異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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後日談。ナーシャの結婚式

「この人数を集めるとはさぞかし盛大な結婚式なのでしょうな」

 

「最近になって聖銀製の装備が店に並び始めましたからな。みな縁を繋ぎたがっておるのですよ」

 

 三年目の春になってエレーヌと昭信の結婚式が行われることになった。

 

諸手続きの確認であったり、参加希望をしている貴族のスケジュールを整えるのに時間が欲しいと言われて調整した形である。その間に昭信たちは他の迷宮で六十層まで段階的に戦闘訓練を兼ねた戦いを行い、聖銀製の装備が五十六層から六十六層までのドロップ品で製造可能だと突き止めたのである。その結果、できるだけ多くのスロット付き装備を作りたい意味もあって、聖銀製装備を寄り子貴族仲間や縁故のある貴族に供給したり、新しい町の予定地で店先に並べることもあったという。

 

「ということはエリクシールも期待できますな。オークションには注意せねば」

 

「ここだけの話ですが、オリハルコンの装備製造も狙っているそうですぞ」

 

「むむっ。一つ二つでは無くですか? そうなると自爆玉も手に入り易くなるやも。ならばこの人数の参列は当然と言えましょうなあ。オークションなど身内のついで、優先順位は下がりますからな」

 

 しかも以前の男爵継承を認める婚約式よりも大規模で、かつ好意的な評判が多い。

 

七十七層まで突破せずとも、七十層前後で戦えるならばオリハルコンや自爆玉を自作できることになる。そのこともあって無関係な貴族たちも詰め掛けているのが特徴だった。そこまでの階層となればいかに貴族家といえど中々突破できる者はいない。いや、居たとしても日常的に戦うことで、レアドロップを狙うなど狂気の沙汰に過ぎないからだ。仮に諦めた場合でも、鍛えるために戦う六十六層までの段階ではエリクシールや聖銀製の装備量産が期待できるのも大きかった。

 

「あら。随分と明るいですわね。かなり広く作ってあると思うのですけれど」

 

「ペルマスクと縁があるとか。ガラスのある窓を前提に作っているのでしょう」

 

「婚約式にも参加させていただきましたけれど、ガラス杯に夏に氷菓子をいただきましたわ。夏の暑さを忘れさせる冷たさもですが、甘くて絶品でしたの! みなさまにも味わっていただきたかったわ~」

 

 結婚式会場の新館は建設中だが、野外会場として必要な場所は先に完成させた。

 

奥方やお嬢さんたちが歓談しているエリアでは、アーチ門やテラス席などに採光に利用する目的以外でも積極的にガラスが用いられている。正規ルートでこれだけのガラスを購入すれば多額の費用を費やすことになるが、アキノブたちは宣伝に使うだけではなく、式が終われば持ち帰って研究しても良いという理由を付けて安価に抑えていた。

 

「そういえば今回も新しいお菓子を用意していると聞きましたわ。しかも前回の氷菓子と違って持ち帰ることもできるとか」

 

「まあ、お土産になるほどですの? ならば噂のチョコレートでしょうか?」

 

「それは賞味してみなければまいりませんわね」

 

 貴婦人方のマウント合戦にも終わりが存在する。

 

結局は家同士の付き合いでどちらが上かとか、家格では勝てないからせめて教養やら勢力圏で勝とうという手段に過ぎない。新しい産物となれば近隣に領地がある自分たちの利益にもなるだろう。何しろナーシャ領は辺境側であり、その手前である自分たちの領地でも買えるならば宿や商店などで金を落としていく可能性が高いからである。もちろん素晴らしいお菓子であれば、都会側の貴婦人に対してマウントがとれるというのもあるだろう。

 

「おや。婿殿は三本バナーと楯です、ということは来歴を示す紹介ですね」

 

「白色、四つの何か、最後に円。紋章学に詳しくないのだが、白はどっちだ?」

 

「色は『選べない色』と『余った色』で解釈が分かれるからの。紫や金なら上で確定なんじゃが……王族であるはずも無し。ならば残り二つの合わせ次第じゃの」

 

 会場入りをすると奥にナーシャ家と武田家の家紋が掛けられているのが見える。

 

ナーシャ家の家紋は『並び立つ狼』と『交差する剣』で、二人の兄弟が力を合わせて成り上がったことを示している。この場に居る誰もが知っているが、一方で武田家の方には楯に『丸に四つ菱』の家紋が刻まれ、三つの布にそれを分解した図案が描かれている。陣営を示す白色旗、そこに描かれるべき『四つの何か』、そしてそれらを囲む円によって紋章が構成されていると紹介するための工夫である。

 

「円は外枠だから分家を示す装飾ですね。ならば中央の四つが何を示すか、そして円と意義が通じるかで古い家なのか新しい家なのかが分かります。良い図案は先に使われてしまいますからね」

 

「竜人族なら鱗として。狼人族ならば四つの群れ、複数の砦……いや城塞かの」

 

「城砦を囲む円の防備か……だとすると辺境伯の分家、伯爵家か子爵家の出だな」

 

 参列した下級貴族や騎士たちはその紋章で暇潰しをしていた。

 

所詮は他国からやって来た貴族の子弟で、辺境の男爵家に婿入りした相手に過ぎない。重要なのは迷宮を踏破できるかであり、そのために必要な力……装備を含めて所有しているかなのだ。そして実力的には六十六層までに挑む力があり、複数の伝世品を含む無数のスキル付きアイテムを有している時点で、後はオマケの情報として捉えていた。これが国内の貴族なら『地方豪族を束ねた田舎貴族の、その分家筋だろう』と蔑んだかもしれないが、国内での血筋マウント……『帝国建国以来の』という重要事項にまったく影響がないので放置しているとも言える。

 

「これより婚礼により両家の縁を繋ぐ。婚礼する男女、および付き添いの者は前へ。エレーヌ・ナーシャ・アンナシオ。アキノブ・タケダ・アンサマー。シモーヌ・ナーシャ・アンナシオ。ルミ・タケダ・アンベルク。前へ」

 

「「はい」」

 

「「はっ」」

 

 結婚式を執り行うのは上位者であるガラリアである。

 

教会など特にないしエレーヌの神殿はそういうことを行う場所ではない。ギルド神殿に登録する戸籍を操り、帝国に申請するという意味で寄り親であるガレス伯のガラリアが執り行うのはおかしなことではないだろう。そしてナーシャ家の面々から相談を受けていた彼女は、形式など存在しないことをよいことに、『付き添いの者』と誤認させてシモーヌとルミを同時に結婚させることにした。妾ではなく第二夫人・第三夫人である(もちろんグレースはその気がない)。

 

「儀礼用装備は聖銀とオリハルコンか。まあ大半は六十層でいけるからな」

 

「最後の一つだけならそれほど金も使わんしな。だが、ベルク殿のアレは……」

 

「あの五本線はまさしく。アレが噂の……ぬうう。欲しい欲しいわい」

 

 エレーヌとアキノブの装備は実力相応なので話題にはなってない。

 

だが一部の参列者……ドワーフの鍛冶師や、出席を熱望した帝国解放会に縁を持つ隻眼たちにとって注目するのはルミが纏っている外套であった。特に注目しているのはその胸に輝く五本の聖銀製チェーンである。

 

「一昔前なら殺してでも奪い取ると言ったもんじゃが……」

 

「カラバ侯爵に贈られるそうじゃの。侯爵邸に忍び込むのは愚策じゃろう」

 

「ということは方々。スキルに関する例の話は本当なのですかの?」

 

「うむ。じゃが口には出すなよ、この件は国家機密じゃからの」

 

 ルミは隻眼の条件と見切りのスキルを広め、スキルスロット説は解放会に伝えた。

 

このことから彼女の功績が認められ、戸籍を弄って自由民になることが認められたのである。ただ『奴隷落ちした者が戸籍を戻すことは認められない』ことと、家を再興したいという気持ちから、昭信の提案に乗ってタケダ家傘下の家としてベルク家を名前に連ねたのであった。そして彼女がスキルスロットを連ねたチェーンを纏ったことで、これ以降の隻眼としての意匠に『五本線のチェーン』が根付く事になる。実用性としても直ぐに比べることができることも大きかったであろう。

 

「では汝らに問おう。この領地に、この国に忠誠を誓って守るか? 愛する者と手を携えて、ずっと守ると誓えるか?」

 

「「「「はい」」」」

 

 野外であり大きくは聞こえないこともあり、シモーヌとルミも宣誓に参加した。

 

公式の場に出なければ、正式な結婚をしているかなどあまり意味はない。だが女としての信条というものは別だろう、特に家を残す気のシモーヌとしては重要だ。ルミはキャリアウーマン気質が強いのもあるが家の名前を残したかったこともあり、子供は養子を迎えることにしてタケダ家に所属する家として婚礼を共に挙げることにしたのだ。

 

「よろしい。では帝国よりナーシャ男爵への就任を認め、それを含む幾つかの称号を授ける。また、わたくしガレス伯ガラリアよりナーシャ領の繁栄を祝してギルド神殿一つの譲渡、ならびに数名の貴族から必要量の貸与を認めよう。いずれ円満に返却されることを期待している」

 

「ありがとうございます。これにより迷宮攻略と領内繁栄を行う所存です」

 

 最後にガラリアはギルド神殿四つを手渡し、領主の館へと誘った。

 

既に領主館にある騎士ギルド・暗殺者ギルドに並行して、鍛冶師ギルド・剣士ギルドを含めた教練をナーシャ領で受け持つ予定である。ガラリアの派閥や提携する者たちを受け入れる予定なので、その勢力が拡大していくことになるだろう。特にルミが隻眼であることは有名であり、その指導により隻眼を目指す者が転籍してくる可能性もあった。この世界にアカデミーなどは存在しないが、もしかしたら昭信はそういったものを目論んでいるのかもしれない。

 

「みなさま。本日は私事に列席していただき大いなる感謝を抱いております。つきましては返礼という程ではありませんが、ささやかな宴を用意しております」

 

「お忙しい方には土産も用意しております。ごゆるりと」

 

 エレーヌと昭信は居並ぶ諸卿に無礼講の開催を宣言した。

 

時間は午後に差し掛かっており、一日二食である者も多いため軽食やお菓子をたくさん並べている。チョコレート・フォンデュや廉価版のチョコレートがふんだんに用意されており、酒のつまみにしたい者のためにビターな味付けのチョコレートや肉類も用意してあった。

 

「御屋形さま。迷宮はいつごろに向かいますか? 既にエリクシールなどの要望が」

 

「聖銀製の装備もですね。どちらも『より上』が手に入るなら欲しいと聞いてます」

 

 貴族たちから預かったギルド神殿を執務室に置くと直ぐに生臭い話になった。

 

エリクシールを威霊仙から作れるし、六十六層までのドロップ複数ドロップで聖銀製装備も製造できる(だから武器や銅で二十五万前後)。それらを注文してくることもさることながら、『より上が手に入るなら欲しい』と遠回しに告げることで、オリハルコン製装備や自爆玉が欲しいと言ってきたのだ。シモーヌやルミは婚礼の当事者ではあるが、そのことは表向きには隠しているので彼女たちを窓口に頼んできたのである。

 

「クラータルの六十七層で『次の基準』が分かったから可能ではあるが……早速か。婚礼の儀式にかこつけて好きなことを言ってくれる。だが暫くは止めておこう、エレーヌを待たせることになったからな」

 

「あなた……嬉しいです」

 

 昭信たちはハイコボルトの結晶を求めるついでにクラータルに行っていた。

 

コボルトはモンスターの中では一番弱いと知られており、最上位のハイコボルトでもそれほど強くないからだ。だが得られた情報は重要であり、六十七層から上のモンスターは『人間のような白兵戦の駆け引きや戦術的な動き』をしてくること、これまでと同じように記憶は特に継承していないことが分かったのだ。よって後衛のエレーヌを狙ってくるなど、気を付ける必要はあるだろうが、ある程度の時間を掛けて鍛えれば七十層前後なら戦えることが可能だと判明したのである。

 

「二人には申し訳ないが、暫く来賓の相手をしていてくれ。それとアフマァード」

 

「はっ。ご主人様、なんなりと」

 

 昭信はシモーヌとルミに来賓の対応を任せると、新しい奴隷の一人を呼んだ。

 

奴隷自体は数名ほど才能が有りそうな者を購入したが、彼はそれとは別の流れでやって来た変わり者だった。厳めしく生真面目な性質と、褐色肌を持つ砂漠の民だった男である。

 

「奴隷たちにも休息と一時金を与える。ただし、お前はそれで迷宮に挑んではならない。体を休めておけ、己の力を研ぎ澄ませるのも役目のうちだ。いや、お前には罰だと言った方がいいか?」

 

「水盗人などに賜る格別の御慈悲。心よりの感謝を」

 

 彼はハミトたちのいる砂漠で止むを得ず罪を犯した者だった。

 

オアシスが枯れかけた時に家族を助けるために、聖域に侵入して水を盗んだのだ。間の悪いことにハミトの主導で地下水道敷設の話が出ていることを知らなかったのと、村で合議して得られる多少の水では足りないというのもあった。しかし、どんな理由が有れど犯罪者であり、聖域侵入に砂漠では貴重な水盗人。彼は犯罪奴隷として売られることになり、事態を知ったハミトが買い取り温情もあって昭信に売り渡したのである。

 

「あと十年だ。耐えよ、死んではならん」

 

「委細、承知しております」

 

 もちろん買い取った昭信にも、彼を抱えている理由がある。

 

かねてより盗賊から博徒を目指す人物が欲しかった彼は、アフマァードを鍛えて賞金稼ぎも合わせて取得させ、博徒のジョブに到達させたのだ。そして騎士団のメンバーと共に迷宮に潜らせ、状態異常ダウンのスキルにより騎士団でもそこそこの階層のボスを周回できるように手配したのであった。そして成果をまとめてハミトに提供し、彼が故郷の砂漠へ十年後に戻しても一目置かれるように修行を積ませていたのである。

 

「エレーヌ、愛している。最初に出会った日から君と結ばれることを夢見ていた」

 

「私もですアキノブさま。いえ、アキノブ。あの日からずっとお慕いしております」

 

「……」

 

 昭信とエレーヌが見つめ合う中で、部屋に居た者たちは去っていった。

 

最後にグレースがワインと媚薬としてのチョコレートを置き、ペコリと頭を下げて退出していく。これから何を語るのか、それともそういった過程をすっ飛ばして閨で愛し合うのか? それを見守る必要はない。二人は別に上級貴族でも王族でもないのだ。ちゃんと最後までしたかどうかを見届けるような野暮な人間は必要ないのである。

 

「こうしてみたいと夢に抱く浪漫は叶えられた。これからは君とのロマンスを叶えたいものだ」

 

「まあ。それならずっと前から叶っていますよ。ふふふ」

 

 こうして二つの影は重なり合い、二人は未来に向けて走り出すであろう。




 という訳で百話目の後日談となります。

●結婚式
 式といっても現代より簡素で、政治的な話になります。
みんな「六十層で戦って、聖銀やエリクシール用意できるってよ!」というのが重要。本当に祝ってる連中は居ないという感じですね。

なお聖銀は五十六~六十六層まで、オリハルコンは六十七~七十七層までで手に入るドロップ品複数としています。そのくらいでないと、金額的におかしくなるからですね。真鉄はその中間、真銀はオリハルコンとは別の素材だけど同格(魔法重視)でしょうか。

●ルミについて
 鍛冶師の条件、隻眼の条件を緩やかに広めて、解放会のみにスロット説を披露。この功績をもって自由民として認められるとしています。まあ、どのみち戸籍を弄るには主人公の係累として登録する必要があるのですが。なお、『五本線のチェーン』というのはファイブスター物語に出て来るマイトの『五本線』のオマージュです。スロット一つずつ増えていくのが理想的ですが、そこまで完成していないので、あくまでスロット一つが五本となって居ます。まあカラバ侯爵との真の手打ちに贈呈するので、未完成でもまあいいか。って感じですね。

ちなみに彼女は子供を産むことに固執しないタイプだったのと、実家を再興したかったので主人公と結婚という形になりました。もちろん子供が欲しくなったら、その辺は配慮するでしょうけど。もちろんシモーヌの方はゴスラー的なポジションで、領内を指導する事になるかと。

●アカデミー
 学園物やってる余裕はないでしょうが、寄り子仲間とか縁のある貴族の子弟を育てて、みんなで迷宮を次々に突破しても良いと思うんですよね。まあ、その立ち位置が帝国解放会なんでしょうけど、五十層くらいならば自分達でも育てられるでしょう。

●新しい奴隷
 時間も空くし、士官して来た新人を育てるには、有能な奴隷たちと競わせるのも必要かなというか、新人たちには自分の希望もあるので、奴隷は上から目線でジョブを押し付けられますからね。探索者・暗殺者x2(博徒)・騎士(竜騎士)・剣士(鍛冶師)・僧侶(魔法使い)みたいな組み合わせを確実に作るには、奴隷を購入する方が確実なのもあります。アフマァードは「水盗人」だから真面目な犯罪者! とかいうのは思いついたネタだから入れたかった感じ。

ともあれ、これで本当に終了になるかと思います(エイプリルフールを除いて)。みなさま、お付き合いありがとうございました。また、私が思いついて盛り込んだネタやデータなどで、使いたい物があれば好きにご利用ください。たいていは誰もが思いつくデータを、私なりに組み合わせただけですので。では、これにて失礼しますね。
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