Gifted Error: 授けられた祝福と呪い 作:灰音ヒビキ
ギルド──その存在自体は、管理機構にいた頃から聞いていた。
能力者の保護を目的とし、管理機構による管理を拒み、自由を標榜する集団。
危険な能力者たちを野放しにする、危険な組織。
以前なら、迷いなくそう答えられた……しかし、今となっては──
他に手がないとはいえ、できれば頼りたくはなかった。
かつて敵対していた関係だ。何があってもおかしくない。
本来なら関わらないのが最善。
能力者の天敵である俺を抱え込もうとするのは、管理機構に対する手札か、危険な能力者の処理のためか──
どちらにせよ、まずは会ってみないと始まらない。
指示された場所に着く。
喫茶店「Ciel」。特に何の変哲もない、どこにでもありそうな喫茶店だ。
ギルドの拠点がこれとは……見つからないはずだ。
ドアを開けると、ベルが軽やかに来訪を告げる。
マスターと思しき人物はこちらを見て、穏やかな笑顔で言った。
「いらっしゃい、ゆっくりしていってね」
事情を知らないのか、特に敵意も警戒もなく、俺を招き入れる。
店内は客がまばらだが、料理を食べるその顔は満足感に満ちていた。
誰もが安らぎ、穏やかな笑みを浮かべている。
守りたかった、かつての日常が脳裏に浮かびかけるが──
警戒すべき場所だと自分に言い聞かせ、それを胸にしまい込んだ。
奥へ進むと、ノートパソコンの操作音が聞こえてきた。
間断なく、乱れもなく、ただ静かにキーを打ち付ける音。
音の主は俺に気づくと、静かに顔を上げ、ノートパソコンを閉じて言った。
「貴方が虚木刹那さんですね。初めまして、私はギルドの情報管理を務めています。桐生真白と申します。以後、お見知りおきを」
顔色一つ変えずに言った彼女は、少なくとも今すぐ敵対するつもりはないようだ。
少しだけ警戒を緩め、返事を返す。
「知っていると思うが、虚木刹那だ。よろしく頼む」
桐生は頷き、椅子に向けて手を伸ばした。
「どうぞお座りになってください。少し長い話になりますので」
俺が席に着いたのを確認すると、桐生は語り始めた。
「まず初めに、ギルドについてどの程度ご存知か確認させていただきます。私たちについて、どこまでご存知ですか?」
「能力者の保護を掲げる組織。管理機構の敵対者。団結はそれほど強くないが、情報収集や組織の隠蔽に関しては管理機構でも手を焼くレベル……知っていることと言えばこれくらいだな」
特に隠すこともないので、正直に答えた。
「なるほど。全体像は正しく理解されていますね、説明の手間が省けます」
桐生は頷き、話を続ける。
「では、細かい説明……特に貴方の立ち位置について。
私たちは貴方に情報、物資、逃走経路、避難場所などを提供する準備があります。
管理機構に追われる貴方が、喉から手が出るほど欲しいものを」
分かり切っている。だから俺はここに来た。
わざわざ言ったのは、交渉を有利に進めるため──自分たちに主導権があると示すためだ。
俺は気を引き締める。
「確かにそれは今の俺に必要なものだ。それで?お前たちギルドは代わりに何を求める?」
「私たちは貴方の能力に期待しています。
危険な能力者を無力化できる、能力者の天敵である貴方に」
桐生は微塵の揺らぎも見せずに言葉を続ける。
「私たちが求めるのは協力関係です。
私たちは能力者の保護を目的としています。しかし、能力者の中には自分の能力に溺れ、他人を傷つける輩も確かに存在します。
そういった人物の無力化を、お願いしたいのです」
予想通りの答えが返ってきた。
わずかに安堵し、表情に出さないよう気を張る。
「問題ない。対象の情報を教えてくれれば、危険と判断できる相手であれば俺が処理しよう」
桐生は静かに頷く。
「それで構いません。問題にならないのなら、それが最善ですので。
では、契約成立ということで。これからよろしくお願いいたします」
桐生は手を差し出した。
俺は少し躊躇したが、その手を握り、握手を交わす。
その瞬間、頭の中に声が響いた。
《これが私の能力です。距離に関係なく情報を伝達できます。
相互での通信が可能なので、試しに何か頭の中で私に語りかけていただけますか?》
驚いた。
こんな能力なら、管理機構でも十分優遇されたはずだ──そう思いながら、俺は頭の中で桐生に問いかける。
《なぜだ?なぜこんな能力を持ちながらギルドへ?
管理機構でも十分に権利と自由は保証されたはずだ》
くすくすと笑い声が響いた。
頭の中に声がするのは……慣れそうにない。
《貴方も管理機構が気に入らないから逃げ出してきたのでしょう?
私は、能力者というだけで無理矢理抑えつけようとする彼らが許せない。それだけです》
桐生は今までの真顔が嘘のように、柔らかな笑顔を浮かべていた。
俺が戸惑っていると、桐生は手を離し、椅子に座り直す。
「主に情報伝達、状況確認に使用します。
緊急時にはいきなり使用することもありますが、ご了承ください。
あくまで接続することも、接続を切ることも私にしかできません。
貴方から私に呼びかけることはできませんので、ご注意ください。
……私からは以上になります。何かご質問はありますか?」
俺は逃げ道が塞がれたことに気づいた。
もうどこに逃げたとしても、この追跡からは逃れられない。
桐生の能力を消せばギルドそのものを敵に回す。もう打つ手はない。
迂闊な自分を呪ったが、こうなった以上、腹を括るしかなかった。
「いや、大丈夫だ。それで……俺に処理してほしい能力者の情報は?
できれば食料と水、多少の現金を先に貰えるとありがたい」
桐生は頷き、冷静に言った。
「承知しました。物資は後ほどお渡しします。
では、依頼の内容から──」
――これが、長く続く俺とギルドとの関係、その始まりだった。