異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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粛清案件

「そういえば薬師の一族を呼ぶ件でお聞きしたいのですが……。もしかしてアキノブさまは何かが原因で焦っておられますか? どちらかと言えばアキノブさま自身は泰然とされた方だと思うのですが」

 

「……お分かりになるか。ならご両親は良い教育をされたようだ」

 

「お嬢さま……御屋形さま……それはどういう……」

 

 昭信とエレーヌは昼食時にたびたび話をするようになった。

 

その分だけ探索時間を夜に時間をスライドさせているが、原作主人公たちは早朝から朝のパン焼きの時間までという時間も使っているので、まだまだ普通の時間帯というところだろう。

 

「えっとね、シモーヌ。盗賊の件もそうだけど……普段は意見を口にされないし、なかなか逢いにきてくれない方なのに、ここぞというところで必ず動かれるの」

 

「そういえばそうですね。ということは今回の件も第三の迷宮以外に何か事情が?」

 

「直接の理由はそれさ。ただし、貴族は『時間経過の観察』が特殊なんだ」

 

 エレーヌが面会にこないことに文句を付けるとシモーヌは当然味方した。

 

その様子に苦笑しつつも昭信は本題に戻していく。そして今日の食事に用意した蛤のスープを行儀悪く指さし、エレーヌの皿と昭信の皿の食事量を指の高さで示してみせる。これだけなら何かの分量の差であり、時間の差が現れたというだけで意味が分からない。要するに、ここから解説するという前振りである。

 

「迷宮に挑み貴族へ成り上がる者の婚礼は、才能や運に恵まれない限り晩婚化する傾向にある。これは迷宮を討伐して領地を得るまでの時間、婚約に際して用意する持参金である装備の入手に掛かるという意味だ。対して彼らに嫁ぐ貴族の娘は早婚の傾向がある。優秀な探索者や騎士候補を見つけたら嫁がせて確保するためだな。共通する理由は迷宮を討伐する貴族の戦力を増やすことにある」

 

「私もそのように教えられました。そして運命に、アキノブさまに巡り合いました」

 

「そう言ってくれると嬉しいな。俺も運命だと思った」

 

 ここで男女の年齢がスープの分量が、年齢に対する許容であると理解できた。

 

貴族同士のつながり強化のために子弟が婚約することもあるが、有望な探索者や騎士候補に貴族の娘が嫁いで確保する例は珍しくない。そして根底にあるのは『迷宮の討伐』だ。貴族の子弟ならば若くて強くなれるのに、年齢の高い男を許容するのは討伐者を増やすため。身内に嫁いでもつながりは強固になりはしても討伐者は増えないのだから分からないでもない。

 

「その件は理解できます。だから薬師の一族を一時的に招き、戦力を増やすという案なのですよね? ではそれで十分なのでは?」

 

「シモーヌ。それは身内の反発を考えない時の話よ」

 

「つまり反発よりも強い懸念がありえるということでしょうかお嬢さま」

 

 ここでシモーヌが話の水を向けるために切り込んできた。

 

彼女にも昭信は可能性論として口にしているから、エレーヌに伝わっているはずだ。昭信はたとえがあったり話したいことを話すタイプなので長くなりがちなのもある。時々結論から話すのは、おそらくその事を注意された反動なのだろう。今回もそうしてほしいところだろう。だが、昭信にもそれが出来なかった背景がある。あまりにも理由がショッキングだからだ。

 

「迷宮を討伐しようとしない貴族。あるいはしようとしても出来ない貴族に対する『粛清』というものがあるんだ」

 

「貴族の粛清……馬鹿な。そんなことは聞いたこともないし、我々が……」

 

「いいえ。シモーヌ。それは違います。()は、です。半年前は……」

 

 迷宮の討伐をしたくても出来ない状態。ナーシャ家はそんな貴族なのか?

 

シモーヌはそんな事は無いと断言するが、エレーヌが口元を押さえて呟くように、問題ないと断言出来るようになったのはここ最近なのだ。春に昭信が訪れる前はそうではなかったし、『このままなら問題ない』と断言できるようになったのはここ最近である。では半年前に今のナーシャ領を冷静に観察できる貴族がいただろうか? それともいなかっただろうか? 寄り親がそう思わなくとも、同格の貴族たちが槍玉にあげる可能性はあるだろう。

 

「普通ならば貴族家が滅びることになってもやらないし、それが自業自得とみなされる。ただし大きな派閥で失爵者が出ると問題になったり、他所の派閥と領地管理でモメそうな時に、予め粛清して『次』の者に任せるというやり方が存在するわけだ。さて、ナーシャ家は男爵で普通ならばありえないが、男爵領にしては大きくドワーフたちとも付き合いがあるよな? 街道だって広くはないが存在するしな」

 

「この領地は開拓地から始まっていますが、他の派閥で失爵した影響を補う形で大きくなったと聞いています。当然あちらとしては面白くないでしょうし、直接の寄り親である伯爵さまはともかく、その上の方は……気になさるかもしれません」

 

 昭信の言葉にエレーヌはナーシャ領の経緯を語って可能性論を肯定した。

 

最初は辺境域というか未開発の森に出来た迷宮を討伐したため、その周囲の開拓が許されてナーシャ家が誕生したらしい。その当時は『男爵家としても小さな方』だったらしいが、近隣に存在したドワーフの貴族家が失爵したために、領地の一部を引き継いで『男爵家としても大きな方』になってしまったのだという。それを幸運というか不運というかは分からないが、領地経営に成功しているならば幸運であろう。迷宮の討伐に関する義務という意味では不運であるが。

 

「俺たちが最初に出逢った時も出来過ぎといえば出来過ぎだったろう? もし盗賊たちが籠っていた第二迷宮が偶然発見したのではなく、派閥の息が掛かった探索者が発見して通報したのだとしたら? 盗賊の頭や探索者が何か言おうとした言葉が、逃げるためや油断させるための時間稼ぎでなかったら? そう思うと口出しせざるを得なかったんだ。ただの偶然の可能性もあるから、余計だったと今でも思うがな」

 

「いいえ。いいえ、アキノブさま。もしそうだとしても、私を思ってくれたのでしょう? 問題ありませんわ。それどころか嬉しくなってしまいます。もし粛清の可能性があったとしても、二人で乗り越えていきましょう!」

 

 思えば最初から怪しかったのだが、昭信は躊躇せず盗賊たちを切り捨てていた。

 

ただし追い詰められた盗賊が取引を申し出るのは当然だし、探索者がアイテムボックスを開くと見せかけてダンジョンウォークを唱えたら容易く逃げられてしまうから仕方のないところだ。そんな理由もあるのだが、エレーヌの方は『昭信がそこまで自分のことを考えてくれた!』ということに比重をおいている模様である。昭信は出逢いを運命だと思ったと語っているが、もしかしなくても、エレーヌの方もそう思っていたのかもしれない。

 

「それでお嬢さまが当主となっても立派にやっていけるということを証明なさろうと……。このシモーヌ。御屋形さまの思い、しかと心に焼きつけました」

 

「そういうことだ。寄り親が頼りなく思うよりも、安全だと思う方が重要だからな」

 

「確かにそうですね。婚約式も大げさにする必要はありませんでしたが……」

 

「ああ。大げさにすれば寄り親を招いて宣伝できるというわけだ」

 

 感動しているシモーヌには悪いがシリアスな話である。

 

粛清される可能性はそもそも低いが、危険の芽は早めに摘み取った方がよいのも確かである。当主候補になったばかりのエレーヌが頼りないと思われるのも当然であり、婚約者である昭信が強いならば十分に迷宮が討伐できると思われる可能性があった。今ならば問題なく人々を呼んで宣伝も出来るし、身内が減ったという事は、寄り親に当主代わり・両親代わりを務めてもらおうと要請することも不自然ではない。よって方向性としては、大々的な宴席を設けることになるだろう。

 

「では、どういう段取りにいたしましょうか? アキノブさまが三十層に到達して三十三層を問題なく越えられるという報告。薬師の一族の話はするとしてです」

 

「ペルマスクの工房主や近隣のドワーフの古老に招待状を頼む」

 

 エレーヌがパピルスとペンを取り出すと昭信はエックハルトの名前を出した。

 

実際にくる気があるかどうかは別にして、お義理で口にしたことかもしれないが、一応は話を持っていくのがそれこそ義理であろう。それにこの辺りにドワーフの領主がかつていて、別の派閥との問題になっているならば地元との融和は必要であろう。

 

「そうだ! 実力が問題というのであれば腕試しはいかがですか? 御館さまなら容易く勝利をもぎ取れるでしょう」

 

「それは見てみたいです!! でも……少々わざとらしくないかしら?」

 

「無理に開催しないが……挑まれたら勝負を避けない。でよいだろうさ」

 

 そんな中でシモーヌが突拍子もないことを言い出しエレーヌも目を輝かせた。

 

途中ではしたないと気が付いて訂正したようだが、どうも英雄物語や騎士物語でありそうなシチュエーションに弱いらしい。子供っぽい所もある物だと思いつつ、自分も人のことはいえないので訂正はしなかった。平地に乱を起こすようなことはしないが、『お前なんか信用できない』と挑まれたら容赦しないとだけ告げたのである。

 

「後はそうだな……。外に連れ出すのはどうかと思うが、午後からの第二迷宮探索に関して、エレーヌをパーティーに入れて踏破していくのもよいかもしれんな」

 

「え……よいのですか? お手数なのでは……」

 

「第二迷宮は弱い相手ばかりです。構わないかと」

 

 そして最後にエレーヌの特訓をこれからの探索に組み入れておいた。

 

午前の集中できる時間帯は三十三層を目指して確実に踏破し、経験値も出来るだけ少ない人数で分けておく。出なければルミの竜革防具作成もさることながら、メンバーが中位ジョブに至るなど夢のまた夢だからだ。その上で昼食会を行なった後、午後から第二迷宮でボス部屋を探す過程で、エレーヌのレベルを上げるだけならば問題ないだろうと思ったのである。仮に成長し過ぎというならば、第二迷宮では経験値的に怪しいので、獲得経験値を十倍に下げて二百倍で維持しつつ、6thジョブで料理人や神官などのレベルを上げるだけのことであった。

 

「第二迷宮の十九層はロートルトロールか。鉄の素材集めに丁度よい、ボス部屋で色々試すぞ。その次は……どれが当たっても食料系か。グスタフ、アイテムボックスは空いているだろうな?」

 

「はっはは。問題ないですぞ主殿」

 

 こうして昭信たちはエレーヌをパーティー枠に入れ第二迷宮へ潜るようになった。

 

実際には屋敷にいるのだが、会うたびにレベルが上がっていくはずだ。その上で内陣メンバーに関する決定を行い、グスタフを正式に執事役として冒険者を目指させることにして、秘密を段階的に話している。ヒューゴーの方は探索者のままレベルを上げていき、表向きはヒューゴーの方にスキルスロット説を信じているなど、一部の情報を話して様子見だ。騎士団としては探索者と冒険者は両方必要なので、信じられるならばどちらも鍛えて情報を明かす意味があるのだから(アメリアは既に料理人になって食料集めに専念している)。

 

「マスター。何を試されるのですか?」

 

「この間、ソードマスターの上のジョブで、剣術指南役というジョブを手に入れてな。そのジョブが持つソニックブレードという技を試してみたい。それと、とうとう詠唱短縮の奥義に至ったので、心の中で呪文を唱えれば、スキル名・呪文名を唱えるだけで発動できるようになったんだ。これで師より伝えられし絶技を覚えるために挑むことができる」

 

 ルミが尋ねてきたので、ロートルトロールの臭いを嗅ぎながら昭信は説明した。

 

グスタフだけではなく、他のメンバーにも徐々に情報を開示していくことを決めていた。特にいちいち呪文詠唱するカモフラージュが面倒になったことと、スキルの重ね掛けに関する修練を積むために、詠唱省略をセットしていながら『詠唱短縮』という技があること、その奥義を習得したと説明したのである。

 

「おお! おめでとうございます! これで戦いが楽になりますね!」

 

「そうなんだが、実戦でどこまで使えるかは分からんぞ。誰も居ない場所でソニックブレードを試してみたが、狙い通りの場所に当てるのも難しかったからな。まずはモータルストライクやスマッシュを確実に同時詠唱することが先だな……どれほど時間が掛かるやら」

 

 試してみた感じだが、剣一本分の剣圧・真空刃が飛んでいく感じだった。

 

それを離れた位置の、しかも動き回る相手に使用するのだから命中させるのはかなり難しいだろう。この世界はゲームに似ているがオートエイムなどは存在しない。しかも中位ジョブが持つ大技になると、強力過ぎて衝撃の発生によって体勢が崩れるなど当たり前だった。スマッシュは今でも振り下ろしを中心として正しい体勢でしか上手く使えないし、モータルストライクは衝撃が集中し過ぎて相手の腕だけ飛ばして終わったこともあるのだ。それでゲームと違って腕だけに凄まじいダメージが当たっても、HPは全損しないと判ったわけだが、だからといって嬉しかったわけではない。

 

「左端から使っていくが、最初にソニックブレードを普通に使い、その次がスマッシュと混ぜてみる。大丈夫だとは思うが巻き込まれるなよ」

 

「問題ありません御屋形さま! 聞いたな? 右端から潰していくぞ!」

 

「「「はい!!」」」

 

 ちなみに昭信が最も得意なのは呪文名・スキル名を口にして暴発させないことだ。

 

いろいろと情報を隠していくため、無駄に詠唱しながらスキルを使用していたのだから当然であろう。ちなみに今回の成果は散々で、普通のソニックブレードは大外れで牽制にもなっておらず、スマッシュを併用した方は軸がブレまくって範囲が広がり、こちらの方が命中させやすかったという笑えない状況であったという。

 

(思ったより使い難いな。もっと頻繁に使って練習するとか、状況を固定しないと当てるどころの話じゃない。突っ込む時に牽制として直前の場所に放つとか、突っ込んでくる敵の勢いを殺すために先制するとかじゃないとまともに当たらんぞ。それともスマッシュやモータルストライクを積極的に混ぜて、掠って動きが鈍れば上等で援護に使うか?)

 

 やがてモンスター相手にテストを繰り返して検証を終えた。

 

得られた成果はまともには使えないというお寒い結果である。どうに有効活用しようと思った場合、かなり限定的な状況に絞るか、自分の方から状況を固定して『この局面なら有効活用できる』と状況を押し付けながら戦うしかないと結論付けたのである。

 

(唯一の成果はキーンエッジが防御無視に近い効果か、防御無視を助長する能力があると分かったくらいだな。本当にそうなら育てておいて損はないし、無駄になるとしたらデュランダルを出す時くらいだろう。その時は使わなきゃいい。後は本当に上位ジョブを目指すのか、それとも他の中位ジョブや遊び人をどうするかだな。以前にも思っていたが……成長するたびに思うんだろうな……)

 

 そして剣術指南役のレベルが10を超える段階でおおよそを把握できた。

 

以前のように一体目にスキルを使って切り捨て、二体目に牽制として何も使わない状態で斬りつけた時に気が付いたのである。念のために剣術指南役を外して薬草採取士に切り替えてみたりしたが腕力微成長を外したとはいえ、あまり成長してない段階なのだ。かなり威力が落ちたことで理解できたのであった。こうして昭信は何度目かになる能力の育て方で悩み始めるのであった。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄50レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄50/剣豪30/百獣王28/勇者21/剣術指南役11

 

剣士50/探索43/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師39

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士38

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者36レベル

 

資金。30万2000ナール

 

●特筆すべき内容

・婚約式に関する伝達

・薬師の一族のパーティーを借りる話の伝達

 

・ナーシャの攻略階層。

第一迷宮。三十層ロックバード。三十一層ケープカープ(顔出し)。

第二迷宮。十九層ロートルトロール。二十層ビックホッグ(顔出し)。




 という訳で今回は粛清案件です。原作のセルマー家で起きた話ですね。
あそこと違ってエルフ族ならぬ狼人族独特の派閥じゃないのですが、地元の派閥でもめているので『可能性としてはあり得る』案件という意味になります。もちろん寄り親に聞いても教えてくれないでしょう。

●粛清案件である可能性の布石
・半年前は騎士家を任せていた親族の死亡、当主たちの全滅で戦力が払底
・騎士団自体が作り始めである
・ドワーフの経営する鉱山などが領内にあり、自治はしているが税金有
・頭目が「話が違う」と言っているとか、探索者が「取引しよう」と言ってる

という感じでそれっぽい要素はあります。もちろん違う可能性もありますが。

●内陣の完成
 ひとまずグスタフを探索者枠で固定し、冒険者を目指してもらいます。
秘密を喋っているし、他のメンバーにも詠唱短縮までは説明。
そしてエレーヌを鍛え始め、ひとまず魔法使い10、婚約までに20いかない感じというところですね。
意図的にレベルは上げ過ぎないようにして、『もしかして婚約前から協力してたのでは?』という疑惑を掛けられないようにしています(もしそうしてたら、グミスライムとか楽勝で、今ごろ三十三層とっくに越えてますが)。

●オマケの剣術指南役のスキル
 当たり前ですがソニックブレードは迷宮で使い易い技ではないです。
同格の者同士が戦ったら、遠距離攻撃が可能な分だけ、シャープエッジやキーンエッジの分で確実に勝てる構成になっています。ちなみにガードブレイクが消えているのは、このランクになると勝負は一瞬で付くし、格下にガードブレイクは不要だからですね。
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