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二十五層でのグミスライムとの戦い。それはデータ検証が目的であった。
戦い方を変えながら何度か戦闘を繰り返し、疲労とMP消費を考慮して一度撤退。昼食を摂りながら相談し、午後からは第二迷宮の踏破を進めることになった。
「体感的にもグミスライムは物理的な攻撃を六割軽減して、それとは別に防御力も当たり前のように発揮する難敵だ。だが、そういった倒し難いことを予め理解しておけば倒せない相手ではないな」
「御屋形さまのおっしゃる通りですが労力は見合わないかと思います」
「シモーヌの言う通りだが修行だと思えばそうでもあるまい」
「それはそうなのですが徒労感と頭の疲労が激しいと感じます」
グミスライムに対しては物理攻撃が30%~40%ほどしか通用しない。
その事さえ理解すれば倒せない相手ではないのだが、指揮・防衛担当のシモーヌとしては疲れる相手なのだろう。しかも属性剣が有効なので今回は呪文も連打したこともあっていつもの何倍も苦労した筈だ。昭信としてもこのまま戦い続ける気はないしシモーヌの疲労も放置する気は無かった。
「では根本的な方針で解決しよう。今苦労しているのは二十六層のドライブドラゴンと戦う際に苦労しないためだ。もちろん二十七層のノンレムゴーレムと戦う際にもある程度の確率で出てくるからな。戦い方を覚えない内に案内してもらうと必ず苦労するし、ボス周回で詰まることになる。重要なのは勝つための手順を作る事だな」
「要するに手順通りに三手・四手を尽くせば勝てる戦いでしょうか? マスター」
「そうだな。俺が大技を放ち続け、戦いが終われば強壮丸を飲むのでもいい」
「確かにモンスターは学習しませんし、手順を作れば可能でしょうね」
昭信が言いたいことをルミは何となく察した。
これは単純に彼女がスキル付与の担当であり『どんな付与が有効か』を考えていたに過ぎない。他の者はそこまで考えられないだろうし、自主性のないグレースなどは口も挟まずにいる。
「まず考えられるのは属性剣を命中させて毒を付与するような戦い方でしょうか? それを集中的に一体のグミスライムに行うのか、それともどちらか片方で良いから全てのスライムに行っておくのかで変わると思います」
「ボス戦や二十六層以降は前者で二十五層では後者だな。ただ頭で考えただけの正解なので迷宮でスムーズに行くとは限らんだろう。場合によってはルミの持つ槍にも毒や睡眠を付与した方が安定すると思う。その上で何かの攻撃を一回は確実に当てておくというところか」
ルミと昭信は考えた戦い方をそれぞれ語りつつ途中で軌道修正した。
テーブルの向こう側で休んでいるシモーヌがぐったりしているからだ。あれもやってこれもやって、ここから毒や眠りの付与状態まで管理しろというのは酷だろう。原作のロクサーヌだって回避盾として専念しているからこそ平然としているのだ(すごい武器持っていたら涼しい顔で攻撃もしてそうな気もするが)。
「そうですね……私の役目は皆を守ること。その為に魔法陣を確実に潰すための確認を第一にしています。左なら左端に立って右側の者を守りながら目の前の敵に旋風剣を使い、右側にいるであろうルミに尋ねて付与していなければもう一度旋風剣を使う。そのくらいならばいける可能性は高いでしょう。もう一本の属性剣が加わることで、付与の配分を見る心配がなくなるのであれば全員を守りながら戦えます」
「では増やす路線で計画を立てる。その上で急ぐかどうかの話し合いに移ろう」
シモーヌは出来るとも出来ないとも言わなかった。
あくまで今までやって来た行為の延長線ならば問題ないと告げたのだ。迷宮での戦いはコンピューターゲームとは違う。状態異常アイコンなんか存在しないし目に見えて分かり易いわけでもない(石化ですら白っポク見えるだけ)。だから開戦当初に旋風剣を使い、それが終わったら付与しているかどうかを聞かねばならないと正直に告白したのだ。もし今まで通りに仲間を守りながら戦うのであれば属性剣を増やして一人一体ずつの担当が望ましいと告げる。指揮担当であるシモーヌの正直な話を聞いた昭信は即座に決断した。
「かがほの鋼鉄剣を別の者が使って新しい陣形を実験。それが有効であれば聖銀のサーベルを仕上げるために割高で結晶を買うと仮定する。当然コボルトも最大で頼むとしている五枚まで発注し直して最初の数枚だけは割高にするとしよう。ただ二十六層のドライブドラゴンには有効ではないのは確実だ。だからこそ二十六層や二十七層にはライバルが少ないのだからな」
「御屋形さま。聖銀のサーベルは急ぐ事も無いかと思います」
「私もシモーヌさんに賛成です。結局グミスライムだけですしね」
昭信の想定にシモーヌとルミが反対する。
属性剣は聖銀の装備で威力が上がるとはいえ目に見えて強くなるわけでもない。ひもろぎを付けてエレーヌもパーティーに入れば別なのだろうが、現時点では攻撃する回数が大きく減るわけではないからだ。仮に割高で結晶を買うとしても別の結晶を優先する方が良いだろうとの見解である(次のドライブドラゴンが魔法に強いのも大きい)。
「なるほどな。ではルミは午後からシュナイドラーのもとへ行ってコボルト五個の買取への変更と三個目までの高額買取り、蟻・羊・トロールは一個目を高めで頼んでくれ。今のタイミングなら付与に失敗したと思ってくれるだろう」
「それで良いかと思います。第二迷宮はそれほど急ぎませんし丁度良いかと」
こうして昭信はルミが使う槍の完成を優先させることにした。
これでグミスライムに通用する攻撃が増えるだろうし、ドライブドラゴンにも通用する攻撃になるだろう。もしかしたら二十五層での戦いには全てが間に合わないかもしれないが、二十六層・二十七層では活躍してくれるはずだ。
「今回の話を総括するとして、全員で陣形を維持して全員で戦うことをこれまで以上に意識する。こういってはなんだが今までは能力がある者がそれぞれの能力を活かしているだけだったからな。これからは状況に合わせて俺も含めて一体ずつの排除や全体に対する牽制も行う」
「「「はい」」」
昭信はグミスライムとの戦いを経てパーティープレイを見直す事にした。
それは効率よく戦う方法の模索であり、同時に頭で考える程に効率よく戦えないからこその判断である。現実的に可能かどうかを実地で確かめ、少しずつ連携を高めていくことにした。その意味でもドワーフたちを内陣に入れて秘密を語るとは言わないが、少数の相手を選んで連携訓練をする必要が出てきたと考えるのであった。
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「旦那さま。昨日のパンの残りをどうなさるのですか?」
「さっき牛乳と卵に漬け込んでいたやつか? あれを使って菓子を作る。シモーヌが随分と頭を使っていたからな」
昼食を軽く食べたものの少し腹に溜まってない気がした。
そして頭脳を使う会議でもあったことから昭信は菓子というか甘い一品を用意する。メインの素材は前日の堅くなったパンであり、これを牛乳・卵・砂糖を混ぜ合わせた物に漬け込んでいた。
「本当は一日くらい染みこませる方がよいんだろうがな。今回はテストも兼ねて簡単に作るぞ。バターと砂糖を取ってくれ」
「承知しました」
昭信はボウルの中に牛乳と卵を混ぜた物を持ち上げた。
涼しい所に置いていたのだが、液体の中には堅かったパンを漬け込んでいる。この館にはドワーフが何人も居るので大量に交流するのだが、余るから色んな用途で再利用するのだ。以前に作ったラスクもその一つだろう。
「フライパンにバターをたっぷり入れて砂糖も少し入れて温める。ここに漬け込んだパンを入れて焼くわけだが、表面をしっかり焼いていく」
「肉と同じですね。中身を閉じ込めるのですか?」
「ああ。外はカリっと中は柔らかくてより甘くだな」
この世界のパンはボウルよりも大きいので既に四角くカットしてある。
これを肉を焼く時の要領で縦横をしっかり焼いていった。バターの香りも良いが少量の砂糖がカラメルのように焼かれて焦げ色を付けていく。いわゆるフレンチトーストのレシピである。
「しっかり火が通ったら皿に盛りつける。今回は肉のように切って食べるが、小さく切った方が食べ易く味が染みこみ易い。さっきも言ったが一日ほど漬け置きをするのが良いんだが……今の季節に合わないからな。後は牛乳ではなく酪を使うともっと美味しくなるだろう。理解したら半分担当してくれ」
「なるほど。卵は直ぐに傷みますからね。……やってみます」
昭信はレシピを元の世界から持ってきているがそのまま使ってはいない。
夏場に卵を使った液体の中に入れて一日放っておくのが怖かったからだ。それに基本形を話しておいて『工夫』として漬け込み時間の延長や良い材料を使う事を説明する方がよいのもある。ついでにいうと甘い物を作ってシモーヌを労わろうと思ったのが先ほどいうのもあった。
「シモーヌ、ルミ。こっちに来て自分の皿に盛ってくれ。追加で砂糖と蜂蜜を掛けていくといい」
「はい。いただきますね。これは美味しそうです。匂いだけでも美味しそう」
「既に砂糖がたくさん入ってると思うのですが……蜂蜜まで……」
昭信の忠告に従ってシモーヌはガバっと砂糖を掛けて蜂蜜を垂らした。
その様子をルミが二重の意味で顔を青くさせる。砂糖をこんなに使って甘過ぎないのかというのと家計を見ている者としては金額が気になるからだ。
「グレースも遠慮しなくてよいんだぞ。俺は単に甘い物がそれほど好かんだけだからな。タップリいけ」
「いえ。いえ……はい」
最後に調理していた自分達の分を盛るわけだがグレースは三回目で盛った。
それは三国志的に二回は断るべきだと考えたのか、それとも彼女も甘い物は好かずに昭信が推薦するから仕方なく盛ったのかは分からない。彼女はあまり自己主張をしないからだ。不思議と夜のご奉仕には積極的だが……それは捨てられないための方便だと思っておこう。人間だから誰でもエロイわけでもあるまい。
「おいひい……疲れた頭にスーっと染みこんで……」
「あれ? 思ったよりも甘くないですね。追加で欲しくなります」
「塩や砂糖は暖かくなるとまろやかに感じるんだ。酒が入っても同じ感じなので状況に合わせて味付けは強くするのもアリだな。ただし時間が経過するとその味がクッキリでるから後で食べる物には注意が必要だぞ」
普段は厳しい顔のシモーヌが少女のような顔をしている。
ルミの方は意外そうな顔で甘いはずのフレンチトーストを頬張っていた。グレース? グレースなら無言でパンを食べ終わったよ。甘い牛乳だけになった皿を少しだけ寂しそうに見ているのが特徴的だ。
「気に入ったならまた会議の時にでも今度作ろうか。その時には酪や甘い香りのする香辛料を買ってくるとしよう。その方が美味しいからな」
「「「はい!!」」」
そして三人娘の元気な返事を聞いて、午後の行動に取り掛かったのである。
●リザルト
・パーティーの連携強化訓練
・一部結晶買取価格の値上げ通達完了(流石に一日二日で次の結晶は無かった模様)
という訳でグミスライム~ドライブドラゴン対策です。
といっても今まで能力任せで暴れてたのを、系統だってコンビネーション。連携を重視するだけの話ですね。あとは集中攻撃とか、全体に対する牽制とか、頭で考えて会議してるけど上手くいくの? という話の対策と訓練。
●グミスライム
結局、攻撃が通じない訳ではないのがミソです。
原作はストームからのボール連発で楽勝でしたが、あからこそ白兵戦武器は重視しなかった。でもこっちはメイジビルドではないので……という感じですね。
●オマケ
以前の話で結晶の買ってる内容とか予約とか、作中で「買うつもり」「買った」と成って居て、その後に変更してない話がありましたので、修正しております。
またそれとは無関係に、誤字報告ありがとうございますね。