異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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白金貨の契約

「十五層のボス部屋を一人で戦えるか試したい。雑魚にハットバットが出た場合を除いて待機していてくれ。暫く一人でやってみる」

 

「「はい」」

 

 麻痺の話をしたとき、昭信が突っ込む戦い方の短所を述べた事がある。

 

武人ビルドそのものは雑魚を瞬殺できるので強力なのだが、一人で突っ込む以上、麻痺を喰らう可能性がゼロではないために事故る確率があるからだ。だが、短所があれば長所もある。たとえばソロを含めた少人数で戦えることであった。

 

「御供はケトルマーメイドか、毎回こうだと助かるんだがな。やはり一人だと無駄な判断を背負うことになるか。醜の獣のもののふの、八十の力を解き放つ。奪命! ビーストアタック!」

 

「通常は……六人で挑みます。御屋形さまが強過ぎるのですよ」

 

 十五層のボス部屋では人形が二体、頭部の形状違いで出現した。

 

ヤカンのような頭のケトルマーメイトと言い雑魚、そして尖った頭のボトルマーメイドというボスの組み合わせ。雑魚の方は下の階層の連中が出てくる可能性もあるので、十四層のハットバットや十三層のマーブリームの可能性もあった。そしてシモーヌが説明をしている間に、昭信はケトルマーメイドを一撃で切り捨てた。こうなればボスの魔法をキャンセルすることを心がけながら攻撃するだけ。雑魚を気にしないでよいほどの火力には武人ビルドの攻撃力にはロマンが詰まっていた。

 

「忠告は受け取った。最低でも二人、もっと深い階層なら三人以上で挑むことにするさ」

 

 昭信は話しながらも相手の周囲を移動していた。

 

爪で殴り掛かろうとする前にその範囲から脱出し、そもそも当たる位置にはいないようにしている。もちろん魔法陣を描き始めたら踏み込んで一撃浴びせて詠唱を中断させていた。こんな戦い方をすることで昭信はソロでも戦えるし、特訓として詠唱中断させられるシモーヌかルミを伴うことで万が一の保険に変えていた。

 

「マスター御一人ではないのは賛成ですし、特訓も構わないと思います。ですがシュナイドラー様からのお手紙もありましたし、適当なところで切り上げていただけると助かります」

 

「そうしよう。待機部屋の周囲に人を見るか、昼飯の時間までとする」

 

 ルミの意見を昭信は肯定し特訓を適当なところで切り上げることにした。

 

十五層で戦い始めてルミのレベルが上がり始め、ボスと何度も戦えば昭信のレベルも上がる可能性があった。だが半日程度の戦いでは獣戦士や英雄のみならず、割と上げ易い筈の剣士もピクリともしていない。やはり四百倍の経験値効率でも限度はあるのだろう、さっさと麻痺対策や四人目の加入を経て、もっと深い層で戦うつもりであった。

 

「こんなものか。俺は木工職人の所へ寄ってからペルマスクへ行くが、ルミはシュナイドラーの所へ追加の購入と注文に。シモーヌはドワーフたちと第二迷宮を頼む。攻略よりも将来を考えて人を見るくらいでかまわん」

 

「承知しました。継続する予定の結晶次第で、次の予定を繰り上げます」

 

「こちらも問題ありません。焦らずに戦いましょう」

 

 昭信はルミとシモーヌに予定を告げて十六層への顔出しだけをやることにした。

 

ボトルマーメイドも何度か牽制の攻撃で魔法陣をキャンセルしながら戦えば余裕を持って倒せるし、ビーストアタックを連発すれば短時間で倒せる。この階層でも以前と同じ戦いが出来ることを理解して今は満足することにした。どのみち麻痺耐性の付与が出来れば、四人目をペルマスクで雇うか、ドワーフのゲオルグを加入させて戦うのだ。ここで焦る必要は無いと一歩一歩進むことにしたのである。

 

(本当はもう数戦やりたかったんだがな。だがボスですら相変わらずの考え方だし、ここは欲張るよりも目の前を片付けることにしよう)

 

 モンスターは人間のような考えをしないので嵌め易い。

 

走り回って誘導してやればその方向に視線が向くし、魔法や特殊能力での攻撃を優先する奴なら魔法陣を出してシモーヌやルミを狙ったりもする。だが、そこまでであり基本的に様子見などはしない(する奴はすると思われるが見たことはない)。即座に攻撃、移動して攻撃、魔法陣を描いて誰かに放つ。この三つに分類できてしまうのだ。逆にいえば対人用のフェイントの類が一切通用しないし、人間なら態勢を立て直して攻撃なんかしないので原作でセリーが巻き込まれた事故も起き得た。パターンを分類出来るからこそ、もう少し戦いたかったのだが……それこそが焦りだと思って考えを切り替える事にしたのである。

 

「お互いに言いたい事もあるでしょうし、関心と感心に差はあるものです。そこで何度かに分けてサンプルを提供しましょう。今日持ってきたのはこちらに有りそうな物の改良版と、無さそうな物になりますかな」

 

「ほう……拝見しましょう」

 

 昭信は工房主に対してガラス関係の知識を分けて納入することにした。

 

一度に説明しても昭信が上手く伝わるとも限らない。概念だの知識の基本形というのはそういう物だし、研究内容が近い職人が『それはうちにもある』と口にすれば価値が低くなることもありえた。逆に『これだけ聞ければもう十分。始末するか次からは叩き出そう』と思われても困るので、何度かに分けて情報と木工職人に頼んだ現物を渡す事にしたのだ。

 

「ランプに付ける飾りはこちらでもあると思いますが、これは星球儀です。特徴的な星の位置に穴を空けて、ガラスを通して天井に星が映るようになっていましてね。ゆっくりと回転させる事で季節の変わり目を表せるが、色ガラスを使い分ければ背景の色も変えられる。もちろん、映し出すのは星に限らないということになります」

 

「おおっ。夏の夜空に秋の夜空ですか。いや、色を変えれば朝と夜も……ううむ」

 

 昭信が最初に用意したのはプラネタリウム的な使い道だ。

 

夜中にランプで明かりをともすのは富のある貴族や商人くらいだが、だからこそ部屋に夜景を映し出すことに愉しみを持てるわけだ。しかも昭信は回転させることで、複数の光景を用意できることを示した。星を写すことに限らないならば、別に動物や建物などでも良いだろう。実に貴族が好みそうな道具であろう。

 

「何となくイメージできる光景を写し、雇った芸人に曲を奏でさせて愉しむ物を用意しました。で、あるならば次は明確にイメージできる物を用意しましょう。この枠に目を当てて、箱の中を覗いてみてくれませんか?」

 

「今度はこちらに無い物ですか……どれ……おお、これはまさしく帝都」

 

 次に昭信が用意したのは『覗き窓』という知識だった。

 

コピー用紙に描いた帝都の光景が、丁度良く見える高さにガラスの嵌った枠がある。あくまで透明度の高いガラスであり、レンズではないから拡大しているわけではない。だが、見るべき場所が固定されているということは、注目を一つに集められるという事。そしてここから変更できるものが色々とある。

 

「色ガラスとランプで横穴から色を付けるのは先ほどと同じですね。そして木工と布だったランプの光景とは別に、これは描いた物だから景色はもっと変え易い」

 

「これはペルマスクですな、分かり易い。次はクーラタルかな? 実に面白い」

 

 所詮はコピー用紙に描いた絵に過ぎないが、正式な絵ならば額も跳ねる。

 

いずれは程よくデフォルメされ、描き易くなった構図で町であったり獣なり建物の絵が用意されるだろう。そうなればワンセットいくらで『部屋に居ながらあちこちの町を知る事が出来る』という使い道が出来る訳だ。絵やら色彩に使う色ガラスの調整をどうするかにもよるが、幅広く先々で売れそうな知識には違いなかった。

 

「今はただのガラスですし、鏡はランプの光を横入りさせる程度にしか使ってない。ですが、レンズ……歪んだガラスがこちらにもあるならば、姿を少し大きめにして眺めることも出来ます。レンズがあれば粗末な物があれば二枚か三枚、小さな鏡は割れた物で良いから数枚あればもっと面白い工夫して持ってきましょう」

 

「いや、参った。まさかレンズまでご存じとは思いませんでした……ふむ」

 

 昭信のプレゼンが終わると工房主は色々と考え始めた。

 

最初の星球儀はこういう使い道をしなかっただけで、周囲を鮮やかに照らす物はある。次に見た覗き窓は知らなかったが、見れば真似することも出来る。だが、そこに前回は口にしなかったレンズの話をしたことや、割れた鏡で何をするのか興味もあった。ただ、共通して言えるのは昭信の知識は工房主の知識とは系統が違っている事、そしてまだまだ続きがありそうな事が窺えるためだ。

 

「そういえば親族に良い娘がおるのですが妾にいかがですかな?」

 

「貴族に婿入りすることになりそうなんですよ。結婚前に浮気を疑われるような事は勘弁してください。ただ、そうですね。スキル付きの武器を預けても持ち逃げしない程度に信用のおける者が居れば、紹介していただければ雇うなり奴隷商館で奴隷を購入する気はありますよ」

 

 工房主は代価の交渉をする前に女の話をした。

 

もちろん見合いをする為ではなく、『親族の娘』という触れ込みの柵を用意する為だ。要するに昭信を囲って他に渡さない為の工作の一つであるが、同時に工房主以外へ知識を齎してもらっては困るという提示でもある。昭信はその事を理解して、妾の件はやんわりと断りつつも、伝手を断らない事でその期待に応えると告げたのである。

 

「では決まりですな。ワシはエックハルト・シュピーゲルと申します。他にも数人に声を掛けとりますが、ワシが代表ということでよろしいな?」

 

「それで構いませんよ。アキノブ・タケダと申します」

 

 二人は合意の証に既に知っている情報を交換し合った。

 

アキノブの名前は紹介状に書いていたし、工房主の名前も案内される間に教えてもらっている。だが、正式に紹介し合うというのは、これから契約書を作って正式に話をしようというサインでもあった。物次第で『代価』として白金貨相当の料金を払うような文言の契約書はあったが、細かい内容でも無いし、実際にいくらほど用意するともツケで買う場合に幾らまでOKとも書いてはいない。またどれほどの知識を用意するとも書いてないので、あくまで『最初にこの工房に知識を持って来る』という程度の内容でしかなかった。それがこれからは、幾ら相当の買い物を許容するという様な、具体的な内容に移る訳である。

 

「次は代書人を連れますね。今日の所は傭兵なり奴隷を見ておきたいと思います」

 

「それで問題ありませんとも。紹介状を書かせていただきますが、もし気に入った娘がいて即座に購入される場合は、費用をこちらで持ちますとも」

 

 こうして昭信は順調に知識を継続的に売り払う契約を結んだ。

 

麻痺対策用のスキル結晶も届いたと思われる。傭兵なり奴隷の中でこれといった者がいれば、迷宮探索は大幅に進むであろう。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士41レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

獣戦士41/英雄39/剣士42/探索33

 

薬草採取士27/神官27/ソードマスター25/料理人25

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一、ワープ、詠唱省略。69

 

獲得経験値二十倍・4thジョブ。70。あまりは結晶促進。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師30

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士16

 

・特筆すべき取引内容

新技術の継続的譲渡契約(白金貨一枚分)




 誤字報告ありがとうございます。非常に助かっております。
という訳で資金問題解決の話を確定し、次回で四人目を仲間にします。
あまりこの辺で長々とやって居ても仕方ないので。

●武人ビルドの長所
 短所があれば長所もあるもので、やろうと思えばソロで行ける事。
安全策込みで二人ないし三人と、原作メンバーより少数でボス戦を繰り返す予定。このことで少しだけ、早めに成長します(原作よりも期間は長くなってますが、その穴埋めですね)。

やはりリポップするモンスターは経験を累積せず、ほぼ同じ行動なのが大きいと思います。攻撃力を維持して、相手より早く移動できるように強化して居れば、まず負けることは無いかと。

●白金貨の契約
 どれだけ情報渡せば良いのか微妙なのと、「じゃあお前は用済みだ」を避けるために少しずつ渡していきます。もし今回の技術みて「ナンカショボくない?」と思われた場合は、また訪れる時には幻灯機とか、プロジェクター技術を渡すのでしょう。望遠鏡ならぬ遠眼鏡とか万華鏡を渡す時は、追加の資金契約が欲しい所ですが。

なお白金貨というのは一番大きな単位なのと、エルガイムで出て来た100万ギーンの小切手ネタが好きだからです。というか100マンと言う単位良いですよね。
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