数学者レオニダス・ホイターに転生した大学生、彼の功績を再現しなければ人類史が変わるので必死に再発見します   作:紫 和春

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第6話 解説

「さて、早速だけど研究の話をしよう」

 

 そういってヌルベーイが、ノートのようなものを引っ張り出す。

 

「ホイター君は最近の研究について、どこまで覚えているかな?」

「えっと……、火属性の魔法の出力について実験をしていました」

「その通り。記憶は大丈夫そうだけど、未来の君のためにおさらいをしよう」

 

 ヌルベーイは近くにあった黒板に向かう。そして書かれていた計算式の一部を消してスペースを作った。

 

「まず魔法は、火、水、風、土という四つの属性に分かれていると考えられていた。しかし最近の研究では、これは基本的に誤った解釈であるとされている。では魔法とは何か。それを研究しているのが、魔法哲学。そしてその中にあるのが、僕たち数学者というわけだ」

「哲学の中に数学があるんですね」

「古代の考えでは、全ては哲学に通じると考えられていたからね」

 

 ヌルベーイは四つの属性の単語を並べる。

 

「さて、現在はこの四つを統合する理論が構築されつつある。だけどこれは最新の研究すぎて、ここから理論を組むのには向いていない。そこで、僕たちは従来の属性魔法を発展させた研究をしているというわけだ」

 

 四つの属性の中でも、火と書かれた属性に丸をつける。

 

「僕たちは数学者だけど、同時に物理学者でもある。そこでホイター君は火属性の出力について実験をしていた」

「なんか数学者っぽくないですね……」

「そうかな? 未来では価値観が少し違うのかもしれないね」

 

 ヌルベーイはチョークを置き、雨宮と向き合う。

 

「さて、概要は思い出せたかな?」

「大まかには」

「では早速、今日の研究を始めよう」

 

 そういってヌルベーイは、部屋の奥にある自分の机に戻っていった。

 

「研究を始めるとは言っても、一体何からやっていくか……」

「ならそのバッグは何のために持ってきたのかしら?」

 

 後ろからイリナが声をかける。

 

「これは……、寮の机にあった資料だ。反射的に持ってきたんだっけ」

「何かヒントがあるかもしれないわよ?」

 

 雨宮はバッグの中に入っていた資料を、大きなテーブルの空いている場所に広げる。

 そこには、魔法陣の設計図のようなものが入っていた。

 

「これは……」

 

 その時、朧げに記憶が蘇ってくる。

 

『魔法陣というのは、瞬間的にエネルギーを発するのに向いているが、逆に持続的にエネルギーを発するものには向いていない。まずは低出力で持続的にエネルギーを発する魔法陣を構築する必要がある』

 

 その記憶が蘇ってきた時、何かが脳裏でカチッとハマった気がした。

 

「ホイター定数とホイターの和公式……」

「何それ?」

 

 思わず口に出していたようだ。

 

「あぁ、ちょっとね……。未来の知識を思い出しただけだよ」

「そうなの?」

「ホイター定数……。今やっている火属性の出力に関する定数だ。たしか水1kgを1℃上昇させるのに必要なエネルギーを1カイロと定義した」

「それはただの知識だけよね? 実際に実験して計算しないと何の意味もないと思うわ」

「でも定義づけるだけなら結構単純だ。実験は後回しでも問題ない、と思う……」

「そうなのね。ならなんでこの実験をしていたのかしら?」

 

 イリナの質問に、雨宮はホイターの記憶を探る。

 

(確か、この実験をするに至ったのは……)

 

 記憶の中から、何かが思い出される。

 

『火属性魔法に関する論文を読んでいるんだけど、誰も彼も熱の大きさを摂氏と時間で表現しているのが難点だな。こっちで勝手に摂氏と秒を乗じた数値を使っているけど、いちいち計算するのが面倒なんだよね……』

 

 ヌルベーイが数ヶ月前に発言した言葉だ。

 

「先生の研究の手伝いになればと思って、この研究を始めたんだ」

「おっ、やっと思い出してくれたかい?」

 

 いつの間にかヌルベーイが後ろに立っていた。

 

「確かに火属性の魔法は便利だ。誰でも指先一つで自由に使えるからね。しかし、それぞれが独自の尺度で使っていると、お互いに通訳が必要になる。その分だけ仕事が増えてしまう。それを解消するために、こうして何かしらの定義づけをしようとホイター君は努力してたんだ」

「なるほど……」

「しかし、気になるのはもう一つのほうだ。ホイターの和公式というのはどういうものだい?」

 

 ヌルベーイが質問する。

 

「それは確か、魔法陣に使用される文字や図形が多ければ多いほど、魔法陣の性能が良くなるという話です。ただし、文字が非常に小さかったり重なってしまうと逆に性能が落ちてしまうので、上限があるというものです」

「ほう、それは数式で表せるものなのかい?」

「おそらく……。確かロジスティック関数だかシグモイド関数に似た数式になるんですが……」

 

 それを聞いたヌルベーイとイリナは、目が点になっていた。

 

「なんだい、その関数……?」

「私も聞いたことないわ……」

「コラオル暦の終わりから急激に発展した概念だったはずですから、知らないのも無理はないと思います」

 

 それを聞いたヌルベーイは顎に手をやり、難しい顔をする。

 

「うーむ。世の中の事象は、かなり複雑に出来ているものだな……」

「とにかく今は、定数を定義するところから始めないといけません。ホイターの発見は、以前までの発見から見つけていくものですから」

「……そうだね。まずは目の前の課題から取り組んでいこう」

 

 こうしてホイターの発見を再現する、雨宮の挑戦が始まった。

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