異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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ちょっとした裏事情

「タケダ殿、百獣王に至られたとか。お祝いを申し上げます」

 

「ありがとうございますシュピーゲル殿。故郷を出る時には半年から一年あれば至れるだろうとは言われてました。それに迷宮を攻略するのはこれからですよ」

 

 ペルマスクで工房主のエックハルト・シュピーゲルと会話のお時間。

 

昭信は試験的に獣戦士を複数ジョブから外す決断をしており、ペルマスクを訪れる際にはファーストジョブを一時的に百獣王にしておいた。理由としてはエックハルトの情報収集力を確認するためであり、エックハルトにとって『懇意にしている有力者』としてカード足り得るからだ。『貴族に婿入りする可能性が高い』ではなく『婿入りした後は迷宮を討伐する可能性が高い』に格上げする情報であり、また今後の付き合いに有用性を見出せる流れになるからであった。

 

「それで今日訪れられたのは何の御用ですかな? 御供も居られるようだが」

 

「いささか注意を要する物を持ち込みました。用心のためもあります。グスタフ」

 

「はい主殿。まずはお持ちしましたコレを置かせていただきます」

 

 今回、ペルマスクを訪れたのはガラスを嵌めた木工細工が完成したからである。

 

グスタフがテーブルに箱を置いた物は以前に持ち込んだ覗き窓に似ている。だが箱に嵌めこんでいるガラスよりも、内部に格納された鏡とその角度を調整するレバーのような機構が目立っている。そして箱に嵌めこまれているガラスは上から下に覗くためにも使えるが、その位置に別の何かを置くためにも用いることが出来た。

 

「今回は調整のためもあって絵は一枚だけに絞っています。新しい機能で最も美しく見せられる物に絞りました。もしシュピーゲル殿が販売されるならば、入れ替えらえるように研究なさるのもよいでしょう」

 

「つまり、現時点では他には存在しないというわけですな?」

 

「そのような約束でしたからね」

 

 ペルマスクに存在しない技術的概念を譲り渡す。

 

そんな内容の契約を昭信とエックハルトは結んでおり、代価として白金貨一枚分……金貨にして百枚に相当するツケが出来ることを約束していた。実際に昭信はありがたく限度額まで使用させてもらっていたが、継続的に渡す契約にしていたので完成品を渡す必要があった。エックハルトが納得しないならばもう少し別の技術も渡す必要があるだろう。ここで納得させるとしても、納得しないが待っても良いと思わせるためにも、『百獣王と懇意になれる』という情報を昭信は渡していたのだ。

 

「作らせた木工職人にも詳しい使い方を教えておりませんので、あくまでランタンを利用する前提でおります。それ以上の努力はそちらでなさってください」

 

「可能ではありますが……アレは上層のドロップ品ですぞ。割りに合いますまい」

 

「数を作らない理由を用意して価値を持たせる時の話です。それに手段なら……」

 

「ああ、なるほど。タケダ殿に融通してもらえばよいと。これは商売上手だ」

 

 ランタンが用意され、窓にカーテンが掛かるまでに他愛ない話をした。

 

昭信は電灯の代わりになる物があるなど知らなかったが、迷宮には存在しそうだったので適当に話を合わせておいた。そしてグスタフに持参させた竜肉をアイテムポケットから出すようにいい、ツマミとして無償で提供しておく。すると笑って用意されたのはグレードの高そうな酒の一杯であったという。

 

「おお……壁一面に人の姿が……これはドレスでしょうか?」

 

「私が考案した花嫁衣裳のようなものですね。前回のように風景でもよいが、せっかく金を出すならこういった記念になる物の方が喜ばれるかと思いましてね。では軽く動かしますよ」

 

 プロジェクターとしては簡素な出来であったが、存在しない概念なので十分だ。

 

エックハルトは似たような物を前回に見ていたにもかかわらず驚いている。もしかしたら幻灯機としての機能よりも、記念写真やプロデュース用めいた絵の使い道の方に驚いたのかもしれない。何しろこの方式ならば、いつでも用意した絵を眺めたり、位置に合わせて服を着たつもりで投射された絵と自分を重ね合わされるのだから。

 

「ほ、本当にこれを戴いてもよろしいのですかな?」

 

「そういう契約でしたでしょう? そうですね。もしお気になさるのでしたら、このオマケを直接売るので代金をいただきたい。とはいえ色ガラスを使ったオマケです。御代に白金貨などとは申しませんよ」

 

 エックハルトの指先は映し出されたドレスの方に向いている。

 

どうやらプロジェクターとしての木工細工だけではなく、映像を利用したプロデュース知識込みで欲しいようだ。この分ならば白金貨の価値はあったかな? と思いつつ、オマケで持ってきた筒を取り出した。

 

「これは小さな覗き窓ですが……ややっ!? 中にあるのは色ガラスだけではなく鏡ですかな?」

 

「ええ。鏡が映し出すことで、色ガラスが何通りもの模様を作ります。回転させたり傾けて御覧ください。色ガラスの配置で模様の形が変わりますよ」

 

 それは色ガラスの破片と鏡の破片を使った万華鏡であった。

 

割れた鏡の破片は適当なサイズに綺麗に整え三角形に配置して、その三角形の中に色ガラスの破片を閉じ込めている。極めて原始的なものであったが、これもまた今までに存在しない概念なので驚きが強いようだ。覗き込んだ筒を動かすたびに変化する光景は不思議であったらしく、暫く小さな筒をこまめに動かし続けていた。

 

「いやはや。驚かせてくれますな。あの光景ですら驚きでしたのに。確認しますがコレは更に発展する技術なのですかな? それ次第では新たな契約の方が良さそうですが」

 

「中に入れる破片を粒にしたり形状を変え、最適な大きさくらいですね。なのでコレは現金で構いませんよ。どちらかと言えば新しい契約で思いつくのはレンズの方ですね」

 

 エックハルトと昭信は暫しお互いの顔を凝視した。

 

睨み合うというよりは腹の中で何を考えているかという探り合いである。以前からレンズについて話しているのに用意していないエックハルトには他の事情もあるのだろう。それに昭信が万華鏡の技術を改良できないとも思えないと買いかぶっている面もあった。まさか現代知識チートででっちあげたので改良案を思いつかないとか、手持ちの現金がないので金貨を十枚くらい欲しいとは想いもしなかったのである。

 

「……よろしいでしょう。まずコレに関しては金貨十枚ほどの値を付けましょう。その上で何かしらガラス製品で欲しい物があれば言ってください、こちらで作らせましょう」

 

「では作り易いサイズで良いのでガラスの盃を御願いしたい」

 

「構いませんが酒を飲むために用いるではないのですかな?」

 

「菓子を振舞いたいのですよ。婚約式に相応しい、ね」

 

 エックハルトは万華鏡に対して複雑な値付けをした。

 

さすがにこれほどの品に金貨数枚で済ませる訳にもいかないし、白金貨による技術の譲渡契約自体は継続したいという思いもあった。何しろエックハルトが知りもしなかった概念を渡してくれるのだ。今後も商売がしたいし、できれば自分だけで独占したかったというのもある。

 

「分かりました。その式に招待していただけるならば幾つでも融通いたしましょう。もちろんそれなりの細工を施しますとも。代わりに……」

 

「御息女次第ですがお呼びしましょう」

 

 これはお互いに本音を隠して探り合い、落としどころを探る言葉の戦いだった。

 

契約を継続して技術や知識を搾り取りたいエックハルトと、白金貨の契約をまた追加することで資金問題に終止符を打ちたい昭信の思いが交錯している。どちらかといえば昭信の目的の方が金・金・金で生臭いのは、彼の性格が直球であることと原作主人公のような鏡と首飾りの商売を得られなかったことがあるだろう。

 

「それでレンズの方はいかがですかな?」

 

「……それはライバルという程ではありませんが、他の工房主の領分なのですよ。せめてどう使うかお教え願えませんかな? それ次第で仲介いたしましょう」

 

 これまでエックハルトがレンズについて引き延ばしたのは縄張りの問題だった。

 

ペルマスクではガラスの技術が発展しているが、鏡や砂時計など様々な技術と縄張りが存在している。エックハルトにとって色ガラスの破片や鏡を用意するのは容易いが、レンズは他の工房主の領分なのだ。誰が無償で他の者を富ませたいものか。適当な価格で手に入れることが出来たら昭信に見せるのも良いかもしれない、そのアイデアで自分が売りこんで貸しを作るのもよいかもしれないと思っていたのだ。

 

「ふむ。そういうことならば知られても良い部分だけをお教えしましょう。レンズを使うと小さな物を拡大して見えるようになるでしょう? しかし持ち歩きに面倒も多いのも事実です。ソレを簡便にする方法がありましてね」

 

「……やれやれ。そういう事でしたら一カ月待っていただきたい。調整しましょう」

 

「お任せします。そちらは急ぎませんので」

 

「では手付に金貨十枚をこの筒にお払いします」

 

 昭信は情報の持ち逃げを警戒して断片のみを喋ったが、十分に魅力的だったようだ。

 

エックハルトは自分が交渉して何かの利益を得るための時間として一カ月を要求した。昭信としてもペルマスクの発言力に興味など無いので、今後の資金繰りが良くなるなら問題ないと金貨だけを受け取って笑って別れたのである。

 

「それでは私は屋敷にコレを持って帰ります」

 

「グスタフのことだから問題ないだろう。ただ俺は同行しないので、万が一の時は構わんからその辺に投げ捨てて応戦するなり逃げるなりしろ。ガラスの器は貴重だがお前ほどじゃない」

 

 エックハルトからサンプルになるサイズのガラス盃を貰った。

 

そこでグスタフが冒険者のギルドに直行して屋敷に持って帰り、昭信がペルマスクや他の町で武具を見て回る事になった。貴重品ではあるが精々が銀貨数枚から金貨一枚程度のサンプルである。もし盗賊が出たら気にせずに対処しろと告げて昭信は防具屋に向かった。武器屋を省いたのは単純にダマスカス鋼製で四スロットの両手剣を見つけても今更感が強いからであり、それ以上の武器は買えないからである。

 

(とはいえ都合よく欲しい防具があるとも限らんのだよな。今更に鋼鉄製で三スロットというのも違う気がするし……竜革のブーツで三スロットが一番良い防具か? 四スロットならバッチリなんだが妥協しておくか。となると足以外で鋼鉄製三スロットになるか。ダマスカスで置き換えたい物ばかりだし微妙だな)

 

 当たり前だが以前にも訪れているので早々入れ替わっている筈がない。

 

ダマスカス鋼製の装備がないわけでもないし、竜革の装備がないわけでもない。しかし三スロットですら数がない有り様だった。スロットがない防具を三スロットに入れ替える程度なのだが、現状の装備が『鋼鉄製装備としては充実している』レベルなので、今の段階で入れ替える理由が薄いのだ。もし入れ替えてしまってダマスカス鋼製の防具が他で見つかったら、ただの損である。いっそ聖銀製の装備なら二スロットでもよいのにと妥協なのか妥協で無いのか分からない考えに陥る昭信であった。

 

(竜革のブーツ一つで妥協して他の店に行ったら四スロットで見つけそうな気がするな。かといって他の店を巡って戻ってきたら売れている気がせんでもない。現状で竜革はグレース以外付けてないから複数のブーツを用意するのもなあ……まあいいか。ブーツを買っていこう。見てもない店の品揃えを考えるのは時間の無駄だ)

 

 昭信が悩んでいるのはペルマスクの店には鋼鉄以上の品しかないことだった。

 

高級志向というべきか、この世界では鋼鉄製の装備で挑む者が大多数なのだ。その上でダマスカス鋼製や竜革の装備も入荷する店というのがウリであり、『安価な皮の装備と一緒に三割引き』という訳にはいかないのである。鋼鉄製の装備が揃ってない頃ならまだしも、盗賊を退治して充実した後では買い難かったのもある。

 

(なん……だと。竜革の四スロットはある気がしたが……ダマスカス鋼製もあるだと? しかも二つも!? せめて片方はグローブかガントレットにしておけ! 他にも足装備が大量にあるし……この街には小人の靴屋でも居るのか!? だったらエナメルのハイヒールでも寄こせ!)

 

 昭信は縁という物を信じているがそれにしてもやり過ぎだった。

 

噂をすれば影がさすだとかフラグが立つというが、妙に足装備が固まっている。ひとまず装備自体は欲しいのでダマスカス鋼製のデミグリーヴを二つを選んだ後、複雑な顔をして竜革のブーツを手に取った。足装備ばかりこんなに買ってフェチなのかと思われそうだが、偶然こうなっているのだから仕方があるまい。

 

(いや、待てよ。手装備にはグローブもあればガントレットもある。足装備にもデミグリーブがあるがブーツもある。その中でガントレットは入ってないしブーツも少ない。付け加えるならばヘルムの類や胴装備は一つもない。偏っていると言えば偏っているな。もしかして材料が問題なのか? ケチったというか……自分が気に入る装備が完成するまで大量に作りたかった……と。そう考えれば自然ではあるな)

 

 昭信は足装備だけを手に取りながら気が付いた。

 

ペルマスクの防具屋で見た時と違って入荷している装備の種類が偏っているのだ。あちらは高級装備が豊富という感じであったが、こちらは足装備を中心に手の装備の一部しかない。少ない材料で大量生産したというか、気が済むまで量産したのではないかと思われたのだ。

 

「御主人。この三つを買いたいのだが、もしかして同じ作者なのか? 足装備と少量の腕装備が入荷しているようだがこだわりのある作者なのだろうか?」

 

「へえ。そういうの分かるんだ。特には聞いてないんだけど……ここだけの話だよ。貴族に頼まれてパーティー分を作って、当主なり後継者の分だけは装備一式に付与を施したんじゃないかとオレは睨んでるけどね」

 

 昭信が気が付いたことを尋ねると店の主人は声を潜めてニヤリと笑った。

 

一応は言わないのがマナーではあるが、装備の傾向が分かる者に黙っていても無駄だと思ったのだろう。あるいは店の主人自身が秘密をロバの耳のように喋りたいから理由を付けて『違うの分かる人間なら仕方がない』と話し従ったのかもしれない。

 

「その場合は胴体や頭だけ少な過ぎないか? 沢山作って努力した証拠用なのか?」

 

「逆々。胴だけは沢山素材を使うから一つずつ作って試して付与に成功するまで作る。同じ要領で頭も用意してスキル付与に成功したら人数分の胴鎧と頭を作成する。後は素材を沢山作れるやつで統一したんじゃないかと思うんだ」

 

 昭信は手足の装備だけ数がある事に目を向けたが主人の見解は違った。

 

スキル付与に失敗したら元に戻ってしまった素材込みで次の鎧を作る。その工程をひたすら繰り返して頭防具も用意し、その次は人数分の頭と鎧の作成。最後にこれでもかと手足の防具を作って選ばせて、余った装備が売りに出されたのではないかという話である。全ては推測であるがここで思い至った推論が一つだけあった。

 

(そうか。装備は別に製作者が付与しても構わないんだ。貴族のお抱え鍛冶師なんかはその傾向が強いのだろうな。となると上位の装備はそれほど失敗をしないから『腕の良い鍛冶師』の名誉もそれほど下がらない。スロット一つにつき10%としても上級の装備なら三割から四割くらいは担保されるし、全くダメでも自分で作り直せばロス素材を足してスキル結晶を買うだけで済むから元が採り易い)

 

 昭信にはスロットが分かるから別だが、この世界の人間には分からない。

 

だから自分で再生産可能な腕利きの鍛冶師は最終成功率が高いことになる。たとえ10%だろうが上位の装備なら30%には達するし再生産するからスキル結晶だけ手に入れば、失われるロス素材の分だけ迷宮で拾ってくればよいのである。

 

(とはいえ俺たちが流用できる知識はあまりないな。腕の良い鍛冶師に頼むのも少し違う気がするし、鑑定して歩くのもルミを信用してないことになる。やるとしたらあえてどうでもよいスキル結晶を使うことで、スロットなしの胴防具を分解して再生産するくらいか? 盗賊用装備に使う結晶でもない限りは安価じゃない上に、ルミの腕が上がってからになるだろうけどな)

 

 こうして良い足防具と微妙な知識を手に入れて昭信は帰還したのであった。

 

●特筆すべき事項

資金:24万4000ナール

 

・万華鏡概念の売却(十万ナール。計算済み)

・ガラス杯・レンズに関する契約

・装備製作の裏技知識

 

・竜革のブーツ(空き、空き、空き、空き)と(空き、空き、空き)、ダマスカス鋼製のデミグリーブ(空き、空き、空き、空き)x2




 という訳で装備が少しだけ充実しました。
次回、ドライブドラゴンが少しだけ楽に倒せるようになって、苦戦する部分を補うことで周回するかと。

●ファーストジョブ
 暫く様子見で英雄にしておき、インテリジェンスカードチェック時には百獣王にします。理由としては5thジョブを維持することで、派生ジョブや中位ジョブのレベルを上げ易くする事。普通のジョブの五割増しから二倍らしいですからね。あとは派生ジョブであるソードマスターの中位ジョブが使えるならばそっちに入れ替え、使えなかったら獣戦士を戻す感じになるかと思います。

●ガラス概念の売却
 スキル装備を売れない縛りにしたので代わりに追加。

●足防具ばっかり!?
 良い装備品を購入できるかどうかの判定をサイコロで適当に決めたのですが、「あちこちの町でバラバラに買えた」の確率の方が高かったにもかかわらず、「一部だけ何故か被った」に出目がいったのでこうなった感じです。ネタに丁度良かったので採用しただけですね。

後は「装備品を作れる人は、完全に元に戻らない素材のロス部分(作成素材の60%~80%戻って来る。とした場合のロス)だけ補充すれば、成功するまで作り直せるのでは?」と思って、話を添えました。「レベル依存でもないし、器用依存でもない。でも、レベルが高い鍛冶師・隻眼は成功するまで作り直せる」という概念になります。
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