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(ここは……何処だ? 山か? 確か俺は……)
「キャアアア!?」
(っ!?)
目覚めた時、唐突に悲鳴が聞こえた。
倒れている事を自覚して、頭を上げた瞬間に意識が覚醒する。咄嗟に周囲に手を動かしてみると掴んでいたはずのリュックサックが転がっているのと、大剣や指輪が草むらに転がっているのを見つける。
「お嬢様がた、お逃げください!」
「爺っ!」
(……!?)
何か起こっているのかまずは確かめねばと思った時、下で言葉が聞こえた。
そもそも世界がピンチだし、モンスター以外でも盗賊が跳梁跋扈している。だから自殺願望者を探して送り込んでいるというのは理解が出来る。だが、コレは唐突に過ぎないか? そう思いたいのは当然だが、事態はそんな事を許してはくれない。
「シモーヌ! 爺が! 爺が!」
「お嬢様。どうか中へお入りください。馬車は私が!」
(あの子……可憐だ……)
最初に思ったのは『人が襲われている。相手は盗賊だろうか?』であったが……。
そんな意識が一瞬にして吹き飛んだ。まず目に飛び込んだのは古臭い馬車に乗った華奢なオカッパの少女。それを守るようにして御者台に乗り付ける長身の女性はシャギーの髪以外は少女に似ているような気がする。共にケモ耳が特徴的だが、長身の方が御者台に座った瞬間、ドサリと転がるのが『殺された誰か』であるとは、申し訳ないながら全てが終わってから気が付いたくらいだ。鑑定によると『エレーヌ・マグヌス・ナーシャ。村人2レベル。♀。15歳』そして『シモーヌ・ナーシャ。騎士4レベル。♀。23歳』と表示されていた。
「賊に襲われたのか!? 義によって、助太刀する!」
「っ何者!?」
「だ、誰!?」
思わず大剣と指輪を掴んで飛び出していた。
山の斜面に寝床も作らずに転がっていたらしい。そこから滑り降りるように馬車の傍へ降りると、追いすがって来た小汚い連中に剣を向ける。その時に不審者に思われるかもとか、馬車から攻撃されるなど思いもしない。今はただ、『この少女を守護らねば』という強い思いに昭信は突き動かされていた。
「旅の武芸者だ! 今は賊どもを片付ける!」
「……すまない。恩に着よう」
咄嗟に思いついたのはそれだけだ。自分の正義を証明する手段など無い。
ならば行動に寄って示すのみ。向かってくる連中をデュランダルで一人二人と切り付け、周囲には潜んでいないと判ったところで鑑定をしようとようやく思いつけた。足元には死体、ただそれだけ。盗賊とすら表示されず、サクっと切りつけただけなのに死んでいるのもその時に理解する。自分が何をしているかという自覚など無い。鑑定で視れば38レベルとかなりレベルの高い盗賊を中心に盗賊たちの群れが居て、20レベル前後のそこそこ強い盗賊が数人、そして最後に15レベル程の探索者が一人居る。だが大多数は雑魚であり、戦い方次第だと思う事が出来た。
「はっ! 一人くらい増えたぐれえ……」
(オーバーホエルミング!)
自分のジョブを見直してなどいない。だが、昭信には確信があった。
高揚する頭の中で熱に浮かされるようにして呪文を唱えており、もし駄目だったら先に雑魚をもう数人切り捨ててから試せば良いという程度のサブプランだ。手前味噌な言い方をして良いならば、自分の為にあつらえられた舞台ではないかと思ったくらいである。ここで英雄を得ていないなど思いもしていなかった。どうみても射程外という位置から、走り込んで前項の位置へ踏む込みながら剣を一閃!
「速過ぎ……。クソ、高位の……獣戦士か、よ。はな……」
「頭ぁ!? げっ……」
「一つ! ……二つ!!」
盗賊の頭は高レベルなだけはあったようで、斬りつけても数秒は生きていた。
とはいえそれも原作のように首が切られていなかっただけの話だ。ロクサーヌを得るために主人公が盗賊を襲った時は寝ていても声が出たくらいなので、切られても声は出るが、それでおしまいなのは確かであろう。この時には『人が斬れるか?』などという心配は既に存在しない。サイコパスに成ったわけではなく、衝動に突き動かされての結果である。単純と言うなかれ、異世界転生して目の前で少女がピンチであれば、抜かねば無作法という物。
「三つ! まだやるか? 死にたくなければここから
「強す……ぎ」
「四」
袈裟胴にして、返す刀で逆袈裟の連撃。スコアを数えながら盗賊たちを切り捨てていく。
昭信は『さっさと逃げろ』と言ったが逃がす気など無い。いたいけな少女を囲んで襲うような奴に容赦が居るだろうか? いや、復讐にやって来ることを考えたら確実に殺さねばなるまい。その時になって『ワープを取得し忘れた』と思いはするが、その場で取得する余裕など初陣の昭信にある筈が無かった。
「さあ。五人目は誰になる?」
「ひぃ!? 逃げろ!」
(山中で一方向へ向かって? 何がある……)
もしワープがあれば……と思っていなければ方向性に気が付かなかっただろう。
盗賊たちは探索者を中心に特定の方向へと走っている。時々後ろを振り返るのが、かえって危険だという事も気が付かずに走っているくらいだ。何処かに辿り着けば逃げ切れるアテがあるのかもしれない。そして探索者を中心にしているという事は何を意味するか自明の理であろう。
「お、お前ら! オレを守れ! オレさえ無事なら……」
(ダンジョン! それも野良ダンジョンか、放置気味のもの! チャンスだ!)
この先の流れが想像できたことで昭信にも余裕が出来てきた。
走りながらボーナス呪文の位置を探り、迂闊にチェックはせず飛ぶべき位置を探る。MPを考えたら自信をもって飛べるのは一度、敵に囲まれたら自殺覚悟で二度目の転移を行う程度だろう。盗賊が一人また一人とダンジョンらしき場所へ入っていく中、覚悟を決めて意識を集中すると確実にチェックを入れた。そして頭の中で呪文を唱えて暗闇を近くの斜面に作り出し、飛び込んだのであった。
(ワープ!)
「なんで……そこ……に」
ワープで奇襲を掛けて最後の一人を切り捨てる。
昭信もダンジョンの中へ追跡するが、流石にそのまま飛び込みはしない。可能な限り体を低くすると、デュランダルを担ぐように受け流す体勢を作ってから入り口に飛び込んだのである。
(……そう言えばこいつらと俺は混同されないのか? 良く考えたら一目見ただけの女の子の為に必死になるとか怪し過ぎる。むしろ俺はこいつらをダシにして近づこうとして……。違う!? 助けなければ死んでいた。それに勘違いされてフラれたって良いさ。俺は俺のしたいようにするだけだ!)
中に入ると同時にガンと鈍い音と感触がする。
不意に自分の馬鹿さ加減とキモさにドン引きし始めたのだが、ナニカにぶつかって、そいつが追い掛けていた盗賊だと気が付いたあたりで思考が回り始めた。どうやらMPがすり減ってマイナス思考に陥ったのだろう。デュランダルのMP吸収で防げたようだが、余裕が無いのは同じである。身を起こしながら強引に振り抜き、残る敵の中で探索者だけは確実に倒そうと必死で鑑定を行った。
「なあ! あんた! 取引しようぜ! 持ってるもんは……」
「探索者に唱える時間をやる訳がないだろ。そこで死んでろ」
「待て近くに魔物が居る。共闘を……ぢでっ」
真っ先に探索者を片付け、命乞いをする盗賊たちを葬っていった。
もしかしたら『奴隷になるから助けてくれ』と言った奴も居るかもしれないが、信用できないので最初から話など聞いていない。大切なモノのヒエルラキーを極端に定める昭信にとって、一目惚れまでした可憐な少女を襲っているという時点で、生かしておく気はまるで無かったのである。視界の端に『スパイスパイダー。1レベル』と表示されたのも容赦できない理由ではある。
「ついてねえ! 大仕事だってのに、もう少しで逃げられるってのに……」
(ついてる。俺の方はついてるぞ。マイナス思考で自殺せずに済んだ。それに、ここでダンジョンを見つけられて本当に良かった。これで探索者のジョブで鑑定を受けられるし、ダンジョンを探していたなら、山の中で野宿しても不思議じゃないからな)
昭信は盗賊の言葉に引き吊られているのを感じながら、自分を肯定し始めた。
原作で散々言われている『マイナス思考問題』に思い至ると、MP吸収の為にも盗賊にトドメを刺し、深呼吸しながらボーナスポイントを弄って決意の指輪をMP回復速度二倍に置き換えたのだ。そして腕を切り落とすべきか、そのまま放置して墜ちたのを拾うべきか悩みながらも、移動する可能性に思い至り、やって来たスパイスパイダーの相手をしながら左腕を切り落としていくのである。
(だいぶ落ち着いてきたな。インテリジェンスカードを拾ったら装備を放り出せるだけ出しておくか。ダンジョンも気になるが、さっきの子たちが無事なのかも気になるしな)
死体が消えて装備が残る中、それらをダンジョンの外へ放り投げる。
そんな中で先ほど考えた『探索者をメインジョブにする』というアイデアを思い出し、そこで変更できない事で苛立ち、ボーナスポイント問題を思い出して二度苛ついた。極めつきは近寄ってきたスパイスパイダーに八つ当たりのような攻撃をしてMPを吸収し、もう大丈夫だとMP回復速度二倍を消そうとした時になって、ちょうど探索者も2レベルになって三度目の苛立ちを覚えたという。
(我ながらせっかちな事だ。少し落ち着こう。この装備品だって本当に必要な物は大してなかったしな。頭目が身に着けていた方が良い物だと思えば、他は捨てても良かったくらいだ)
冷静に成って装備品の中から鉄の剣と紫魔結晶だけを拾っておく。
皮の鎧などは後で残っていれば良いだろうと割り切り入り口付近に放置しておいた。それよりも重要なのは場所まで戻って少女たちの下に駆けつけることだろう。この頃には精神の平行性も戻っており、多少の事は切り捨てる元の昭信に戻っていたと言える。
と言う訳でヒロインのダイナミックエントリーです。
奴隷を探してヒロインを見つけるという路線はよく見るので、偶には別の事をしたかったというのもあります。あと町とダンジョンを巡り歩くのもよく見たので、最初の村というか拠点になる場所も用意しました。