異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

36 / 101
百獣王

 昭信たちはここ最近、二十三層を中心に戦っていた。

 

理由は幾つかあるが、第一はお祭りに提供するための肉を確保するためであった。この階層のモロクタウルスは中層のモンスターとあって二十二層のピッグホッグよりもライバルが少ない。大人気のボスであるボスタウルスだけは別格だが、安定して肉を用意することが出来た。

 

第二にルミが買い物に行ったりシモーヌが領主の館で働く中、ドワーフを含めた全メンバーのレベルを上げるためでもあった。料理人を目指せるアメリアだけではなく、同じ四十代のグスタフやヒューゴを順繰りにレギュラーに入れてバランスよく違和感なく鍛えていく。そしてルミがシュナイドラーの所へ行く時などは、戦士のゲオルグや薬草採取士のミアなどを入れて鍛えたりする。

 

これらは主力である内陣メンバーが本格的に二十三層~三十三層を攻略するための準備であり、それに代わって外陣メンバーが十二層・十三層で戦うための準備でもあった。二十三層からはモンスターとしての格が一段上の相手が出てくる。モロクタウルスは亜人系の敵であり、二足歩行で俊敏性がそこそこありつつ攻撃力も高いので、この敵と問題なく戦えることが今後の条件になっていくと思われていた。装備は整いつつあったが、全員にスキルを付与した武具を渡せていないのもあった。ダマスカス鋼製やオリハルコン製の武具への置き換えも視野に入っている事もあり、ここで一度腰を据えて戦闘訓練しようということになったのである。

 

(ようやく百獣王に達したな。条件は分からんが……。獅子の中の獅子王たるボスを百体倒すあたりかな?)

 

 戦いに慣れ四人での特訓に切り替えた頃、昭信は獣戦士のレベルが50に達した。

 

メインで動かしているジョブは現在、獣戦士50/英雄47/ソードマスター44/剣豪12の四つ。五つめのジョブを順繰りに交代させて探索者などのレベルを上げ、ボスに挑む時だけ50レベルに達した剣士を戻していた。だが、これでもう剣士はお蔵入りかもしれない。そう百獣王のジョブを得たのだ。

 

『百獣王』

 

・能力値

敏捷:大成長。体力:中成長。器用:中成長。腕力:小上昇。

 

・スキル

モータルストライク。ビーストロアー。クリティカル発生(※)。

 

(能力は順当に上がって欠けていた腕力が補われたというところかな? スキルの方はモータルストライクは百獣王の痛恨撃だろうからいいとして……ビーストロアーは獣の咆哮って意味だよな。これはなんだろうな……ターゲット指定はないし本命が強化系で、対抗が敵に麻痺を付与。穴馬で範囲ソニックブーム……はないか)

 

 基本的に理解できる構成なのだが、一つだけ不明な事がある。

 

ビーストロアーの使い道が分からないのだ。ターゲット指定がないことから、自己強化や全体強化、あるいは相手を驚かす効果に思えるが迂闊には試せない。あえて言うならば猫騙しやドラゴンブレスの如き遠距離攻撃ではないだろうという程度である。

 

(まあ良い。ボス部屋で使ってみれば分かることだ。麻痺だとしたら三割ほどだから早々成功はせんが、試すだけなら損じゃない。自分たちを高揚させる効果なら使ったら分かるだろう)

 

 バフにせよデバフにせよ、使いどころを選ぶスキルなのかもしれない。

 

だが昭信には詠唱省略があるので移動中に試すことが出来る。一時的に獲得経験値を十分の一に落とし、6thジョブに変更し獣戦士50/英雄47/ソードマスター44/剣豪12/探索者42/百獣王1へ。能力を試すためにボス部屋へと向かい、暫し順番待ちを経た後で戦う事になった。

 

「先ほど新しいジョブを得た。試してみるからいつも通りに雑魚の足止めを頼む。まずは右から行くぞおおおお!!」

 

「「「はい」」」

 

 前のチームが終わったところで昭信は最低限の説明をして侵入。

 

二十三層以降から増えた雑魚の片方を三人娘に雑魚の一匹を任せる。そして『ビーストロアー!』と念じながら雄たけびを上げて、右側に居るモロクタウルスへ向けて走り始めた。

 

(オーバーホエルミング! いつもなら倒しきれない筈だがビーストロアーが強化バフなら……駄目か! ええい!)

 

 モロクタウルスが突進態勢に入ったところで昭信はオーバーホエルミングを使用。

 

裏手に回りつつ斬りつけるが、倒せないのでもう一撃入れてトドメを刺した。そしてオーバーホエルミングの効果が切れる前にステップを掛けてボスタウルスに対し向き直ったのである。

 

「判るか? お前を喰らう者の力が! 死にたくなければ……掛かって……こい!」

 

『モ゛ッ!』

 

 拳で無造作に殴り掛かってくる一撃を昭信は受け流した。

 

どうみても脅威としか思えない牛人間を冷静に……いや高揚した想いと目で睨み返した。拳を受け流した際の力強い衝撃に負けることなく、剣を掲げ直して次なる一撃に全身全霊で備えていく。

 

(あし)の獣のもののふの、百鍛百煉の力を行使する。致命! モータルストライク!!!」

 

 そして心のままに詠唱呪文を高らかに唱えていった。

 

もはや詠唱省略は不要であっても、彼の心が欲しているのだ。そこに三人娘へ聞かせるアリバイ工作などという思いはない。これぞ百獣王の痛恨撃、いやさ会心撃である!

 

『オ゛ッ? オオォォ!?』

 

(浅かったか? いや、集約し過ぎたというべきか。なるほど、渾身の力を一か所に叩き込む攻撃技か。スマッシュと同じで使い勝手は悪いが強力な一撃であることには間違いないな)

 

 その一撃は防ごうとしたボスタウルスの腕を千切り飛ばしていた。

 

その余波で切っ先の当たった腹を切裂いているがそこで止まったようだ。その動きはさながら獣が獲物を仕留めるために急所を真っ先に喰らうようなもの。ビーストアタックに勝る威力を一か所へ叩き込む部位攻撃であった。モンスターはその状態に躊躇もおそれもしないが、同時にバランスの取り方を学習もしないであろう。昭信がトドメを刺すのに何の問題もなかった。

 

「マスター……今のは? 新しいジョブの力との事ですが」

 

「御屋形さま! 百獣王の力を手に入れられたのですね! 獣の王は我らを率いて迷宮を喰らうと言われております! たとえ羊の群れであろうと、獣の王が号令を掛ければ恐れずに進む猛者となるのだとも!」

 

(なるほど。士気高揚で状態異常を受け難くするのか。考えてみれば恐怖による麻痺判定はドラゴンロアーで竜騎士の中位ジョブの方がそれらしいよな。問題はレベル%ほど加算するのか、それとも一回だけ防いで終わりなのか判らんが……詠唱省略さえあれば無駄になる事はないだろう)

 

 ルミはよく分からなかったようだがシモーヌは見知っていたようだ。

 

幾つかある可能性のうち恐怖による麻痺判定をドラゴンロアーが担っているならば、ビーストロアーは当然ほかの力だろう。要するに獣の遠吠えで己と仲間を昂らせて集団で狩りをするための力だ。それが威力を強化するバフでは無かったので、どれほど効くのか分からないが状態異常に掛かり難くなるのだろう。

 

「そういう事だ。ただ雄たけびを上げるなら周囲に敵がいる時には使い難そうだな。目の前の敵だけだと分かっていたり、どうしようもない時に恐れずに戦うためのものと弁えておくか」

 

「どんな困難も我らが御屋形さまを支えればなんとでもなるだろう!」

 

「マスターやシモーヌさんのおっしゃる通りでよろしいかと思います」

 

「いずれにせよ旦那さまに従うだけです」

 

 素で高揚しているシモーヌに対してルミとグレースは特に変わっていなかった。

 

やはりこれはシモーヌが狼人族であることに起因しているのだろう。種族ジョブは花形であり何年も戦い続けて到達できる百獣王と共に戦えるのは、それだけで狼人族にとっては凄い事なのだろう。もし伝説の最上位ジョブに至る事が出来れば、もしかしたら信仰の域にまで達してしまうのかもしれない。

 

 こうして順調に成長しつつある一同だが、幸運ばかりではない。

 

だが経験の積み重ねと装備の充実があれば想像できる範疇の問題は何とか対処が出来るものである。この日は百獣王のジョブを昭信が得た成果とは別に、ちょっとした不運に見舞われていた。

 

「T字路の左右から同時に敵が来る。左を俺が倒すから、右側を止めろ!」

 

「御屋形さま。お任せください。突入戦を行う! 続け!」

 

「「はい」」

 

 昭信は何度も進んだ二十三層の中でもT字路にてその臭いを感じ取った。

 

この階層はボスは大人気なのだが道中はそれほどでもない。それは十二層のピッグホッグより倒し難い事と迷宮の構造上、どうしても今回の様に同時に襲われる可能性もあるからだ。未熟な者がそういった危険を避けることでこうした危険もまた増えるという悪循環に陥るのだ。

 

「四体が魔法陣を!? みなさん注意してください」

 

「一人一体は確実に潰して! ラブシュラブだけは確実に仕留めろ!」

 

「はい」

 

 三人娘は一番後方のルミが全体を報告してシモーヌが指揮を執る。

 

グレースが左から二体目に居るモロクタウルスを強権の鋼鉄盾で殴りつけ呪文をキャンセルさせると、真ん中のラブシュラブに睡眠の鋼鉄剣で狙い始めた。同様に右から二番目のモロクタウルスをシモーヌが強権の鋼鉄剣で斬撃を浴びせ同じく魔法陣をキャンセルする。二人が前衛に立っている間を抜け、ルミが持つ強権の鋼鉄槍がラブシュラブを貫いてなんとか魔法陣をキャンセルしたのであった。

 

「魔法。来ます」

 

「格闘戦の個体は任せなさい」

 

 奮戦する三人娘だが全てを止められたわけではない。

 

グレースは左端のモロクタウルスからファイヤーボールを喰らってしまう。魔法陣を展開しなかったのでフリーにしているモロクタウルスの攻撃をシモーヌがなんとかチェインメイルの厚い部分で受け止め事なきを得た。迷宮に挑む以上は無傷とはいかないし、このように左右から敵が迫る時には当然のように攻撃を受けていたのだ。

 

「無事ですかグレース!?」

 

「私は問題ありません。旦那様は?」

 

「分かりません! ですが既に音は聞こえません! もう終わっている頃かと思います!」

 

 負傷したグレースを気遣うシモーヌだが当人は昭信の方を心配している。

 

そんな二人に音で判断したルミであるが、これまでこういう時に昭信は少数の方へ突っ込んで即座に戦いを終わらせていた。男だから困難な方を担当するなどいう思いはない。確実に殲滅し即座に事態を変転させる事こそを得意としていた。ゆえにルミはその過去例を伝えて二人を励ますのだ。

 

「ならばこのまま抑え込む! 四体も魔法陣を展開するなどまずない。確実に足止めするぞ!」

 

「「はい!!」」

 

 思えばこのタイミング程の不運はあまり味わった事はなかった。

 

左右から挟み撃ちを受け五体フルで居る敵の中から四体も魔法陣を展開する。しかも格闘戦を得意とするモロクタウルスの下へこちらから飛び込み、必死で魔法陣をキャンセルするなどそこまでの経験など無かった。この危機を乗りこえた事が彼女たちを成長させるだろう。そして……。

 

「待たせたな! 殲滅する!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 昭信の合流で一気に事態が急転する。

 

跳躍力を二倍にした彼が飛び込んでモロクタウルスの一体を切り捨てたのだ。声を掛けている間に向こう側に回り込み、二体目を切りつけてこの程度の苦境など何でもないと見せつけていた。

 

こうして著しく成長した一同は、次の飛躍のために準備を始めることになる。今回のお祭りはその為の期間となるだろう。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。獣戦士50レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

獣戦士50/英雄47/ソードマスター44/剣豪13/百獣王3

 

薬草採取士27/神官27/料理人30/剣士50/探索42(四人の時は上記と入れ替え)

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

/装備

・強権の鋼鉄の剣(詠唱中断、MP吸収、防御無視40%)

・鋼鉄の鉢金(空き、空き、空き)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、空き)

・鋼鉄のガントレット(空き、空き、空き)

・駿馬のデミグリーヴ(移動力増強、跳躍力増強、精神二倍)

・よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師35

/装備

・強権の鋼鉄槍(詠唱中断、空き、空き)

・鋼鉄のオープンヘルム(なし)

・鋼鉄の胸当て(なし)

・鋼鉄のグローブ(なし)、

・鋼鉄のデミグリーブ(空き、空き)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士31

/装備

・つむじかぜのシミター(旋風剣 、詠唱中断、HP吸収)、

・鋼鉄の盾(空き、空き)

・鋼鉄の額金(空き、空き)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、睡眠耐性)

・鋼鉄のガントレット(空き、空き、空き)

・加速の鋼鉄デミグリーブ(移動力上昇、空き)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者22レベル

/装備

・睡眠の鋼鉄の片手剣(睡眠添付、麻痺添付、空き)

・鋼鉄の盾(詠唱中断、空き、空き)

・竜革の頭巾(空き)

・竜革のジャケット(空き、空き)

・竜革のグローブ(空き、空き)

・竜革のブーツ(なし)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

資金。36万6000ナール

 

小口現金。3000ナール(常時調整)

 

●特記するべき事項

スキル結晶。蝙蝠。蟻、はさみ式植物、ヤギ、コボルトx1、貝。(コボルトx3枚・灌木・羊、牛、芋虫を入手予定)

スキル結晶関連メモ。コボルトx3、灌木、芋虫x3、羊、兎の入手。コボルトx3・灌木の再発注。

 

装備関連。装備再編計画の開始(ダマスカス鋼製・オリハルコン製・聖銀製・竜革の買い直しなど)

 

・青魔結晶の蓄積中。

 

・銅貨はルミがまとめ、奴隷たちの小遣い銭に。鏡製品の購入契約、新技術の継続的譲渡契約(残り50万ナール分の代価)

 

・予備スキル装備と公式装備一式などは外陣メンバーが使用中(エレーヌ用の装備は除く)

 

・主要メンバーの装備で(なし)や(空き)は盗賊からの戦利品や、街で見かけて三割引きのために購入した物。




 というわけでようやく百獣王です。

●今後
 次は勇者(書籍版)と、ソードマスター(剣匠級)がソードマスター(剣術指南級)ですが……派生職なので結構かかりますね。三人娘はもっとかかりますけど。まあ、今回の「祭の裏側」みたいな長期の育成期間があっても不自然ではない流れを入れて、ハクスラ以外をしながら経験値を積む感じになると思います。

●『百獣王』
・能力値
敏捷:大成長。体力:中成長。器用:中成長。腕力:小上昇。

・スキル
モータルストライク。ビーストロアー。クリティカル発生(※)。

『モータルストライク』
 基本的にはビーストアタックに準じるが一点集中でダメージが入る。
このため、人間であろうがモンスターであろうがバランスを崩すので戦い易い(四足歩行・六足歩行などは除く)

(あし)の獣のもののふの、百鍛百煉の力を行使する。致命! モータルストライク!!!」

獣から悪、どちらも強い相手を示す古語。八十に祈った討伐宣言から、百鍛百煉の訓練を積み上げた実力行使に変更。

『ビーストロアー』
 味方に勇気を与えるのでブレイブロアーとも呼ばれる。
威力はないが状態異常への抵抗力を短期間上げてくれる(レベル%だけど数ターンなので短い)。基本的には使い勝手が悪いのだが、詠唱省略が強くしてくれる。

 能力値は獣戦士に無かった腕力を追加。もうちょっと足すとか移動力足そうかと思いましたが、獣王おおいスキルを追加しました。竜騎士の中位ジョブは作中で語っている通り、ドラゴンロアーでダメージ無しだけで範囲麻痺判定。この辺はソードワールドというかロードス島世代なので。

剣豪のスマッシュもですが、モータルストライクはバランス悪くて状況を選ぶけど強い。にしています。これはいつでもスキル連打してボスを一撃とかにはしないためですね。

●装備
 スキルはスカスカですがようやく揃ったので記載。
そろそろ付与を行き渡らせたいところですが、上の装備も欲しい感じ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。