Gifted Error: 授けられた祝福と呪い   作:灰音ヒビキ

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第6話 少女の救済

 

 

私は、自分の部屋に逃げ込んだ。

玄関の鍵を何重にもかけ、カーテンを閉め切り、部屋の隅に身体を丸めた。

外から届く声、周囲の気配、すべてを拒絶するように、耳を塞ぎ、目を閉じた。

 

でも──

 

『あいつ、ほんと気持ち悪いよな。』

 

『なんで生きてんだろうな。』

 

『学校で泣き喚いてたの笑えるんだけど。』

 

『あいつがいなければ、もっと楽しかったのに。』

 

声が、止まらない。

学校で聞いた声が、私を否定して、あざけ笑う悪魔たちの声が!

壁も、ドアも、分厚い布団も、何一つ意味をなさない。

 

私の中で絶え間なく繰り返される。

たとえどれだけ耳を塞いでも、どれだけ離れたとしても、もう聞こえてしまった声は消えない……。

 

アイツラの声だけじゃない。

今この瞬間にも、誰かを嫌悪し、憎み、呪い、死さえ願う新しい悪魔たちの声が聞こえ続けている。

 

どうして……

どうしてこんなことに……

私は、友達が欲しかっただけなのに……

 

友達ができたら、笑い合えたら、それだけでよかったのに。

ただ、それだけだったのに……

 

声はますます大きく、鋭く、容赦なく心を突き刺す。

やめて……やめてよ……

私の声は、もうどこにも届かない。

 

「いや……いやだ……もう、やめて……!」

 

耐えきれず、私は机に突っ伏した。

気づけば、涙と嗚咽で喉が焼けるように痛い。

 

こんなに苦しいなら……

こんな声、最初から聞きたくなかった。

この力なんて、欲しくなかった。

 

私、間違ってたんだ……

 

私が……全部、間違ってたんだ……

 

やがて意識が薄れていく。

泣き疲れた頭は重く、呼吸は浅い。

布団を被ったまま、私は深い闇に沈んでいった。

 

──気がつくと、そこは灰色の世界だった。

 

現実とも夢ともつかない、曖昧で冷たい空間。

足元は何もなく、見渡しても誰もいない。

ただ、無音だけが広がる。

 

その時、遠くから歩み寄る気配を感じた。

 

「……よう、こんなところで会うとはな。」

 

白いシャツに黒いパンツ、だらしなく首元を開けた男が現れる。

無気力そうな目をしているのに、どこか底知れない冷たさがある。

 

「誰……?」

 

「俺か? 望月景時。ギルドの代表みたいなもんだ。」

 

声が灰色の世界に静かに響き渡る。

それだけで、私の思考が少しずつほどけていく気がした。

 

「ギルド? ゲームか何かの話? 私は今それどころじゃ……!」

 

「いや、現実の話だ。お前のように能力を得た奴らを保護してる、それがギルド。

まー偉そうなことを言っても、できることは限られるし、全員助けられるわけでもないんだがな。

それでも俺はここに来た。お前を助けるために、お前の夢の中にな。」

 

私は、男を見上げた。

助け……る? 私を……? この力を……この呪いを……消してくれるの?

夢なのに、体が重い。

心臓が痛い。

 

「……助けて……お願い……もう、やめたい……」

 

私の声は小さかった。

それでも、彼には十分に届いたようだ。

 

「分かってるさ。お前の望みはこんなものじゃない。もっと優しいものだ。

誰かと一緒に笑い合う──そんなちっぽけで、とても大切な願いだった。

それを誰かが踏みにじった、最悪な形でな。俺たちはそれが許せない。

こんな理不尽、許していいはずがない!」

 

私のために怒ってくれている。

心の声が聞こえなくても、彼の言葉が、私に向けられた感情が本物だと確信できた。

だから私は……

 

「ねえ、教えて……? 私……私の願いは……」

 

「間違ってなんかいない。絶対にな。

誰が何と言おうと、俺が保証する。

お前も、お前の願いも胸を張っていい立派なものだ。」

 

彼の視線が、真っ直ぐに私を射抜く。

優しさ──もう忘れかけていたそれを感じて、私の頬を涙が伝った。

次から次へと溢れ出して、止まらなかった。

 

「お前は──この力を消したいか?」

 

私は震える唇を噛みしめ、何度も何度も頭を縦に振った。

 

「……捨てたい……消して……お願い……もう、皆の声なんか、聞きたくない……!」

 

彼はかすかに柔らかな笑顔を浮かべて言った。

 

「わかった。じゃあ、俺たちの仲間を送る。……あいつなら、お前の願いを叶えてくれる。」

 

「……あいつ?」

 

「虚木刹那──能力を否定する者だ。」

 

私には、その名前の意味も重さも分からなかった。

でも、今の私にはもう選択肢なんてなかった。

 

「……ありがとう……」

 

そう言った瞬間、視界が崩れ、夢が溶けていく。

私は、重たい体を抱えて、また暗い部屋へと帰っていった。

 

夢……だったの……?

 

私は夢から覚めて、現実に──地獄に引き戻された。

 

……またあの声が……悪魔たちの声が聞こえる……!

前よりもはっきりと、強く……大きく……!

 

私はそんな声から逃げたくて、無駄だと分かっていても耳を塞ぎ、目を閉じた。

もう何も聞きたくなかった。誰かを呪う声なんて……

 

私はあれがただの夢だと分かっていても、それでも信じたかった。

誰かが私を助けてくれると。私のこの力を、その人が消してくれると。

 

私は、部屋の中で縮こまりながら、それだけを希望にして悪魔たちの声に耐え続けた。

 

冷たい声が聞こえた。

悪魔たちの声とは違う。

無機質なのに、どこかあたたかいような、そんな声が。

 

私は思わず部屋から飛び出し、玄関まで走った。

誰かがドアの前にいる。

私を助けてくれるかもしれない人が──!

 

私はドアを勢いよく開け放ち、叫んだ。

 

「お願いします! この声を消してください!」

 

―――

 

部屋の中に招かれた俺は、まず少女を落ち着かせようとした。

明らかに動揺し、混乱している。

俺はまず断りを入れてから、彼女の能力を抑えつけた。

 

彼女は、他人の思考が流れてこないことに気づくと、涙を流しながら言った。

 

「もう何も聞こえません……あの声が……何も……。

ありがとうございます……ありがとうございます……。

本当に……ありがとうございます……。」

 

彼女は消え入りそうな声で、何度も感謝の言葉を告げていた。

 

「少しは落ち着いたか? これはあくまで一時的なものだ。

完全に能力を消去する前に、君の気持ちを確認しておきたい。」

 

彼女は誰も傷つけていない。

むしろ、彼女こそが被害者そのものだ。

だからこそ、その能力をどうしたいのか──それは彼女自身が選ぶべきものだ。

 

俺は、彼女が涙を拭い、息を整えるのを静かに見守った。

 

「私は、この力を消してほしい! こんなもの、私は要らない!

こんな、苦しいだけのものなんて……!」

 

彼女は心からの叫びをあげていた。

 

「分かった。消す前に念のため言っておく。

その能力は、訓練次第では制御が可能になる可能性がある。

君の持つ、一つの武器になる可能性がある。

それでも君は──」

 

「消して!! そんなのどうでもいい!!

私はもう、あんな声を聞きたくなんてない!!

あんな悪魔たちの声なんか……もう二度と!!」

 

彼女は再び涙を流しながら、先ほどよりも大きく、より魂を込めた絶叫を俺に返してきた。

 

「……了解した。君の想いを踏みにじってしまい、本当にすまない。

俺は君の選択を尊重する。……手を出してくれ。

君の能力の解析は終了している。後は君に触れて、俺が能力を発動すれば、君の能力を完全に消去できる。」

 

俺は、彼女に向かって手を差し出した。

 

「これで……いいんですか……? これで、本当に……」

 

彼女はそう言いながら、俺の手を握った。

 

俺はその瞬間に能力を発動し、彼女の能力を完全に消去した。

 

「終わった。能力は完全に消去した。

これでもう、君に悪魔たちの声が聞こえることはない。」

 

―――

 

本当に……?

もう……あの声が……あの声を聞かずにすむの……?

 

私は安堵と少しの恐怖から、思わず彼に尋ねた。

 

「これで……私はもう……あの声を聞かなくていいんだよね……?」

 

彼は静かに、小さく頷いた。

 

「良かった……! 良かった……! もうあの声は聞こえてこない……!

もうあんな怖い想いをしなくていい……!」

 

私は涙を流しながら、思わず彼に抱きついた。

 

「ありがとう……! ありがとう……! ありがとう……!!」

 

何度も、何度も、

私を救ってくれたヒーローに感謝の言葉を捧げ続けた。

 

 

 

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