分のことを卑下したかもしれないだろう。

 しかし今の雨宮は、さも当然のことであるように感じていた。これはホイターの記憶が混入してきたからか、それとも投獄された経験をしたからか。とにかく、今の雨宮は何か余裕を感じるだろう。

 

「じゃあ、再現性の確認をするために、何回か実験を続けよう」

 

 ヌルベーイが雨宮に対してそのように言う。

 

「分かりました」

 

 雨宮はそれの手伝いを行うのだった。

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