異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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限界と向き合う

「幾つかの問題が発生したので当面の方針に関して変更する。以前に語った事の詳細説明でもあるので、知っている事でもまずは聞いてくれ」

 

「「はい」」

 

 昭信はルミとシモーヌを私室に呼んで簡単な会議を始めた。

 

それぞれの立場や能力もあり、個別に相談する事もあるので事前に聞いたこともあるだろう。だが発言を自由に許していては進まないので、質問は後にしてくれと説明を開始する。

 

「これまで相手の能力や装備の強化具合を確認しながら戦い、問題が無ければ突破するという流れを繰り返してきた。次の十五層ではもっと時間を掛け、訓練のつもりで何日も繰り返し戦っていく。戦いに慣れて時間的な余力が発生した場合、第二迷宮の未踏破踏区域を進む為に費やすというのが新しい方針になる」

 

 昭信たちは第一迷宮の十二層・十三層と続けて突破に成功した。

 

ハットバットの出現する十四層でも問題なく戦えており、反対意見が無ければこのままボスを倒しに向かう予定で、そこまでは同じ流れであると解説した。変わるのはその次の十五層、仮にこれまで同様に戦えるとしても、時間を掛けて経験を積むという。その上で新しく追加されたのは第二迷宮に関する事だった。

 

「この場合は十五層のケトルマーメイドに問題があるわけではなく、十六層以降に対して『俺たちの戦い方』では『対応力の限界』が来る可能性があると判断したためだ。数が増えるのと、特殊能力で麻痺を使ってくるからな」

 

「御屋形様と私たちでは相性が悪い……敵」

 

 昭信が強調して口にした言葉を聞いて、シモーヌが思わず呟いた。

 

まず戦い方に関しては判らなくもない。このパーティーは昭信の超火力ありきの戦い方で、相手が力を発揮する前に叩き潰す戦い方をしている。昭信が一体ずつ仕留め、残りの二人が詠唱を妨害したり昭信の背中を守る形だ。これまではそれで問題無かったが、数が増えることで瞬時に殲滅できない可能性が増えるのだ。

 

「麻痺だけならともかく、数も居るから対応できないということですね」

 

「そういう事だ。これまで俺はビーストアタックで一体目を斬り捨て、余力で二体目を牽制する戦い方をしてきたから対応が可能だった。だが十六層からは一体増えることになり、確実に詠唱を中断させられるとは限らないというわけだ。しかもそれが麻痺となると危険度が大きく増してしまう」

 

 装備を担当するルミはその危険を早くから聞いていた。

 

フリーになる数が増えれば麻痺する可能性が高まるのが致命的なのだ。もし昭信が麻痺すればそれだけで全滅しかねないし、シモーヌとルミの二人であっても余裕がなくなるので薬を飲ませる事が出来なくなる。これまではまずフリーになる敵が無かったし、いたと仮定しても一体だけならば即座に昭信が倒しに戻れるし、残った一人もそれまで耐えることが出来ただろう。

 

「分かり易く示すためにコインで説明しよう。銀貨が俺たちで、銅貨が敵になる。この場合の問題とは敵全てが思わぬ行動をとって、仲間の誰かがミスをする可能性が高まるのが問題だからだ」

 

 ここで昭信は巾着を開いてテーブルの上に銀貨と銅貨を拡げた。

 

シモーヌとルミの手前に銀貨を三枚置き、これが自分達であると説明。そしてその前に銅貨を四枚置き、十五層までの敵の数だと例えたのである。三対四で不利に見えるが実際には昭信が一体を瞬殺するし(倒せないと判っている場合は改善する)、詠唱中断で魔法陣を止めればまず事故が起きないのである。

 

「敵全てが離れた位置から麻痺を試みたり、敵全てが同じ者を攻撃した時にどうなるかを考えてほしい。シモーヌ、お前の修行期間ではどうだった?」

 

「そこまでの事は滅多に見ませんが似たようなことは稀にありました」

 

 ここでシモーヌに話を振ると、己の経験則を語り始める。

 

昭信は銅貨五枚をそれぞれ離れた位置に移動させたり、銀貨一枚の前に五枚を積み上げたりしてみせる。この階層ではまだこのような状況はあまりないが、確かに存在したとシモーヌは肯定したのだ。数体が同時に魔法陣を展開し、魔法であったり麻痺などの特殊効果を齎す攻撃をしてくる事はあった。あるいは特定の前衛役に突っ込んでくることはあったと、かいつまんで補足していた。

 

「逆に言えばゼロではない危険性だという事だな。備えておかなければどこかでそういった状況に陥り、死んでしまう可能性が出てくるという訳だ」

 

「そうなりますね。人数が増え、麻痺耐性があれば問題なくなるとは思います」

 

 シモーヌは昭信の話を聞いて要求されていると思わしき回答を答えた。

 

麻痺の装備が欲しいと昭信自身が言っているし、同様に四人目を加えたいという話も前に出た。その事を理解していると伝え尋ねられた言葉の回答とした。

 

「そうだ。最低でも二人の装備に麻痺耐性が付けば最悪の事態を避けられるし、人数が増えれば麻痺を全て止める事が出来たり、瞬時に倒せる敵の数が増えるからな。どうだ、ルミ?」

 

「この説明ならば戦いに詳しくない私にも分かります」

 

 今度はルミへ話を振ることで昭信は理解しているかを確認してみた。

 

するとルミは巾着から四枚目の銀貨を取り出し、並べた五枚の銅貨とのバランスを取ったり、積み重ねた銅貨とのバランスを取ってみる。敵が魔法やスキル攻撃を使うならば目の前の敵に専念し、一人を狙うならばみんなで早めに敵を倒すなり襲われている仲間を援護すれば良いのだ。昭信ならばビーストアタックを使う前提で一体を間違いなく倒せるし、シモーヌならば直ぐに倒されたりはしないだろう。そして、少し耐えれば良いと判っていればパニックに陥る事も減ると思われた。

 

「改めて確認しますが、灌木とコボルトの結晶の数が揃うのを待つ。その間に四人目を探して鍛えるというのが十五層で時間を掛ける理由なのですね?」

 

「ああ。それが最初に述べた話の半分、時間を掛ける部分の答えになる」

 

 ルミが確認を取ると昭信は頷いた。

 

最低でも二人分の装備に麻痺耐性を付けたいし、四人目の装備を整えて万全の態勢でもっと深い層に挑みたかった。昭信が倒れると戦力がガタ落ちするのは、武人ビルドというか突撃を併用する昭信の短所ではあるだろう。雑魚を一撃で倒し、ボスともタイマン出来る可能性がある代わりに、昭信が倒れると危険な事になるのだ。武人ビルドでも仲間と共に戦線を支えるタイプだったり、範囲攻撃のあるメイジビルドの方が遥かに安定性が高いと言えた(有利属性を考えたら火力も高いと言える)

 

 

「第二迷宮に関して説明する。以前にエレーヌのところで聞いた盗賊の話があっただろう? もし彼らが逃げ回って発見されなくなった場合、隠れるとしたら探索の進んでいない第二迷宮の可能性が高いと思う。そこで今のうちに少しずつ踏破しておきたいんだ。この話に質問はあるか?」

 

「御館様。盗賊が潜み易いとされる十二層前後を目指すということですか?」

 

「シモーヌの言う通りだ。その辺りが暫定の目的地になる」

 

 質問を許可すると騎士であるシモーヌが確認した。

 

彼女は立場的にもエレーヌと相談し合っているし、これまでも盗賊に関する情報を集めていたりしただろう。騎士になる過程でもっと深い階層で戦っている筈なので、前領主やシモーヌの父親が生きていたころに盗賊が十二層前後を狩場にしている可能性が高い事も聞いていたのだろう。

 

「ルミは装備の充実度の面で考えたら想像し易いと思う。迷宮は十一層ごとに敵が強くなるから、十二層の強さを考慮して装備全体を改める傾向が多い。だから盗賊はその『強くなった初心者』を目当てにしているわけだ」

 

「なるほど。私もマスターから装備の相談を受けたので理解できます」

 

 十二層からモンスターが一段階強くなることは知られている。

 

だから挑む者も装備を充実させるし、皮装備から鉄・硬革の装備に切り替えていく事になる。これらを行うという事は初心者であることが多く、最初からもっと良い装備を付けて、躊躇なくもっと深い層に挑む騎士団や冒険者たちと違って倒し易いのもあった。

 

「探索者のレベルが分かり易い目安なのでこれを基準にするが、安全を考えて15レベルくらいの六人が鉄や硬皮の装備に身を包んでいると考えてみてくれ。これを探索者でいえば20レベルに相当する経験を積んだ盗賊たちが鋼鉄や竜革の装備を付けるなり、10人くらいで挟み撃ちをしたら簡単に倒せてしまう。頭目や幹部が強いならもっと楽に稼げると思っているわけだな」

 

「私も盗賊ごときには負ける気はありませんし、御屋形様も居られます。ドワーフも連れていたら確実に勝てるでしょう」

 

「そういう事だ。被害が出てからでは遅いので今から対策するわけだな」

 

 シモーヌは戦士30レベルから派生する騎士でありレベルも上がった。

 

たとえ40レベルを超えている盗賊が居ようと早々に負けはしないだろうし、属性剣である旋風剣を発動する余裕があれば圧倒も出来るだろう。その上で昭信の攻撃力は十四層でも雑魚ならビーストアタックの一撃で倒せる強さである。詠唱共鳴の問題に気を付ければ、あっという間に数人を倒し、頭目だって切り捨ててくれるという確信をシモーヌは抱いていたのだ。そこには伝説のジョブである、英雄のジョブに昭信が就いているのを知っていることもあった。

 

「良いのではないでしょうか? 第一迷宮とモンスターの構成も違いがあります。我々の戦い方と第一迷宮の十六層に相性が悪いならば、第二迷宮の十六層に挑んで相手の能力を確かめながら戦う事も出来ます」

 

「ルミの言う通りです。どのみち第二迷宮も倒さねばなりません」

 

「よし。では休憩として、午後か明日にでも装備の更新の話するか」

 

 ルミとシモーヌが賛成し、意見も整ったが昭信は自制した。

 

今までならばここでスキルを付与し、さっそく試しにいこうと言っていたはずだ。だが、ここで休憩を挟み、必要ならば日を改めて装備の話を行う事にしたのである。




 今回は戦い方の説明回とその補足回になります。

主人公は突撃して一体を即座に切り倒し、そのまま二体目を切り倒す!
という良さはあるのですが、追い込まれると危険という問題を認識。
また色々と勝手に考え、自分一人の結論でかき回すのを改善と言う感じですね。装備変更と四人目の仲間に関する話は明日UPするかと思われます。
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