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村の広場のようになった場所でちょっとした祭が開催された。
そこは賦役で拡げられた場所であり、そこに薪や石などを集めて管理したりもする。そんな場所にテーブルと屋台を並べ竈に大きなスープ鍋が幾つも掛けられていた。
「この度はみなの活躍もあって村の外に徘徊していたモンスターや、盗みを働いていた盗賊団を退治出来ました。せめてもの宴を催したので今日は楽しんでほしい。乾杯」
「乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
エレーヌが出来るだけ強い言葉を使って断言した。
もうこの村は平和なのだとモンスターがうろつくことはないのだと告げる。商人くらいしか知らなかった盗賊団もいつのまにか退治されたのだという。それはそれで嬉しい事だろうが、何も無い村だからこそ後先考えずに食べられる食事はそれだけで御馳走であった。
「アキノブさま、ありがとうございます。おかげで祭にこぎつける事が出来ました」
「俺のやったことなど大したことはないさ。ただ提案して率先して材料を集めただけだ。領主家の……いや、エレーヌが居なければ何をやっても無駄だったろう」
昭信の傍で彼に聞こえるようにだけささやくエレーヌ。
そんな彼女に自分のやったことなど大したことはないと昭信は言ってのけた。それはお世辞と言うよりも実感だ。元の世界での彼は誰かに声を掛けて大きなことをしようとして成功したことはない。部活やスカウト活動で後輩に指導することはあっても、文化祭だとかオリエンテーリングの類で多くの人に囲まれた事などなかったのだ。
「そう言ってくださると嬉しいです。……あ、そういえば百獣王に成られたのですよね。おめでとうございます。百獣王のジョブにはどうやって成るのですか?」
「難しいな。故郷では冗談交じりに『ソレを聞く奴は成れん』と言われたものだ」
そして囁くような状態を維持してエレーヌは百獣王について話をした。
特に伝えてくれなど言わなかったが口止めもしなかったのでシモーヌが『ここだけの話』とエレーヌに教えたのだろう。秘密の話であるかもしれないので囁くように尋ねているのだろうが、本当に聞きたかったら領主の館で尋ねたはずだ。ゆえにエレーヌがおしゃべりしたいのだと理解して昭信は同じく囁くように冗談を交えた。
「……えっと、聞くような奴は成れないですか? 私には……無理ですか?」
「冗談だと言っただろう? 武功を為し武人たることを求める者の中には何も考えずに暴れ回っているとしか思えない者が居る。そういう奴が叫ぶ言葉を聞いて『さっきのはどういう意味だったんだ?』と聞いたら『ソレを聞くような者には分からん』と言われることがあるんだ。そこから派生した冗談の一種だよ」
エレーヌが自分には無理だというなんてショックだ……みたいな返しをしてきた。
興味本位で聞いたわけではなく話題造りのためだから本気で悲しんでいないのも分かる。昭信はクスリと笑って誤魔化しに使ったミームを冗談交じりに説明した。ただそれだけを説明したのでは話が終わってしまうので少し付け加えることにする。言葉のキャッチボールは相手の関心事を交えて投げ返す事だろう。
「エレーヌがドレスのために費やした努力は俺には分からない。今日みたいなお祭りを考えてのことか、俺に見せてくれるつもりだったのか、それとも家に伝わる物なのか。今日の準備も合わせて『どうなんだい?』と尋ねるようなもんだな。似合っているとしか言いようがない」
「あ、ありがとうございます。これは両親が遺してくれた晴れ着なんですよ」
「そうか。良い御家族だったのだな」
「はい……」
昭信は初めて見たドレスを着たエレーヌを褒めることにした。
死んだ両親が遺したと聞いて冥福を祈る意味も含めてその決断について触れた。こちらの世界での基準に合わせたドレスの良し悪しなど分からないので、スペアである娘に色々と用意してやる貴族の親という時点で優しい人だったのだと思う他はない。家に伝わる礼服などをきないのは貴族の会合ではないからだろうが、自分に見せるためだと思って微笑むくらいしかしようがなかった。
「御両親といえば『エレーヌ』という名前の由来は神殿にあやかったのだと思うが、どうしてその名前を? 差支えなければ教えてほしいのだが」
「アキノブさまの御言葉通りあやかったのです。エレーヌの神殿で巫女や男巫を集めた際に、母は推薦を受けて修業したことがあるそうです。特殊な才覚があったそうですが、『アキノブさまのように大成』出来なかったとか」
「……なるほど。幾つか条件があって、最初の段階を越えた者を集めていたのか。いきなり不躾なことを聞いてすまない」
話を続ける意味もあって昭信はエレーヌの名前の由来について尋ねてみた。
原作でその人の持つ天職と言えるジョブに変えることのできる『エレーヌの神殿』という神殿があると言われていた。キャラクター再設定について誤魔化すために話をしたこともあるが、どうやらエレーヌの母親が実際にその神殿で修行まではしたことがあるらしかった。
「いえ、構いません。しかし複数の条件というものがあるのですね」
「たとえば他人を見ただけでその人のジョブが分かる者も居たそうだぞ。武装や服装だけではなく、筋肉の付き方や歩き方で他者を計るような日常だったのだろう。同じように武器や防具の名前を商人たちの鑑定のように分かる者もいたらしい。おそらくはそういう人間をたくさん集めて特定の修行を施し、特訓を重ねて運良く覚えた者を継続して育てていくのだろう」
エレーヌが適当に切り返した言葉に昭信は想像を交えて付け加えた。
ボーナススキルの『鑑定』に関しては話のとっかかりに過ぎないが、もしこの世界の住人でも『ボーナスポイントの振り分け』が可能であるとしたらどうだろうかと考えたことがある。ロクサーヌは子供のころからニートアントを倒しレムゴーレムを倒して敏捷性を鍛えていた。その為に臭いを覚えていたし、主人公に買われてからも妙にこだわった買い物をしていた。そういった感じで『過度の偏った修行』の結果、ボーナスポイントが割り振られるのではないかと思ったのだ。同じようにセリーも妙に知識があって腕力もあった。能力値の振り分けは簡単で、鑑定などは難しいと思えばスロット説が存在するが、後続がいないので説が廃れた理由も分かるのである。
「修行ですか……私も魔法の修行をしておりますが、『アキノブさまのよう』に可能なのでしょうか?」
「呪文を暗記して動作と共に出来るようになっても呪文名は必要みたいだな。これを詠唱短縮と呼ぶのだと習ったが、その先にまったく無言で可能とした者もいるという。詠唱省略と言うらしいが本当に可能なのやら。そこまで行かずとももしエレーヌが詠唱短縮を覚えたら俺に教えてくれ」
「はい! その時は私がアキノブさまにお教えしますね!」
どうやらシモーヌは昭信が呪文を早口で喋れるというのも話したらしい。
そしてある程度の完成形を知っていて、それを目指しているから迷いが少ないのだとエレーヌは判断したようだ。それが可能かは分からないが、暗記するのも早口で唱えるのも可能なので、もしかしたらエレーヌにも可能かもしれないと伝えたのである。
「御領主さま。この者たちがご挨拶したいと申しております」
「旦那旦那! 爺ちゃんたちがあいさつしたいってさ!」
((おのれ~!!))
なお、二人で和やかにヒソヒソ話をする機会は残念なことに続かなかった。
町の有力者であったありドワーフのビヨルンが山から下りてきた老齢のドワーフたちを紹介して中断されることになる。昭信とエレーヌはいつになく話をしていたこともあり、共に周囲の環境へ軽い怒りを抱いていたという。
「この人たちがオイラを育ててくれたのも同然の、山の商店の爺さんたち。爺ちゃんたち、この人が今のエライ人だよ。とても良くしてくれるんだ」
「ビヨルンちゃんから聞いておりますぞ。いずれ奴隷からも解放してもらえると」
「それは彼らが努力ですよ。腕を鍛え小遣いを貯めていればいずれは可能でしょう」
「へへっ」
知らなかったがビヨルンは身寄りが最初から居なかったらしい。
山の町内会の老人たちに厄介になり育ててもらった恩代わりに疫病のために薬代に自分を売ってくれと奴隷になる事を申し出たそうなのだ。もっとも彼らの伝手で万屋としてあちこちで働いていたそうなので(ルミの鉱山もその一つ)、いずれは身を持ち崩して奴隷になるか犯罪者になるかであったと思われる。それを考えたら、待遇が良い場所を見つけて自分を売ることで最高のアピールしたと思えばかなり要領の良い男であると思われた。
「爺ちゃんたち。旦那は面白い商売があったら手を貸してくれるそうだぜ。爺ちゃんたちがやってる商売で畳むには惜しいってのがあれば、誰か紹介してもらうのが良いんじゃねえかな」
「そうじゃのう。どうせワシらも孫が無事なもんばかりではないしのう」
(つくづく都合の良い奴だ。だが俺に対しても爺さんたちにも不義理はない。『憎めない奴』というのかな? まあ気軽に犯罪をするとも思えんし、高価なスキル武器が持ち逃げできるような緩い警備にさえしなければ問題ないだろう)
ビヨルンと爺さんたちの会話を聞きながら昭信は思わず苦笑した。
なんというかビヨルン自身の手札は使わずに、両者の間柄をつなげて利益をもたらしている。今のところは悪いようには思えないし、援助すると言っても無条件に金を渡したり購入契約をするような話にもなっていない。おそらくはこういう感じで話を探して紹介するのが上手いのだろう。昭信は最低限の警戒をする事で犯罪しようと思わせないように注意しつつ、様子見をしようと心がけるのであった。
「大将! グミスライムってのが酒の材料を落とすそうだぜ! しかも女将の言う話じゃ、倒すためのコツがあるそうだ」
「コツ? ああ、アウグストの言う方法かどうかは分からんが心当たりはあるな」
暫くして別のドワーフが声を掛けてきた。
酒飲みで酒屋の女将にコナを懸けているアウグストだ。女将自身は少し離れた場所で控えているので遠慮しているのだろう。こちらに気が付くと会釈のようなものを返していた。
「もしかしてスライムのあの動きは防御行動だから、魔法以外でも隙を突けば倒せるという話じゃないか?」
「なんだよ知ってるのか! 流石は大将だな! 今度はスライム狩りに励むぜ!」
「何でもは知らんぞ。知ってることと確認したことだけだ……まあ程ほどにな」
アウグストの話はそれで終わりらしく、女将の方に戻っていった。
こちらはこちらで自分の都合が良いように話をしてくるが、やはり昭信の為にもなるので悪い気はしなかった。それに彼だけの気付きではなく、第三者視点が入ることで自信がついたとも言える。
「グミスライムですか? 修行時代に難儀した覚えがあります」
「シモーヌも飲んでいるか? まあお前の場合は修行で観察するために立ち寄っただけだろうからな。倒すためのコツを身に着けてなくても当然だろうな」
暫くしてエレーヌの警護や有力者と逢っていたシモーヌがやって来た。
ご機嫌伺いと同時に巡回でもあるのだろう。みんな酒を飲んでいるのでそろそろ騒ぎ出す奴も出るからだ。
「ただ、ちょっと考えてみてくれ。グミスライムは魔法が苦手だから三発か四発のストーム系を放てば全滅すると言われている。それは確かだが、グミスライムと遭遇するために魔法を使うのか? 魔法使いが居ないか育っていなければ避けるだろう。だが、育っていても階層全体で何十発も魔法を放つ必要があるのは面倒なんだ。逆説的に言えば、コツさえ知っていればその階層は稼ぎ場になる」
「あ……ああ! そうですね! 私は直ぐに次の階層へ行きました。なるほど!」
原作主人公は魔法連打で突破したし、あくまで途中経過でしかなかった。
攻撃魔法の脅威やら迂闊に戦うと取り付かれて溶かされて死ぬという問題を定義するための存在でしかなかった。だが、普通の探索者にとっては越えるべき壁の一つなのだ。少しずつ鍛えていかねばならないし、一稼ぎするには酒の材料になるグミスライムは悪くない相手だろう。
「それでさっきの話に……」
「ああ。思い返せば尊師は伝国の聖剣で一刀両断しておられた。グミスライムの粘性と物理攻撃に対する耐性が防御行動ならば、対処は可能なんだ。属性剣を増やす以外にも色々やりようはあるという事だな」
デュランダルで倒せるという事は攻撃力が高いか、防御無視で何とかなるということである。物理ダメージ削減以上の効果が常に存在するとしても、防御無視があるならば通用するという事なのだから。
こうして昭信たちはちょっとしたお祭りを終えてリフレッシュするのであった。
という訳で背景にあった村祭りが終了。
そのついでに何人かと交流しております。
●『チェスト聞くような奴は』
百獣王の条件なんか分からないのでミームを使って説明しています。
まあ仮にボス百体倒せとして、この世界に転生する人なら可能ですよね。誰も説明できないないだけで。
●エレーヌという名前
『あやかり名』というやつです。聖人や天使の名前にあやかって名前つけるやつ。最初に名前を狼人族をケルト系、ドワーフをドイツ系で探した時にシモーヌとかエレーヌとか見て、他がしっくりこないのと、今回の『母親がエレーヌの神殿で修行していた』『そこで修業した人は結構この名前を付ける』というネタで、ヒロインの背景を深堀する為に用意して居ました。まあ、『思いついたからと言って、混乱するから避けるべき』と言われたらその通りなので、仮に話を位置から作り直すならば『エレン』にするでしょう。
●現地人でもボーナスポイントは貰える
前にちょっとだけ可能性を考えた話がありましたが、今回の件で『拙作では確定事項』としておきます。でも、『特訓しても必ずしもBPもらえない。国中から集めても育たないかもしれない』というマイナス情報も同梱。ロクサーヌとかセリーを見て居て、特訓で成長自体は可能なのだと思えたのがその理由です。
●おのれ~。
良い雰囲気を壊されると怒りを覚えるガンパレードマーチを思い出しました。そして会話していると、妙なコツを教えてもらえるのです。
グミスライムに関しては語られている脅威度の割に、三階層も出て来るので強過ぎるのですよね。主人公はアッサリ倒して居ますし、次々倒して階層突破してますが、普通なら何年も倒す相手です(他の迷宮行けば良いのですが)。それを考えたならば、対処手段が魔法以外にあってもおかしくはないでしょう。なので、次回グミスライムを言い訳にその辺の話をします。防御無視とか毒とかは、この話も含めて前々から考えて居た結果ですね。