1日空いてしまったのですが、なんとか書き上げることができました。
今回はスバル君の描写が多めです。
──時間が止まったかのようだった。
吹き荒れる風の中、瓦礫を踏みしめる音だけが響く。崩れ落ちた建物群の中心、焦土と化した広場にて、赤髪の男と白装束の男が対峙していた。
「おいおい、さっきから攻撃全てが僕の急所を正確に切り刻んでくるんだけどやりすぎにも程があるんじゃない? 僕はただ正当な"自己"を貫いているだけじゃないか。僕が一体君に何をしたっていうのさ、そんなに人に恨まれるようなことした覚えはないんだけどな」
レグルスが言っていることは心の底からの本心だということは、ラインハルトの持つ風見の加護が証明していた。
これまで数えきれない程の罪なき人達を殺し、その人生を奪ってきたというのに本気で自分が悪いと思っていないレグルスに対しラインハルトはもはや同情など微塵も感じていなかった。
それはまるでこの世の純粋な悪意が人という形を成したかのような底知れない闇を相手にしている気がした。
「……確かに、君の今までの行いに罪悪感など感じないのかもしれない。そこに悪気なんてものは無かったのかもしれない」
その声は、怒りでも悲しみでも無い。ただ責任を背負う者の静謐な決意。
「だが、それでも君という存在は、この世界にあってはならない」
英雄は力強く宣言する。
「だからこそ、この僕が君という悪意に終止符を打とう」
それは一人の騎士としての心からの誓いでもあった。
「……なるほど、なら僕は君という英雄に終止符を打とうか」
レグルスは地面を踏みしめる。
次の瞬間、世界が割れた。
爆音でも斬撃でも無い。"存在"そのものが削られたかのような違和感。地面が裂け、空がたわみ、広場の半分が一瞬で消滅した。
──その中心にレグルスは立っていた。
「君の力はその程度じゃ無いだろ、もっと僕を楽しませてくれよ剣聖!」
レグルスは攻撃のギアを上げる、さっきまでとは比べものにならない威力の衝撃がラインハルトを襲った。
【剣聖】ラインハルト・ヴァン・アストレア。
彼の存在は、まるで"勝利"そのもの。どんな絶望も、彼の剣が振るわれた瞬間に打ち砕かれる。
それがこの世界の"摂理"であった。
そして今、その摂理すら拒絶する例外が目の前にいる。
「無駄だよ確かに君の攻撃は規格外だ。最強と言われるのにも納得がいくよ。だが僕の前では所詮その程度、そよ風となんら変わりない」
先程まで互角だった均衡が徐々にレグルスに傾き始める。それと共にラインハルトの傷は目に見える程に増えていた。
「さっきまでの威勢はどうした。剣の速度が見るからに落ちている。こんなの躱わしてくださいと言っているようなものじゃないか」
そう言うと彼は全ての攻撃を踊るように華麗にかわしていく。
しかし、その余裕な口調とは裏腹にレグルスは既に限界を迎えようとしていた。
彼は権能により肉体時間を5秒ごとに初期化している。それだけでもかなりの集中が必要になる。ましてや、今相手にしているのは世界最強の武力を誇る、対化け物決戦兵器『剣聖』
まだ新たな力に慣れていないことも起因して、彼の脳は既にショート寸前であった。
そのことを悟らせないためにも、彼は咄嗟に笑顔を貼り付ける。だが、その内面は荒れに荒れていた。
「(やばいやばいやばい、コイツチートすぎない!? 俺もう限界なんだけど、気抜いたら無敵化解けちゃうんだけど!? とりあえず適当に意味深なこと言って時間稼ごう、休憩です。タイム! タイム!)」
彼の情けなくも凄まじい熱を持つ心の叫びをラインハルトが知ることはなかった……
***
俺の鼓動がうるさすぎる。
耳の奥でドクドクと鳴る。心臓が暴れてる。肺が縮んで、息がまともに吸えない。……けど、それでも目を逸らせなかった。
だって目の前にいるのは。
最強の騎士ラインハルト。そして、最悪のクソ野郎レグルス。
あの男が喋るたび、空気が裂ける気がした。いや、気がしたんじゃない。
──実際に世界が"震えてた"。
そして今、俺の前で起こる戦いははっきり言って常軌を逸していた。
空を切り裂き、大地を抉り、その余波は建物を吹き飛ばす。この光景がたった二人の
そして俺は、その距離数十メートルのところで、まるで地面に縫い付けられたみたいに動けなかった。
「……そういえば先代の剣聖は白鯨にやられたらしいね。しかも最愛の妻の仇を夫が打ち倒したとか」
突然白装束の男が話始めた。レグルス・コルニアス。大罪司教、強欲の権化。殺しに理屈はいらないと本気で思っているタイプの最低な奴。
「でもおかしいと思わないかい? 白鯨はその人間の生きた軌跡全てを無かったことにできる。なのに人々の記憶から彼女が消えることは無かった」
それを聞いた俺の頭にまるで鈍器で殴られたみたいな衝撃が走る。
俺はあいつが言っていることが理解できなかった……いやしたくなかった。
仮にこれからあいつが言うことが俺の予想通りだとしたらあまりにも残酷すぎる。
対するラインハルトは、何も言わない。
しかしその表情、その溢れんばかりの殺気が彼の心情を物語っていた。
ただ、剣を握り、まるでそれだけで全てを背負うように立っている。
──怖かった。正直言って、俺は死ぬ程怖かった。
この場にいることすら間違っているんじゃないかって思った。
そしてトドメと言わんばかりにレグルスは真実を告げる。
「【先代剣聖】テレシア・ヴァン・アストレアを殺したのは白鯨じゃ無い」
吐き気がした──やめろ、その続きだけは絶対に──
それでもレグルスの口は止まらない、止まる理由がない。
なぜなら……
コイツ、本気で自分の言うこと全てが正しいと思ってやがる。どれだけ人を殺しても、奪っても、傷つけても、それが自分の望みなら"正義"だと心から信じて疑っていない。
そしてレグルスはこれでとどめと言わんばかりに、悪びれることなく最悪の
「君の祖父、【剣鬼】に伝えといてくれるかい? 無駄な努力ご苦労様ってね」
ラインハルトの青い双眼が、眼前に佇むレグルスを真っ直ぐに射抜く。
その双眼に宿った光は、ずいぶん前に見かけた時と違い、激情に揺れていた。
相手が殺戮者であろうと、心を乱すことのなかった男が、レグルスに対して言葉にするのが難しい程の色濃い激情──憎悪を宿し、睨みつけてくる。
その様子に、レグルスが怖気付くことはない。むしろ珍しい物でも見たかのような表情で純粋にラインハルトへ疑問を投げかける。
「人を憎む機能が、君にもあったんだね、【剣聖】」
──逃げ出したい
「僕も、驚いているよ。自分の中に、こんな感情があるとは思わなかった」
──もう十分頑張っただろ
「新しい自分を見つけたみたいだね、誕生日おめでとう、ラインハルト」
──お前にしてはよくやったよ
「悪いが、今日は僕の誕生日じゃない。だが、君の命日にはなる」
──お前は英雄なんかじゃない
「命日ね、それは一度死んだ僕への皮肉かい? それとも君なりの死刑宣告だったかな?」
──この場はラインハルトに任せて俺達はここから
「スバル」
「エミリア……」
そこにいたのは震えた手を握りしめながらもなんとかこの場に踏み止まろうとする大切な
「私ね本当はすごーく怖いの。できるなら今すぐにでも逃げ出したいくらいだもん」
その瞳は今にも泣き出しそうで話し声も微かに震えていた。だがそれ以上に彼女からは絶対に諦めないという強い意思を感じた。
「でもそうしないのはスバルが側に居てくれるから」
「俺が、いるから?」
そうと頷いたエミリアの言葉は消えかけていたスバルの決意をギリギリで踏みとどませる。
段々と自分の胸がスッと軽く、温かくなっていくのを感じながら。
「私が怒った時も、泣いた時も、笑った時もいつも私の側に居てくれてその時に一番欲しい言葉をかけてくれる。お人よしで、なんでも一人で抱え込んじゃう……ちょっぴり困った人」
「そして、私を何回も助けてくれた」
そして彼女はスバルの内心を見透かしたかのようにその想いを紡ぐ。
「だからそんな顔しないで」
まるで曇った空が晴れ渡るかのように
小さな蕾が花開くかのように
「貴方はとーっても頼りになる、私の騎士様なんだから」
彼女の言葉は暗く沈んだスバルの心をこれでもかと明るく照らした。
……ああクソ、俺はバカだ。とんでもないマヌケだ。こんなにも自分を思ってくれる人がいるのに諦めようとしちまった。
ガーフィール、オットー、ベアトリス、ユリウス、みんなが一生懸命戦ってるってのに──
俺が、逃げられるわけないだろうが!
なんでもいい、あいつの弱点を見つけ出せ! 今の俺にできることを精一杯やりとげろ!
何か、何かこの状況を打開する方法は……
「(そういえばさっき、なんであいつは攻撃を躱わした? そんなことする必要は……ッまさか!?)」
何かに気づいたようなスバルの顔にエミリアは思わず笑みを浮かべる。
「スバル、何か分かったの?」
「ああ、俺の推測が正しけりゃレグルスはもう限界だ。どうにかして取り繕ってるみたいだがな」
時間の巻き戻し、そんなデタラメな力をなんのデメリットなしで使えるわけがない。攻撃の規模も最初より小さくなってるしな。
そして彼は今できるありったけの声で叫ぶ。
「ラインハルトー!!」
「あいつの動きが鈍ってる、おそらく権能による消耗が激しい、畳み掛けるなら今だ!」
「やはりこの力の弱点に気がついたかナツキ・スバル! だが限界なのは相手も同じ、次で最後の一撃だ。冥土の土産に受けていけ、ラインハルト!」
「その言葉そっくりそのまま返そう、レグルス」
空気が目に見えて変わる。スバルは額に汗を浮かべた。次の一撃がこの戦いの勝敗を決するという事実に思わず手を握りしめる。
レグルスがラインハルトに向け、極限まで圧縮した空気を飛ばす。
「終わりだ、肉の一片、骨の一欠片も残さずに塵となって消えるといい」
とてつもない質量を持つそれはブラックホールのように回りのもの全てを飲み込みながら標的目掛け飛んでいく。
地面が沈み、空気が破れ、ラインハルトの立っていた場所ごと大地が吹き飛ばされた。
「……っ!!」
俺が思わず叫びそうになったそのとき。
「まだ……終わっていない」
「この街の人々のため、僕の勝利を信じてくれた
彼の意思に応えるかのように、龍剣が蒼く輝いた。
次の瞬間、俺の視界が追いつかない速度で、ラインハルトは踏み込んでいた。
その"言葉"
その"覚悟"
その"意思"に俺はただ立ち尽くしていた。
火花を散らし、激突する二つの影。
一太刀ごとに、大地が割れ、空が裂ける。
並の戦士では、視認すら叶わぬ速さ──
だが彼らは、確かに"見て"いた。
相手の呼吸、わずかな重心の乱れ、心の揺らぎすらも。
ーああ。
これが【剣聖】ラインハルト・ヴァン・アストレアの戦いなんだ。
この世界の"希望"が"絶望"に抗う姿なんだ。
***
そして、全ての音が消えさり、静寂が世界を包む。
肉体ではなく、"信念"がぶつかり合う激突の中で勝者はただ一人。
「どうやら、ここまでみたいだね」
その言葉とともにレグルスは膝をつく。
戦いを制したのはラインハルト、英雄は今度こそ強欲の大罪司教を打ち破った。
しかし、ラインハルト自身も満身創痍であった。純白の騎士服は泥で汚れ血が滲んでおり攻撃を受け止めた腕はありえない方向に曲がっていた。
今彼を立たせているのは騎士としての意地であった。それでも尚その瞳で静かに力強くレグルス見下ろしている。
「今度こそ終わりだレグルス・コルニアス」
ラインハルトは喉元に切先を向けながら勝利を宣言する。
誰がどう見ても詰んでいるこの状況。しかしレグルスの瞳はまだ諦めていなかった。
「……終わり? 君は一つ勘違いをしている」
一見すればただの負け惜しみのように聞こえるその言葉をなぜか聞き逃すことはできなかった。
「全ての終わりには始まりがある。だからこそ、僕が望むのは"終焉"ではなく、新たな"序章"だ」
レグルスは今までにないくらい不気味な笑みを浮かべる。
「(やっぱ勝てなかったか、いいところまで行ったんだけどな。さすがは公式が認めたチート、まだ権能が馴染んでいないとはいえこれは完全敗北だよ。まあ、だからと言ってこのまま黙って殺されるわけにはいかないし、これは本当に奥の手だったんだけどやるしかないか。レグルスの株を下げずにこの場を乗り切る方法、その名も……)」
嫉妬の魔女サテラ召喚
「(いやースバル君は一体どんな顔するだろうなー、ラインハルトもいるしまあ死ぬことはないでしょ!)」
彼らはまだ手負いの獅子の本当の恐ろしさを知らない……
勝負の結果をどうするか悩みに悩んだのですが、やっぱりラインハルトが負けるのは違うなと思って、どうやってレグルスの強キャラ感を崩さずに負けさせるかと言うのが非常に難しかったです。
余談ですが、次の投稿までかなり空いてしまうと思います。