異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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迷宮品の価値

「本来は大量の豚骨や牛骨を使う料理なんだが、今日は竜肉と竜皮で代用する。これに蛤と御頭付きを用い野菜を煮込むことでスープの方は完成だ。塩とスパイスが多いが実験も兼ねている」

 

「もてなしとしても随分と豪華ですね。私などに気を使わずともよいのですが」

 

「シュナイドラーさまの為ではありません。マスターは以前から用意されてました」

 

 昭信はドライブドラゴンやランドドラゴンを乱獲してこの日に備えていた。

 

スキル結晶を買いに行ったルミにくっついて訪れたシュナイドラーという呼んでもいない客のことは関係ない。元の世界の料理の中でまともに作ったら馬鹿みたいな費用が掛かる物を作るためである。

 

「肉は豚バラを糸で巻いて丸くして、魚醤と焦がした砂糖に蜂蜜で整えた調味料で煮込んでいる。後で適当にスライスしてくれ最後に載せることになるだろう」

 

「承知しました。旦那さま」

 

 具材の中で重要な彩でもある肉はグレースが面倒をみている。

 

地味な作業ではあるが、一度に作業が出来ない代わりに根気のある朴訥なグレースには向いているかもしれない。レベルが上がって筋力もついているので油を流し掛ける揚げ焼きとかも可能かもしれない。

 

「御屋形さま。寝かせておいた生地を持って参りました」

 

「助かる。この生地は二種類に分けて使用する。一つ目は平たく延ばした生地で肉を包んで閉じるだけ。もう一つは延ばした後で折り畳むという工程を繰り返し、ある程度の大きさにしてから縦に切る。こちらでは小さく穴空きにして乾かしている麺の一種だな」

 

 シモーヌに用意させたのは小麦に重曹と水を練り込んだ生地だ。

 

大部分は普通の小麦でコボルトフラワーが一部に使われ、そこにシェルパウダーを均一に混ぜるために溶かして練り込んでいた。くっつけないために質の悪い小麦粉を下に撒き、その上で棒を使って生地を延ばしながら二つに分け、一つを平たい丸にして肉を包むと袋とじ。残りの生地は延ばして畳んで折り畳み、練り込んでまた延ばすという作業の果てに、最後にもう一度折り畳んでから等間隔で切り割いていた。本来は長~く延ばしてから切るのだが失敗しないようにウドンの要領で代用したわけだ。昭信は素人であり専門家ではないから仕方あるまい。

 

「この二つを軽く茹で上げた後でスープと器の中で混ぜ合わせる。ここまで出来たら後は早いからそれなりに大きな器……そうだな、酒を飲むためのジョッキに入れよう。グレース、人数分を出してくれ。ルミ、メモは取れているか?」

 

「承知しました、旦那さま。シュナイドラーさまの分も用意しますね」

 

「記載してはいますが……また作るのですか? あの材料で?」

 

「当然だ。まあ趣味というか特別な日用になりそうだが」

 

 要するに昭信はワンタンメンもどきを作り上げたといえる。

 

ラーメンと言い切れないのは所々に代用が多いからだ。竜皮・竜肉を使った上湯スープと蛤・御頭付きを使った潮汁を混ぜ合わせてダブルスープと言い張るのは難しいだろう。またワンタンも作っているのは麺と違って失敗し難いのと。細長い麺を掬い上げるのが苦手な物に対するフォローでもあった。

 

「御屋形さま。大き目の器なら他にあると思うのですが何故ジョッキで?」

 

「スープは直接口を付けて飲むと美味しく感じる。それは唇や舌先に味を感じる機能があるのと、啜ることで散った香りを鼻から吸えることになる。この長い麺もそのためで、少しでもスープを巻き上げて目に見えない小さな粒を作るためにこうなっているわけだな。面白いもので皿で呑むときは行儀にうるさい者もジョッキで呑む時はうるさくないんだ」

 

 シモーヌがジョッキに注がれていくスープを興味深そうに見ていた。

 

麺を入れるならいつもの乾燥パスタで良いじゃないかと言いたそうな顔であったが、長い麺に意味があると聞いて頷いていた。狼人族は嗅覚が優れているので直接に口で飲む行為や具材によって巻き上げられる汁などに理解が早いのだろう。だが、そんな彼女もお皿に盛っていたらマナー通りに啜りもせずに口の中にスプーンを入れた筈である。

 

「ほほう。面白い話ですな。確かに唇や舌にはそのような機能がありますぞ。迷宮産ではない材料を用いて薬を作る時は、ちゃんと確認することが重要とされていますからな」

 

「確かに熱冷ましや腹下しの薬なんか迷宮の材料では作れないでしょうね」

 

「そういう事です」

 

 シュナイドラーは薬師の知識が料理にも使われていることに笑みを見せた。

 

秘匿しているつもりでも似たような知識があるという皮肉に笑ったのだろう。あるいは昭信の故郷はどんな場所なのかを思い描いてその不思議さに笑ったのかもしれなかった。

 

「ではいただこうか。肉は中央にまとめて置いておくから、お代わりが欲しい者は好きに取り分けるといい」

 

「美味しいですね御屋形さま。お嬢さまのためにも作っていただきたいほどです」

 

「いずれ教えるが次に会う機会ではもっと可愛らしい物を作るよ。グスタフが持って帰ったと思うが良い器をもらったんだ」

 

 シモーヌは美味しそうに食べていたがいつも主の話をする。

 

彼女の中でエレーヌは主人として守る存在であると同時に、姉貴分として守らねばならないと思っているのかもしれない。下世話な話になるが閨で体を絡ませている時、『孕ませようか』と言葉責めをしながらお腹を摩ると『お嬢様の方が先ではないと……』と顔を背けながらとても興奮するのである。

 

「確かにガラスの器をいただいていました、マスター。細工無しの試作品とか」

 

「そうなのですか? お嬢さまもお喜びになるかと思いますよ御屋形さま」

 

「いずれお前たちにも作るが非常に美味しいお菓子だよ。硝酸だったか硝石という薬を使うんだがドロップ品ならば山野で見つかる物よりも効果が強く清潔だろう」

 

 ルミが持ち帰られた器の報告をするとシモーヌが嬉しそうな顔をした。

 

昭信は硝酸ないし硝石の存在を確認したかったので口には出したが、それだけでは成立しないとか効果が薄くなる可能性に留めてそれ以上は口にしないでおいた。何しろ薬師の一族であるシュナイドラーが傍にいるのだ、硝石に関する反応はみたいが秘密まで知られたいわけではない。

 

「マスター。美味しいものを作るのは結構ですが、迷宮品を使えば美味しくなるのは当然ではないでしょうか?」

 

「ルミ、それは違うぞ。この料理は豚や牛の骨を無駄にせずスープの材料にする料理だったんだ。迷宮品を使えば美味しくなるのは副次的な物に過ぎない。農民が数代かけて豚を美味しくする努力の代わりに迷宮に潜っているにすぎないさ。今回はドライブドラゴンを容易く倒せると分かった記念のようなものだな」

 

 とはいえ話題というものは思わぬところから始まるものだ。

 

シュナイドラーの反応をみているつもりだったのに先に口を出したのはルミだった。家計を預かる彼女からすれば、合わせて五百ナールを越える素材で作るスープなどは論外なのだろう。もし奴隷ではなく会社の共同経営者であったら説得するのに骨が折れたに違いない。とはいえ一番奴隷である彼女を怒らせる気はないので、やんわりと滅多につくらないのだと言い訳しておいた。

 

「思い出しました。硝石ならばロックバードが稀に、ファイヤーバードがそれなりに落とすはずですよ。羽毛や皮の方が多いらしいですが……しかしその様子だと面白い使い道がありそうですね」

 

「そうですね。シュナイドラー先生好みの使い方ですと体を活性化させる劇薬ですね。薄めに薄めて僅かに飲むと心臓の病に効くらしいですが、人間で実験する問題もあって死刑囚が使われたそうです。もっとも私は専門の薬師ではないので他に混ぜる物があったり、よく似た別物である可能性もありますが」

 

 シュナイドラーが情報を話してくれたので関連しそうな話をしておいた。

 

硝石の情報は普通にありがたいし、こちらに来る時に硝酸と硝石に関しては軽く調べてそれっきりである。だから細かい差など知らないし、医療用に使う硝酸など知らないから迂闊に信じるのは危険だと忠告しておいたのである。

 

「なるほど。分かりました。この美味しいスープのお礼もあります。本日参った詳しい話をいたしましょうか。ナーシャ第二迷宮では十五層から薬の材料を出すモンスターが出現し、第一迷宮では二十層からということで間違いありませんか?」

 

「ええ。第二迷宮でも重なっているのを確認しましたよ先生」

 

 意味深長な笑みを見せるシュナイドラーに昭信は不敵に笑い返した。

 

第二迷宮の情報は最新のものであり領主家に近い筋(昭信たち)が独占するために公開は十二層から十三層までだが、シュナイドラーにはコボルトの結晶次第で情報を融通すると告げている。伝言役であるルミは気が付かなかったようだが、この話にはもう一段階の発展があるのだ。

 

「あの、それはそこまで大きな話なのですか? てっきりコボルト数個の価値かと」

 

「ルミ、それは当面の話だよ。十二層からのモンスターは四十五層から出現する」

 

「そういう事ですね。つまり第二迷宮は五十層が、第一迷宮では五十三層がネペンテスの出てくる層になります。もちろんアニマルトラップやラフシュラブはその後ですな。そして重要なのは第一迷宮では五十五層以降まで、第二迷宮では五十一層以降まで拡張されて迷宮ボスがそこにいると思われているという点なのですよ」

 

 ルミが首を傾げると昭信は笑って重要なファクターを説明した。

 

より詳しい話をシュナイドラーが付け加えたことで話の重要性が見えてくる。つまり、薬師の一族にとって素材狩りのためにそれなりのパーティーを差し向けても良い案件となるのだ。もちろん第二迷宮は昭信が到達した瞬間に討伐する可能性はあるが、さすがに第一迷宮は無理だろう。精鋭部隊を差し向けるほどではないし一族全体で支援するほどでもない。だが、美味しく素材を稼げる場所であるならば必要に合わせて手を組んでもよいという話になりえるのだ。

 

「第一迷宮の方は領主家に権限があるのでこの場では承諾できませんが、第二迷宮は踏破するのは俺になるでしょう。それでも構いませんか?」

 

「ははは。私も窓口である商人を任されているだけです。()はよろしいのでは?」

 

 エレーヌの顔を潰さないし、領主家の利益には手を出さない。

 

あくまで昭信の融通できる情報や伝手の範囲ならば構わない。そう伝えるとシュナイドラーの方も笑って懐からコボルトの結晶を二つ取り出した。手持ちの結晶を売るのではなく、手付け代わりとして無償で提供しようという話だろう。形式上としては、あくまで昭信が踏破したナーシャ第二迷宮十五層から十七層の迷宮に対する情報料になる。金額としては八千ナールから一万ナールちょっとの価値に過ぎないが、これから積極的にオークションで協力してくれる可能性を考えたならば十分な価値であると言えた。

 

●特筆すべき内容。

・ワンタンメンのレシピ。

 

・薬の材料が採れる層の情報とコボルト入手に関する裏協定。




 という訳で以前から書きたかったラーメンの話です。

●ラーメンをジョッキで食べる
 ドンブリがないのとヌーハラ問題が面倒なので。
意外な話ですが、カップで飲むスープは啜っても問題ないそうです。
皿で食べるのがマナーであり、カップス-プはマナーの外だからかな?
そこにウドンみたいな麺とワンタンを入れて食べる形ですね。

●硝石
 ロックバードやファイヤーバードから落ちろとしておきました。
もちろん火縄銃を使う為ではありませんが……ドリフターズでガアノの話をしていたので、鳥で硝石! とかいう適当な理由ですね。そのうち別のナニカと組み合わせてお菓子に使います。

●深い層でも出て来る
 今回の薬を落すモンスターですがちょうど迷宮ボスの辺りになります。
第二迷宮は発見が遅かったので新しい迷宮ですが最低でも五十一層までは育っているでしょうし、第一迷宮は五十五層以降でしょう。つまり滋養剤を取り放題、滋養錠の材料を出すボス戦をし放題なのが第二迷宮。それに加えて強壮強壮剤・錠を手に入れられるのが第一迷宮という訳ですね。まあ、倒せるか次第ですが……そのくらいなら強くて恵まれている一族とかは可能でしょう(武器を壊す迷宮ボスとしては無理には挑まないだろうけど)。

いずれにせよ、今度がコボルトの結晶が入り易くなる協定が結ばれた感じですね。
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