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「今回はオークションや仲介について説明しましょう」
「その商品がどれだけ作り易いか、元となる物と結晶の価値次第」
「手に入り易い物の組み合わせならば安く、そうでなければ高い」
「後はお客様の需要が冷えているか熱いかの差。今回は熱い状態ですな」
シュナイドラーの講義が始まった。どう考えても客に教えることではない。
どうも薬用石鹼のレシピと治験データを取引する事にしたようで、その一環で色々と教えてくれているそうだ。もちろんシュナイドラーがこういった事をまとめて話すのが好きなのもあるだろう。
「代理で出品する者は二割程度の仲介料を戴きます」
「これは大手を振って歓迎してくださる方は、概ね二割から三割増しだからです」
「もちろん冷えている商品であったり、倉庫代わりに常から買い取っていれば別」
「確率は数が増えれば収束します。溢れている物は五倍を切るでしょうな」
判り易い範囲で原作を挙げると、詠唱妨害の剣がそれにあたるだろう。
オークションで三万以上を狙えることもあるが、連続で出すと買い叩かれる。仲買人が買い取る場合は一万五千のセット価格が存在するというデータであった。これは銅の剣が溢れており、兎も第一ランクのモンスターだからだ。騎士団が『持ってきてくれたらセットで二十万くらいで買う』という提示があるからこそ、足りない本数だけを三万以下で揃えようとして、一万五千で常の購入を行いつつ転売費用と保管代金を載せているという事である。
「翻って今回は強権装備が詠唱中断であり鋼鉄製なので人気の品」
「兎もコボルトも熱い状態ですので、『少し前の十倍なら買う』とおっしゃるかと」
「後はそれをどれだけ抑えてみせるか、仲介費用と伝手の出番です」
「熱い状態の七倍以上、冷えた状態の十倍以下。そこが境目ですな」
鋼鉄の剣が一万六千、兎が四千、コボルトが五千。というのが冷えた価格だ。
最初に鍛冶師に告げられる想定価格は二十五万ナールでこれが天井になる。それ以下に抑えれば仲買人の名声は高まり、抑えれば抑える程に儲けが出る。一方で熱い価格は兎が五千のコボルトが五千五百と言う所。その七倍で十九万前後だから、二十万を妥結した価格と仮定して、仲買人たちが二割の金額を美味しくいただき折半することになる(シュナイドラーだけが貰って、向こうは別の利益かもしれないが)。
「仲介料は既に四万いただいておりますので、あちらで十六万ナールをお渡す契約になっております。ただし……これ以上の商談に関しては関知せぬという事に致しましょう。お互いに不満が溜まっては後にシコリを残しますでな」
「追加で購入してもらう商品と、こちらが買い取る商品については目をつむると」
「十分に元は取れておりますゆえ。これ以上欲をかいては他が買うでしょう」
「なるほど。とうの貴族家や親戚筋が八倍から九倍で買うかもしれんからな」
仮にもオークションなので該当者や他の貴族が買うかもしれない。
そうなったらシュナイドラーは諸費用を貰えるかもしれないが、相手方との交渉が出来ない。仮に五万以上の利益を出せたとしても、向こうの商人と貴族家のメンツを丸潰しにする可能性があるので、直接交渉するならば文句を言わないという事らしい。仮に四万をシュナイドラーの総取りで、向こうの商人が別の利益を確保しているならば、向こうだけが失敗して大損という事になってしまいかねなかった。
「次の買い付けに関してはまた次の機会としよう。その家から不要になった結晶を買取、差分を引くことにするのでどうなるか判らん」
「それは双方にとって良い取引かと。その家も重ねた失敗を取り戻せるでしょう」
ここで重要なのは、相手の家は何度も失敗しているという事だ。
一回あたり二万六千をドブに捨てている訳で、仮に今回の取引で二十万で購入したとしても元が採れたわけではないのだ。四・五回ほど失敗して焦り始めたとしても、原作で登場した公女を迎える商人程ではあるまい。ここまで金を遣う気は無かった十万以上使ったから五万抑えても、『まだ五万の損をしている』と考えている可能性は高いだろう。それでも交渉に乗ってきたのはシュナイドラーの手腕と、七回・八回を超えたら『あの家は不運で縁起が悪いのでは?』とガチで焦って高額で購入する可能性もあったからであると思われる。
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「そういう訳でどうだろう。買い置きしたが使う必要が無くなったスキル結晶や、迷宮に潜っている過程でたまたま拾った結晶を買い取って差額に充てても構わない。その中に兎が数枚含まれる場合に限り、必要ならば妨害の鉄剣を四万で付けても構わんぞ」
「妨害の鉄剣が四万ですか……銅剣で三万以上はします。よろしいので?」
「割って入った迷惑料さ。それと隻眼を目指させているから貴重な経験になる」
「結晶の価格も下がるし、成功よりも体験を求めるなら悪い取引きではないと? ふむ」
昭信の申し出に相手の商人は納得の顔を示した。
鉄剣も兎も直ぐに手に入るからそれほど価値は高くない。鉄剣が八千の兎が四千として五倍から七倍で買うかと言われればそうでもない。『銅剣で十分だし、そのくらいなら自分で試すなりオークション待ちする』と言えてしまうのだ。だが出物ならばリーダー格に持たせるという意味で悪くないと言えた。また実際に六万以上で買う気は無くとも、四万で買えたならば『二万ほど浮いた』と思えるし、不要な結晶分で値引きできるならば手数料込みで費用をある程度は取り戻せると踏んだのである。
「では隻眼を目指す気概とちょうど六本目となりますので、二十六万ナールをお支払いしましょう。値切って当家の格を下げるわけには参りませぬし、吸精のスタッフや神籬のロッドをお願いすることもあるやもしれませぬからな」
「それはありがたい。しかしスタッフやロッドはこちらで使いそうですがな」
「ははは。貴族を目指す方はみなそうでしょうとも」
剛毅な話をしているように見えるが、単に三割り増しが効いただけである。
強権の鋼鉄剣の最高金額が二十五万と聞いていたのも理由付けに都合が良かったのだろう。シュナイドラー経由で鋼鉄剣は既に十六万と売り渡し価格が決まっているが、妨害の鉄剣が割って入ったことで三割り増しが効いたらしい。こうなるとこの後の流れも想像できるだろう。『代金引き換えで値引いてくれたので』と三割引きの成立である。
「まず兎が二枚で四千。蝶が一枚と蟻が二枚あるが……せっかくだ、どれも三千で構わない。どうせ使いません。それと悩むが芋虫も三千で付けようではないですか」
「狙ったんじゃないかと思わないでもないが二言はないぞ。それと鑑定は要らん」
「ぴったり二万ですからな! だが値引きしてくれるのだし一万四千とましょう」
昭信は一度二十六万ナールを手元に移動させ、三割引きへと変えた。
もちろんその変化は有効であり、相手の商人は豪快に笑っているがその意味に気が付いた様子がなく、昭信が差し引いて渡した分をそのまま受け取った。いささか奇妙な流れではあるが、理由に説明がつかないでもない。
(欲しい物は二割り増しから三割り増しで公示し、逆に売りたいときは三割引きくらいまでは許容しているんだろうな。初年度奴隷だとトントンの価格まで落ちても、税金分だけ得したことになる。それに商人はアイテムボックスを埋めるからな。商機を買ったと思えばおかしくはないか。俺だって強権や詠唱妨害の剣を商機の為に売ってる訳だし)
おそらくだが商習慣とプレッシャーの兼ね合いでは無いだろうか?
高級な衣服を扱う店で兎の毛皮が常時割り増しなのは、それでも売れるから購入しているわけだ。肉も買っているということは身内の探索者を派遣しているから、肉屋なり親類縁者に頼まれ易いという事でもある。割増料金でも十分元が採れるし、その要請を叶えたという名誉も手に入る。また、豪商になる為に『有意義な取引金額』が重要なのだとしたらどうだろう? 三割引きや三割り増しは、経験値以外でもそこに大きな影響を与えているのかもしれない。
(後はどうして暗算でも可能な取引にカルクを頼るかだが……まあ車の運転だと思えば判らんでもないか。俺らも親世代と違ってマニュアル操縦なんぞしないからな。同じように交渉で『どこまでなら「儲けが出るか?』を考えた瞬間にカルクを使ってしまうんだろうさ)
そして三割引きが通用する条件であるカルクの仕様も想像が出来る。
おそらくは値段に幅を持たせていて条件によってある程度の差をつけるからこそ効くのだ。昭信が自由民で強い獣戦士かつ鍛冶師を連れているとして、人間の探索者個人と比べて同じ条件で提示するだろうか? これが更に貴族であるとか大商人であれば、様々な条件で利益が生まれるからさほどおかしいとは思わないのだろう。
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「渋るかと思いましたがこちらから下手に出たことで兎を始めとした結晶出してきましたね」
「奴らには成功するか判らんし、蟻や蝶は拾い物らしいからな」
昭信が『兎が出るなら』という条件で妨害の鉄剣を付けたのは成功率の問題だ。
普通の人間には一発で成功する可能性があるか分からないので『もしかしたら?』と思ってしまう。ましてコボルトを付けない詠唱妨害であればお試しでやっても構わないのだ。それが確実に手に入るなら惜しいとは思わないし、後から博打で成功させて『しまった。取引するんじゃなかった』と思わなくて済む。そのためのアフターフォローであると昭信は説明していた。もちろん三割り増しの為なのだが。
「それでこれらの結晶はどうする? 追加購入も考慮が必要だが」
「ではお言葉に甘えまして……。まず、蟻の一枚はそのまま鉄の防具に付けてグスタフ達で実験いたしましょう。それで何も無ければ問題ありませんし、それでも掛かるようならばマスターが毒に掛かる可能性を除く為にコボルト付きで付与します。その上で後はこの間の宿題次第ですね」
蟻の結晶はある意味で微妙な存在である。
武器に使えば毒状態にできるがもっと良いスキルは存在する。かといって防具に入れて対毒にするかと言われたら、必ずしも受けるかどうか怪しいのでコボルトまで使うか判らないのである。その意味で昭信たちはナーシャの第二迷宮下層という毒虫の巣が存在する為に悪くない選択肢であると言えた。もちろんスキルスロットが複数あれば話は変わってくるのだが、今は予算も限られているので即座には使い難いのである。
「ほう……という事は蝶を攻撃に使うのか」
「はい。現状ではそこまで出てきませんし、剣の長さが伸びるならばマスターの援護もできます。詠唱中断は当然のこととして、先に蝶を入れておけば売る際にも分かり易く伝世の品と主張できるかと思います」
ルミの回答を聞いて昭信は満足の笑みを浮かべた。
彼自身が使う場合は微妙な効果である蝶の結晶も、後ろから追いすがる奴隷が使用するならば問題ない。昭信の援護としても風属性ならばそれなりのダメージが出るし、上空を飛んで後衛を狙う場合に止めることも出来るのだ。その上で売却時に鑑定可能な装備名と、判り易くテストできる上に人気のある詠唱中断ならば売却価格も見込めるだろう。
「では三つ目の効果はどうする? MP吸収ならば俺の鋼鉄剣に入れて実験もできるぞ。それともダマスカス製の片手剣で四つを狙ってみるか?」
「いえ。ここは鋼鉄剣でHP吸収を。現状で求められているのは戦闘の維持です。試した結果が有効であれば、いずれ聖銀製の片手剣なり槍を探すのがよろしいかと思います」
信頼出来たことで、スロット枠の付く傾向まではルミへ説明していた。
鋼鉄剣は最大三枠、ダマスカス鋼ならば四枠。その枠ごとにおそらくは二割から三割の可能性でスロットが存在し、上位の武具ほどに枠数が増えるので付与の可能性が高くなる。だが駄目な時は何をやっても駄目であり、これらが全て乱数かつ高額な費用であることを説明していたのだ。
「パーフェクトだ。聖銀は魔法性能を高めるそうだが、ひもろぎをアクセサリーに頼るかの迷いも含めて聖銀ならばまとめられるからな」
「ありがとうございますマスター!」
ひもろぎに加えて吸収二種と詠唱中断の付いた属性剣。
それらが聖銀製でまとまっていれば、伝世の品どころかボーナス武器に匹敵するだろう。もちろんレベル補正無視は無いし攻撃力五倍や防御無視も無い。異世界転移の序盤では使えないが、魔法も覚えてくればかなり有用な装備になるだろう。その意味で中衛の使う選択装備としてはかなりの武装になる事が見込まれた(ひもろぎを抜いて攻撃力五倍にしたら前衛も使えるが)。
「ではコボルト二枚と、つぼ式・ヤギを注文して実験だな」
「はい、それで良いかと」
「……勘違いかもしれませんけど、早めに完成させた方が……良い気もするんですよね」
昭信の言葉に頷いて案を出すルミであるが……最後の言葉は自信がないのか、風に溶けて消えた。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士36レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
獣戦士36/英雄34/剣士38
薬草採取士24/神官25/探索30/ソードマスター20/料理人20
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定1、鑑定1、必要経験値二十分の一(63)、ワープ。
詠唱短縮1、獲得経験値二十倍(63)もしくは結晶促進六十四倍(63)。
2rdジョブ(1)もしくは6thジョブ(31)。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師22
資金。22万5000ナール
小口現金。3000ナール(常時調整)
スキル装備。加速の皮鎧。駿馬のデミグリーヴ(移動力増強、跳躍力増強、空き)、強権の鋼鉄の剣(詠唱中断、MP吸収、空き)
スキル結晶。蝙蝠。サイクロプス。コボルトx2。蝶、蟻x2、兎x2、芋虫(入手予定。はさみ式植物、コボルトx3、ヤギ)
スロットのある装備。ウッドステッキ(空き)、鉄の鎧(空き、空き)、鉄のチェインメイル(空き)、鋼鉄の片手剣(空き、空き、空き)
特筆すべき項目。青魔結晶に貯蓄中。皮の防具一式多数(スロットなし)。銅貨はルミがまとめ、奴隷たちの小遣い銭に。
現代品の代用レシピ。石鹸・薬用石鹸・ラムネ菓子
今回は私なりに『仲介してもらって相手の家と交渉する値』を考えてみました。
色んな方のお話ごとに差があるのは当然なので、二つの値表があって
その間で需要を元に相場を動かして交渉していく感じですね。
1:(高額化した本体商品 + 高額化した結晶)x5~8倍の需要以上
2:(安い時の本体価格 + 安い時の結晶)x10以下(天井)
3:必須級のお求め品。2の更に20%増し。(公女への持参品)