異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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転移

 ソレを見かけたのは、とある春の日の事だった。

 

武田昭信は大会に向けての練習中に体を壊したこともあり、パっとした成績を残せずに大学生活を終えた。折しも大学上層部や有名倶楽部での不祥事が相次ぎ、おかげで出身大学全体の就職率はあまり宜しくは無い。既に父母は無く、やりたいことだけは成績の優秀な自分と、言われるままに卒なく何でもこなす兄夫婦とは折り合いが悪かった。大学卒業を契機に出て行けと言われても、仕方がないことだったのかもしれない。ソレと出逢った理由を探すとすれば、そんな所だろう。

 

「なんだか見覚えがあるな」

 

 その画面はかつて読んだことのある小説と一致していた。

 

兄の結婚以来、荷物の置けるスペースを大きく減らした昭信にとって、ネット小説は趣味方面で充実させてくれるものだった。そんな中で見つけたネット小説であり、その後に本が出た頃には電子書籍も買ったものだ。その冒頭部分にソックリだと思って、次々に進めていく。

 

(基礎設定自体は良い。どうせ人同士で争う気は無いし、どうせならダンジョンもフィールドもあった方がいい。家を出る前にコレとは、たとえ嘘サイトでも景気がいい嘘じゃないか、本当ならいい幸先だな。これはひとつ、根気入れるとしようか)

 

 昭信は物事に熱中する方で、その他を切り捨てるところがあった。

 

兄と折り合いが悪くなったのもそのせいだろうし、兄嫁と反りが合わないのも仕方が無いだろう。良く言えば天然な彼は、引っ越し計画を立てる前だったこともあり『まるで自分の為に用意された運命ではないか』と思う事にした。どう考えても自殺としか思えない物騒な異世界行きであったとしても、それはそれとして行っただろう。ましてや、自分の好きだった小説の世界と成れば嫌と言うはずが無かった。

 

(種族設定? こんなのあったか? まあいい。主人公は『基本の人間』という性格だったから飛ばしたのか、言語設定に影響されるんかもしれんしな。さて……ここから先、何を目指すかだが……種族職を絡めた武人ビルドだな。となるとアバターは黒の長髪で大剣持ちだろう)

 

 昭信には悪癖があった。人と全て同じは嫌だというところだ。

 

どうしても仕方がないような選択なら、まさに仕方が無いだろう。だが選べる部分は自分の趣味を押し通したかったし、同時に誰もが通る道を選ばないで行けるならば、それを選びたかったのだ。そしてキャラクター再設定や鑑定などの基礎能力は必須として、誰もが選ぶ……というか強く成り易い魔法使い系ビルドをあえて選択肢から外した。それこそ英雄を取れなかったら魔法使いを伸ばすくらいの開き直りである。

 

(エルフとドワーフは無しだ。森林保護官は植物を高速化して『だろうチート』出来そうだし、知力が上がるだろうから属性剣も使えそうではある。『隻眼』の条件にも想像がつくが……あくまで推測でしかない。なら狼人族で攻撃系か、竜人族で攻防一体型だろう。この二つは強さもあるが格好良さは別格だ)

 

 物事は計画性を持った方が良いと知っているが、昭信は面倒なので傾向のみを絞る。

 

そしてその方向に突っ走れば、たいていの場合はなんとかなる事を知っていた。少なくとも面白い結果に繋がると思っていた。この事を聞くと彼の兄は物凄い難しい顔をしていたのだが……。まあ、天才と馬鹿は紙一重というやつだろう。

 

(さて、重要なのはその後の成長だな。三つ程度で絞るか、それとも『遊び人』を目指してガンガン行くか……? ロマンで言えば剣士系で侍とかハイランダーとか探したいな……)

 

 キャラの再設定が可能としても、活動路線というものはある。

 

ジョブを絞って上位ジョブを目指すか、強力な『コピー系ジョブ』である遊び人を目指すためにジョブを習得しまくるか、それらとは別に『知られてないジョブ』を探すかの話だ。原作でも経験値に関しては分割案なのか、一律にもらえるのか確定では無さそうなところはあった。現地で検証するとしても、方向性くらいは絞っておいた方が良いだろう。狼人族なら獣戦士・英雄に剣士、竜人族なら竜騎士・英雄・暗殺者。この三つに絞るか、遊び人目指して7thジョブ許容か? そしてまだ見ぬ侍やハイランダーかを探すか? 後は経験値の検証次第で中間の何処かを選べば良い。

 

(ここは獣戦士で剣豪やハイランダーのような戦い方を目指すのが良いかな。火力は正義だ)

 

 竜騎士はバランスタイプで組み合わせ次第、獣戦士は火力型に見える。

 

二刀流で火力底上げを行いつつ状態異常を加速させる竜騎士はかなり強いと思うが、獣戦士のビーストアタックはかなり魅力だった。原作主人公の体感ではデュランダル一発から二発分。これが固定ダメージ追加なのかレベルpなり特定の能力p分のダメージ追加なのか判らないが、二つの意味で有効であると思われた。一つ目は一撃で倒せる雑魚とボスの上限が上がる事。二つ目はデュランダル並みの火力なら現地で作った武器でも戦えることである。後者は経験値系スキルにポイントを回せるという意味でも有用だろう。

 

(方向性は決まった。後はボーナスポイントで99を目指しつつ転移の準備だな。とはいえ私物は少ないし、情報を集めておくだけか)

 

 思い切りの良い昭信は大概のモノを切り捨てた。

 

外に買い物に行く選択肢を捨て、家にある私物の中で必要な物のみを選ぶ。協調性を学ぶために行けと言われたボーイスカウト時代から愛用しているリュックサックに毛布とロープを放り込み、ゴミ袋に入れたコピー用紙をはじめとした筆記用具で殆ど終了だ。後は『処理』を終えた携帯をビニールと毛布で包めば終了という手早さである。

 

(よし、ゲームや電子書籍類は原作を除いて全部消した。料理のレシピはダウンロードしてある。空けた容量で菓子類のレシピを追加し、代用素材の検索はするとして……最優先は硝酸反応とボイラーの設計だな。硝酸はあるだろうし無くても作れる。硝酸を水に溶かせば食材を冷やせるからな)

 

 昭信はボーイスカウトからシニアとスカウト活動を続けた。

 

大学での部活もあったのでローバスカウトまでは続けなかったが、その影響でキャンプに行くことも多く、スマホには好みの料理のレシピが既にダウンロードされている。菓子類は流石に作ってないので見つけ次第にダウンロードするとして、その為にゲームその他は原作を除いて全て消去しておいた。ソーラーバッテリーは持っているので、現地でコピー用紙に書き写す程度の余裕はあるだろう(パソコンが止まるかもしれないので印刷は止めておいた)。

 

「99! ここは変えようがないので……後は行くのみ!」

 

 我知らず口に出していた。もちろん拳も握っている。

 

グっと力を入れた拳を開き、マウスでチョコチョコとポイント割り振りをしてリュックの中に携帯その他を放り込み、最後に登山用の靴を履けば終わりである。デュランダルは当然として、キャラクター再設定・鑑定・3rdジョブ・詠唱省略を優先的にチェックを入れたら後は必要経験値と獲得経験値を心持ち調整して、端数は能力値だ……と考える頃には全てのクリックを終えていたのである。

 

(後は人間を斬れるかどうかだが……こればかりは行ってみないと判らんな。では、おさらば)

 

 仏壇がある方向に頭を下げ、出発のクリックを行いながらそんな事を考える。

 

この時は本当にそう思っていたのだ。後から考えれば遺言でも残しておけば良かったかとか、一攫千金を目指すから心配するなとでも書いておけば良かったかと思わなくもない。だが、そんな物は後の祭りだし……現地に到着した時には、余分な考えを抱く暇など無かったのだ。




 執筆しているハンターxハンター物が後少しに成ったので、以前から構想している武人ビルド系で新しく始めてみます。

なお、初期構想を語る為に、今夜はもう一話分今夜中にUP予定です。
(何がロマンスなのか。が語れてないので)
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