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「助太刀感謝する。名をお聞かせ願えるか?」
「武田家の昭信、自由民。クランバナーは丸に四つ菱……なんてのは良いか。修行のために暫く探索者をやっていろと言われてこの辺りに流れてきたところだ」
挟み撃ちなどは無かったようで、馬車まで戻ると少女たちは無事だった。
昭信はインテリジェンスカードを拾いつつ、リュックサックを回収する為に起伏の上に向かい、その途中でスマホとソーラーバッテリーはビニールに入れて埋めておいた。後は野となれ山となれ、コピー用紙や筆記用具程度ならば誤魔化しは利くだろう。
「インテリジェンスカードを確認するなら構わないぞ?」
「そうすべきだが恩人に非礼であろうとお嬢様のお言葉でな」
「はい。感謝しておりますアキノブさま。エレーヌ・マグヌス・ナーシャと申します。ご助勢が無ければ、わたくしもシモーヌも死んでいたやもしれません。爺たちも……いえ、失礼しました」
鑑定の結果では長身の女性もナーシャが名前なので親族なのだろう。
察するに本家のお嬢様と、それを守る分家のお嬢様というべきか。あるいは本家だけが貴族に成って、シモーヌの家は分家という程に近い訳ではないのかもしれない。
「察するに執事の方たちが盾になられたのですね。悲しまれるのは当然の事だと思います。無事な方は?」
「その……村の者を呼んでもらいました。アキノブさまの戦利品も運んでもらいますね」
(ん? 少し反応が変だな……)
それは助かりますと言おうとして、昭信はエレーヌの反応に気が付いた。
普通ならば騎士団を呼びに行ったというべきだろう。だが異世界ゆえに原作以上の知識がない昭信には詳細が分からない。男爵家の騎士団では人数が限られているのかもしれないし、もし当主が本命の迷宮に潜って居るならば手が足りないこともあり得るからだ。
「そう言えば賊を追い掛けている最中に迷宮を見つけました。この辺りで野営していたのも、元はモンスターを見かけたからです。未発見のダンジョンではないでしょうか?」
「そ、それは……その……シモーヌ?」
「ここで話すのも何でしょう。お嬢さま、お屋敷へ」
エレーヌのピンと張った耳が今まで以上に垂れている。
どうやら聞かない方が良い事情があるようで、シモーヌが割って入りながらキっと目を見つめてきた。おそらくは『察しろ』ということだろうと流石に昭信にも理解はできる。天然ではあっても朴念仁ではないからだ。
「私の方から説明しよう。当家には現在、余裕がないのだ。その為に新しくダンジョンが増えても探す余裕もなかった。いや、その為に寄り親である貴族家の下へお嬢様が赴かれる最中だったと言っても良い」
「まずは使者を送るべきだろう。それに冒険者は……どういうことだ?」
「父たちは身罷りました。恥ずべき事ですが、迷宮の討伐に失敗して」
「「……」」
シモーヌが意を決して話し始めた後、昭信のせいで沈黙に包まれた。
ソレは話す必要がある事であり、聞く必要のある事だ。空気の読めない昭信ではあるが、デリカシーが無いわけではない。いたたまれない気持ちになりそうであったが、こちらも意を決して思案をし始める。
「辛い事を聞いて申し訳ない。これも何かの縁だ、可能な範囲で協力しよう」
「ありがたい申し出だが、修業を始めたばかりの探索者ではな」
「ある程度の経験を積んだら獣戦士に戻して奴隷でも購入するさ」
「何? いや、そういえばあの動きは確かに……」
アキノブの言葉を遮ったシモーヌであるが、続けた言葉に口ごもった。
探索者に成ったばかりの若者が迷宮討伐の役に立つはずがない。だが、元が腕利きの獣戦士であったならば話は別だ。その強さは狼人族である彼女たちにはよく知られたものだ。この領地の騎士団にも居たのではないかと思われる。そしてオーバーホエルミングを使った戦闘を見て、盗賊の頭ですら高レベルの獣戦士と疑ったくらいである。それを垣間見ていたシモーヌが考え込むのも無理はあるまい。
「え? アキノブさまは、元は獣戦士であられたのですか?」
「恥ずかしながら空気が読めない方でして。他の者の負担を考えろと追い出されたも同然の修行ですよ。ですが家で使っていた伝世の剣だけは持たせてもらえました。懸賞金次第ですが奴隷を用意出来れば、すぐさまに迷宮が溢れる状態にはならんでしょう」
話の辻褄を合わせる為、昭信は家の事情を適当に応用した。
卒なく何でもこなす兄が居り、奔放で暴れ者の自分は強いだけだった。しかし狼人族は『力こそパワー』な風潮もあるので、家が割れそうだったと思わせたのだ。兄が家を継ぐ代わりに自分は預けられていた伝世の剣一本持って、その上で直ぐには活躍できないように、暫く『探索者として他国で動け』と命じられているとしたのだ。半分以上が作り話だが、戦国時代の祖先の頃ならそういうこともあり得たわけで、ロマン主義の昭信だけに不思議と嘘は感じなかったのである。
「奴隷……ですか? そうだ! シモーヌ、山の方々をお勧めしてはいかがかしら? あの方たちも困っておられて、奴隷に出すかもって……」
「……お嬢様。その、奴隷墜ちする者はあまり近場を好まないのです」
「それもあるが俺は他国の人間だ。伝世の剣も含めて秘密にしたい事はある」
明るい話題を探すように話を切り替えたエレーヌに二人は難しい顔をした。
家族が奴隷として使われているのを見たい者が居るものか。それに昭信は異世界転移者であり、話せない事が山盛りである。主人の事よりも自分の家族や一族を優先する様な奴を抱え込みたくは無かった。はっきり言って、エレーヌの話は誰から考えても論外なのだ。
「あ……そうなのですか。申し訳ありません。家族が生き分かれしなくても済む名案だと……思ったのですが」
「お嬢様のお気持ちは存じております。彼らはドワーフですし有能ですが……」
(ドワーフか。よりにもよってドワーフか。これまた悩ましいものを……)
どうやら家族を亡くしたエレーヌが生き別れになるドワーフを慮ったらしい。
彼女を甘やかしているであろうシモーヌは難しい顔でなんとか宥めようとし、そして鍛冶師であり力強い種族であるドワーフということが昭信を悩ませる。もし奴隷商人を通さず安価に買えるならば、鍛冶師を複数名だろうが戦士を盾役にしようがやり放題だからだ。しかも今の状況ならば騎士として推挙も出来るだろう。『今だけの面白いシチュエーション』でもあり、一目惚れしたエレーヌの頼みもあって昭信は悩みに悩み抜いた。
「確認だが、現時点でならこの家の財政は破綻してないよな? ならば俺が鍛えて、いずれ騎士見習の従士としてそちらが引き取るのはどうだ? 人頭税を免除してくれるならば代金と相殺しても構わないぞ」
「え?」
「何?」
昭信は人身売買に適当な言い訳を付与させた。
紐付きの奴隷を『ずっと』使う事はあり得ない。だが、その後に売り渡すならば問題はないわけだ。欠点としては手元に戦力が残らない事だが、ドワーフが数人いるならば一人くらいは恩を感じて一族よりも自分に付き従う者が居るのではないかと考えたのだ。駄目だったらその間に稼いだ金で奴隷を買い直すのも良いだろう。この案のメリットとしては、昭信がそこそこの強さになっても一人では厳しい階層になるまでは時間が掛かる。その時に最低限の人数を即座に確保できる事である。
「探索者の20レベル程度を参考に他を同じくらいの期間育てておけば従士として後は勝手に鍛えられるだろう? どうせ迷宮の管理や冒険者にすることを考えれば数人は必要だし、戦士から騎士を目指せる者が一人くらいは現れるだろうさ。俺としてはその中に、こちらへ忠実で秘密を守ってくれる奴が一人か二人居れば助かると言うあたりかな」
「シモーヌ、大丈夫なの? 知ってる範囲では大丈夫な筈だけど……」
「資金的には一応。ただ礼金を渡さねば失礼でしょう。その意味でも買い取るのは先にしていただきたい」
「元よりそのつもりだ。それに……山の一族とやらも有能なら買い直すかもしれんしな」
互いに信用が出来るかはともかくとして、昭信に出来る最大限の譲歩だった。
秘密を守れることを大前提に、最も信用のおける者を鍛冶師として、次点の者を自分専用の探索者として鍛える。後は一人ずつくらいで帯同し、適当に20レベル程まで上げれば良いのだ。なんだったら下位チーム用に鍛えた探索者なり戦士をリーダーにして、途中から放牧するのも良いだろう。
「この案の最大のメリットは、一年か二年もあれば最低限の戦力を立て直せることだ。あくまで迷宮を溢れさせない程度の存在だが、迷宮を巡回させ、俺も自分のパーティーで階層を進めるつもりだ。冒険者たちが『稼げるかもしれない』と思ってやってくるまでは何とかなると思うぞ」
そうなれば粛清されたりはしないだろう。
その言葉を飲み込みつつ昭信は指針を考えていく。もちろんこの案が通った場合に、自分が何をすべきか、通らない場合に何をすべきか……である。
「実現可能かは別にして、実にありがたい申し出ではある。だが、貴殿に何の得がある? 申し訳ないがあまりに都合が良過ぎて裏を疑わざるを得ない」
「確かにな。それこそさっきの連中をけしかけて、信用させた可能性もあるしな。だがそうだな……根拠なんか提示できないが……あえて言うならばやはり『縁』だな。この地に来て初めて大きな変化があったと思ったら、俺の実力と見識があればなんとかなる事態が待っていた。これをロマンと言わずして何というんだ? 協力させてもらうよ」
空気の読めない昭信だが、デリカシーはあるので困った人には付け込めない。
エレーヌの親が死んで、場合によっては母や兄もパーティーの一員として死んでいるだろう。そんな状況でしかも出逢ったばかりだ。『貴女が好きに成ったので迷宮の討伐を捧げます』などというようなこと流石には出来ないし、そんな言葉を思いつくようなタイプでもない。今は困らない程度に持ち直させ、余裕が出来たところで告白でもすれば良いと考えていた。もちろん家の取り決めもあるだろうし、もし婚約者が居たら居た時の事だと考えていた。
「ともあれ今の話は思い付きでしかないし、決定したとしても俺たちの間での話だ。ドワーフたちが気に入らんと言えばそれまで、せめて故郷より遠くが良いと言えばそれまでだ。俺はこの辺りに幾つかあるだろう迷宮を回るから、そちらで話を付けておいてくれ」
「ありがとうございます! 相談してちゃんと考えてみますね!」
「お嬢さま。その時はこのシモーヌが山へと交渉に参ります」
こうして頭の痛い事態に一応の目途をつけ、昭信たちは動き出したのである。
●リザルト
賞金。25万ナール。
礼金。不明。
アイテム。鉄の剣(空き)、皮の鎧(空き)、紫の魔結晶。その他装備品(スロットは無いが処分保留中)。雑多な金、合計で3000ナール弱(ほとんど銅貨)。
と言う訳で背景情報の整理と、いつもと違う流れの為の導入。
普通はやらない紐付きの奴隷を押し付けていくスタイル(所持金没収)。
●簡単なデータ
『アキノブ・タケダ』♂。24歳。
安芸武田家の血統。有名な親族は暗黒寺AKと山形有朋。
冗談交じりに言われたアダ名は『信玄のパチモン』。ハルノブ → アキノブ。
空気読めない協調性ない。スポーツ万能だったけど自分が好きな格闘技に絞ったら芽が出て、高校生時代に大学の特待生に成れた。その後はプロローグの通り、運悪くマイナススパイラルへ。
アバターのイメージはFEのソードマスター系が持つ黒髪の大剣使いである。
『エレーヌ・マグヌス・ナーシャ』♀。15歳。
本作のヒロイン。髪の毛はオカッパ。スタイルは並。
イメージ犬種はシェットランド・シープドック。
父親・母親・兄を亡くしており、次期当主に躍り出てしまった。
性格は夢見る女の子で、まさしく色々な部分に夢を見過ぎている(偶に迷惑になる)。
『シモーヌ・ナーシャ』♀。23歳。
サブヒロインで姫騎士枠。ただしクッ殺では無い。髪型はシャギーでイメージ犬種はコリー。
エレーヌの従妹で彼女の親は一族ではあるが貴族ではない。
英才教育込みで騎士になってしばらくした所で、それほど実戦経験も領地経営の経験もない。
その辺りを助けていた彼女の両親は病で他界している。
要するにナーシャ家の領地で流行った病気で騎士団が弱っており、無事だった領主他が体を直して討伐を再開したところで全滅したわけである。原因は色々考えられるが、討伐によって成りあがった貴族が、不運もあって領地を維持できずに壊滅している流れ。