異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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汝、恐れる事なかれ

「……何をしている?」

 

「旦那さまの昂りを御鎮めしようと思いまして。御不快でしたか? ルミさまは特に止められませんでしたが」

 

 翌朝、妙に気持ちの良い目覚めを感じるとグレースが奉仕を始めていた。

 

昨晩抱いたりはしていないので、わざわざ朝一に勤労精神を発揮したらしい。実に奇特な事であるが、彼女の性癖と言うよりは以前にいた貴族家か商家での『躾』の結果だろう。そういった事を不要だと指示しなかったこちらの落ち度である。ルミが顔を出したらしいがそのまま実行したのは、口での奉仕をグレースが気を利かせたわけではなく、単に彼女の躾による習慣だったのだろう。

 

「始めてしまった以上は途中で止めるのもなんだろう。だが狼人族は人間ほど閨に熱心ではないのでな。次からは頼んだ時に頼む」

 

「承知しました。では……失礼します」

 

 朝から黒髪のメイドさんに口で奉仕させるとか元の世界では難しい。

 

あえて言うならば『羨ま + けしからん』という造語あたりだろうか。だが種族を人間にしなかった昭信としては妙に冷めた自分を感じていた。やはり自分主体で自分好みのシチュエーションではないのが大きいらしい。

 

「朝からお盛んで結構だと思いますがその割にご不満なようですね」

 

「ルミ。皮肉はよせ。こういうのは酒と同じだ。ワインだろうがエールだろうが構わず呑みたい時はあるが、そのつもりの無い時に酒を注がれても楽しくはあるまい。人間のところで躾られたようだし、その辺りの話をしておくべきだったと気が付いたところだよ」

 

 暫くして気まずくなって退出したらしきルミが戻ってきた。

 

昭信が微妙な顔をしていたことから皮肉を口にしたが、笑い話に出来る程度には二人の仲も近づいてきたのかもしれない。とはいえ相棒枠みたいなもので、嫉妬でプリプリ怒っているわけではない間柄であった。

 

「それで何の用だ? 急ぎの使者が訪れたでもあるまい」

 

「っ。失礼しました。そこまでする必要がないので思い出さなかったのですが、『仲買人は一人に絞るべきなのが暗黙の了解』という件に関してです。そこにオークションへ注文者自身が出場してはならないという理屈は無いそうなのです。明日は二か所の町でオークションが開かれるそうなので、シュナイドラー様が参加されない方に行ってみるのも良いかと昨晩に思いつきました」

 

 シュナイドラーに聞いたコツの一つらしい。

 

高値で買うと伝えている時は出品リストだけ手に入れて、別会場へ参加する友人(・・)に伝えることで代理購入したり冒険者に連れて行ってもらったりすることもあるそうなのだ。残る発注自体はそこまで急ぐ物ではないのだが、その結晶が偶々出ていたら買うのも良いと思ったらしい。シュナイドラーがコツをおしえてくれたのも、高額で買うと言ってないから無理して調達しないだけで、出品する可能性が高いのもあった。

 

(あれば羊と灌木の優先順で一つずつ。他に必要なのは兎として……コボルトが適当な品とセットで出ていたら買うくらいだな。それとは別に攻撃力二倍と防御無視の同時テストを延期して、片方に使う予定だったコボルトを残す。仮に一個もコボルトが出品されてなくても、手に入れた結晶を試すことが出来るからな)

 

 昭信は理由さえあれば予定を変えても良いと思うタイプだ。

 

シルバーアクセサリーなど何度も予定を変えているし、防御無視(40%)を強権の鋼鉄剣に入れないならば200ナール底上げして購入した意味がなくなる。だが、ここで羊・灌木・兎のいずれかが手に入れば、テスト自体は同時に出来るだろう。それが火力強化にコボルトの結晶を二個使うよりも魅力的に思われた。

 

「どうせ今日は十六層に慣れるのと待機部屋を覚えるところまでだ。早めに終わって第二迷宮に行くつもりだったから、気にせず行ってくると良い。その上でスキル合成の予定のうち、防御無視をいったん延期する。グレースの経験を積みつつ、攻撃力二倍を試せれば十分だからな」

 

「承知しました。そのように予定を修正しておきます」

 

 昨日、不畏のチェインメイルが二つ完成したことで十六層に赴く予定だ。

 

名前の通り恐れ知らずになったわけではないが、重要な人物二人の麻痺する可能性が減った事と、グレースの加入で危険性が減ったために委縮する必要がなくなったのだ。その上で将来的にビーストアタックだけでは一撃で落とせない可能性も増えていくため、火力強化も必要とされており、攻撃力二倍と防御無視を付ける計画であった。

 

「そうだ。ゲオルグには弟がいて支援してやれば良いという話があったが、他の者も含めて甘過ぎない程度に便宜を図るのも良いかもしれんな。好みの服をオーダーするとか、料理屋を経営させるくらいなら俺たちにも利益がある。それで彼らが奴隷から信頼できる仲間になってくれるなら安いものだ」

 

「そうですね。一概には言えないかもしれませんが声を掛けて損は無いと思います」

 

 思い出したようにグレースが来る前に四人目候補だったゲオルグについて触れた。

 

昭信が彼について内陣メンバーに移して問題ないかと聞いた時、ルミは弟がいるからそのために奴隷になったのだと言っていた。グレースの加入で立ち消えになった話ではあるが、見知った仲間に援助できると知ってルミもまんざらではない表情を浮かべていたという。

 

「十六層のモンスターはビッチバタフライ。空を飛ぶうえに麻痺攻撃をしてくる面倒な奴だ。ボス前の待機部屋まで慣れるつもりで戦うが、基本的にはいつもと同じだな。違うのは高い位置を飛んでいたら俺が跳躍するかルミが槍で突かないと詠唱中断ができないあたりか」

 

 今まで踏み込んでいない階層に突入。

 

昭信は常よりも言葉を重ねて説明を施した。麻痺というのはそれだけで脅威だし、数が増え更に高い位置を飛ぶこともあるのだ。ここまで注意して踏み込まなかったのも当然とは言える。

 

「御屋形さま。基本的には攻撃を優先し、その位置で魔法陣を展開します。そこまでの危険は少ないかと思います」

 

「シモーヌの言う通りではあるが最初だからな。混乱されるよりはよいさ」

 

 これに対する経験者の判断としては運が悪い時にしか起き得ないという。

 

後衛への攻撃時に高い位置を飛び、何故か攻撃を中止してそのまま魔法陣を展開するようなことは無いらしい。あくまで攻撃を仕掛けようとするか、魔法陣を展開しようとするだけとのこと。敵が高い位置に居る状態で接敵し、そのまま魔法陣を展開する可能性はそれほど高くないため数は多くないという。

 

「ああ、そうだ。これまでこの剣についているMP吸収の効果でビーストアタックを連打してきたせいか、詠唱のリズムを早めたり声が小さくても問題なく技が放てるようになってきたと感じる。シモーヌが旋風剣を使えるタイミングがあったら、合図を出してから確かめてみてくれ」

 

「おおっ。それは素晴らしいですね! やってみましょう!!」

 

 ここで昭信はかねてから考えていた詠唱に関する諸問題へ着手する。

 

通常は『詠唱共鳴』という現象が起きるので一つのパーティーで呪文を唱える時は優先順位やタイミングが重要になるという。この事に絡めて早口の高速詠唱ができるようになったと告げ、適当な詠唱でも問題無いようにしたのだ。そのうち『心でちゃんと呪文を詠唱すれば言葉が要らなくなった』と、段階を踏んで説明するつもりであった。

 

 そしてルミを後衛に、右にシモーヌ、左にグレースという布陣で移動を始めた。

 

「早速、五体でいたか。だが全てが飛んでいるわけではないな。左の二体は俺がやる。後はシモーヌたちに任せた」

 

「承知しました。グレースは私と位置を保って右側に走れ、背中をお守りしろ」

 

「はい」

 

 敵はビッチバタフライが四体、ケトルマーメイドが一体。

 

もちろんすべての個体がレベル16であり、呪文や特殊能力を使うために魔法陣を展開する可能性はある。これに対して詠唱中断を付けた武器は三つ。昭信は高い位置に居るビッチバタフライとその近くに敵がいる左側を自分の持ち場に定めた。残り三体を完全に抑え切るには詠唱中断の武器が足りないが、今のところはすべての敵が魔法陣を展開はしていなかった。

 

「では、いくぞ!」

 

「二人とも走れ!」

 

「「はい!」」

 

 昭信は軽く走ってから一足飛びに跳躍。ビッチバタフライへ斬撃を浴びせる。

 

ビーストアタックに加えて攻撃力二倍を付けている事もあり、問題なく一撃で切り捨てた。そして着地と同時に真横に剣を振るい、二体目のビッチバタフライに切りつけたのである。その間に女性陣は右側の敵へ牽制を掛けた。シモーヌが敵の目を惹き付けるように立ち、グレースは昭信の背中を守るように左側に、開いた隙間から遅れて駆けつけたルミが槍を繰り出すという塩梅である。

 

「問題無いようだな。次は出来るだけ五体ではない場所を選んでみる。シモーヌは旋風剣を使ってみろ」

 

「承知しました。合図は必ず行います」

 

 昭信は二体目のビッチバタフライを始末しながら様子を見ておいた。

 

自身の攻撃力はアクセサリーに付けた攻撃力二倍もあって問題なく敵を一撃で倒せている。それだけではなく、女性陣が連携を組めているかを見ていた。グレースはまだ暗殺者ではないし、スキル付きの武具も持たせてはいない。だが、最低限、昭信の背中を守れれば十分だ。これまではシモーヌが敵全体を抑える役目を担っていたので、その分担が出来るだけでも戦力は良くなったと言える。そこで自分のビーストアタックとシモーヌの旋風剣併用を実験しておくことにしたのだ。確実を期すならボス部屋でボスのマダムバタフタライを先に倒せば横槍もないが、それでは練習にもなるまい。

 

「四体か。流石に我らが大姉ロクサーヌのようにはいかんか。シモーヌ。構わんから機会があれば使え」

 

「承知しました。二人とも、基本は先ほど同じ。だが攻撃は控えよ」

 

「「はい!」」

 

 敵が少ない場所を選んだつもりだったが、現れたのは四体の敵であった。

 

昭信はあくまで臭いの強さによってボスを感じたり、風やら水の臭いで敵の種別をおおまかに感じ取る程度だ。ロクサーヌのように詳細な数と種類は分からないし、彼女ほど熱心に嗅ぎ分けようとすればいずれ覚えるのかもしれない。だが剣技の方が興味の比重が高い事もあり、あくまで『さっきより濃いか薄いか』を判別しているだけだったのだ。

 

「分断する。中央突破だ!」

 

「二人で左側の敵を倒せ。残りを私が抑え、御屋形さまの背中を守る!」

 

「「はい!」」

 

 昭信はど真ん中の一体を葬って走り抜けた。

 

回り込みながら右側の裏手につき、シモーヌと挟み撃ちをしつつ彼女の合図と詠唱を確認できるようにしておく。そしてルミが槍で左側のビッチバタフライが魔法陣を展開しても邪魔できる状態を保ちつつ、グレースがルミを守りながら牽制し始めた。

 

「行きます!」

 

「いつでもよいぞ」

 

「牙無きものの啼く声に、現るは剣持つもののふの意志。吟我、旋風剣!! イエェェェィィ!!!!」

 

 シモーヌの合図を見ながら昭信はビッチバタフライの一体を片付けに掛かった。

 

残る一体に向けてシモーヌが詠唱を始めるが、昭信の口元が素早く唱え終わっているのを見て躊躇なく呪文を唱えていった。ワンランク下の状態にある『呼びかけたるは我が心』という言葉が『吟我』と言う言葉に集約され、『感じ現る剣の意志』という武器を示す言葉が『現るは剣持つもののふの意志』と使い手側に主導権が移行している詠唱になっているようだ。そして詠唱の終了と共に旋風剣が発動し、2mほどの長さを持つ刃によって薙ぎ払われたのである。

 

「お見事。ひとまず詠唱共鳴は起きなかったようだな」

 

「いえ。御屋形さまが手早く唱えられたからです」

 

「「おめでとうございます」」

 

 昭信は詠唱省略があるので共鳴が起きる筈もないが様式美である。

 

まずは褒めてみせ、周囲が祝福する環境を整えて自信を付けさせることからであろう。そして一つの成功を踏まえて、次の成功、その次の成功へと進んでいけば良いのだ。

 

「ではこのまま旋風剣も考慮した戦いをしながら予定通り待機部屋まで進むぞ。この階層にそれほど未練は無いし、次の十七層でビッチバタフライの出る数が減った方が確実に戦えるというものだ。ボス戦を何度か繰り返したら第一迷宮での戦いを終え、メンバーを変えて第二迷宮に潜る」

 

「「「はい!!!!」」」

 

 ここまで警戒しておいてなんだが、十六層は問題なく戦える時点で終了。

 

ビッチバタフライはドロップ品もスキル結晶も狙う程ではない。ある程度、戦闘に慣れたら特訓用にボス戦を周回できる状態にして、その後はさっさと十七層に向かう方が安定するのだ。空飛ぶモンスターと戦いたいならば十七層でも出てくるし、敵がクラムシェルだからドロップ品が美味しいのもあった。とはいえこの十六層は不人気であるようで、ボス戦周回に向くと判ったことで何度も訪れることになるのであった。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士42レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

獣戦士42/英雄39/剣士43/探索34

 

薬草採取士27/神官27/ソードマスター25/料理人25

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一、ワープ、詠唱省略。69

 

獲得経験値二十倍・4thジョブ。70。あまりは結晶促進。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師30

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士20

 

グレース。人族。♀。22歳。戦士28レベル

 

資金。11万6000ナール

 

小口現金。3000ナール(常時調整)

 

●特記するべき事項

 

・銅貨はルミがまとめ、奴隷たちの小遣い銭に。鏡製品の購入契約、新技術の継続的譲渡契約(残り50ナール分の代価)

スキル結晶。蝙蝠。サイクロプス。蟻、芋虫、はさみ式植物、コボルトx4、ヤギ、トロール、灌木x2、スライム(コボルトx3枚、スライム、灌木、羊を入手予定)

 

スキル装備の追加。よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)、不畏のチェインメイル(麻痺耐性、空き、空き)x2。(強権の鋼鉄剣への防御無視(40%)は延期)。

 

・現代品の代用レシピ。石鹸・薬用石鹸・ラムネ菓子・カタラーナプリン・マグロのヅケ・ロードローラー(?)・鏡製品各種

 

・紫魔結晶の蓄積開始。

 




 と言う訳で十六層攻略です。マダムバタフライはナレ死しました。
不人気で戦い易いため、また逢う日まで。
(レベルキャップは無いけど、適正階層で極端に経験値が下がる設定にしているのもあります)

●朝からお盛んですね
 やはり黒髪のメイドさんとくれば朝のご奉仕、奥との恋人。ロッテ要員。
同様に執務中にご奉仕することもあるかもしれませんね。
しかし、その日の為にはいずれ下着も改良せねばならないでしょう。
ロングスカート、ガーターベルト、そしてパンティの三種の神器を揃えなければ。(かぼちゃパンツから目をそらせながら)

でも、そろそろ筆者も多少はエロシーンを入れたくもあり、入れたくも無し。

●仲買人が居ても、オークションへ参加しても良い
 原作でミチオさんが参加されてますよね。
あの時は聖槍用でしたが、こっちは足りない物を順次補充する為。
それはそれとして、いつでもコボルトは足りないので優先順位が前後します。

●ゲオルグとその弟
 以前に話が出た時にチラっと出した件。
彼に限らずにキャラの深堀を少しずつするための布石ですね。
決してパンティーを作らせたいからではありません。むしろファイブスター物語のファティマ服かな。

●十六層
十四が蝙蝠、十五が人魚、そして十六は蝶。かなりの確率で空飛びます。
(十七が貝、十八がトロール、十九が蜂、残り三つが薬を落す三種です)

以上終了! 麻痺ったりする可能性もあってやっておれません。
そこで「詠唱が上手くなったよ!」「だから詠唱共鳴おきないから呪文使って良いよ!」「そのうちに詠唱短縮できるようになったよ!」という布石だけ用意しておく感じですね。

●旋風剣の詠唱呪文
「牙無きものの啼く声に、現るはもののふの意志。吟我、旋風剣」
(呼びかけたるは我が心、感じ現る剣の意思 奔流、火炎剣)
 火炎剣を参考にして、術者の主体、何の為かという目的性を追加。
上位互換的な内容に設定しているつもりですが……。
筆者が好きな「コズモレンジャーJ9。銀河旋風ブライガー」を引っかけただけです。すみません。上位モンスターが出たら、烈風・疾風と広範囲ないし長時間になるでしょう。

ちなみに片手剣だと2mの刃、両手剣・槍なら3mで武器の動きに追随する形状変化。1ターンだけなので使い勝手は良くない、威力はコボルト無くても同じ。としております。

●暗殺者関連
 次回でグレースが30レベルになって、オークションで何らかの状態付与を手に入れてきます。サイコロ次第ですが、何かが出品されるから話をするキッカケになったという流れですので。
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