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昭信たちは船で海岸沿いを巡り、沿岸にある迷宮を討伐する旅から帰還した。
「今回はご苦労でした。それぞれの確認したことを共有するとしましょう。まずはシモーヌからお願いしますね」
「はい、エレーヌさま。返却分を除き、二つのギルド神殿を得ました」
ナーシャ家を継いだことで、エレーヌの扱いが少し変わった。
彼女が司会を務めるようになったのもあるが、シモーヌはお嬢様と呼んでいたのを改めている。そして最初に確認するのは、四つのギルド神殿を入手したが、前借していた二つを除いて二つが残った。望遠鏡という新技術提供の代価に前渡し報酬として、ガレス伯やハリド氏族から受け取っていた分を相殺した形である。ただそれらの事を知らない者のために、詳細を省いて説明したのである。
「先年得たギルド神殿は四つ。このうち二つは商業ギルド・薬草採取士ギルドを設置、そして残りは非公開枠で暗殺者ギルドと予備の一つ。新たな二つのうち一つは、今は共同管理している冒険者ギルドと探索者ギルドを分ける為に使用すべきと考慮します」
「そうね。管理の問題もあるけれど、たくさん魔結晶消耗してしまうもの」
新技術提供でギルド神殿を前借りしたことには理由がある。
新たな入手時に返却分を相殺することで、『分配の結果二つ入手』という面倒なことをしている。これは表向きには二つしか入手していないということであり、予備枠でもあるが、非公開枠として使えるということでもあるのだ。そしてシモーヌは新たに入手した神殿の使い道として、ナーシャ領では共同管理していた探索者ギルドと冒険者ギルドを分けることを提案した。
「すみません。たくさん消耗するというのはどういうことでしょうか?」
「ルミは武器の限定しか知らなかったかしらね。せっかくだから、ギルド神殿で何が出来るかを説明してしまいましょう。まずは色々なことに魔結晶を使い、難しい作業をするとたくさん消耗するの。その為に探索者ギルドではいつでも魔結晶を買い取っているというわけね」
話を黙って聞いていたルミであるが、興味がある内容なので尋ねてみた。
エレーヌは彼女が隻眼になっていることや、オリハルコンなどの高位武器を使いこなせない者の為に、ギルド神殿を使って装備へ能力限定を掛け、使い易くする知識を知っているだろうことに思い至った。そこでギルド神殿の効果について、まとめて説明することにしたのだ。
「ギルド神殿は『ジョブの変更』に加えて、『記録する』ということと『限定する』を組み合わせた三つの機能を持っているの。このうちの記録を使って報酬管理の事務手続きや、商人ギルドの鑑定であったり騎士団の懸賞金管理などに使っているというわけね。限定は記録した情報を身内だけに制限したり、ジョブの変更を一部に絞ることが出来るわ。さっきいった機能を限定すればするだけ魔結晶を使わずに済むの」
「ええと……ちょっと待ってくださいね。鍛冶師ギルドを例に整理してみます」
「どうぞ。みんなも興味あるだろうし、構わないわ」
エレーヌの説明は思ったよりも詳細で丁寧なものだった。
父親の遺した書き物でも読み込んだのか、あるいは母親がエレーヌの神殿で修行したことがあるという話だったのでそちらかもしれない。ひとまずと区切った上で、ジョブ変更・記録・限定の三つの機能が存在し、それらが組み合わさって様々な使い方が出来ると説明していた。
「鍛冶師と隻眼への変更、および変更した者やギルドに所属している者の名簿を記録し、そのたびに魔結晶を消費してしまう。鍛冶師だけに制限したり、隻眼だけにすると魔結晶の消耗を抑えることも出来るが、損も多いのでそこに関しては制限していない。そして装備品とその材料や売却価格について記録させ、その記録を記すことも出来る。隠れて調べようとした者対策に身内だけに制限したり、魔結晶の消耗を避けるために限られた一部しか使えない制限をすることもある。……ということでしょうか?」
「そうよ。探索者ギルドと冒険者ギルドはもっと内容が多いけれどね」
ルミは鍛冶師ギルドの行う作業を一つ一つメモに記していった。
最初に記したのはジョブ変更で、そこに鍛冶師と隻眼の二種のラインを引く。隻眼の脇に疑問を示す文字を入れ、その文字にラインを入れて否定。そして様々な作業を羅列していった。
「これまで同じ場所にギルドを作り、同じギルド神殿で管理していたのは、単純にナーシャ領へ訪れる人が少なかったからよ。最も魔結晶を消耗するのはジョブ変更だし、ワザワザここで冒険者になる人も居なかった。迷宮で得た物や薬の売買なんかはどちらのギルドでもやってるから、覚えさせることが増えるわけではないものね。だから小さな貴族領では同じギルド神殿を使うことが多いと思うわ」
「ジョブ変更が最も消耗すると……なるほど色々と理解しました」
ナーシャ領の迷宮は領主が直接管理、深層を討伐している場所だった。
修練や迷宮討伐のために訪れる者は少なく、食料品が採れ易い浅い層は人気だったが、それだってアイテムボックスに入れて町で売ったり自家消費する者も多い。知られている迷宮は第一迷宮だけで、第二迷宮は中層以降の情報を共有していなかったこともあって、大きな村とはいえ田舎へワザワザ訪れる者は居なかったのである。だから冒険者に成れるほどの強者はおらず、偶に探索者が訪れる程度。ジョブ変更のために使う魔結晶の消耗が最も多いならば、無理に分割する必要もなかったと言える。
「新町もかなり出来てきましたし、店の売り上げも増えてきましたものね」
「ああ、ルミのお陰で装備の販売所に訪れる者も増えた。それと御屋形さまの提言された街道整備も図に当たってな。整備されているだけではなく定期巡回もされていることから、安全とみなしてナーシャ領を通る者が増えたんだ。今は迷宮が無いから落ち着いているが、再び迷宮が生まれたら、今の作業量では大変なことになるのが目に見えているから提案させてもらった」
ルミが隻眼となり上質な装備品を店舗に置いていた。
ダマスカス鋼や竜革の装備が常時用意され、最初は展示品しかなかった聖銀製の装備も時折に並ぶようになったのだ。貴重な装備が確実に得られるとあって、訪れる者は格段に増えていた。街道が安全で通り易く成れば農作物や木材などのために訪れる者も増える。彼らがまったく町に寄らないという事は無く、それなりに忙しい日々が続いている。これで迷宮がまた見つかったら大変なことになるだろうと見込まれていた。
「ともあれ現時点で予備が三つになったのだし、手に入れた内の一つは使ってもよいかしらね。予備は一つで良いと考えるなら二つ使ってもよいのでしょうけど」
「それについて俺の方から腹案がある。冒険者ギルドでもいいがな」
エレーヌが話を切り替えたところで見守っていた昭信が手を挙げた。
このままいけば冒険者ギルドで一つ消費し、残り二つの使い道について考案。あるいは冒険者ギルドを設置せずに、二枠分を使いたいということだろう。他のメンバーは特に意見が無いこともあり、話の内容を待つことにした。
「優先性の高い案、補強案がある。一つ目は農夫ギルドを設置するという案だ。種苗や道具などの販売であったり、畑で役立つちょっとした知識などを一元管理してもらうわけだな」
「農夫ギルド……ですか。失礼ながら意外と言えば意外ですね」
「マスターは武断派ですからね。つい戦闘用ジョブに使うのかと」
昭信が提案したことに提案に誰もが驚いた。
何しろ彼の戦闘力は折り紙付きであり、調べ回っていることも大半が迷宮に関する知識だからだ。それゆえに、いの一番に農夫ギルドの設置を提案するとは思わなかったのである。
「それに加えて必要な物を行商から購入したり、他の街のギルドへ買いに行かない分だけ安くなるから、みな喜んでくれるし税収も安定するだろう。大量に手に入れた寄生ワームを領民に与えたことで、今年からの収穫は見込めるから利益も見込めるだろうな」
「確かに悪くない案だと思います。冒険者ギルドは差し迫っていませんし」
「設置が早ければ早いだけ利益が出るから悪くないと思うわ」
昭信が考えたのは領地経営系ゲームにおける農業政策であり農協だ。
領民が農夫にジョブを変える必要性は薄いのだが、それでもレベルが上がれば腕力が上がるから耕作も早くなる。必要ならジョブ変更に掛かる費用を領主家から出してもよいし、種苗の管理や道具が簡単に用意できるなら、色々な手間が省けて総合的にはコストも下がるので設置が早ければ今後の収穫と税収はかなり増加すると思われた。それゆえにシモーヌは自分の意見を取り下げても構わないと口にし、エレーヌもその案に賛同する。
「農業ギルドを設置する場合に冒険者ギルドについても考慮するなら、迷宮が出来た時に予備を使うかを判断すればよいだろう。予備とは本来そのための物だし、迷宮を討伐できるなら問題ない。そして補強案は、料理人ギルドと様々な料理を研究して提供する店を並べることだな。ただし、こちらの優先度は高くない」
「チョコレートやアイスクリームも使うなら人は呼べると思うけれど……」
「正直なところ冒険者ギルドよりも下だと思います、マスター」
先ほどの農夫ギルドは賛同が多かったが、今回は微妙だった。
エレーヌは昭信の言うことなのでフォローしてくれるが、付帯しないルミはハッキリと否定する。料理人ギルドはあれば関心の有る者は訪れてみるだろうし、その時に美味しい料理があると聞けば訪れる者も増えるだろう。農業政策が上手くいけばそれに合わせた料理を用意すれば軌道に乗るかもしれないが、所詮は人の出入りを多少良くする程度にしか思えなかったのだ。少なくとも発展する途中のナーシャ領が設置する程では無かった。
(本当は博徒や遊び人用に使いたかったんだがな。盗賊系である博徒は問題になるし、一度ジョブを変更する必要がある以上、修行の過程を見られるわけにはいかん。遊び人に使わせるにしろ、魔法使いの素質を持った子供が余るなんてこと『今のところ』ない。上位職への到達なしにジョブの数を揃えるのは難しい。帝国解放会にそれとなく話を流して、原作にも未登場のジョブを見つけてからだな)
本当は三つ目の案もあったのだが昭信は断念していた。
博徒のジョブを持つ男をハミトから紹介されたので、そのスキルの有用性は理解できるだろう。だが盗賊に一度堕ちないとジョブを得られないし、30レベルまで鍛え上げる必要があるというのが厄介だった。何処かで見咎められる可能性はあるし、隠すことのできる遊び人にする方も問題である。聖騎士や魔道士に成れるだけの時間は必要だし、それだけの修行をさせるならば、魔導士で良いではないかということになる。そういう意味で『時期尚早』であると昭信は納得していた。
「ギルド神殿に関しては予備が二つのまま何かあれば使うというところね」
「そうですね。では次の議題は迷宮で得た物を使って何が作れるかの話としましょう。現在、エリクサーと聖銀製の装備までは確定。以前に聞いた段階では自爆玉とオリハルコンはまだ難しいとの報告となっております」
こうしてエレーヌが締めくくり、ギルド神殿に関しての議題は終わった。
次の議題はドロップ品で何が作れるのかの話である。司会のシモーヌはこれまでの報告を参加者に伝え、何に期待されているかを担当者に明示した。
「では私の方から。77層までの素材で聖銀製の装備に加えて、真鉄と真銀の装備を作れるようになりました。ご存じの通り真鉄は装備制限こそないものの、非常に重いのが欠点。真銀は軽くて使い易いものの、装備制限がありどちらも一長一短です。更なる問題点として、通常素材は聖銀にも使用し、滅多に落ちない方の素材がオリハルコンに使用するとの情報を得ました」
「それは判断に困るわね。使いたいけど作ってもらうとしても躊躇うわ」
「そうですね。私も状況に合わせ機敏に動ける方が助かりますので」
「とはいえ当面は78層以降に挑むのも難しいしな。死蔵するのも惜しい」
ルミがドロップ品で作れるようになった装備品に関して説明する。
真銀と真鉄の装備を作れるようになり、それらをいつでも提供できるようになったのは大きい。問題はこの二つの材料は、上下にある聖銀とオリハルコンに跨ってしまうのが欠点であった。装備制限付きの装備は今の世代には問題なくとも、次に引き継がせるには惜しいからだ。これが普通の家ならばまだしも、昭信がいる限りスロットを即座に見抜いてスキル付き……それも複数スキルに期待できるのが惜しかったのである。
「修行に一年以上、仮に妊娠があれば数年空いてしまう。それを考えれば真銀製の装備に関しては、エレーヌの装備に幾らか作ってスロットがまったく付かなければ解体、一枠ならスキルを付けて売るという手もある。真鉄製はドワーフや体力に自信がある者用にサンプルを作り、保管庫にしまって時々使ってみればいい。重装備を用いた戦い方を研究するのも悪くはない」
「普通の騎士は重装備ですし、御屋形さまのおっしゃる通りかもしれません」
「……子供が出来た感じはしないけれど、気を付けないといけないわね」
昭信が振った話を聞いてシモーヌとエレーヌで反応が違った。
聖騎士であるシモーヌは戦闘形式について判断し、エレーヌは妻としてあるいは領主として子供が生まれるという可能性に目を向けた。何しろナーシャ家は一門衆はシモーヌのみ、譜代の家臣など残っておらず自警団に毛の生えた連中しかいない。父親の世代が全滅したとはいえ、子供を作ることを控えることなど出来ないし、結婚したばかりとあってそのつもりも無かった。
「自爆玉に関しては77層までの素材で作成可能のようだな。四つの迷宮の中で60層未満の場所もあったが、その際に錬金術師を薬草採取士のついでに育てておいた。珍しい素材ばかりで作るので、修行を兼ねてクラータルあたりで戦えば、順番待ちを入れても年に十個程度は作れるだろう」
「それは朗報ね。子供たちが生まれても困らないのはありがたいもの」
「それどころか聖騎士や魔法使いを一時的に回してくれるかもしれません」
67層から77層を戦えるようになって、最大の利益は自爆玉だろう。
相打ち覚悟で使う自滅用の薬だが、赤ん坊に飲ませて使えば不発になって魔法使いの素養を得られる。基本的に供給が滞り気味であり、一流とされる熟達のパーティーはオリハルコンの素材を求めて78層以上で戦うことが多い。原作でも八十層台で戦えれば一流と評されるなどと言われており、その入手難易度は高かった。だが、それだけに何人の子供が生まれても魔法使いの素養を持たすことができ、かつ派閥であったり帝国解放会に回すことで、エレーヌやシモーヌが身重で動けない時に信用できる戦力を借りられることは大きかった。
「それならば真銀や真鉄の装備を作り、贈呈するのもよいですね」
「そういうことだ。これからも67層以降で戦いながら修行して、素材を集めていく事になるだろう。クラータルの迷宮以外にもあれば探すとして、予約できればそこで修行。無理ならば適当な迷宮で外陣メンバーを四十四層までで戦えるように鍛えるとしよう」
話の流れにルミも相乗りすることにしたようだ。
遠慮なく真銀や真鉄の装備を作り自分の修行に使うつもりだろう。その上で様々な結晶を組み合わせ、何が有用なのかを試すに違いない。昭信もこれからの戦いに備えて、67層以上で戦える場合と戦えない場合のスケジュールを提案しておいた。もちろん反対などある筈もなく、それが方針となるだろう。
「最後に私から。現時点で階層による特性の差異に関する報告になります。34層からは魔物の能力が二つ以上増強。45層以降からは状態異常への対抗力が上がり、解除する可能性があります。56層からは攻撃力が上がり、迷宮ボスは装備品を破壊する可能性を持ちました。67層以降は人間のように試行する魔物が増え、スキルを有効に使う個体が目撃されています。78層以降は体験しておりませんが、新たな脅威が存在するのは間違いないと思われます」
「情報を集めておいた方がよいでしょうね。なかなか難しいでしょうけど」
「帝国解放会に尋ねるのが早そうだな。年に数回討伐しているそうだ」
「今年は我々も参加を求められるかもしれません。準備も必要でしょう」
これまで発言しなかったグレースが最後の最後で報告を行う。
感情を極力示さず、報告に主観を入れないことからグレースにはこの手の仕事が任されていた。情報を体系化してまとめておき、感想などを差し引いてみなの前で報告するのである。遊び人になる為の修行を積んだので『くのいち』には届いていないが、スキルや戦い方についての話が出来るため、貴族と交流する時に自然と話を作り易いのである。
「アキノブさま。他に何かあるかしら?」
「今日の会議で話したことを総括すると、色々なモノを貯めながら修行することになるだろう。だがそれは次の世代や、その手前の繋ぎの世代に向けて蓄えていくものだ。各人の努力に期待する」
こうして遠征を終えた昭信たちは、ナーシャ領に戻りその成果を次に向けて動き始めた。だがそれは目先のためではなく、遠い未来を見据えた新たな一歩であったという。
というわけでエイプリルフールなので一話追加しました。
本当は遊び人ギルドを帝国解放会に広めるとかだったのですが、難しいと思って断念しました。
後は「ドワーフ男の場合」で一話だけとかも考えたのですが、面白くはなさそうなので止めた感じになります。おそらくですが、同じことをやるならソードアートオンラインでクロスし、三人パーティーにした方が面白そうだったからです(竜騎士で剣士・聖騎士でヒーラー・鍛冶師で探索者)。
という感じで右往左往した感じの話でしたが、迷宮攻略後の高レベルパーティーの話として、楽しんでいただければ幸いです。ちなみに想定では主人公の百獣王だけレベル70後半、他はレベル60代で78とか無理というバランスだと思います。
●オマケ。ギルド限定しないと魔結晶は消耗が多い説
ハインツ一味ってなんで黄色魔結晶を育ててたんでしょうかね?
魔結晶は手に持ってるので、回収しながら統合してただけの可能性が高い。
でも、思うのですが……ジョブ限定してないまっさらなギルドでコスト度外視すれば、盗賊が凶賊になれたりするんじゃないかなーとか思った次第です。某領主の奥さんとか殺され、その後に迷宮攻略してないのは、予備のギルド奪われ操作させられたからじゃないかなーとか、妄想してしまったわけです(次のメンバーがジョブ変更するためのものとして)。
とはいえ、そんな妄想を垂れ流す訳にもいかないので、ギルド神殿に関するネタを半分入れた感じですね。