異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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初期期間の終了

「ここにある皮防具を支給する。武器は適性を見る為、交換しながら戦え。六人の組が普通に一階層で戦う間、俺が二人を連れて効率的な訓練を行う。朝・昼・晩でメンバーを入れ替えるから、集合場所を忘れるなよ」

 

「「はい!」」

 

 奴隷たちが全員帰還し、事前の説明をした後で迷宮へと挑む。

 

最初の一週間は順繰りに交代して、『普通の戦闘』と『効率的な訓練』の差を体験することになった。目的はごく一般的な戦い方と、主人が施してくれる劇的な成長を体験する為だ。これを経れば圧倒的な強さを持つ昭信に逆らう事はなくなるし、奴隷商館で聞いていた『あまり良くない主人の扱い』と比べて、色々な面で恵まれている事を自覚するだろう。

 

「一通り終わればそれぞれの適性と希望に合わせてジョブを変更する。そうなれば一層の、訓練が進めば三層まではお前たちだけでの巡回を許可しよう。励めよ」

 

「「はい!」」

 

一週間もあればだいたいの適性が分かるし、ほとんどの者は探索者になるだろう。舐め腐って主人を甘く見る者さえいなければ、順当に育っていくものと思われた。そして一番重要なのは、奴隷たちだけで潜った場合、迷宮で得た物は全て奴隷たちが好きにして良いのだ。小遣いにするにしても、自分を買い戻す費用にするとしても、頑張る意味はあるだろう。そうなれば昭信がワザワザ手を掛ける必要はなくなるのである。

 

(原作主人公もこの時期はあまり成長していないの……いや。黄魔結晶を作っている。六十四倍で資金稼ぎをしていたのか。俺はソロをやってる分、なんとか追いついている段階と)

 

 久しぶりにスマホにダウンロードしている原作を読み返して確認してみた。

 

メンバーに関してはルミ以外は借り物も同然なので(何だったらルミも)、ロクサーヌのみの時期と比較してみたのだが……。奴隷たちの初期訓練終了時点で獣戦士32レベルと、あまり昭信も成長していないがこれからは自分のために戦えるだろう。現時点で第八層を踏破し、第九層目で経験を積んでいる所だ。経過時間はともかく、階層的なバランスでは何とか追えていた。

 

「マスター。シュナイドラー様からお手紙ですが、休日を告げておきました」

 

「良くやった。お前もついてこい」

 

「はい。お供します」

 

 暫くして仲買人であるシュナイドラーからの手紙が届いた。

 

五日毎に休日を設けているが、商人からの手紙は微妙な日だった。しかしルミは取次の冒険者に言い含め、その日を指定して訪問する可能性が高いと告げていたのである。反省会にして半ドンにしても良いのだが、ここでは『ルミはスケジュール調整にも気が付いた才女』という面を見せたので、皆の前で褒めることで認知させておいたのである。こういっては何だが、かつての雇用主であろうと良く思わない者は居るのだ。それが外見だけではなく、知性も含めて上だと認識すれば文句は出ないものだからだ。

 

「幾らだと書いてあった?」

 

「サイクロプスが八千ナール。蝙蝠とコボルト三枚が合わせて二万一千ナールとありますので、これはセットで落札した可能性があります」

 

 言われてみると奇妙な表現である。

 

仲買人たちは基本的に一枚一枚、オークションで購入した金額を提示するものだからだ。その原則が外れるのがセット販売であり、コボルトが手に入らずに長引いていた事を考えると、コボルトが欲しい商人がいても蝙蝠が混ざっているから買い控えたのだろう。五千前後のコボルトが五千五百近くになっている事でも気になるのに、余計なカードを抱き合わせで買う事を躊躇ったのだと思われる。コボルトが三枚セットとは思えないので、一枚ずつのセットだったかコボルト二枚くらい。その状態で蝙蝠も高いならば高額になってしまう。

 

「蝙蝠は回避強化だから損にはならないと思うが……。まあ、何枚もコボルトを集めていたらそう考えるか。俺も暫く蝙蝠を使うかを躊躇うしな」

 

「装備を吟味して使用されるのでは? サイクロプスは待つのですよね?」

 

「今のところあまり反撃を受けてないのもあるし、使い道も多いから悩むわけだ」

 

「確かにコボルトを使ってまで回避二倍にするか悩ましいですね」

 

 昭信の言葉にルミはスラスラと答えた。その様子は敏腕秘書のようだ。

 

以前に言った使い道やスキルスロット説込みで覚えており、どうするべきかを考えて相槌以上の返答をしてくれる。仮に他のドワーフが今から鍛冶師のジョブになったとしても、ここまでの会話はそうそうできまい。

 

「となると手持ちの兎と組み合わせて強権装備を作るのが良いでしょうか」

 

「それが堅いな。連携テストも含めて今俺が着ている皮鎧を渡し、改めて足防具に牛とカエルをそれぞれコボルト付きで入れる計画になるか。カエルは今回発注するとして、コボルトもその時まで待てなくはないから蝙蝠を使えなくはない。だが……もう一つ計画を考えているんだ」

 

 ルミが最適解を出してきたので昭信はまず頷いておいた。

 

彼が突撃して一体・二体と切り捨てる間に、仲間の一人が追随して彼の背中を守りつつ、詠唱中断の付いた強権装備でスキルや魔法を妨害する訳だ。昭信が使っている加速の皮鎧を着ておけば、それほど距離が離れることはないので今以上に安定した戦いが出来るだろう。だが昭信はルミが良い秘書ぶりを発揮したので、もう一段階情報を与えて様子を見る事にした。

 

「兎とコボルトの相場が上がっているのは、誰かが強権装備を作ろうとして失敗しているわけだ。合間に誰かが競り落とせるのは、装備の方にも金が掛かっている事や鍛冶師へ対する連絡待ちに過ぎない。さて、ここでスキルスロットを俺は確認できる可能性は高い。ならば予備を作って売りに出すのはどうだ? 兎を手に入れた事は告げずにもう一枚注文するとしてな」

 

「え……あ! そうですね! 確かに今は二つも強権装備は必要ありません!」

 

 スキル合成が失敗したからと言って、即座に次の合成などあり得まい。

 

だから強権装備を作ろうとしている依頼主は、一度失敗してから次の装備購入と改めての合成依頼を出している訳だ。場合によっては金や装備を預けて『出来るまで作れ』という可能性はあるが、持ち逃げや詐欺を警戒するのは当たり前の話だ。昭信が『二つとも成功したから、一つを売りに出すぞ』と言えば食いついてくる可能性は高かった。改めて装備を作るにしてもその後で購入すれば高止まりしている今よりは安く収まる可能性はあった。

 

「詠唱遅延のセットも作ってる可能性はあるから兎の値は落ちないかもしれんが、コボルトの値は落ち着くだろう。資金も出来るし暫くは調達が楽になる」

 

「次の兎が手に入るまで使用感のテストもできますし悪くないかと思います!」

 

「そういう事だ。手放すことも考えると『槍の方が良い』というところか」

 

 昭信はあえてルミが考える余地を残しておいた。

 

それは彼女の訓練にもなるし、同時に彼女の態度を見ることも出来るからだ。昭信が取り置いていたスロット付きの装備を使って、勝手に売る可能性がある。やって来る冒険者と連絡に適当な言い訳をして、『まだ手に入れたと連絡がありません』と言い張る事も出来るのだ。たとえそれが自分を買い戻す資金稼ぎではなくとも、主人に内緒で勝手な金策をするよう奴では『秘密を守れる』かどうか不安なのである。他人をテストするのはあまり好かないが、昭信にも事情があった。

 

(今回の件で何も無ければルミを信用して秘密を話しても良いかもしれん。流石にソロで修業するとしても、探索者が居ないなら深い層に行ける筈もない。迷宮の受付に尋ねられて『そんな人は来てませんよ』と疑われたくもないからな。だがこのままで過ごしても真の仲間には程遠い。秘密を語り相談できるくらいには信用すべきだ)

 

 正直な話、それでもまだ信用するには早いのかもしれない。

 

だが元から昭信はそれほど深く疑うタイプではなかった。むしろ最初の計画的に練っておいて後は突っ走るタイプなのだ。その意味で信用のおける仲間は早い段階で見つけたかったし、今はツンケンしているシモーヌの対応も何とかしたいと思っていたのは確かなのである。そこであまり疑いたいわけでもないが、ちょっとしたチャンスを用意しつつ、隙は作らず邪心を抱かない程度の流れを作る事にしたと言える。

 

「土産として試供品を持ってきた。好きに使ってくれ」

 

「私の一族が真似てしまうかもしれませんぞ?」

 

「いつかは真似できてしまうものだろう? 必要ならレシピと経過観察のデータ込みで売るぞ。そのつもりがあるなら商談として話をまとめてこい。その方が他の連中に揶揄されんで済む」

 

 昭信は話題造りに作った石鹸を持ってきた。

 

暇を持て余している老人であるシュナイドラーは、何かあれば昭信から話を聞きたがると見たからだ。あまり医療に詳しくない昭信からしたら話を誘導してしまった方が早いと考えたのもあった。それとは別に、サイクロプスが想定より安かったので、彼の一族が手に入れたから安かったのではないかと思ったのもある。

 

「敵いませんな。一族を説得するのに使わせてもらいましょう」

 

「そうしてくれ。使った時の所感でもパピルスに書いておこう」

 

 ここまではお互いに牽制パンチのようなものだ。刺激的な会話でしかない。

 

お互いに仕事としては商売の話が基本になるし、昭信としては次の発注も重要になって来る。その上で以前に尋ねた『人魚のスキル結晶を付与した時に、水流剣から水触剣に変わる過程でのコボルトによる差異』が知りたかったのもあるのだ。ソレが使えるか次第で必要な結晶の内容が変ってしまう。

 

「まずはお求めのスキル結晶になります。二万九千ナールですがいかがされますかな?」

 

「次の手数料を合わせて金貨主体で良いだろう。まずは牛と蛙だな」

 

「こちらを」

 

 シュナイドラーの言葉に昭信とルミは対応した。

 

事前に金額が分かっているので三万ナールである金貨三枚をテーブルの上に置く。本来であれば鑑定料も添えるべきだが、昭信側にその気は無いというサインだ。騙される可能性はあるが先ほどの石鹸の話がある状態で騙しはしないだろうというのもあった。

 

「どちらも急がんから次のコボルトと共に頼む予定だが、先日の件次第で変わる」

 

「ああ。人魚や蝶をコボルトと共に使った場合の情報でしたかな」

 

「そうだ。内容によって欲しいかどうかが変わるからな」

 

 原作では剣を炎が覆うような姿であった。

 

これが『切らないと意味が無い』から『遠距離まで届く』への変化ならば剣に付与する意味はない。持たせるとしても奴隷用の武器だろうが、奴隷に持たせるならばやはり詠唱中断の方が安定する筈だ。『火から炎』『水から氷』であるとか『属性変化だけから知力依存ダメージを載せる』の様な威力強化なら、遊び人で覚える予定だったビーストアタックの代わりに付けるのも面白いだろうし『格好良いは正義』ではないかと思うのだ。

 

「簡単に言いますと刃の長さが伸びていきます。ただしあくまで魔法の一種のようですな。ひもろぎを付けたアクセサリーは機能するようですが身代わりのミサンガと競合するのが欠点ですな」

 

「それは……また微妙だな。雑魚処理には向きそうだが」

 

 どうやらウォール系やストーム系のような変化らしい。

 

斬撃が水属性や火属性の一撃になるのが通常時で、コボルトを使うと2mから3mくらいに伸びるそうだ。ストーム系よりコストが低いが、範囲が狭く、前衛の武器だから威力も微妙。話を聞く限り詠唱省略のある昭信からしてもそれほど意味はない。むしろ魔法使いのレベルを伸ばしてストーム系で攻撃するなり、ウォール系で囲まれるのを防ぐ方がまだ使えそうではある。もし騎士・暗殺者・博徒あたりを延ばしていたら使ったかもしれない程度だろう。コボルトが余れば詠唱中断が遠距離攻撃に載るかどうかを、多重付与で試したいところではあるが現状ではそんな余裕は無かった。

 

「良い情報を貰ったので助かった。これで手持ちの再挑戦に専念できる。兎を一枚、はさみ式を一枚。コボルトも二枚頼む。どうせ奴隷のジョブを変えるから必要なら取りに来る。早めに揃っても急ぎの連絡は無くても構わない」

 

「期間的にはそうなりそうですな。計四枚で二千ナールの手数料を追加で戴きます」

 

「少々お待ちください」

 

 二枚分は既に払っているので二千の追加。実にスッキリした取引だ。

 

なんというか最近は銅貨の蓄積が面倒で、殆どルミに投げて適当に食材やら着替えに使わせていた。銀貨も一度に出すと大量なので、昭信もシュナイドラーもあまり好きではないのだろう。もちろん秘書役のルミはそうもいかないので、アイテムボックスから取り出すし、銅貨は巾着に入れているのだが。

 

 

「この後はどうされますか? 予定通り武器屋に?」

 

「そうだな。鋼鉄の剣でスロットがある物を選び出そう。後は適当に斧なりフレイルでも買っておこう。鍛冶師が作り出せるらしいが、あまり見ない武器があっただろう。適性だけは見ておきたい」

 

 戻ったら兎とコボルトで強権装備を作る予定だった。

 

出来れば将来に備えて鋼鉄の槍も欲しいのだが、鋼鉄製はそこそこ高額なので二つ合わせると金貨が三枚は必要になってしまう。この辺りは鉄・鋼鉄が妙に高額と言うか、ドロップするモンスターが第五ランク(第二ボス)なのが問題だろう。むしろ竜皮の鎧が硬皮より少し上くらいなので戸惑う程だ。原作主人公を見習って奴隷の訓練時くらいは結晶六十四倍をつけるようになった昭信だが、ギリギリの資金繰りは好まないので、『様々な武器での殺害』という条件のクリア込みで、銅製の斧やフレイルなどを購入するのであった。

 

「斧やフレイルに目を留めるとはなかなかの通だね。どれも店の隅で埃をかぶっていたし、剣と合わせて一万四千七百ナールで構わないよ」

 

「そうか済まないな。ルミ、俺は防具屋で見繕っておく」

 

「はい」

 

 そして昭信はルミに支払いを任せると金貨を握って防具屋へ。

 

三割引きが発動すればかなり安くなるとはいえ、その様子をあまり見せたくはなかったからだ。時間がない事もあり、鉄の鎧と鋼鉄のデミグリーブのみを購入して『意外と安かった』で済ませたという。

 

●リザルト

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士33レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

獣戦士33/英雄30/剣士35/ソードマスター18/料理人18/戦士10

薬草採取士24/神官25/探索30

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定1、鑑定1、詠唱省略3、必要経験値十分の一(31)。

 

6thジョブ(31)。獲得経験値二十倍(63)もしくはデュランダル(63)もしくは結晶促進六十四倍(63)。余りは腕力。

 

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師20

 

資金。1万2000ナール

 

小口現金。3000ナール(常時調整)

 

スキル装備。加速の皮鎧。強権の鋼鉄の剣(詠唱中断、MP吸収、空き)

スキル結晶。兎。牛。蝙蝠。サイクロプス。コボルトx3。

スロットのある装備。鉄の剣(空き)、ウッドステッキ(空き)、鋼鉄の剣(空き)。鉄の鎧(空き、空き)、鋼鉄のデミグリ-ブ(空き、空き、空き)。

特筆すべき項目。青魔結晶に貯蓄中。皮の防具一式多数(スロットなし)。銅貨はルミがまとめ、奴隷たちの小遣い銭に。

 

現代品の代用レシピ。石鹸・薬用石鹸・ラムネ菓子




 と言う訳で奴隷たちについて色々する期間の終了です。

●奴隷たち
 ルミを除いた七名の内、五~六名が常時下位層を巡回可能な体制に。
これで掛けた時間の割りに、主人公とルミが成長していない時期の終了。

ついでにルミに対する監視期間も終了。
そろそろ秘密を話し始めても良いかと言う所ですね。
原作で言うとセリーのように、妄信はしてないけどビジネスライクな話が出来る関係で、主人公が誘導したこともあって秘密を迂闊に喋らないようになるでしょう。

●属性剣
 情報が無いので形態の差としておきました。
ボール・ストーム・ウォールみたいな感じで、剣付与・長刃付与みたいな。場所によってはストームよりMPが少ない直線系範囲攻撃と言う感じで、聖騎士が斬艦刀みたいに使うのかもしれません。
(ストームは数が増えるとMP増えたと思うので、それがない)

●装備の金額事情
 原作で鋼鉄のロッドと槍で金貨三枚とあったので止む無く節約。
防具の方は鎧だけ高くて頭・手・足は妙に安いので、使ってる素材の量と、落すのが第五ランクのトロールだからでしょう(第二ボスが確定で落すけど強い)。なので主人公の新装備かつ、お古はそのまま盾役の奴隷が着る流れになります。

ちなみに一週間の経過で結晶込み一万ナール以上は稼いで居るはずですが、トータルで前回よりも減ってます。数名の奴隷を育てていることもあり、原作主人公よりもRTA速度はかなり落ちています。
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