異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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計画の充実

「旦那さま。改めまして、グレースと申します。末永くよろしくお願いいたします。御用がございましたら何なりとお申し付けください」

 

(やはり愚鈍というよりは行動のテンポが遅いだけか。ならやりようはある)

 

 昭信は新しい奴隷としてグレースを手に入れた。

 

色々あって出戻りだった彼女であるが、全く問題がないとは言わないがリカバリーの利く範囲の短所である。今の挨拶のように定まった行動なら迷う事は無いのだ。そうと認識していればこそ購入したわけだが、早速その方法を考えていた。

 

「グレース。お前の不幸は『これだけやっていれば良い』という主人に出逢わなかったことだ。たとえば町中でお前を連れ歩く場合、俺の左斜め後ろから少し空けてついてこい。そして条件に合わない事態が起きたら、即座に行動しなくて良い、むしろ一呼吸の時間を空けて何をすればよいか尋ねろ」

 

「承知しました、旦那さま」

 

 昭信が考えた処方箋は『いつもの行動』を決めてしまう事だった。

 

何をして良いのか迷うのであれば、いつもの行動だけ決めておけばよい。メイドとしての仕事なら山ほどあるし、本人の力量次第で適当(・・)に割り振れば良いだろう。その状態で暇になったり、すべきと定められたことが行えなくなったら、主人か一番奴隷(ルミ)に尋ねれば良いわけである。戦闘ならば目の前の敵を斬りつけ、終わったら昭信かシモーヌに尋ねれば良いのだ。

 

「指示に関してどうしても疑問に思うなら尋ねて構わんが、大抵の事は聞かなくても問題ないはずだ。例えば町中で左斜め後ろからついてこいというのは、俺にとってその位置が死角だからだな。そこを守ると同時に、何か用事があれば実行するのがお前の役目になる。疑問が生じれば、その都度こんな風に答えよう」

 

「承知いたしました。何の問題もございません」

 

 昭信は説明に際して腰に下げた鋼鉄の剣を叩いた。

 

両手剣であり即座に引き抜ける物でもないので、確かに左後方から誰かがやってきたら死角になるだろう。普通のメイドならばそこまで警戒するのか疑問に思うかもしれないが、ここはペルマスクであり貴族や商人も多く訪れるので納得がいく話ではあった。

 

「……旦那さま。一つお尋ねしたいのですが、この後はどちらへ?」

 

「この街を含めて、屋敷に戻る途中にある町で武器と防具を確認して歩く。近くに服屋があればお前の服を買うから、そこで作業用の服や下着の替えを含めて二枚ずつ購入しておけ。今は古着が主体になるがこれは間に合わせだ。お前が屋敷の仕事に慣れたら改めてオーダーする」

 

 グレースは昭信の言葉通り、何をするか判らないので尋ねた。

 

ここから屋敷に直行するのか、ペルマスクで誰かに逢うのか、それとも何かを購入するのか知らないからだ。その際に服を購入してこいと告げたのは装備を購入する事があっても、アイテムボックスへしまう姿を見せないためであるが。いずれオーダーすると言ってもペルマスクで購入した奴隷にとっては当然の事なのか、特に質問することはなかったという。

 

「承知いたしました。何かお持ちいたしましょうか?」

 

「加工用のガラス片や割れた鏡があるからそれを持ってもらおう。落としても致命的ではないが出来るだけ落とさないでくれ」

 

 当たり前だが工房主のエックハルトに持ってきた物の殆どは渡してしまった。

 

残るはコピー用紙やペンの類くらいなので持ってもらう物は少ない。サンプル品を作るためのガラス片や割れガラスも大きくはないのでグレースでも問題なく持てるだろう。

 

「今のうちに話しておくが迷宮での戦い方は、低層で仲間や武器との相性を見てから決定する。その際は剣や両手剣だけではなく槍でも戦ってもらうことになるな。変わった所では拳や毒針を投げたりもするが、試してみて一番合っている戦い方、あるいはパーティーに必要な戦い方にする予定だ。無理な戦い方をさせる気は無いから安心しておけ」

 

「承知いたしました。主の命を果たすのが奴隷の役目です」

 

 戦い方の相性を見ると称して、昭信はしれっと暗殺者の条件を混ぜておいた。

 

レベルが上がったところで暗殺者のギルドの位置が分かればその場所で、分からなければ秘かにジョブを変えてしまうつもりだった。眠りと麻痺は暗殺者でなくとも成功し易い状態異常だし、初期の暗殺者は成功率があまり上がってないので気が付き難いだろう。また機会があればペルマスク経由で行ける範囲の外国に連れていくのも良いだろう。ペルマスクからは幾つかの国へ行けるため、わざわざそれ以上は追及しないと思われた。

 

「マスター、お帰りなさいませ。その方が新しい仲間でしょうか?」

 

「ルミ、この子はグレースという名前で、もう少し鍛えたら賞金稼ぎや騎士にもなれるだろう。扱いは一番奴隷であるお前に任せるつもりだが、細かい事は後で話すとしよう」

 

 ペルマスクでは鋼鉄製の武具だけを購入して戻ってきた。

 

エックハルトに渡す技術分のツケで購入できるが、残念ながら都合よくダマスカス鋼製や竜革以上でスロットの多い装備が無かったからだ。基本的にスロット無しで、存在しても一つくらいでは食指が動かなかったのもある。8万ナールちょっとだったのでスキル無しの値引きをして8万ナールなら綺麗な数字になるというのも理由の一つであった。

 

「という訳だグレース。屋敷において普段から何をやっておくか、暇な時に何をやるかは一番奴隷であるルミに尋ねてくれ。戦闘においてはこの領地の騎士であるシモーヌと合流してから彼女に任せることになる」

 

「ルミさま、ご紹介に与りましたグレースです。よろしくお願いいたします」

 

「グレースさん、これからよろしくお願いしますね」

 

 簡単に挨拶を終え、行動に関する序列を定めておいた。

 

グレースは内陣の見習いであり、ドワーフ以上だがルミ以下である。よって屋敷の行動ではドワーフから指図されることも無いし、普段はルミが指示した内容をやっておけばよい。暇になったら一番奴隷に尋ねるのは正しい行動なので問題は無い。また戦闘での序列はシモーヌが上になるので、正面の敵を倒すなり眠らせるなりした後で何を優先するかはシモーヌに任せれば良いだろう。

 

「ルミ、オークションでの話も聞きたい。グレースの家事に関して一つだけ指示したら部屋に来てくれ」

 

「承知しましたマスター。良い話をお届け出来ると思います」

 

 ここで昭信は一つずつグレースに指示することを徹底した。

 

後に幾つか教わって全体的に覚えることになるのだろうが、一つに専念して問題なかったという事実があれば、『あの時のように明確な指示を一つずつだせ』と言えるからだ。その言い訳要素として、ルミに活かせたスキル結晶の話は都合が良かった。

 

 

「では早速、話を聞かせてもらおうか」

 

「はい、マスター。まず特別注文していた灌木二枚が手に入りました。割り高でしたがこれで計画を進める事が出来ます。次にコボルトが三枚、残りは200ナール底上げした最初の一枚ずつが入荷。適宜に追加の結晶を注文したのですが、最後に面白い話をシュナイドラー様からお聞きしました」

 

 今回の件では特注もだが、リスト化していた物が手に入ったことが大きい。

 

まず麻痺耐性の灌木に関しては、たびたび議論して優先する結論が出たため、オークションで高めで良いから落札してほしいと頼んでいた二枚が手に入った。それとは別に以前から頼んでいたリストに関しては、コボルト三個・トロール・スライムを購入。残りがスライムだけになったので、継続強化段階にあるコボルト三枚・灌木・羊の五個を発注したという。

 

「ほう。それは重畳。これでグレースの初期訓練が終わったら十六層以降も問題ないな。それでシュナイドラーの話というのは?」

 

「マスター。盾に攻撃用のスキルが付けられるのはご存じですか?」

 

「一応はな。だがシュナイドラーのことだ。面白いコツを教えてくれたのだろう」

 

「はい。その件に関して順次説明いたします」

 

 この段階で十六層に挑み、もっと深い層で経験を積むことが出来る。

 

その事に安堵した昭信はルミがシュナイドラーから聞いた話というのが気になった。どうせ今日の処はグレースに毒針や槍でトドメを刺させて条件を果たしておく程度だ。第二迷宮の階層を深めるついでだからそれほど頭を使う事は無い。

 

「三つの注意事項があり、防御優先の原則、武器使用時の注意、構造の影響。このそれぞれに問題点が含まれているそうです」

 

「シュナイドラー先生(・・)らしい分かり易い講義だったようだな」

 

 ルミは分かり易く板にペンで三つの項目を記していった。

 

その様子を昭信は大学で教授に授業を習ってきた学生のようだと思った。体育会系である彼は勉強が得意な者に後から授業内容を聞いたものである。最初に要点をまとめてくれると、この時点から考え易いのが良い。

 

「一つ目の『防御優先の原則』とは、蝶の結晶ならば風耐性となり旋風剣による属性攻撃が出来ない事です」

 

「羊を付けても睡眠耐性になるから、体当たりを防いでも眠らないという事だよな」

 

「その通りです」

 

 この項目は分かり易く、そう数が多い能力でもないので考えることも少ない。

 

盾に攻撃用で付けられたらと思う能力もあるのだが、たいていは防具に付ける方が有用だし、スキルスロットが分からない者には耐性を付ける場所は幾つあっても良いものなので問題にはならないのだ。

 

「二つ目の武器使用時の注意とは、盾を武器代わりに攻撃や詠唱した時に発揮する事です。攻撃力二倍の激情武器などが分かり易い例ですが、ひもろぎによる知力二倍効果は盾を杖代わりにした時のみですのでご注意ください。具体的に言うとシモーヌさんに持たせても、旋風剣の威力は上がりません」

 

「惜しいが仕方がない。聖銀製なら多少は上がるんだろうが、杖には及ばんからな」

 

 原作主人公は早々に、ひもろぎを盾に付けることをあきらめていた。

 

デュランダルが両手剣なのもあるだろうし、セリーが隻眼ではないため攻撃力五倍の片手剣を用意できないのもあるだろう。しかし、それでも盾に付けられるなら考慮した可能性は高い。その時点で考察を止めるあたり、盾を掲げて詠唱する必要があるのだろう。ひもろぎのロッドないし、ひもろぎのイヤリングに頼る方が強いのだから素直にそうしたのだと思われる。

 

「三つ目の構造の影響とは、攻撃時に盾の重さや形状によって取り回しの影響が出るという意味です。威力も素材によりますし、振り回すにしても盾の形状やその重さがネックとなります。おおむね体当たり時に用いるか、牽制用として逆手で殴る時に使用する事になるでしょう」

 

「よくまとまっている講義だとは思う。ルミが聞き思ったコツを教えてくれ」

 

「はい。丁度同じ内容ですし、我々のパーティー向きの使い方になります」

 

 この項目は二つ目の派生というか、盾を武器として使う上での問題だ。

 

たとえ素材が同じであっても剣の方がスイングスピードが速いのは仕方がない。仮に重くて耐久性が高かったとしても、長さもあるし刃になった部分の鋭さという部分で武器として考えたら劣ってしまうのだ。あくまで特殊な使用時に使う予備武器であり、僧侶や神官が身を守りながら呪文を詠唱するくらいの物だと思われていた。そういう意味でロボットアニメを知っている昭信がシールドバッシュに好印象を抱くかもしれない程度である。そんな状態で面白い話だと銘打つ以上は、意外な使い道があったのだろう。

 

「結論を先に述べますと、強権盾の詠唱中断を()どう(・・)使うのかがポイントです」

 

「シモーヌの予備で六人目に仮装備……いや、グレースに持たせるのか!」

 

「マスターのおっしゃる通りです。グレースさんは暗殺者になり、まずは鋼鉄の片手剣に眠りと麻痺を付ける予定です。三つ目は詠唱中断・毒・石化の中からいずれかを付けるか考慮中でした。しかし、盾に付けて実験するならば一つ浮きます」

 

 特殊攻撃が発生してしまうと受けても消せないので、予備武器となる。

 

この時に殴って解決するだけなら、片手剣の方が強いのは当然だ。普通なら敵が逆手の方向で使用する時に使ったり、あくまで予備として使い回すというのが精々になる。だが、昭信は先ほども述べた通りシールドバッシュという概念が存在する世界から来ているのだ。こちらから体当たりを掛けながら突入する時に使用したり、スロット数の限られる暗殺者用の武器を補う手段として思いつくことが出来た。

 

「なるほどな。魔法陣が現れたら盾で殴り牽制し、それ以外ならば剣で状態異常を付与すれば良い。その状態での戦闘で試し、やはり剣に付けるべきならダマスカス鋼製の武器を購入してから付ければ良いということか」

 

「そうなります。そして三つ目には毒牙のスキルを試すのが良いでしょう」

 

「ふむ。石化は成功し難いし、毒が邪魔だと思えばダマスカス製では止めると」

 

「毒は眠りと並んで成功し易いと聞きましたので、六人目に回せるのもあります」

 

 ルミはシュナイドラーに聞いたコツを上手く進化させていた。

 

あくまで装備にはスキル一つという前提だから、盾に詠唱中断を付けておけば武器に攻撃力二倍や防御無視(40%)を付けられるというコツだったのだ。昭信から二重付与を目指すと聞いているシュナイドラーとしても、その二つと詠唱中断を組み合わせると前衛のバランスが良くなるとしか話してはいない。だが、そこから理論を進ませて、ダマスカス鋼製装備への置き換えと、三つ目に付けるスキルに関する順番について考えていたのだ。

 

「確かにそうだな。新しい候補として何か見繕うとしても、現状ではHPやMPの吸収を付ける程でもない。六人目が誰になるにしても成功し易いスキルが三つ並んでいたら損にはならんか」

 

「はい。詠唱中断のスキルが必要になっても、強権盾は何枚あっても良いので」

 

 あくまで詠唱中断の付いた強権盾が使い易いならの話だが使い回しが可能だ。

 

先ほど昭信も言いかけたが、余裕が出来たらシモーヌの盾に付けても良いのである。左右に敵が居る状態で、盾のある逆手側で魔法陣を展開したら盾で殴りつける方が剣で向き直るより隙は少ない。そして六人目が加入して、片手剣と盾という組み合わせならそのまま使い回せるのが良かった。シモーヌはダマスカス鋼製の盾かオリハルコン製の盾に持ち変えるだろうし、損にはならないのだ。余ったらそれこそ下位メンバーに渡しても良いくらいである(二つ以上のスキルを付けて伝世品になったらそうもいかないが)。

 

「詠唱遅延を付けた装備は六本作るものだから、集める言い訳を作り易いのも悪くないな。兎は下位メンバーが周回しているし、手に入る確率はかなり高くなる」

 

「はい。底値では無理でしょうが、セット価格込みで値を下げられると思います」

 

 兎のスキル結晶を付けた武器というのは、かなり作る物だから不自然さが無い。

 

スローラビットはレアドロップの値段が高いので周回しても良い物だ。第一迷宮では訓練場所に過ぎないが、第二迷宮なら周回に向くだろう。スキル結晶は昭信が買い上げ、自分を買い戻す費用にすることを認めているので士気もあがるだろう。

 

「ではその方向で次回の注文を頼む。それと俺はグレースの初期訓練にシモーヌやグスタフと行ってくるから、ルミは留守番を頼む」

 

「第二迷宮ですね? 何かあればヒューゴー達に行かせます」

 

 こうして昭信たちは計画を次の段階に進めた。

 

その日はグレースに暗殺者の条件を覚えさせ、基本的な戦闘パターンを練習しつつ、グレースのレベルが上がったところで第二迷宮の探索を終えたのである。

 

●特記するべき事項

グレース。人族。♀。22歳。戦士27レベル

 

・資金。11万2000ナール

 

・新技術の継続的譲渡契約(残り50万ナール分の代価)

 

・緑魔結晶x2売却

 

・鋼鉄製品五つを代価で入手

 

スキル結晶。蝙蝠。サイクロプス。蟻、芋虫、はさみ式植物、コボルトx4、ヤギ、トロール、灌木x2、スライム(コボルトx3、スライム、灌木、羊を入手予定)

 

スキル装備の予定。よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)、強権の鋼鉄剣(防御無視(40%)を追加)、不畏(恐れ知らず)のチェインメイル(麻痺耐性、空き、空き)x2




 と言う訳で、いよいよ十六階層以降に挑みます。
今回はグレース到着と、何をするかどうかの指示、暗殺者条件の達成と、そして結晶入手ですね。

●盾に詠唱中断
 他の作品でもあるかもしれないネタなので、うちでは複数枚用意するとしました。なお、勘違いで原作で『盾には使えない』と書いてあったら計画を修正すると思います。

また、麻痺耐性を付けた装備名が分からなかったので『恐れ知らず』としましたが……。
原作で正式な名前が登場したり、どこか他の二次作品で登場した場合は、被らないように変更させていただきます。
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