異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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四人目のメンバー

「エックハルトの旦那に頼まれちゃあ仕方ないが、どんな娘が好みなんだい? うちはこの町を守るための口入屋であり、奴隷を調達するところだからね。良い娘が揃ってるよ」

 

「男でも構わんが……女性陣に手を出されても困るし、女の方が無難か」

 

「そういう事にしときな。若いの」

 

 昭信は工房主の紹介状と代金に関する覚書を持って奴隷商館に訪れた。

 

そこには普通の商館と違いグレードの高い奴隷が居るという話であった。店の主が言うには村人並の生活が出来る扱いなのは既に前提であり、愛妾であった護衛候補の奴隷を賄う場所でもあるとの事だ。店の主導で計画的に迷宮でレベルが高めているのかもしれない。

 

「ジョブは戦士で、スキル武器を貸し出して戦うから最低でも『今の生活を守るために裏切らない』賢明さがあるのが前提だな。その上で口にするなと言った秘密を守れる奴がいい。たとえばスキル武器を貸し出すと言ったが、他の貴族に引き抜かれたいわけじゃないからな」

 

「信用しとくれと言いたいが、町の外か。外でも信用できる奴は限られるな」

 

 ペルマスクは島を厳重に隔離している。だからこそ奴隷たちも覚悟している。

 

犯罪奴隷になっても匿ってくれる人間はまず居ないし、居たとしてもその人物を知っているとも限らない。また大商人や工房主にとっても信用は重要だから匿ったりすることはない。閉鎖環境というものはそういうものだが、信用のおける人物もピンキリになるので条件が難しくなるのも当然だった。

 

「その条件だとうちの娘だと三人だな。ちょいと待っておくれ」

 

「ほう……流石だな」

 

 人材に対する注文というのは項目を付けると途端に難しくなる。

 

戦士で信用のおける奴は居るだろう。女でそういう奴も居るだろうし美人なのかもしれない。だが高レベルになっていく過程で傷もつくだろうし、売れ残る可能性は減る物だ。それらの条件をすべて合わせた人物がいきなり居るどころか、三人も居るのは意外でもあった。

 

 

『マーガレット。猫人族。♀。33歳。戦士35レベル』

 

『グレース。人族。♀。22歳。戦士26レベル』

 

『ヒルダ。人族。♀。20歳。戦士23レベル』

 

 そしてやって来たのはそれぞれにイメージの違う三人の女であった。

 

マーガレットは赤毛の髪を適当に切ったライオンヘアーとでも呼ぶような髪型で、ニヤリとした笑みと豊満な体つきが自信を感じさせる。グレースはメイド服に近い地味な服装がまず目立ち、上がロングの黒髪で下がロングスカートとこれまたメイドを思わせる控えめな仕草であった。最後のヒルダは快活な笑みを浮かべたショートカットの栗毛の少女で、引き締まった体つきとボーイッシュな服装がかなり似合っている。

 

「なるほど。それぞれに強そうだ。個別に話を聞いても良いかな?」

 

「そこは趣が違うと言ってほしいもんだけどね。まっ、構わないよ。まずはって、マギーからだね。ったくいつもこれだ」

 

 店の主人が順番を差配する前にマーガレットがさっさと別室に歩き出している。

 

これを小気味がよいと称するか、それとも身勝手だというかは人に依るかもしれない。どうせ順番的には自分だからという思いがあるのか、猫人族らしい自由な気質と言えなくもないが、奴隷としては減点であろうと昭信ですら思った。

 

「アタシはマーガレット。みんなマギー姐さんって呼ぶよ」

 

「では俺もマギーと呼ぼう。マギー、アピールする事があれば教えてくれ。ああ、話は長くなると思うから座って構わないぞ」

 

 別室に入るとマーガレットは昭信に椅子を勧めるが自分は立ったままだ。

 

その辺りはちゃんとしているというか、先ほどの態度がワザとではないかと思うくらいである。あるいは店の主人と仲が良く、一番奴隷に準じた扱いで好待遇だから買われる気がないのかもしれないが。

 

「話が早くて良いね。あの中ではアタシが一番強くて、そして一番お買い得だ。何しろ年季明けというか、借金期間があと少しでね。その辺を突けば身請け料はかなり安く済むと思うけどね」

 

「年季奉公というか、もしかして元傭兵なのか?」

 

「その通りさね。ちょいとしくじって哀れ奴隷生活さ」

 

 魅力的なポイントと問題点を同時に説明するのは高評価である。

 

昭信としては気風の良い態度は嫌いではないが身内に軋轢が生まれそうに思えた。お堅いシモーヌとも真面目なルミとも合いそうに無い。ここで重要なのが『一定額の借金を返すまでの奴隷契約』であるという事だ。良い部分も悪い部分もそこに集約している。

 

「アタシはどうだい? お買い得ではあるけどね」

 

「悪くはない。だが『姐さんの正解』が分からないのが残念だな」

 

「あっはっは! そいつを分かってくれると嬉しいねぇ。機会があればまた逢おうや」

 

 何年か後に自由の身という事は、その後にこの女を縛らねば意味が無い。

 

せっかく身に着けた技術も戦術も自由の身になったら出て行ってしまうとなれば問題だ。『マーガレットが関心を持つナニカ』が判ればそれを用意することで残らせることも出来るかもしれないが、猫人族だから魚料理があれば満足するという訳でもあるまい。性格的にも旅から旅の身の上を愉しむとか、パーティーを率いて好きな場所で戦う方が好ましいだろう。一時的な協力者としてならともかく、メンバー入りはあり得まい。

 

 

「失礼……します。グレースです」

 

「座ってくれて構わないぞ。アピールする事があれば教えてくれ。ああ……別に試している訳じゃない、俺が気になって話し難いから座ってくれ」

 

 次に来たグレースは少しテンポが遅かった。

 

少し暗めで喋り方が籠っているというか、本当に良いのかを探っているようだ。椅子に座るのも遠慮しており、昭信が再度促してようやく座ったほどである。

 

「戦えます。料理が出来ます。掃除も出来ます。出戻りで御不快かもしれませんが、その、夜のお相手も問題ありません」

 

「別に不快ではないし夜の相手にも困ってはいないから大丈夫だ。さて……」

 

 別に処女性は問題無いので昭信はそれ以外を見る事にした。

 

アピールしろとは言ったが可能な事を順番に口にしているだけだ。もちろん戦闘奴隷なら出来る方が望ましいし、護衛メイドだと考える事も出来るから悪い情報ではない。出戻りという話もこれだけレベルが高いなら当然だろうし、病気さえ持って居なければよい。というか、そういう事をマーガレットの時にはまるで気にならなかったのでポイントがあるとすれば別の部分だろう。

 

「言い方が悪かったな。こういう処が自分の良い所だとか、何か得意な事があるとか無いのか? 日常生活なら菓子を作れたり、戦闘なら敵を見つけるのが上手いとか特徴をよく覚えているとか」

 

「……お菓子は作れます。戦闘では敵と戦います。得意な事は、分かりません」

 

 寡黙というより積極的に話さないタイプだろうか?

 

良い面もあるのかもしれないが自分では思いつかないし、逆に陰気な部分には自覚があるのだろう。そして昭信が告げた事だけ返している事を考えれば、積極性が見えないというか指示待ち人間的なところなのだろう。あくまで推測に過ぎないが、屋敷では言われた事しかしないし戦いでも積極性が見えないとあまり評価されなかった可能性がある。

 

「そうかもうい……いや、待てよ。確認するが、敵を怖いと思った事はあるか?」

 

「いえ? 特には」

 

「そうか。分かった」

 

 おそらくドンくさいとか判断が遅いとかで戻されたのではないだろうか?

 

パーティーは六人が上限だし、それを外れたら騎士団のメンバーになるか屋敷の傍仕えになるだろう。屋敷でも戦闘でもそういう面が目立ち、役に立たないわけではないが傍に侍らせておくほどではないと思われた可能性がある。半端に美人な分だけ奥さんの嫉妬を買う可能性もあるし、主人が人間の貴族だった場合は、子供を産んだ時に面倒な話になる事も窺えた。

 

(マギーは論外としてグレースは保留だな。指示を徹底する戦い方なら問題はなさそうだが、一番のアピールポイントが秘密を喋らなさそうというのが何とも皮肉な事だ)

 

 昭信は部活やスカウト活動をしていたので後輩は何人も居た。

 

目立つのはどうしても積極性があって練習に明け暮れる奴だが、言った事を地道に守るタイプもまた沢山いたわけだ。ではそういう人間が役に立たないかと言うとそうではなく、得意な分野もあるので指示を出しておけば問題無かったりする。昭信が今回気にしたのは、戦闘でひたすらに敵の動きを止められるかということだ。

 

「ヒルダです。入室してよろしいでしょうか?」

 

「構わない。まずは座って、アピールすべき自分の良い面があったら教えてくれ」

 

「はい。失礼します!」

 

 今度のヒルダは先ほどとちょうど逆だった。

 

昭信の学校にも居たが、体育会系の少女をイメージさせたらこんな感じだろう。短い髪は動くのに邪魔だからで、ボーイッシュな格好も同様だが、その方が似合うよと言われてそのまま来ている感じだろうか。そして上意下達の教育がしっかりしているのが見て取られ、先ほどのグレースとは逆の意味で此処にいるのが不思議な娘である。

 

「ボク……私はとある貴族にお仕えする騎士の家に育ちました。色々あってこの商館に参りましたが、それなりの修行と知識を身に着けております」

 

「立ち居振る舞いでそこは理解できる」

 

「光栄です」

 

 ヒルダという娘にも色々あったというのがナーシャ家をイメージさせる。

 

貴族が迷宮に敗北して身を持ち崩したのか、それとも勝てそうにないから戦力を立て直すために売られて装備用の代金になったのか。あまりなさそうだが騎士の家を継ぐときに跡継ぎの邪魔に思われて売られたのかもしれない。まあ想像でしかないし、勝手に結論付けるのは失礼だろう。

 

(本当にさっきのグレースと対照的だな。優先事項さえ伝えれば勝手に敵に対処してくれそうではある。だが、役割がシモーヌと被るな。性格的にはマーガレットと逆で、境遇もあるからシモーヌもルミも同情しそうではあるんだが……それだけでしかない)

 

 性質的には良い人材ではあるのだろう。

 

ちゃんと鍛えて言うべき事を言っておけば、問題なく行動してくれるだろう。それこそ将来ならば、騎士として今の下位メンバーを率いて活躍してくれそうな気がする。だが、マイナス点としては役割が被りまくりなのだ。レベルもドワーフの戦士より高い程度であり、本格的に鍛えたらすぐに追いつけてしまうだろう。そうなると手元に居るドワーフを選ばず彼女を選ぶ必要がないのである。

 

「確認するが元主家がお前の事を知って援助を求めてきたらどうする? 騎士の身分ではあるが戦士のままずっと育てていたり、賞金稼ぎのジョブに付けると言ったらどう思う?」

 

「既に滅んでいますから問題ありません。騎士に関して、夢は夢と心得ております」

 

 昭信は聞いておかねばならないことをズバリ尋ねる事にした。

 

最初の質問である主家に関してはスムーズに答えたので問題は無いだろう。生き残っていたとしても不遇ならば呼び寄せても良いといえば納得しそうではある。だが後者の質問に関しては微妙だった。サッパリ忘れているならともかく、その夢を捨てられていないならばいずれ問題になる可能性はあった。少なくともシモーヌに対して憧れや嫉妬に似た感情を覚える可能性はあった。

 

「そうか。マーガレットが言っていたが機会があれば逢う事もあるだろう」

 

「はい。その時があればよろしくお願いします」

 

 悪くない人材ではあるが今の話ではない。そして奴隷購入というのは水物だろう。

 

ナーシャ領が立て直され騎士団を完全に再建する時には欲しい人材ではある。だが、その時まで売れ残っているとは限らないし、また手元のドワーフたちとの交流を深めて育て上げていくなら彼らとの差別化を行う理由も必要なのだ。惜しいとは思いつつも、昭信はヒルダやマーガレットとの縁を諦めることにした。

 

「グレースを連れていこうと考えているが値段次第だな」

 

「そうさねえ。出戻りだから処女でもないがそれを感じさせない強さはある。奴隷としての教育は閨を含めて全部教えられているってことだし、80万ナールでどうだい?」

 

 昭信と店主は真顔で値段交渉を始めた。

 

最初は値切りを想定した価格であり、少しどころかボッタクリを感じさせる。原作で言うとベスタ以上の価格であり、そのオークションの目玉である『魔法使いは白金貨が必要かもしれない』という話よりある程度安い値段に過ぎなかった。

 

「悪いが貴族に婿入りする話が出ていてね。女は間に合ってて嫉妬を避けたいくらいだ。それに彼女に貴族で言う特訓を施すから、ヒルダや他の子でも同じくらいまでなら直ぐに育てられる。魔法使いでも竜騎士でもないんだ。魔法使いなら腕利きで白金貨、なり立てなら80万。竜騎士も腕利きで80万ってところだろう。なら人間の戦士だし40万で十分だな」

 

「馬鹿言っちゃいけないよ。メイドだろうと顔は重要だし、特訓の時間が無駄になるだろ。そこを差し引いても70万ってとこだね。言い値の半分なんざ論外だ」

 

 昭信の理屈は弱く誰でも良いならヒルダでも良いはずだ。

 

育てる時間が惜しいからグレースを買ったんだろうと言いつつ、屋敷において管理させる留守番であったとしても外見は重要だと店の主は切り返した。もちろん昭信には次の話があるし、店の主人も同様に値引きに関するステップを刻んだだけである。

 

「先ほど出戻りと言ったが、10万から15万で下取りした女だとしたら50万前後で売るのが相場だろう? 誰もが振り向く容姿で将来性のある処女の初年度奴隷なら60万と言う所か。つまりエックハルト殿の紹介で断り難いのを承知でボッタクリをする気なのか? 45万、いや48万だ」

 

「そこは50万って言っときなケチくさい。65万と言いたいところだがエックハルトの旦那の話を持ち出されたら仕方がない。63万、これ以上はまからないよ」

 

 器量の良い奴隷の娘をオークションに出せば60万前後。

 

それを基準にしようと言う昭信の言葉に店の主も乗ってきた。あとはどうやって中間から上下させるかの勝負であり、昭信は少し刻んで主の方も刻んできた。ここまでは話の分かる者同士の既定路線に近い値切り交渉と言えなくも無いだろう。

 

(ルミが売られた場合は力強いドワーフというのも込みで、15万以上の買取価格で60万以上で売られそうという話だったな。ならこの辺りが妥協点ではある。なら、もう少し揺さぶりつつオマケを用意するところか)

 

 昭信は思案しながら懐から四つ折りにしたコピー用紙を取り出した。

 

そして先ほどのグレースやヒルダの姿を思い浮かべながら、店主の前で簡単な絵を描いていく。それはロングスカートの正統派メイド服と、ミニスカタイプの絵であった。ガラス製で色の違うカフスやタイピンなどのメモ書きもあり、割りと本格的に見えなくもなかった。

 

「グレースは典型的な『指示が無いと動けない人間』だろう? 再教育が必要だから58万として……今ならこの最上級のパピルスに描いた図案を付けよう。さっきの服を更に改良したモノになる。こういう感じで仕上げてくれるなら衣装代も払おう」

 

「分かった分かった。服を2万として60万で売ってやるよ」

 

 ここが妥協点というのもあって店の主は頷いた。

 

高級な服という訳でもないのに二万の扱いで、むしろこの数値に最初から誘導したかったと言ってもおかしくはない態度であった。

 

「ではこちらも納得するべきか。確認するが……このアイデアを他に話さないという独占料込みで幾らにする?」

 

「そうさねえ。他所に持ち込まないなら合わせて42万ナールってとこだね」

 

 昭信が用意したコピー用紙とアイデアは、三割引きと情報工作用である。

 

三割引きを付けるには複数の取引が必要だし、話を聞いたエックハルトが不審に思わないようにする必要があった。服装込みで60万ならおかしくはないし、エックハルト自身が鏡に関するアイデアで100万までなら払うと言っている。服装に関するアイデア料を20万くらいと考えればそれほどおかしいとは思わないだろう。二万ナールが少し半端に見えるが、普通は二万ナールといえば高額だし、値切り交渉で双方が刻んだのならば普通のことだろう。

 

●特筆すべき取引内容

 

・新技術の継続的譲渡契約(残り58万ナール分)

 

グレース。人族。♀。22歳。戦士26レベル




 と言う訳でサクっと四人目の奴隷を決定します。

●奴隷娘の傾向
 今回は余計な事を喋らない、スキル付き武器を持っても盗まない娘前提。
レアリティはなし美人ではあろうけど超美人ではなく、育てられた強さだけど天才は居ない感じ。あとは消去法と言うか、レベルと性格で決定した感じです。

●グレース
 黒髪ロングスカートのメイドさんというファンタジーにもエロゲーにも居そうな外見。その中身はヒロインというよりはサブヒロインで指示待ち人間。でも護衛メイドのジョブ暗殺者というと妙にシックリ来る気がします。とりあえず決め手は秘密を喋らない、指示しておけば問題ない、レベルがあるから少し育てれば問題なく転職できることですね。

次回からグレースをメンバーに入れて育てつつ、十六層以降お試しと暗殺者に転職までの予定。
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