異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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スロット説

「探索者だった頃にアイテムボックスの個数で判ったと思うが、下層で一緒に戦ったり、俺だけが深い層に潜ったことで、今のお前は一年以上修業した鍛冶師と同じくらいの力量がある。武具を作る方はともかく、スキル合成だけなら問題ないだろう」

 

「はい。マスター」

 

 昭信は様々なシチュエーションで探索者のレベルアップを確認させておいた。

 

その為にルミの成長概念は着実にズレてきている。少なくとも彼が主導する限りは『まだ作れない筈です』とは言わないだろう。

 

「聞いたことがあるか無いか分からないが、合成が成功したり失敗したりするのは『スキルスロットが空いていないせいだ』という説が存在する。眉唾物だとはされているが、隻眼や貴族たちが隠しているだけではないかと考えているんだ。嘘なのは良いが、どうしてスキルスロットなんて単語が出てくるのか判らないからな」

 

「言葉の起源が謎過ぎますし、立場的に隠している方がありえますね」

 

 仮名が学説と共に固定化された可能性はあるが、この時点でおかしい。

 

何度か検証されて『その説は正しいかもしれないが、確認できないので確実性はない』で収まらないとおかしいのだ。でなければ具体的な話が残る訳がない。それに『毎回つくとは限らない。なんて言い訳くさい』とされていたが、そこに乱数があって、スキルスロットがあると考える方が、まったくの運頼みよりは話としては通る訳だ。理論として確実性が無いのは確かだが、幾らなんでも否定意見の方が強過ぎるのである。

 

「賢者や技師ゆえの秘匿であることと、見抜くのが難しいから、見抜けない者が無能とされる風潮を庇う。この両者が偶々一致したのだと思えば納得がいくわけだ。その上で、俺は武具の吟味を続けてきた。勘違いかもしれないが、その勘違いをあえて偏らせて続けたわけだ。そこで合成に際して一つ試したいことがある」

 

「……もしや、別の場所に取り置きしているこれらが?」

 

「仮に正しくとも、ピンと来たのはこれだけだとも言えるがな」

 

 ルミは元鉱山主の一家だからその辺の理屈に理解が深い。

 

鉱石から金属を抽出する方法だって最初は適当で、別の理論を組み合わせることで、確実性を増していったわけだからな。技術の秘匿と、出来ない者を無能と謗らないため。そう説明すれば容易く納得してくれた。嘘ではないが本当でもないという理論ではある。

 

「スキル合成は失敗して当然。何も考えずに実行すれば十回に一度の成功、回数が少なければ運が良かったとされる。だからこれらを試してみて、失敗しても俺は文句を言わない。何しろ新しく買った物を合わせて四つしかないからな。だが四つの内の複数、あるいは全てが成功すれば理論が正しい事になる訳だ」

 

「マスター! 命じてください、やってみせろと」

 

「その意気や良し!」

 

 倒した盗賊の戦利品は沢山あるが、鉄の剣と皮の鎧だけを別置きしている。

 

それを考えたらどれだけスキルスロットが無いか判ろうものである。これに新しく買った鋼鉄の剣とウッドステッキを足しても四つしかない訳だ。新しく買った方も説を信じた主人が吟味に吟味を重ねてようやく二つ見つけたと言っているので、ルミも信じたようである。まあ全滅しても実験だから問題無いと言われたら、実行する立場からすれば楽ではあるだけだ。

 

「その上で、ここからがお前の修行の一つでもある。俺のスタイルは走り込んで斬撃、そのまま危険な奴から始末するスタイルだ。それに合わせて、何のスキルを付与するかを想像するんだ。金が増えれば全て試すとしても、その順番には意味がある。そして何を有効かと考えることが頭脳を鍛えることに繋がる」

 

「鍛冶師として、マスターの一番奴隷を目指すものとしての修行ですね!」

 

「ああ。だから考えることは無駄じゃないと覚えておけ」

 

 セリー程に昭信もルミも賢くはない。だが研鑽すれば届きはする。

 

そしてこういった組み合わせを考え、時には多重付与も考慮し実行することが隻眼の条件の一つではないかと思うのだ。詠唱遅延を銅の剣で繰り返すとして、詠唱中断を付けるとしたら何の武器か? 鉄の剣や鋼鉄の剣か、それとも槍なのか。多重付与ができるとしたら、他に何を付けるべきかとの思考へと誘導しておいた。

 

「とはいえ時間も無いし、急に言われて戸惑うだろう。だから基本的に俺が決め、そこにお前の案を挟むと良い。今回で言えば、牛の結晶を単独で皮の鎧に入れる。この組み合わせなら失敗しても惜しくないし、成功した場合でも使い回せるからな。コボルトの結晶を使うのはスキルスロットがあると確信を持ててからでも良い」

 

「分かりました。でも、それならより安価な皮の靴に……あ、でも使い回さないか」

 

 ルミは早速、昭信の言ったように思案を重ねていった。

 

牛の結晶での移動力強化は有用ではある。だが、他に跳躍強化や回避強化も入れたいし、予算があるならば耐性系だって付けてみたい。だが、今の段階ではそんな予算はないのだ。そして今の段階で多少でも移動速度が上がるならば、詠唱中断での攻撃が間に合う可能性が増えるのだ。危険が減るのは効果が大きいと言える。その上で、低位である皮の防具にワザワザ入れるスキルなんか無いからな。テストも兼ねるならこれで良いのだ。

 

(よし。これでスキルスロット説に関して納得したな。秘匿に関してもクドイくらい間に挟んだから、勝手に話さないだろう。いずれ全て判る事を説明するかもしれんが、今の段階で説明する必要は無い。ジョブチェンジに関してはもう少し様子見してからだな)

 

 原作ではスムーズに進行する為に、全て喋っていた。

 

だが、昭信の場合はそこまで必要が無い。魔法使いじゃないから『探索者なのに』とツッコミをうけることはないし、もし喋る必要があるとすれば、嘘の詠唱がバレそうになって詠唱省略を説明する方が先だろう。スキルスロットに関してはこのまま賢者や技師の秘匿術で行けるし、長年磨いた吟味という経験が無い以上、ルミに判る筈が無いので説明が要らないのだ。

 

「比較対象として代案を並べてみよう。もっと深い層で戦う事で、二年・三年分の修行を積んで皮装備を作る事だ。丁度次の階層がミノだからな。奴隷全てに装備が足りてるわけでも無し、スロット付きの装備が出来るのを待つわけだ。するとこの鎧が無駄に成ってしまう。なら第二迷宮に居る毒虫対策でアリの結晶を買って壁役に着せるか? 悪くはないが、同じことをするならせめて鉄の鎧にしたい……キリがない」

 

「確実に付与可能ならそれでも良いかもしれませんが、まだ確定ではないですしね」

 

「そういう事だ。まずはやってみろ、何度も言うが失敗しても文句は言わん」

 

 鑑定が出来るのだから確実なのだが、話が怪しくなってしまう。

 

段階を踏んで実証すれば理論となるし、『これは大丈夫』で行けるという確信になるだろう。だが、迂闊に全て説明してしまうと、頭で理解した知識という物は微妙なものなのだ。それに予算の問題で全ては揃えられないし、コボルトが即座に何枚も買えるとも思えない。その為に稼ぎ時を失ってしまうという訳だ。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、スキル結晶融合」

 

 ルミは気合を入れるために皮の鎧とスキル結晶をテーブルの上へ移動。

 

深呼吸しながら呪文を詠唱した。小さな輝きが灯り、次第に大きくなったかと思うと結晶が消失して、ルミの元には成功したという感覚を感じた。鍛冶師ギルドで聞いていたような脱力感はないが、これが昭信の言っていた一年分の修行を付けた成果だとようやく実感できたのである。

 

「体調には問題はないか? あれば休むなり薬を飲め。まだまだやる事はあるからな」

 

「問題ありません。ただ実感はありませんので、迷宮で試してみたくはなります」

 

「試すとしても次だが……。そうだ言い忘れていた。融合成功、おめでとう」

 

「はい……ありがとうございます。マスター」

 

 微笑み合うが、その意味は異なっている。

 

昭信はようやくスキル融合を開始できる、無理なくスキルスロットの事を教えることが出来たというものだ。対してルミの方は『これで捨てられることはない』という安堵の面が大きかった。エレーヌが好きだから夜伽を命じるつもりが無いという昭信の心意気には納得できても、現在進行形で奴隷であるルミにとっては、夜伽によって自分の価値を提示できないということなのだから。そういう意味で昭信の態度は、友人としては正しくとも奴隷の主人としては間違っているのかもしれない。

 

「さて、ようやく本命の実験に入れる。俺が吟味することを思いつけたのは、所有する宝剣と明らかに格が違う事だ。あまりにも違うので本当にスロットがあるか最初は不安だったくらいだがな。だが少し前に手に入れたこの剣と比較する事で問題無いと予想する事が出来た。こちらはおそらく数の枠があり、その鎧や鉄の剣は一つが限界だろう」

 

「も、もしかして複数の付与を試される気ですか? 伝世の装備並ですよ!?」

 

 昭信は右側にフラガラッハを見せ、左側に鉄の剣を置いた。

 

その間に購入してきた鋼鉄の剣を置くことで、スキルスロットが複数あると明示してみせたのである。フラガラッハからみれば鉄の剣は明らかな格下。スロットの無い品よりマシな程度、だが格が違い過ぎて戸惑っていたが、中間の品を見つけたことで『スキルスロットは複数ある』と段階的に説明しきった。

 

「俺は本来、ビーストアタックを連発するタイプなんだ。故郷では詠唱中断とMP吸収を使い分けていたが、一つならば宝剣より便利で助かるからぜひとも欲しい。だからこれは必要な実験なんだ。それに最悪、MP吸収だけなら鉄の剣で代用できるからな。そして成功すれば新たな実証になるし、仮に中間の剣が見つかればこの剣は三枠ということになる。先々を考えれば、安い投資でしかない」

 

「そ、それは凄い話ですね……時に、その宝剣には幾つ? もしや沢山?」

 

「大きな呪いはあるが最低でも四つ。呪いではなく能力とするなら五つだな」

 

「ひ、ひええ……。まさしく宝剣ですね。でも、呪い付きなのかぁ」

 

 段階を踏んだことでルミも一応は納得できてはいた。

 

鍛冶師ではなくとも複数スキルの武器というものは伝世の品として有名だからだ。その上で宝剣という最上級の品と比べることで、複数のスロットがあると言われたら何となくイメージだけは出来るのである。そしてずっとその事を考えたであろう昭信が、実証できる機会を得たら興奮するだろうというのは判った。

 

(確かに凄い機会で上手くいけば物凄い事だよね。でも、マスターが考えに固執して暴走していると言えば言えなくもない。止めるべきかな……。でも止めてもまた次の機会もあるだろうし……。それに成功したら、私もエレーヌちゃんみたいに大切な人だと思ってくれるかな?)

 

 博打ではあるが、話を聞く限り安い博打で保険案もあるとのこと。

 

鍛冶師としての興味はまだそれほど高くないが、自分の価値を高めて捨てられないようにするという意味でルミは迷った。成功しなければ価値が無いと思われるかもしれないからだが、いずれまた融合を求められることはあるだろう。話を聞く限りは成功する可能性は高く、成功すればこんな秘密を打ち明けられたという意味で重要な存在となるに違いない。打算の産物としては受け入れるべきという方向にルミは少しずつ舵を切り始めたのである。

 

「承知しました。やれと言われるならやってみせます。その上で、どのような装備にするのか、先ほどの代案の様なものも含めてお聞かせ願えれば幸いです」

 

「そうか。やってくれるか」

 

 自分の保険として、ルミは無茶だと思うがやってみせると告げた。

 

そこまでの覚悟を見せれば忠誠心をアピールできるからだが、そこまでしても失敗すれば叱責されてしまう。だがここまで聞いた段階で流石に捨てられることは無いだろう。何度か実験して、どこかで成功すれば、かけがえのない存在だと思ってもらえると思って決心したのだ。

 

「先ほども言ったがビーストアタックを連発する。だから威力の優先度は低いが、MP吸収が欲しい。そして相手のスキルを止める詠唱中断が必要だ。よってこの二つを付けるが、残り一枠は中間の剣を見つけるまでは融合を行わない。失敗した場合は鉄の剣にMP吸収を使うが、成功した場合は検証用を兼ねて予備とする可能性が高い」

 

「確かにその計画ならば、鉄の剣を先にする理由はありませんね」

 

 まずは実用性で、三つ目は二枠の剣を見つけた後に製造してから。

 

そう言われてルミは少しだけ肩から力を抜いた。二つ目ですら伝世の品だが、三つ目など想像の外だったのだ。そんな無茶をしないと言われて肩の荷が下りたとも言えるし、その順番で成功すれば自分の価値を信じられる域に達するだろうと思うのだ。そして二つの付与を為し遂げたことで、その思いは強くなっていくのである。

 

「良くやってくれた。最後に有用な言葉を贈ろう。『都の方から来た』とか『産地の方で買ってきた』という言葉がある。別に首都に限らんが、そう言っておけば大抵の知識や物は誤魔化せる物だ。例えば鏡であれば『ペルマスクの方で購入した』と言えば中間の町で買ったのか、ペルマスクまで遥々行ったのかと思ってくれるだろう? 何が言いたいのかと言うとな、鍛冶師について尋ねられたら『身内に居ます』と言っておけ。それが誘拐されないコツだ」

 

「っ!? あ……そうですね。腕利きの鍛冶師と知られたら強要されそうです」

 

「そうでなくとも新しい武具を作ってれば、こっちに売れと言うからな」

 

「マスターの仰せ通りにします」

 

 昭信の言う事に首を傾げていたルミだが、最後の言葉は分かった。

 

鍛冶師が売られる際にジョブを変えるのはマイナスの目で見られ易いかららしいが、逆だったらどうだろう? 有用な鍛冶師ならば『これで作ってくれ。報酬は払う。なんならお前を購入してやる』と申し出を受けるかもしれない。だが、正直な話ルミにはスロットの理論は納得できても、その存在が分からないのだ。昭信ですら半信半疑でようやく確信に至ったと言っているのに、ルミ一人で成功を保証できるはずも無かった。

 

「さて、今日はこの装備のテストをしたらお祝いをするか。少し良い料理を作るとしよう。甘い物で良いか?」

 

「はい。マスター!」

 

 こうして鍛冶師となったルミを引き連れ、昭信は迷宮へと向かったのである。

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士17レベル。

 

 活性枠。入替枠。

 

獣戦士17/英雄12/剣士20/探索20/神官12。村人5/戦士3/薬草採取士10。

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定1、鑑定1、詠唱省略3、ワープ1、必要経験値十分の一(31)、5thジョブ(15)。

 

武器5(31)、獲得経験値十倍(31)、腕力1。もしくは獲得経験値二十倍(63)との入れ替え。

 

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師7

 

 

資金。2万2000ナール

 

小口現金。3000ナール(常時調整)

 

入手。加速の皮鎧。強権の鋼鉄の剣(詠唱中断、MP吸収、空き)

 

スキル結晶管理用。なし。

 

スロットのある装備。鉄の剣(空き)、ウッドステッキ(空き)、




 と言う訳でスキル合成ですが、最初にスキルスロットありきで行きます。
その為にちょっともったな合成してますが、必要な事もであるので。

●賢者や技師の秘匿説
 特許の無い世界だから秘密にしている。
広まったら自分たちの徳が無くなるし、判らない鍛冶師無能説が出るから。
という設定を勝手に考察してますが、ルミちゃんは背景的に納得できています。セリーほど賢くも力強くもないけど、そこがヒロインレース的な強みですね。

●好きな子いるからお前には手を出さない
 友人なら誠意を感じるんでしょうけどね。捨てられるかもしれない奴隷から見たら、それってどういうことなの? というところでもあります。そう言う意味で、捨てられないため、必要としてもらえるために、スキルスロット説とか自分が鍛冶師とかはエレーヌちゃんたちにも話さないでしょう。ヒロインレースには必須なので。

●『●●の方からやって来た』
 誤魔化すのに楽なネタのひとつです。
将来、ジョブチェンジの話をする時に『エレーヌの神殿の方でジョブチェンジしたと聞きます』というネタを使うでしょう。

●レベルUP状況
 実の処、あんまり時間が経過してないのと、魔法と違って二百倍ではない・属性ダメージではないからですね。今回で装備が揃ったので、次回から加速すると思います(原作主人公で言えば、ロクサーヌを手に入れたばかりの頃なので)

剣士30レベル時の派生職があるとして、何の条件が必要だと思いますか?(使えるとも覚えるとも限らない)

  • 一意専心。剣だけでトドメを刺し続ける
  • 武芸百般。多数の手段を使ってトドメを刺す
  • 常在戦場。船の甲板や高地で戦う
  • 人間の殺害数が重要。迷宮では無理
  • 最初の文明設定が重要だから無理
  • 剣士自体が派生職。50レベルだけ
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