Gifted Error: 授けられた祝福と呪い   作:灰音ヒビキ

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第1話 歌姫事件

 

 

 

歌うことが好きだった。

私の歌を聞いた人が笑ってくれるのが好きだった。

 

歌でみんなを幸せにしたい──

それが、子供の頃から抱いていた私のたった一つの夢だった。

 

私は努力を惜しまなかった。

元々綺麗だった外見にさらに磨きをかけ、歌の技術を洗練し、誰にでも優しく笑顔を振りまく「優しく完璧な少女」を演じた。

 

私の歌を、みんなに届けるために。

私の歌で、みんなを幸せにするために。

 

順調だった。

路上ライブから始めた私の歌は少しずつ有名になり、あるオーディションでアイドルとしてデビューすることもできた。

 

歌は届いた。

みんなが私の歌を聞いてくれた。

幸せだった。

 

ずっと子供の頃から思い描いていた夢が、ついに実現した。

この幸せがずっと……ううん、もっとすごいものになると、私は信じていた。

 

ある日、プロダクションの社長から呼び出しを受けた。

特に何の疑問も抱かず、私は社長室へ向かった。

──そこで、何が待っているかも知らずに。

 

社長は残念そうな顔をして、顔を俯け、私を見ようともしなかった。

そしてぽつりと呟いた。

 

「業界のお偉方から“接待”の要請が来た……」

 

私は本当にこんなことがあるのかと少し驚いたが、答えは決まっていた。

私は断固として拒否した。

 

私は有名になりたいのではない。

歌でみんなを幸せにしたいのだから、そんなものの手を借りるつもりはなかった。

 

社長は私を説得しようとした。

私のキャリアが潰される、私の歌が消される、活動できなくなる──

それでも私の答えは変わらなかった。

 

そんな誰かの玩具になってまで、私は歌えるとは思えなかったから。

 

社長は諦めたのか、そうかと呟くと、それきり何も言わなくなった。

 

それから、すべてが滅茶苦茶になった。

出演するはずだった番組のオファーはすべて取り消され、歌の収録も邪魔が入った。

私に根も葉もないスキャンダルが舞い込み、メディアは一斉に私を攻撃した。

 

私の歌を好きだと言ってくれた人たちも、私を否定するようになった。

 

私はプロダクションから契約を切られ、莫大な借金を背負うことになった。

私は、すべてを失ったのだ。

 

応援してくれた家族は私を責め立てた。

借金を知って、自分たちに迷惑をかけるなと初めて見る形相で叫んでいた。

私を愛してくれていたはずの家族の面影は、もうどこにもなかった。

 

ファンだけは私の味方だと、そう思っていたのは私だけだった。

ファンだった人たちは、手のひらを返すように私を、私の歌を貶し始めた。

 

嘘だと思いたかった。

きっと信じてくれるはずだと……しかし、私の味方をしてくれる人は誰一人としていなかった。

 

裏切られた。それも確かに悲しかったが、それ以上に──

私の歌は誰にも届いてなんかいなかった。

 

そのことが、何よりも悲しくて悲しくて、仕方なかった。

私の夢は叶ってなんかいなかったのだと、分かってしまった。

 

借金取りが毎日のようにドアを激しく叩き、私を罵倒していく。

いつドアが破られ、押し入られるかと考えると、怖くて仕方なかった。

 

私は部屋に閉じこもり、電気を消し、真っ暗な部屋の中で息を潜めるように生きていた。

 

そんな時、電源を切っていたスマホが突然起動し、音楽が鳴り響いた。

何かを祝福するようなファンファーレが。

 

驚いてスマホを手に取ると、見たこともないサイトが表示されていた。

目が奪われる。

 

「現実を変えたいか」

 

たった一つ、黒い画面に赤い文字で書かれたその言葉と、返信用のYES/NO。

シンプルすぎる構成のサイト。

 

かつての私なら、馬鹿馬鹿しいと興味すら持たず、悪質なウイルスだと疑い切って捨てていただろう。

でも、今の私には、この言葉に抗う力はもう残っていなかった。

 

真っ暗な部屋の中で微かに光る、たった一つ残された希望を──私は捨てられなかった。

 

YES。

気づけば、その言葉を選んでいた。

 

その瞬間、私の中で何かが弾けた。

たくさんのフレーズが、たくさんのメロディーが溢れた。

どうすれば人の心を動かせるのか、どうすればみんなが私の歌を聞いてくれるのか──

 

ずっと探して、見つからなかった答えが、簡単に見つけられた。

 

私は驚いた。

一体何が起きたのか?

状況を把握するのに暫く時間がかかったが、私はようやく理解した。

 

私に奇跡が起きたのだと。

私は選ばれたのだと。

私は救われたのだと。

 

私は隠れるのをやめた。

もう一度、歌い始めた。

 

身なりを整え、アイドルだった頃の衣装を着て部屋を飛び出し、私が昔路上で歌っていた思い出の場所に向かっていた。

 

怪訝な顔をする人、驚く人、嫌な顔をする人もいた。

どうでもいい。

私はもう救われているのだから。

私はただ歌うだけなのだから。

 

あの場所は、昔のまま私を待っていてくれた。

嬉しくて、少し泣いてしまったけれど、涙を拭って歌い始めた。

 

誰もが動きを止め、私の歌に聞き入った。

仕事に向かうサラリーマンが、通りすがりの人たちが、買い物に向かう主婦と子供が、学校帰りの学生たちが、車を運転していた人たちが──

みんな、自分のことを忘れて、私の歌だけに夢中になっていた。

 

私は嬉しくなって歌い続けた。

人々は私の歌をずっと聞いてくれた。

私はもっと、もっとたくさんの人に聞かせようと思った。

 

私の歌を。

 

思い出の場所から離れ、歌い続けた。

誰もが、私の歌の虜になった。

どんな偉い人も、どんな地位にある人も、私の歌には抗えなかった。

 

どんどん私のファンが増えていった。

もう、私を裏切ることのない、本当のファンが。

 

そう──私は間違ってなんかいなかった!

私の歌は間違いなんかじゃなかった!

 

さぁ──私の歌を、聞きなさい!!

 

 

 

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