Gifted Error: 授けられた祝福と呪い   作:灰音ヒビキ

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第4話 暴走する能力者

 

 

「おい、また早川が変なこと言ってるぞ」

 

「マジで? うわ、キモッ……」

 

あいつらは皆して楽しそうに笑ってた。

いつもいつも俺を馬鹿にして、楽しそうに。

 

今までなら我慢していた。

敵の人数が多すぎる、もし抵抗して負ければもっと酷いことになる。

そんな考えが、負けることへの恐怖が、味方なんていない現実が、そしてなにより俺自身の弱さが、俺に戦うことを許さなかった。

 

――この力を手に入れるまでは。

 

そうだ!

俺はもう我慢する必要なんかない! 耐える必要なんかない!

俺は選ばれた! 俺は力を手に入れた!

 

この力さえあれば、誰も俺に敵わない! 誰にも負けない!

俺は……俺はもう負け犬なんかじゃない!

 

俺は今までしたくてしたくてたまらなかったことを、遂に実行に移した。

 

憎くて憎くて仕方なかったあいつらの笑い声を消すために、笑っているあいつらの顔を目がけて全力で殴りつけた。

 

殴った瞬間、顔がぐちゃぐちゃに潰れながら黒板に突っ込んでいった。

衝突した黒板が割れ、壁にヒビが入った。

まるでコミックの登場人物になったみたいだった。

そう、俺は本物のヒーローになったんだ!

 

周りの奴らはそんな現実が飲み込めないのか、呆然として潰れたあいつと黒板を見つめていた。

俺は次の標的へと近づき、近くの机を掴み振り上げ、全力で叩きつけた。

 

ぐしゃりっ。

 

そんな音と地面のヒビだけ残して、人間だったものは赤い血肉の塊になった。

 

ようやく周囲の人間たちも現実に戻ったのか、教室のざわめきが耳を突き刺す。

 

全てが敵に見えた。

言葉が全て敵意に聞こえた。

顔が、視線が、叫び声が、悲鳴が、全部、全部──!

 

机が砕け、壁が崩れ、悲鳴が弾けた。

 

アハハハハハハ!

そうだ! 誰も俺を助けなかった!

あいつらと一緒になって笑っていたか、見て見ぬふりをしただけだ!

 

なら俺が助ける理由なんてない! 見逃す必要なんて何もない!

こいつらは全員俺の敵なんだから!

 

気がつけば、周囲は教室だった残骸と、少し前まで人間だったもので溢れていた。

 

俺が壊した。

俺が殺した。

そんなもので溢れかえっていた。

 

「違う……違う、違う! 俺は……! 俺は間違ってなんかない!

悪いのは全部あいつらだ! 俺じゃない! 俺は悪くなんてない!」

 

そう叫んでみても、何も変わらなかった。

壊れた教室は戻らない。

死んだ人間は生き返らない。

 

その瞬間、ようやく気づく。

俺はもう取り返しのつかないことをしてしまったんだと……もうどうしようもないんだと……

 

「う……あ……ああああああああッ……!」

 

走った。逃げた。

安全な場所まで。自分の部屋まで。

 

家に飛び込む。玄関を乱暴に閉め、背中を押さえてうずくまる。

 

「どうすれば……これから……どうすれば……」

 

息が荒い。心臓が割れそうだ。

答えは出ない。

 

逃げなきゃ。

現金、スマホ、リュックに詰め込む。

 

パトカーのサイレンが近づいてくる。

俺を捕まえるために。

 

「ッ、ふざけんな……来るな……!」

 

あいつらが俺に何をしても、誰も何もしなかったくせに!

いつもいつもいつも!

なんで俺が!? なんで俺だけがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!?

 

窓を蹴破り、飛び出す。

屋根を駆け、塀を飛び越える。

 

響いてくる警察の怒鳴り声に振り返ると──

 

「止まれ! 撃つぞ!」

 

「止まれるわけねぇだろッ!!」

 

怒鳴り返す声とともに足を加速する。

応援のパトカーが到着し、警察の数が増える。

逃げ道が塞がれていく。

人数がどんどん増えていく。

武装した警官に囲まれた。

追い詰められた。

もうどうにもならない、そう考えたその時、頭の中で何かが切れた。

 

なんで俺が逃げなくちゃいけないんだ?

警察? 銃? そんなものが俺に通用するわけないのに?

 

俺が逃げる?

逃げなきゃいけないのは向こうだろ?

そう、俺のほうが強いんだから、戦えばいい、勝って叩き潰せばいい! それだけじゃないか!

 

「アハハハハ! ……いいじゃねぇか……もうあの頃の俺じゃない! 俺は特別なんだ……!!」

 

瞬間、警察隊が弾け飛ぶ。

骨が折れ、血が飛び、誰かの叫びが夜に吸い込まれる。

 

「もっと……もっと来いよ! 俺を止められるもんなら止めてみろ!!」

 

辺りは血の海になっていた。

生き残っているのはほんの数人。

そいつらも震えて腰を抜かしているだけ。

わざわざ殺すのも面倒になった。

放っておいても、こいつらが俺に何かできるわけでもない。

 

泣きながら、うわ言のように何かをつぶやいている奴らを放って、空を見上げた。

雲一つない晴天。

俺を祝福しているような、美しい青空を。

 

俺は笑った。

ゆっくり歩き、現場を後にする。

 

「はは……は……これが……俺の力だ……誰にも……止め──」

 

──ふっと、視界が暗くなる。

 

「……え……?」

 

足が震える。

力が抜ける。

呼吸が浅い。

身体の異形が消える。

 

「な……なんで……!?」

 

ザッ……ザッ……。

 

聞こえた足音に振り返ると、男が一人近づいてきていた。

警官じゃない。

しかし、一般人だとはとても思えなかった。

あいつが……俺の力を消したのか……?

 

「やめろ……来るな……やめろッ……!!」

 

力があれば、あの力が出せれば!

そう思って何度も何度も試した……でも何もできなかった。

無力だった頃の……戻りたくないあの頃の俺と同じように……

俺は何もできずに……このままここで終わるのか……?

 

そんな絶望に打ちのめされていると、男が銃を取り出した。

 

俺は逃げようとしたが、腰が抜けて地面に座り込んでしまった。

みっともなく少しでもあの男から離れようとじたばたともがいてみても、男は何もなかったように銃をこちらに向けていた。

 

男が銃の引き金を引いた。

パシン、と小さな音が鳴った。

何かが首に刺さった。

 

「ッ……あ……あああ……ッ……」

 

身体から力が抜けていく。

俺は座っていることもできずに仰向けに倒れ、死の恐怖に怯えながらもどうしても理解できなかった。

 

「……俺は……特別だろ……っ……誰にも……負けないはず……だろ……?」

 

 

そう言い残し、少年は意識を失った。

 

俺はそっと少年に触れ、授けられた能力を完全に消去した。

 

背後から、サイレンの音が近づく。

 

もう仕事は終わった。

このまま少年を置いていっても、警察が連行していくだろう。

 

俺は少年を残し、その場を去った。

 

――力を授けられた少年は、泣きながら、すべてを失った無力な人間として警察に連行されていった。

 

 

 

―――

 

 

俺が仕事を終え、ギルドから紹介されたセーフハウスで休んでいると、突然頭の中で声が響いた。

 

「初の依頼達成おめでとうございます。実に見事な手腕でした。」

 

ハハハ…もう乾いた笑いさえ出てくる…あれからほとんど時間など経っていない。

ギルドへの報告はこれから行うところだった。つまり…完全に俺の行動が把握されている。

 

「ああ、特に問題はなかった。報告の手間が省けて助かったよ…標的の少年は無事だ、少なくとも命はな。」

 

能力者の保護を掲げているギルドのことだ、

殺すよりは生かしておいたほうが評価は上がるだろう。そう考えた上での、打算からの行動だった。

 

本当は、俺の家族を殺したアイツに重なる少年を生かしておくのは苦痛でしかなかったが。

 

あれだけの事をしたんだ、あの後どうなったとしても、たとえ誰かに殺されたとしても、

 

全て少年の自業自得でしかない。そんな殺伐とした考えとは裏腹に頭の中で響く声は弾んでいた。

 

「はい、承知しています。穏便に済ませていただきありがとうございます。

報酬は既に振り込ませていただきました、後ほどご確認ください。

別途必要な物資があれば仰ってください、可能な限り御用意させていただきます。」

 

手際のいいことだ…これで俺のプライバシーさえ守られていれば、何の文句もなかったんだが…

 

今更意味のない後悔と文句を心の中で押し留め、

 

「今のところ、特に必要なものはないな。必要になればこちらから連絡させてもらう。

 

それで、これで終わりか?俺の連絡を待たなかった以上何か依頼があるんだろう?」

 

「はい、御明察の通りです、ギルドが接触した能力者の少女から能力の消去が依頼されました。

 

少女の名前は白石凪。15歳の高校1年生。

能力は広範囲における無差別の思考受動。

範囲は半径約1km。制御不能で常時発動状態です。」

 

地獄だな…常に周囲の心の声を聞かされ続けるのか、口に出すことすら憚られる剥き出しの本音と欲望を…思春期の感受性豊かな少女であればなおさら辛いだろう…

 

「了解した、これから向かう。その少女の居場所は?」

 

「はい、〇〇県☓☓町の……」

 

何の変哲もないアパートだ、少女の部屋のインターホンを押そうとしたところで勢いよくドアが開いた。

そして部屋の中から必死の形相の少女が飛び出し

 

「お願いします!この声を消してください!」

 

涙を流しながら俺にそう訴えてきた。

 

 

 

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