異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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フラグ

(これがフラグというやつか……しかも五スロットの()だと)

 

 世の中にはフラグという物がある。まさかと噂話をしたら本当に起きることだ。

 

この日は大市だからか色々と被る日で、ペルマスクでもオークションがあると聞いて昭信が買い物に訪れていた。その途中で寄った武器屋に珍しい……というか、見たこともない素材の槍があったのだ。その名も『真鉄の槍』でスロットが五つも空いているという見事な武器である。現状で槍を使っているのはルミだけで今のところは詠唱中断だけで良し。いずれ付けるにしても後回しでFAした直後であった。

 

「どうした兄ちゃん? 難しい顔をして」

 

「こいつは察するに聖銀以上オリハルコン以下の槍だろう?」

 

「良く判るなあ! 仕入れたばかりの業物だぜ!」

 

 スロット数から察しただけだが何となく想像が出来る。

 

この世界の装備は武器と胴鎧に盾が妙に高く四肢の防具は一割~三割と妙に安い。これは素材の量が問題であり、敵を速やかに倒すための武器は人気があるのでその分だけ高くなる。次に同じ中層で採れる四スロット素材であっても雑魚(竜だけど)から採れる竜革とボスからしか採れず武器にも使うダマスカス鋼ではダマスカスの方が高額なのは当然だ。何が言いたいかというと、五スロットの武器であるこの槍は異常に高額だという事である。

 

 

「となりに置いてある聖銀のサーベルと出来栄えが逆だったら即買いなんだがな」

 

「そこまで判るのかい!? そいつを置いていった奴が言うにゃあ最高傑作には及ばないって話だったぜ」

 

 昭信が難しい顔をするのは聖銀の剣も置いてあることが影響している。

 

こちらはスロットが四つで確かに最高傑作ではない。鍛冶師なのか隻眼なのか分からないが相当な腕前なのは間違いないだろう。もし槍と同じ作者ならば隻眼である可能性がかなり高いというべきか。槍に関して欠点があるとしたらかなり重い。百獣王や剣豪を付けてなくても持てるのでルミも持てる筈だが、後衛にはとうてい向かない槍だ。十全に使うには竜人族かドワーフ族でないと難しいだろう。

 

「幾らだ?」

 

「槍が五十万ナールで剣が二十五万と言いたいが……二十四万でいいぜ」

 

「相場自体が二十万から二十五万だろ。そこは自信を持って言っとけ。でないと『いきなり値切れるということはもっと安く売れますよね』と言えるだろうが」

 

 昭信がどうして悩むかというと、計画では槍の優先度が低いからだ。

 

シモーヌ用とグレース用の片手剣を探していたのだ。シモーヌの方は属性剣を付けるので聖銀製で出来ればスロットは五つ、グレース用はダマスカス鋼製以上でスロットは四つ以上で五つならば上出来。それぞれの役目を考えるとその辺りが最終的に落ち着く武装だと思われたのである。まさか後回しにしていたルミ用の槍が先に見つかり、シモーヌ用の聖銀の片手剣が四スロットだとは思うまい。

 

「それもそうだな! ガハハハハ。まあ兄ちゃんなら言わねえだろ」

 

「槍と同じ素材で両手剣か片手剣、聖銀なら槍なり杖は無かったのか?」

 

「あるにはあったがオークションに出しちまったよ。威力の強い両手剣と魔法の上がる槍は人気だからな。こいつらは質は良いけど値が上がらねえからここに置いてんだよ。理想的なのは聖銀製のロッドなんだろうが流石にそいつは無かった」

 

 昭信が難しい顔をすると店の主人は大笑いした。

 

当然と言えば当然だが、誰もが欲しい武器はオークションで物凄い値段が付くものだ。オリハルコンの大剣が百万以上としたら真鉄の大剣は七十万くらいまでは値が付くだろうし、どう考えても六十万を切る事はあるまい。聖銀の槍も後衛が持つには理想的な武器で、ひもろぎを付けてもMP吸収を付けても良い武器である(なんなら両方付けても良い)。原作で仲買人が共謀したように底値を付けなければ二十五万以上は軽くするし場合によっては三十万はするだろう。

 

「確認するが一日取り置きできるか? オークションを見てからにしたい」

 

「馬鹿言え。値段を下げたのはオレもオークションに使う金が欲しいからだよ。あんたなら出しそうだから話を持ち掛けてるんだ」

 

 どうやら以前に工房主であるエックハルトのツケを使った事を覚えていたようだ。

 

信用のある人間の払いが保証されている人間というのは気前が良いから商売がし易い相手なのだろう。こうなってくると難しい話が猶更に難しくなってくる。昭信としてはオークションの商品を見るだけではなく、ルミと相談したかったのだがそうそう都合よくはいかないらしい。

 

(槍の方はスロットが五つあるなら攻撃力二倍と防御無視でも良いし、眠りや毒を付けても問題ない。ルミが使うなら立ち位置的にHP吸収もMP吸収も要らないからな……だが聖銀のサーベルに何を付ける? ひもろぎかそれとも防御無視か……五つあれば両方つけられるんだが)

 

 思わぬ買い物である槍の方は問題ない。だが聖銀のサーベルが悩ましい。

 

盾役であるシモーヌが使う以上は詠唱中断とHP吸収は必須だ。旋風剣以外の属性剣を用意するとして、ひもろぎで魔法剣として完成形を考えるのか? それともアクセサリーに割り振りか聖銀で魔法を強化したことに満足し、防御無視なり攻撃力二倍を付けるかが悩ましいのだ。では次に入荷するかというと原作で聖銀の片手剣なんか見た事がない(というよりも片手剣の使い手が要求する範囲に魔法が無いのでまず見ないのだろう)。

 

「エックハルト氏の紹介があるからな。槍の方は言い値で買おう、残りのツケを全部使うから急いで引き出すと良い。聖銀の片手剣に関しては話が別だ」

 

「まっ。お互いにエックハルトの旦那の顔を立てるってことだな。だが容赦しねえぞ」

 

「ふふふふ」

 

「がははは」

 

 昭信はここで思い切ることにした。工房主との契約は所詮あぶく銭だ。

 

だから思わぬ買い物である槍を言い値で買っても損はないと考える。実は聖銀製の槍とそう変わらないとかオリハルコンの槍より劣る武器だろうが関係ない。スロット五つある槍系の最終装備を手に入れたという事で結論を付けたのだ。その上でツケの話を先に済ませることで店の親父がエックハルトに大幅値引きをしたという事はさせないつもりだった。流石に聖銀の片手剣と合わせて二十万近く値引きしたとなったら驚きもするだろう。だが五十万の商売を終えた後での聖銀の片手剣だけなら違和感が少ない。

 

「片手剣の持ち主がスキル付与を試すとして第一に詠唱中断、次に攻撃力二倍か防御無視だろう。聖銀である必要はないんじゃないか? 聖銀製が欲しいなら手持ちの金をオークションで槍に使ったさ」

 

「そうかもしれねえがそれなら買うなよ。興味があるから話してんだろ」

 

「そうかもしれんが最高傑作じゃないと作者自身も認めてないのだろう?」

 

「武器が最高傑作である必要はねえだろ。なんならダマスカスより上だぜ」

 

 まずは軽い先制パンチ。二十四万よりまだ下がるという確認だ。

 

昭信は買う意思はあるが即決で買うには微妙だと伝え、店の主はダマスカス鋼製の片手剣を買うよりも性能は上であると説明した。ダマスカスの方が仮に十万前後だとするともっと威力が強いのだから当然で一万も値引きすれば十分だという主張である。

 

「ダマスカス鋼製よりどこまで威力が高いのか微妙な評価じゃなかったか?」

 

「馬鹿言え。その僅かな差を探索者は求めてるんだろ。お前さんもよう」

 

 昭信は店の住人が出ていくのを確認しながら話を続けた。

 

重要なのはここで何千ナールかを値切るためではない。工房主に三割引きの能力が悟られない事だ。武器屋の主人くらいならば幾らでも言い訳が利くし、オークション前に金を用意しようと焦っているのは間違いがない。適当なところで他の品と一緒に買えば良いだろう。他の客に詳細の話を聞かれても困るので、小さな金の駆け引きは止めておいた。

 

「確かにな……そこの鋼鉄の短剣と一緒に買ったら幾らだ?」

 

「そうだな。あの槍が五十万か怪しかったし、十七万五千でいいぜ」

 

「なんだ。あの素材の取引をしたのは初めてなのか……まあそれで良いならこっちも構わんよ。お互いに良い勉強になったと思っておくさ」

 

 店の住人がエックハルトから金を引き出しに行った辺りで昭信は折れてみせた。

 

そして護身用というか、ひもろぎと属性剣を付けるグミスライム専用の武器を作るために鋼鉄製の短剣でスロットが二つある物を一緒に買う事にしたのである。

 

「それで武器を三つも買ってこられたのですか? いっそダマスカス鋼製の武器に抑えて、そのお金を防具に回せばよろしかったのに」

 

「言うな。オークションで聖銀の鎧と緋色のマントを見た時はよほどそう思ったさ」

 

 その後にルミと合流したのだが昭信には大きな疲労が見えた。

 

オークションで聖銀の鎧と緋色の外套というフルセットがあり、スロットが微妙であったが魔法を増幅する鎧のフルセットとあってかなり魅力的だった。もしツケがオークションで使えるならば手持ちと合わせて八十万くらいまではチャレンジした可能性はある。もっとも後悔先に立たず。イケてる防具セットに手が出せないのを知っていたので、トカゲと芋虫のスキル結晶だけ購入してさっさと引き揚げたという。

 

「ただまあ、この槍で一人分の完成形が見いだせる。防御無視と眠りに毒を予定しておいて念のために一つ空けるというところかな。その上で毒は有効でなければ付けずに防具に回す程度でよかろう。トカゲの火属性は聖銀のサーベルに付けるとしてそっちはどうだ?」

 

「兎と蟻が一枚ずつです。こんなことならトロールも買っておけば良かったですね」

 

 ルミはルミでオークションに行っており二枚ほどの収穫があった。

 

二人の成果を合わせてからシュナイドラーの下へ発注に行くという流れであったのだ。もし槍の五スロットと片手剣の四スロットを買うと知って居たら購入計画はもう少し変わっていたかもしれない。

 

「注文するのはトロールとつぼ式食虫植物を一個ずつ。人魚・蟻も一個ずつ……いえ防具にも使うなら将来も含めてこちらは二個ですか。竜も二個はあった方が良いかもしれませんがこれは急ぎではありませんね」

 

「そんなところだろう。後はシュナイドラーに結晶の情報を聞けたら考えればいい」

 

 こうして必要な物と将来的に欲しい物を段階的に分類しておいた。

 

現時点では防具の方がガバガバなので、ひとまず武器用の結晶を揃えたら終わりなのだ。それを考えたらエンドコンテンツな武器を手に入れてウハウハしていた昭信であり、その予算を防具に使えば良かったというルミの方が正しい感覚と言える。もっともこれには仕方がないと言える部分もあった。

 

「そういえばこの槍は真鉄の槍と言うそうなんだが知っていたか? 聖銀の上でオリハルコンの下だと思う。真銀や神鉄はともかく真鉄なんかあるとは思っていなくてな」

 

「拝見しますが重いですね……」

 

 昭信はパピルスを取り出して縦に線を描き、横棒を十ほど引いた。

 

あまり上手くない字で八番目の横棒にオリハルコンと記し、五番目がダマスカス鋼の六番目に聖銀と記載してから七番目に『真鉄』と記す。聖銀以上でオリハルコン以下を説明するためだが、実際には他の金属であったり齟齬がある可能性は高かった。

 

「私はあまり知らないのですが鉄と鋼鉄のような物なのかもしれません。マスターのおっしゃる神鉄を作る前の素材であるなどですね。鋼鉄の鎧は大量の鉄に他の材料を添えて作られるのですが、鉱山主の一族の間にはブランチを使って鉄を精錬すると鋼鉄が生まれると伝わっています」

 

「なるほどな。隻眼が作れるのが真鉄で、隻眼よりも上にある伝説のジョブが他の材料を添えれば神鉄になる……というあたりか」

 

 原作のセリーが鉄から鋼鉄が作られることを想像していた。

 

原作主人公はそこで話を終わらせていたが、やはり鍛冶師も似たような作り方をするのだろう。十二層から二十二層までのボスであるロールトロールの落とす鉄で製作するのだから鉄装備が高額なのは当然だ。その上で鋼鉄は腕の良い鍛冶師が補助素材を添えて作れるのだから、それほど金額が離れていない理由もなんとなく分かる。もしかしたら鋼から玉鋼も作れるのかもしれないが、流石にコストに見合わないのだろう(ダマスカス鋼の初期加工であったとしても同じくコストに合わない)。

 

「となると銀にもそんなのがあって神銀と真銀の系譜があり、混ぜ合わせる過程で聖銀が……いや。そんな事を想像する必要はないな。俺たちにとってはダマスカス鋼が当面の目標だ。七十層だの八十層のモンスターと戦うなど想像もつかん」

 

「それで良いかと思います。ひとまずはシモーヌさんの防具を改めましょう」

 

 こうして二人は素材に関する話を打ち切りシュナイドラーの下へと向かった。

 

ちなみに鋼を作るのは鍛冶師の35レベルで竜革は40レベル、ダマスカス鋼に至っては45レベルなので、今は手が届かないし届く頃には製作する理由がない。昭信が狼人族ではなくドワーフ族を選んでいたら話は変わっていただろうが、その時はボスであるロールトロールを乱獲し、その次はドライブドラゴンを乱獲するために苦心していたであろう。

 

●リザルト

・新技術の継続的譲渡契約(代価によるツケは終了)

 

・真鉄の槍(空き、空き、空き、空き、空き)。聖銀のサーベル(空き、空き、空き、空き)。鋼鉄の短剣(空き、空き)。

 

資金。15万7000ナール

 

スキル結晶の入手。トカゲ・芋虫・兎・蟻(オークション)。コボルトx2・羊。

 

シュナイドラーへの発注。コボルトx2の追加発注。トロール・人魚x2・蟻x2・つぼ式食虫植物x2・兎。




 という訳で買い物で五スロットの良い品が手に入りました。
ただし槍というオチですが、片手剣とか鎧だと面白くないのでこうなってます。

●上位素材『真鉄』
 デュランダルの推測のところで「10の素材があるとして」と仮定したので、そろそろ出しておこうかと思いました。いわゆる隕鉄ですね。神鉄が孫悟空の如意棒なので、その下位互換でぎりぎり中位ジョブがなくても持てる品です(竜人族やドワーフなら)。とりあえずネタで出したのですが『そんな金属がある筈がない!』とツッコミが来る場合は、単に聖銀でも構いません。原作ではバラダム家が持ってたのであり得るでしょう。また『ドワーフや竜人族なら何とか持てる』『ペルマスクは金持ちが集まる街なので良い品が入った』というのはありがちなネタだから混ぜましたが、『●●さんが既にやったネタだパクリだ!』というツッコミがあった場合は、同様に修正させていただきます。別の他の町を巡って偶然見つけたでも構いませんので。

●装備の価格
 武器・胴鎧・盾が高額で、手・足・頭は安いという原作の傾向を踏襲。
皮→硬革・鉄 → 鋼鉄・竜革 → ダマスカス → 聖銀 →上位金属 → オリハルコン →それ以上の金属。という価格帯。

鋼鉄の武器が一万五千からにまん、竜革が三万~五万、ダマスカスの剣が十万前後、聖銀が二十万~二十五万、上位素材が五十万、オリハルコンが百万以上と仮定しています。

●シュナイドラー先生との会話
 本当は薬物中毒の親族を治療する契約……とか思ったのですが、面白くなくて止めました。六人目はもうドワーフと仲良くなって、奴隷とか増やさなくても良いかなと。分けあり奴隷が都合よく出て来るのもおかしいですしね(パーティーに入れてレベル上げたら、すぐに死なない体力になるのもおかしいですし)。

●次回以降
 グミスライムとか対処してサクサク次に行くと思います。
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