異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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偏った教え

 ナーシャ領の立て直しに成功したことを祝って、ちょっとしたお祭りが行われることになった。といってもあくまで街道を少し歩いた場所にある会場で飲み食いが出来るだけだ。この予算を領主が計上し、申し出のあった有力者からの寄付を金に限らず食材やら木材の物資でも受け付けるということになった。昭信たちが参加するのは言うまでもない。

 

「今回は祭で出す料理のうち、村人が遠慮なく食べられるミンチ料理を試しに作る。ここでミンチ料理が下品とされる理由と、材料次第で美味くなること、形式の問題という三つのポイントを順次説明しようと思う」

 

「「「はい」」」

 

 昭信は豚肉を二系統(・・)用意した。村で買った肉と迷宮産の肉である。

 

前者は村で育てた豚を潰したもので、高級品という訳ではない品である。割りと良い物を選んで貰いはしたが、どうしても迷宮産の豚バラには劣る。比較自体が間違っているのだが、今回は実証説明用であり嵩増し用なので仕方がないところだ。

 

「通常、肉を調理する前にこんな風に端っこであったり、筋やら脂に内臓の一部など微妙な部分を切り落としていく」

 

 昭信は村で手に入れた肉に包丁を入れて色々と切り落としていった。

 

まずは血管やら色合いが悪い部分であったりを剥がすように切り、切らないが柔らかくなるように線を引くよう包丁を入れ、形を整えるためにザックリと端を切り捨てていく。綺麗な形にした肉はお盆に移すが、落した肉はまとめて木製のボウルに放り込んでいった。

 

「この部分を捨てずにミンチ混ぜることがあるわけだ。他にも肉として食べるには向かない育ち過ぎた鶏や、何処かで捕まえてきた獣なども叩いて誤魔化してしまう。だから下品で野卑なので貴人が食べるには向かないとされているわけだ」

 

「マスターのおっしゃる通り領主さまの御一族には出せませんね」

 

「冬の来客などで仕方がない時はあるが、ルミの言うとおりだな」

 

「我々奴隷ならば肉があるだけマシですが、おっしゃる通りかと」

 

 昭信が肉の端を切りながら説明すると、三人娘たちはそれぞれの立場を示した。

 

ルミは鉱山主の娘だったこともありそれなりに良い暮らしだったので、迷宮産の肉をちょっと贅沢をする時に手に入れることは難しくなかった。自分で取りにいけたシモーヌにとっては父が死ぬまでは迷宮産の肉は食べる範疇であったが、それでも毎回という訳ではない。グレースに至ってはちゃんとした料理の方が珍しく、美しく育ったことで割りと良い物を食べられたが肉があるだけ幸せであったという。

 

「そういう訳で普通のミンチ肉は下品で美味くないとされる。だが迷宮産の肉を叩いてミンチにした場合、柔らかくて食べ易い肉になるわけだ。切り落とし肉やミンチを使った料理が幾つもあるんだが、迷宮産の肉を使う事で別格の味に成る。だが、これは身内の場であったり相手が民衆だから許される料理だ。たとえ間違いなく美味い料理であっても、格式を重要とする会合で『全く新しい料理です』と出したらその時点で失格になるだろう」

 

「確かにマスターのおっしゃる通りです。ミンチ肉もこの肉なら美味しいかと」

 

「とはいえコレを貴族の会合で出したら顰蹙を買うでしょうね」

 

「ですが身内としては問題ないともおっしゃられましたね」

 

 昭信は今度は迷宮産の肉を微塵切りにして説明した。

 

三人娘は同じようにそれぞれの見解を示す。ルミは迷宮産の肉に切り替えれば、色んな料理が美味な料理に早変わりする事に着目した。シモーヌはそんな料理ですら貴族たちは文句を付けるといい、グレースは身内用の料理を教えてもらっているのだと認識する。

 

「理解してくれたようで何よりだ。教材なんて野暮な事はもう良いだろう。次は美味い料理の造り方を説明しよう。それぞれの家に調理法があるかもしれんが、まずは俺が作る物を覚えてくれ。その上で状況に合わせて食事に出してくれればいい」

 

「「「はい」」」

 

 昭信は先ほどの肉を載せたお盆に、迷宮産の肉で作ったミンチを載せた。

 

そして三人娘に対して見えるように置くと、テーブルの上には野菜を数種類に香辛料を始めとした調味料など、テーブルの脇に小麦粉やら他の雑穀の入った袋を用意した。もちろん切り落とした肉やら筋の入ったボウルもそのままである。

 

「まずミンチ肉に関しては食べ易くなる。そして良い意味での『混ぜる』という効果を出せる。嵩増しや誤魔化しではなく、好みの味を出すために他の肉を混ぜる訳だな。ただし今回は手間になるし、覚えることが前提だから豚だけで作ることにする」

 

「御屋形さま。私が豚を叩きましょう。そこに盛れば良いのですね」

 

「んー。私はアッサリ目にしたいので今度研究してみますかね」

 

 ここから性格で対応が分かれ始め、それぞれの役目が変わっていく。

 

シモーヌは労力を買って出て村で買った豚と迷宮産の豚が混ざらないようにまずは迷宮産の肉を切って叩いてミンチを作っては盛り始めた。ルミの方は装備のように組み合わせを変えることを前提にして、メモを取りながらシモーヌの作業を手伝った。面白いのは普段なら何をするべきかを率先して尋ね、作業を行うグレースが動かない事だ。

 

「旦那さま……。その、切り落とした肉は……どうなさるのでしょうか?」

 

「これか? 帝都の店なら捨てるのだろうが、無駄には出来んからな。香辛料で臭いを消した後、まとめてパイの中に放り込んだり、鍋に入れてスープにするぞ。お代わり自由の場所に置いておけばよいだろう」

 

 おずおずと申し出るグレースの視線に昭信は憶えがあった。

 

ボーイスカウトなどでキャンプ料理をする時に、子供だから本来は捨てる部分も一緒に調理したものだ。だが、料理番組などを見て『なんで捨てるんだろう?』と思ったくらいである。要するに『惜しい』とか『そこも捨てるの?』と思ってしまうのだ。昭信は料理の専門家ではないからだが、おそらくグレースには別の思いがあるのだろう。

 

「そうですね。では私はそれらを担当したいと思います。村で買った豚と領地は私が担当しますね」

 

(そう言えば原作でもベスタだけ食生活に隔たりがあったな。察するに奴隷と奴隷の娘なのか。いまいち自主的な行動を取らない理由も、何となく判ってきたな)

 

 グレースは昭信の話を聞いて村で買った豚肉を切り落としていく。

 

それも昭信のように雑なカットではなく、出来るだけ肉の部分が残るように丁寧にカットしていった。そして木のボウルに入れる時もゆっくり確実に、香辛料も村の近くで採れる安価な物を多用する。おそらくは最も馴染みがあり、同時に遠慮なく使えるからだろう。そんな姿に昭信は彼女の背景を察し始めた。

 

「次にミンチ肉にするとサイズを調整し易くなる。一口で食べる大きさ、食べ応えのある大きさ。もしかしたら保存に向いた方法もあるのかもしれんが、今回は食べきるだろうからあまり関係ないので気にしないで良い。一口の方が食べ易いし火が通り易い。大きい方は火が通り難いし場所を取るのもあるが、工夫次第で普通に肉を食べるよりも美味くなる。なにしろ香辛料などの調味料や隠し味の香菜を混ぜ易いからな。チーズや酪を混ぜても美味いぞ」

 

「チーズはともかく酪ですか。美味しそうですが流石にお値段がしそうですね」

 

「そこまでいけば確かに美味しいのでしょうが……購入できる貴族は食べないかと」

 

「……」

 

 ここでも三人娘の性格が出て面白いと昭信は思う。

 

ルミとシモーヌはそれぞれの立場で意見を言うがグレースは黙々と作業をしていた。そもそも酪が何かを理解できてないようにも見える。あるいは知って居ても自分とは関係ないと最初から割り切っているかのようだ。

 

「ともあれ、だ。まずは試食してみないと分からんよな。この状態をタネと呼ぶが、お前たちはそのままタネを作っておいてくれ。俺は今のうちに試食用を焼いておく」

 

「「「はい」」」

 

 昭信は試食用に水・香辛料・香菜を入れて練ったミンチを小さなボールにした。

 

三人娘はそれぞれ頷きそれぞれの作業を続ける。そんな中で昭信は小さい方のタネを幾つか取り分け、鉄板の下にある灰入れを掘り起こした。そこには炭の一部をワザと燃え残させる形で埋めてあり、即座に火を付けたい時はそれを掘り起こして薪を積み上げブランチを差し込んで火を点けるのである。この方法だと一から火を熾すよりも早いというのがあった。

 

「試食だしこんなものだろう。三人ともキリが良いとこまで……。いや、このまま持っていくか。小皿を用意してっと」

 

 昭信は鉄板の下にある薪を調整し、火の強さに加減を付ける。

 

最初は火の強い部分でタネを焼いていたが、途中で火の弱い部分の上において熱の入りを調整。その間に木製の小皿を二枚用意すると、片方には塩を入れて好みで味付けできるようにし、残りの小皿にミートボールサイズに焼いたミンチを載せたのである。

 

「少し熱いが食べてみろ。後で作ってもらうからな」

 

「……柔らかくて良いですね。また食べたいというか、まだ食べたいというか」

 

「私はもう少し味の強い方が……あ、失礼します。確かに工夫したくなりますね」

 

「美味しい……おいしい……です」

 

 やはりここでも三人の性格というか過去が出るようだ。

 

ルミは『やめられない止まらない』という気持ちを抑えるくらいに迷宮産の肉の価格を思い出し、シモーヌは味付けに好みを出せる程度に食べ慣れているのが判った。ただそれでもミンチ肉にして食べることは考えていなかったようで、こういう事が出来るならば色々したくなるのも判ると歩み寄りを見せている。そしてグレースはただ、美味しいとだけしか言えなかった。

 

「グレース。俺はお前にも幾つかの秘密を打ち明けると言ったな。俺は伝説に語られるような複数のジョブを持ち、エレーヌの神殿のようにジョブを変える力がある。そしてこの秘密を話す以上は外に出す訳にはいかんし、秘密を守らせる以上は良い暮らしをさせるつもりだ。迷宮でも屋敷でも色々と面倒な注文をするつもりだ。まずは色々と覚えてもらうぞ。この料理の味も作り方もどうやったら美味しくなるのかもだ」

 

「はい。旦那さま。何なりとお申し付けください」

 

 グレースは奴隷として生きていく以外に道を知らない。

 

その事を態度からなんとなく理解した昭信は力強く断言して反論の余地を残さなかった。『俺に従え』『もう迷う必要はない』それだけ告げると、やはりいつものようにグレースは頭を下げた。そこに変化はないのかもしれない、だが、これからも変わらぬ姿を見せるという確信もあった。細かい事はこれからゆっくりと知り合う事になるだろう。今はそれだけで十分だと昭信はようやく思い至ったのである。

 

「さて、この後だが全員で試食を行う。シモーヌは焼き加減に気を付けて肉を焼いてくれ。ルミは塩や香辛料を適当に配分したら、肉汁を使って甘いソースや酸味の強いディップを作ってくれ。グレースは俺と一緒にパイとスープを作る。これは食べ放題飲み放題だから、当日も忙しくなるぞ」

 

「その鉄板の使い方も覚えました。お任せください」

 

「何気に私の仕事量多くないです? いいですけどっ」

 

「お任せください。どんなお仕事でもこなしてみせます」

 

 そして三人娘に仕事を割り振り試食会を始めることにした。

 

もちろん大食漢の多いドワーフのことである。直ぐに食べきってしまい、迷宮に潜って兎のミンチ肉を取りに行こうと笑い話になるのであった。

 

「私は奴隷の両親の下に生まれ、美しいと評価されたためにそのまま売られることになりました」

 

「そうか。美しいのは確かだな。誇る理由も無いのだろうが」

 

「はい。自分では見えませんから」

 

 その日の晩、昭信はグレースの奉仕を受けていた。

 

正式に内陣メンバーに入れてどんな役回りか説明した後で、以前の主人に倣ったことだと、口で奉仕した後でそのまま腰の上に乗っている。彼女のかつての主に関してあまり評価しない昭信であったが、この躾をしている事に関しては評価をしても良いと思った。ただし、平然としゃべるくらいに羞恥心もないので、そこを仕込んでいないあたりかなりの減点である。シモーヌとか風呂に置いた大鏡の前で物凄く赤面するからすごく昂るくらいだ。

 

「それ以外の生き方を知りません。地方の農村にいる自由民の奴隷であったとか後から言われましたが、ペルマスクよりも小さかったと分かるくらいです。こんな私でも……旦那さまのお役に立てるでしょうか?」

 

「ペルマスクで言ったな。それを導けなかった主が悪いと」

 

「はい。確かにそうおっしゃいました」

 

「ならば俺が満足するように仕込むだけだ」

 

 普段よりも口数が多いのは、過去を聞いたこともあるが不安なのだろう。

 

この点に関してルミに共通する部分を昭信は感じた。他の女をたとえ出すべきではないが、自分が捨てられるのではないかと不安がっている部分は同じだろう。芯が強いから同じなのではなく、何も無いから伽藍洞であるグレース。この点において不安が強いのはルミ以上だろう。以前よりも格段に良い生活なのだからなおさらだと思う。そういえば原作でもベスタは最初から奉仕に積極的だったような気がした。

 

「お前に足りない物があるならば俺が教えてやろう。得意分野が違うならば他の奴隷を買って並べるだけの話で、お前が不安に思う事ではない。痛ければ泣いてその事を訴え、心地佳ければ啼いて続きを請えば良い。そしてお前に今言うべき事は唯一つだ『考えるな、感じろ』。ただそれだけで良い」

 

「……はい」

 

 昭信はグレースの頭を撫で、服の上から背中を軽く抱いた。

 

普段は所在なさげなグレースも、今だけは貫かれるようにして昭信と同じ場所に居る。屋敷の主用の大きな椅子があってそこに昭信が座り、その上にグレースが座っている。スカートという飾りは彼女を着飾る物であり、本来の閨であれば不要な物の筈だった。だが、この情事限っては必要不可欠な装飾である。そして昭信は思うのだ。頭飾りやエプロンをもっと早く注文すべきであったと。

 

「奴隷の身分で自ら注文を付けるのは悪い事だと言われたのだろう? だが今は違う。不安であれば抱きしめてほしいと言えば良い。心地佳ければ酔って求めれば良い。俺もお前が欲しければ求めて訴える、人間と違って普段からは貪ろうとは思わないがな。さあ、どうして欲しい? 分からなければ分からないで良い。こういうことは何度もあるだろう。前に言っただろう? 一つずつ覚えて分からなければ聞けと。さあ、どうしてほしい?」

 

「わ、私は……」

 

 少しずつ顔に色を付け、言葉を失っていくグレース。

 

そこには今まであまり知らなかった他人はいない。グレースという個性であり、かけがえの無い仲間としてオンナとして存在している。色々な事を教えて導き覚えて慣れさせていく。特定の方向へ知識や体験を経て偏って教えることを教育と呼ぶ。そして本来は家畜に使うための言葉でありながら、女の奴隷を育てることを『調教』と呼ぶのだ。そんな風に最初は無味・無個性であっても状況や教育に合わせて色を変える彼女を見て、昭信はグレースをカクテルのような女だと思った。

 

こうしてグレースに秘密を打ち明けた昭信は、祭に向けて食材の収集もこなしながら、レベルを上げて百獣王を目指すのであった。




 グレースの話をして、追加で百獣王の話を使用かと思いましたが長く成ったのでグレースの話だけに絞りました。

●ミンチ肉解説!
 というわけでどうして下品なのか、美味しくなるのか、貴族に向かないのかを説明。今回は『柔らかくて美味しい』だけですが、そのうちにチーズハンバーグとかも作ります。

●グレースというオンナ
 原作で言うと一番近いのはベスタですが、竜人族ではないのとで戻りで不安でいっぱいです。外見はエロゲーで出てきそうな黒髪のメイドさんを適当に思い浮べてください。『館物』だと最初の一人か二人目になります。
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