Gifted Error: 授けられた祝福と呪い 作:灰音ヒビキ
誰かと一緒にいたかった。
友達が欲しかった。
ただ、それだけだったのに……
親の仕事の都合で地元を離れ、誰も友達のいない高校に進学した。
田舎だった地元から離れて、憧れの大都会で華の女子高生!
私はずっと浮かれていた。──実際に入学するまでは……
私は偏見の目に晒された。
ありもしない勝手なイメージを、田舎者だというレッテルを押し付けられた。
都会育ちの自分たちが正しいと信じきって、疑うことすらしないクラスメイトたちに。
努力した。
目いっぱい、皆に溶け込もうと頑張った。
頑張って、頑張って……全部、無駄だった。
いくら私が何を言っても、誰にも聞いてもらえなかった。
ううん、それだけならまだ良かった。
馬鹿にされた。否定された。そんなことが繰り返された。
やがて、私は自分の意見も好みも捨てていった。
皆がいいと思うものを、皆が好きなものを……
そんな誰かの声を、自分の意見にしていった……
それでも、うまくいかない。
だって分からない。分からない、分からない!
あんなもの、何が良いの!? なんであんなものが好きなの!?
そんな私の考えが透けて見えるのか、私は皆の仲間には入れなかった。
友達として、受け入れてはくれなかった……
皆の考えが分かれば……皆の気持ちが理解できれば……私でも……きっと。
暗い部屋の中で、ベッドに沈み込んで毛布を頭から被り、ありもしない都合の良い妄想をしていると──
いつの間にか、片手間に弄っていたスマホにおかしなサイトが表示されていた。
――現実を変えたいか――
そんな一文と、YES/NOだけで構成されたシンプルなサイト。
誰かのイタズラ、そうに決まってる。
でも……もし本当に……そんなことが出来るのなら……!
私は信じていたわけではなかった。
それでも、こんな現実がもし変わってくれるのなら……そんな希望に縋れるものが出来てしまった。
私はYESに触れた。
その瞬間、いくつもの声が私の中に響いてきた。
誰かの考えてることが分かった。誰かの気持ちが理解できた。
空想の中でしかありえないことが、ありえないはずの奇跡が私に起こった。
私は信じられなかった。
それでも、聞こえ続ける声と感情が、私に起こった奇跡を証明していた。
これが本当なら……私でも、皆と……皆と友達に……!
そんな希望を夢見て、私は眠りについた。
――あの日から、私の学園生活は一変した。
「おはよう!」
そう言った私に、クラスメイトが振り返り──
『昨日のドラマ面白かったよな〜、こいつは見てないだろうけど。』
『あの雑誌の話したいな。誰か読んでないかな?』
「昨日のドラマ、めっちゃ面白かったよね!」
「あんたも見たんだ? まあ今すごい人気だしね、あのドラマ。」
『どうせまた知ったかぶりしてるだけじゃん、ウザッ。わざわざ話しかけてくんなよ。どうせ何が面白いのかもわかってないくせに!』
『あの俳優の演技ほんと最高だった! 特にあの恋人役とのラブシーン! 私もあんな素敵な彼氏と恋愛できたらな〜。』
「特にあのラブシーン良かったよね! 俳優の演技が最高だった! あんな素敵な彼氏がいればいいのに! そう思うよね!?」
「へ〜、分かってんじゃん。そうそう! あのシーンがいいのよ! あんな熱烈に愛されて、大事にされてるって実感できるような! そんな彼氏ほんと欲しい!」
『……田舎者だと思ってたけど、案外話合わせられるじゃん?』
「あっ、その雑誌いいよね! 私も読んでる!」
「読んでる? あんたが? ほんとに? またいつもみたいに調子合わせたふりしてるだけでしょ?」
『何が良いのかもわかんないくせに! こんな田舎者なんかがファッション雑誌読んでるわけないじゃない。最近の流行りも最新のファッションも知らないなら話しかけないで!』
「え〜? ほんとに読んでるよ! ほら、これ最近すっごく流行ってるでしょ!? 私も欲しいんだけど、どこにも売ってなくてさ〜、ほんとに困っちゃうよね。」
「ほんとに読んでるんだ、意外……あ~それなら近くの店が今日入荷するんだって!」
『嘘!? ほんとに読んでる!? こんな田舎者が!? 最新のトレンド押さえてる!?』
声が、聞こえる。
でも、それは私を否定する声じゃなかった。
むしろ、皆が私に興味を持っている。
私が選んだ言葉に、正解があった。
それがわかる。
「そうそう! あのシーン泣いたわー!」
「私も! あそこはホント感動した!」
『わかってるじゃん、田舎者のくせにさ。』
『合わせてるだけかもしれないけど、別にいいか。』
笑顔が広がる。
嬉しかった。
今までどれだけ必死に合わせようとしても届かなかった距離が、一気に近づいた気がした。
これなら……これなら私でも……!
暫く経った日の昼休み、購買でパンを選んでいると──
「あいつ、最近急に変わったよな。」
「でもまあ、空気読めてるっぽいし、いいんじゃね?」
「まあ、前みたく何もわかってないくせに、上辺だけ取り繕ってるよりはマシかも。」
ほんの少し、心が温かくなる。
全部が上手くいくわけじゃない。
でも、これなら私でもやれる。
そう思えた。
けれど──
『……でも本当はムカつくんだよな、全部合わせられると。』
『なんか、わざとらしいんだよね、あの子。』
『あいつ、どうせ何も考えてないくせに。』
『裏でバカにしてるんじゃない?』
『やっぱ田舎者は田舎者か。』
『目障り。』
…え?
声が、止まらない。
今まで聞こえていなかった、心の深い深いところの声が響き始めた。
『あいつ、うざいんだよ。いちいち私たちの顔色伺いやがって、気持ち悪い!』
『消えてくれたら楽なのに。なんで田舎から出てくるわけ? そのまま田舎に引っ込んでろよ!』
『あいつ、ホント気色悪い! でも表面では笑っとくか。イジメとか勘違いされてこっちが悪者扱いとか最悪だし。』
ああ、やめて、やめてよ……
頭が割れるように痛い。
声が止まらない。
どんどん、深い場所から響いてくる。
まるで地下水脈が崩壊したかのように、ドロドロとした思考が流れ込んでくる。
欲望。
悪意。
嘘。
本当なら知らずにすんだ、知るべきではなかった皆の心の中身。
私が願ってしまった、奇跡と思えたこの力の本当の姿。
私は皆と仲良くしたいだけだった。
それだけで良かったのに……皆と一緒に笑い合って、楽しく過ごしたかっただけなのに……
それももう出来ない……したくない!
あんな、あんな酷い人達と一緒になんていたくない!
綺麗に色づいていた学園生活。
そんな学園が色あせていく。
教室が、購買が、廊下が、色を失っていく。
前よりも暗く、どこまでも残酷に。
「やめて……お願い、やめて……!」
耳を塞いでも、声は止まらない。
叫んでも、声は私の内側から溢れてくる。
分かってしまう。
分かりたくなかった。
『早く消えてほしい! マジで邪魔!』
『気色悪い! あんな奴もう学校くんなよ! 私たちの迷惑考えろよ!』
『あいつなんかいなければ良かったのに……あんな奴のせいでこっちは最低な気分! 責任とってよ! 今すぐ学校辞めなさいよ!』
どこにも居場所なんてなかった。
私が、私が間違ってたの……?
でも、もう止められない。
涙があふれる。
震える手でカバンを掴み、私は教室を飛び出した。
もう、誰とも話したくない。
誰の声も、聞きたくない……!