異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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全体計画の修正

「アメリア。今日は手間を掛けさせるな」

 

「いいんですよ親方。これがアタシらの役目ですからねえ」

 

 四十を過ぎたドワーフの女は、ルミと同じ赤髪でも色がくすんで髪型も短くしていた。

 

ルミは表向きは探索者ということになっていたので、彼女がオークションに行くとなれば代役を用意するのは必須ではある。いつもは同じ四十代の指導役でもグスタフかヒューゴーが選ばれていた。少人数で危険な場所に行くため、肝が据わっている彼らを選ぶことが多かったためだ。だが、今回は幾つかの点で代役を変更した。一つは単にレベル調整で、二人だけが突出してもおかしいからだ。

 

「親方が居なきゃアタシは子供たちと逢う事もできませんでしたしねえ」

 

「そうか。探索者は何人か30レベル以上を目指させる事にしている。料理人のジョブに就く気があったら呼び寄せて料理屋を併設すれば良い」

 

 先日、少しずつドワーフに歩み寄り詳しくなる話を此処には居ないルミにした。

 

そのことを喜んだルミは、以前から聞いていた話からアメリアを推薦したのだ。探索者のレベルを平均化させる意味では誰でも良かったのだが、子供を弟夫婦の養子に出して自分を売った経歴であるらしく、子供と逢える近さであることから、他所の町ではなく昭信の下に来ることを選んだのだという。ゲオルグの話が出た時に彼が弟の為に奴隷となる事を選んだように、奴隷となってでも家族と近い場所に居たいから選んだ道と思われる。

 

「そいつはありがたいですね。じゃあせっかくスキル付きの武器を預かった事だし、頑張らせていただきますよ」

 

「うむ。昨日の続きで十六層から始めよう。後はシモーヌに任せる」

 

「細かい指示は御屋形さまの行動に合わせて私が出すので聞き逃さないように」

 

「「はい」」

 

 アメリアの言葉に頷きつつ昭信は話をシモーヌに振った。

 

戦闘における序列は必ずシモーヌが指示を下し、昭信をフォローできる態勢を作る形にしている。このフォーマットで倒し難くなったら赤信号、苦戦する前に戦力を整えるという段取りをこれからも続けていくつもりだった。

 

(今回はアメリアが居るから探索者は不要だ。ならソードマスターを育てていくか。ルミが居ない分だけ腕力が下がるが、このジョブならビーストアタックの威力が上がるから問題ないはずだ。駄目ならスラッシュも併用しながら十六層で暫く経験を積んで、いずれ防御無視も付与すれば二十二層までは到達できるだろう)

 

 今回はルミがいないマイナスがあるが、補いがつく範囲だった。

 

通常攻撃力が下がるもののビーストアタックの火力が上がるのでプラマイゼロ。仮に計算通りにいかなくとも、昨日の十六層では攻撃力二倍を付けたアクセサリーの効果もあってかなり余裕があった。推測より下がって居ても、MPに余裕がある序盤はスラッシュを併用する事で何とかなるだろう。そして十七層での戦いで問題がなければ、原作で一気に二十層くらい迷宮を踏破していたので日程はともかく強さ的にはなんとかなるものと思われたのである。

 

(それに……今回が上手くいくかどうかで六人目の仲間として、ドワーフの探索者を充てるという案も試せる。内陣メンバーだけで戦いたかったのと、勇者の条件である可能性を考慮して探索者も4thジョブの中に入れていた。だがドワーフたちと相互に信頼し合えるならば素直に探索者を入れた方が早いからな)

 

 今回の調整は『ルミがオークションに行く』という偶然が元だった。

 

だがその時々の()を重視する昭信は、この機に幾つかのことを試すつもりでいた。超火力頼みの戦術がこのまま使えるのか? 原作でもパーティーメンバーが増える時期だが直ぐに増やさなくて良いのか? 資金繰りはマシになったとはいえ、結晶促進六十四倍にせず、経験値倍率四百倍を維持したままで良いのだろうかと(原作ではあれほどこだわった必要経験値二十分の一を外して、奴隷の経験値を維持したまま結晶で金策をしている)。

 

「グレースとアメリア。やはり十七層は難しかったか? 無理はするなよ」

 

「いえ。以前と比べれば格段に戦い易いです。旦那さまのお力を思い知らされます」

 

「そうさねえ。アタシらは結局、抑えているだけだからそれほど苦労はしないよね」

 

 何とか戦ってみて昭信はグレースとアメリアの様子を確認した。

 

昭信自身の攻撃力は予想通りこの階層でも通じた。クラムシェルが二枚貝を閉じていない限り、彼のビーストアタックは一撃で葬っていく。他のメンバーはその間、前線を維持して詠唱を邪魔するだけなので問題無いと言えば問題ないのだ。もちろん昭信がクラムシェルに挟まれたりビッチバタフライの鱗粉で麻痺したりすれば話は別なのだろうが、装備のお陰もあってそんなことは無かったのもある。

 

(原作では平均して四発のストームを放って倒している。相手の弱点を突ければ二発、弱点と耐性が交じり合えば六発。実際には奴隷たちも攻撃しているし、負傷したら治療もしているから違うんだろうが……。今のところスムーズに倒せているのは武人ビルドの長所で、数がもっと増えたら効率が落ちるのが短所というところか。今後の課題は火力向上だけではなく仲間の補助もだな)

 

 何事にも長所と短所があるもので、更に相性が存在する。

 

原作と同じメイジビルドは相手の弱点に左右されるが、数に左右されることもない。ストーム系を放ち続けて最後に残った敵へボール系を放つか仲間に任せれば安定して倒せる。突っ込むことも無いから万が一の問題も無いので総じて優秀な経験の積み方と戦術だと言えるだろう。対して昭信は長所も短所も大きい突っ込み型の武人ビルドをしているので相性差が大きくなっていくのだ。

 

(火力的には二十二層から二十三層の壁に差し掛かった時点で、剣士から中位職に存在するだろう剣豪を取得できるから問題ないはずだ。百獣王もそう遠くは無い事を考えれば後は時間の問題でしかない。その頃には5thジョブに戻せるし……ならば全体の構想だな)

 

 原作主人公は二十四階層で探索者50レベルに達している。

 

昭信の戦い方は短所も多いが長所も多い。二人か三人に人数を絞ってボス戦を繰り返せば、それより前の階層で届く可能性はあった(原作はその時点で五人)。能力が素直に上位互換になるとは限らないが、腕力が中成長になるだろうしジョブを並べるだけでも強い。その時にスラッシュの上位互換的な技が使えるようになれば、もっと火力が高くなって二十層くらいのボスなら一撃で倒せる可能性もゼロではないくらいだ。心配すべきは火力では無いだろう(そもそも現時点でスラッシュですら併用していない)。

 

「御屋形さま。どうなさいましたか?」

 

「いや。今後のことを考えていただけだ。もう少し戦ったら第二迷宮へいこう。そろそろ盗賊の件も気になる」

 

 何かを考慮しているというのは黙っていても伝わるものだ。

 

シモーヌは戦闘隊長として昭信以上に仲間を見ているのだろう。彼の表情や走り出すペースの変化から、何かを悩んでいる事に気が付いたようだ。昭信も迷宮の中ですべき推考ではないと気が付き、笑って話を切り替えたのである。

 

「盗賊ですか……確かに見つかっておりませんね。御屋形さまの献策もあって、賦役を導入してひとまず視界をよくしましたが、不審者を見つけたという話は入っておりません」

 

「ああ、アレって親方が提案したんですかい? 村が明るくなったって評判ですよ」

 

「盗賊はコッソリ襲うのが好きだからな。その次はお宝だが……ふむ」

 

 話を変えたところでシモーヌとアメリアが食いついた。

 

第一迷宮周囲のは村ではあるがナーシャ家の本領ゆえに大きい。だがあくまで地方の男爵領に過ぎず、高級食材が割りと簡単に取れる迷宮があるからこそ往来もそれなりにあった。昭信は領主の館に訪れた時、賦役という概念を提供して、その一つに『視界を良くする』という盗賊対策も覚えておいたのだ。

 

「せっかくだ。今後の全体行動を少し変更しよう。ボス部屋に挑んでからその中で相談するぞ。迷宮の往来では誰が聞いているか判らん」

 

「「「はい」」」

 

 順調に戦えていることもあり昭信はボス部屋に向かう事にした。

 

クラムシェルの殻は堅いが、開いている間に中を攻撃すれば問題なく分かっている。むしろ半分くらいの確率で出てくるビッチバタフライの方が面倒なくらいで、敵と遭遇そのものは簡単に片付けてグレースが戦士30レベルになるための経験値でしかなかった。問題があるとすればそこからだ。

 

「かなり人が待っていますねえ。これじゃいつになるんだか分かりゃしないよ」

 

「この迷宮のボスでは十二層のピックホッグと十三層のブラックダイヤツナが人気だが、噂を聞いてやって来た者全員が戦えるわけでもない。そこで周回をしているパーティーがいた場合、この十六階層にやってくるのだ」

 

(なるほど。……とはいえこの状況そのものは利用できるな)

 

 アメリアが待機部屋を覚えようと前に出ようとしたものの人が多過ぎた。

 

どうしてこうなっているのかをシモーヌが解説し始めるのを見て、昭信は静かに目を閉じて腕を組んだ。こうしていれば考えているのは分かるし、暫く此処で待つという方針も分かり易い。その間に盗賊のことと、ついでに全体の構造に関して考慮し始めたのだ。

 

(ただの村人を襲っても意味が無い。だから盗賊が狙うとしたら金持ちや迷宮に居るパーティーだ。この村に居る商人はそれなりに金は持っているが、目撃され易くなったことで危険性を考えたらリスクが大き過ぎる。あえて言うなら鏡を預けている木工職人と彼らを管理している商人くらいだな。後は俺たちとエレーヌの館になるか)

 

 まず考えるべきは直近の問題である盗賊対策だ。

 

とはいえ目撃情報がない以上は対症療法しかない。その上で何処かに網を張って待ち構えるなり、向こうが根城にするような場所を叩きに行くべきだろう。ただ相手も無策なわけではないから何らかの手を打たねばならない。

 

(となると戦力を傾斜して守るべき場所を守り、攻めるべき場所を攻めるしかないな。こちらが守りを固めれば強盗という手段は悪手になる。同じことをするならば大都市とはいわんが港湾を持つ町なり宿場町を襲う方が金になる。つまり、盗賊団は迷宮で待ち構える筈だ)

 

 とはいえ採れる手段は少ないのでやるべきことを決めた。

 

最終的には貴族であるエレーヌが決断する事になるだろうが、そうさせることも踏まえて貴重な経験や実績になる。まだ若く未熟で当然の経緯で後継者になったエレーヌが、領主として正しい行いをすれば寄り親だって見捨てることはないのだから。

 

(後は俺たちの行動全体の構造見直しだな。名案も浮かばんし、オークションで竜騎士でも見つからない限りは探索者を鍛える方向でいくか。面白い手段があれば方針転換自体はいつでも出来る。その上で、ここには丁度良い理由が揃ってきているわけだ……。これもまた()というやつだろう)

 

 昭信はパーティーだけでなくドワーフの扱い込みで見直す事にした。

 

このまま『信用できるか分からないから近づけない』と距離を置く意味は薄い。秘密を喋る必要は無いが、内陣メンバーに入れたり外陣メンバーの総合レベルを上げておいて損はあるまい。エレーヌ加入の目安である三十三層まで、ずっと四人で戦い続けるのも惜しい気はするのだ。それこそ最初からルミ以外のドワーフを内陣メンバーに入れておけば、グレースを加入させなくてもよい強さにはなっていただろう(足の遅さはスキルで補うとして)。

 

「……旦那さま。人数が減って参りました、場合によってはそろそろかと」

 

「分かった。……そうだ、グレース。ジョブを変えるにあたって希望はあるか?」

 

「いえ、特には。旦那さまの御望みのままに」

 

「ならいい。後でその話をしよう」

 

 こうして昭信たちは十七層ボスであるオイスターシェルを攻略。

 

お供を昭信が一撃で倒した後、残り三人の訓練も兼ねながらゆっくり倒したという。こうして十八層へいける準備をした上で、しばらくこの階層を巡回すると伝えた。そして部屋から出なければ誰も入れないことを利用して相談を始めたのだ。

 

「さっきの話を始めるぞ。盗賊はリスクを嫌い、見られている所では襲撃を避ける傾向にある。強盗を働いても周囲から囲まれては逃げられないからな。そこで木工職人に加工させている鏡が完成し次第に領主の館に移す。仕上げをそちらでやれば問題は無いだろう。これで盗賊が襲うべき場所は二つの館以外には無い」

 

「ではその旨を後でお嬢様にお伝えしますね」

 

 昭信はまずシモーヌに対して説明を行なった。

 

彼女はエレーヌに仕えて領主の館に住んでいるし、どうせこの後で帰還するからだ。手続きというかエレーヌに伝えておけば今後のスケジュールが組めるだろう。

 

「次に下位メンバーはしばらくの間、第二迷宮への出入りは止めて二つの館のいずれかへ赴かせる。寝泊まりするのは俺の館だが、第一迷宮で潜った後は領主の館に移動することで姿を村で見れるようにしておく。これならば迷宮内で襲われる可能性が少なくなるし、館に留まる戦力が多くなるから強盗を働き難い」

 

「巡回させるのですか? なるほど第二迷宮へ逃げ込ませると」

 

「そういうことだ。もちろん他の領地に行く可能性もあるがな」

 

 ドワーフたちは来年には騎士団の下位メンバーになる事になっている。

 

だから巡回の訓練をする意味もあるし、順調に育ってきた彼らが村で見かけられれば盗賊が見ていても気になるだろう。もちろん原作に登場した『ハインツ一味』くらいの実力者なら話は別だが、それでもギルドに所属する探索者や冒険者のパーティーが駆けつける可能性を考えたら二の足を踏むだろう。

 

「最後に外陣メンバーのうち、数名を特訓に参加させて実力の底上げを図る。具体的に言うとアメリアが今年中に料理人になれる実力者まで育てることになる。グスタフは冒険者を目指すだろうし、ヒューゴーは探索者としてずっと実力を積ませる予定だ。他にもゲオルグは騎士ないし賞金稼ぎを目指させ、薬師は強壮剤を作れるようにする」

 

「来年以降の予定を繰り上げるのですか?」

 

「アタシとしちゃあ、ありがたい話ですがね……」

 

 昭信は予定を大幅に繰り上げ、そして底上げすることにした。

 

本来ならば来年までに25レベル前後で、数年内に派生職へのジョブチェンジを考慮できる程度にして引き渡すつもりだったのだ。それを今年中に30レベルを目指し、実際にジョブチェンジを行うという。計画を知っていたシモーヌは驚き、まさか自分が選ばれるとは思わなかったアメリアは事態を把握していないようである。

 

「その方が盗賊も敬遠するだろう? それになんだ、話は景気が良い方が良い物さ」

 

 最後にそう言って昭信はニヤリと笑った。

 

こうしてグレースが暗殺者になれる戦士30レベルまで十七層で戦うと、第二迷宮の到達階層を進めてその日の探索を早めに終えたという。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士43レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

獣戦士43/英雄40/剣士44/ソードマスター30

 

薬草採取士27/神官27/料理人25/探索34

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一、ワープ、詠唱省略。69

 

獲得経験値二十倍・4thジョブ。70。あまりは結晶促進。

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士24

 

グレース。人族。♀。22歳。戦士30レベル

 

資金。11万9000ナール(内、3万ナールほどはルミが持ち出し中)

 

小口現金。3000ナール(常時調整)

 

●特記するべき事項

・ドワーフたちの育成計画見直し。

 




 と言う訳で今回はグレースが暗殺者に慣れるまでのレベル上げです。
とはいえ、それだけでは毎回似たようなことの繰り返しなので、背景にあった盗賊の話を入れています。

●全体計画の修正
 実際には『六人目』を増やす可能性もありますが、当初案を修正。
ドワーフたちと仲良くなることで、六人目の代案にします。
探索者が居れば主人公は戦闘系のジョブを入れることができますしね。
(ただ、特殊行動と言う意味では探索者のすることはパーティー編成と収納以外ないですが)

●レベルアップの話
 原作では十二層から四人目のメンバーがいましたが、こっちは居ないのでレベルUが早い。原作よりも階層でのレベルが高いので「ああ、レベルキャップではなく、劇的に経験値が下がる適正階層問題だったのだな」としています。

その上で原作主人公が50レベルに達した二十四階層ではなく、二十三階層で剣士が中位ジョブに。二十四階層か二十五階層で獣戦士も中位ジョブになるよていです。ついでにソードマスターのレベルも上げ始めました(探索者もボス部屋周回で使って、勇者条件に備えてレベル上げすると思いますが)

●盗賊
 面倒くさいので次回死にます。
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