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「りゅ、竜革のグローブが出来たと思います」
「ああ。どう見ても竜革のグローブだな。よくやったルミ」
ナーシャ第一迷宮では三十一層で戦い三十二層に顔を出す流れになっていた。
その過程でケープカープやタルタートルと戦う中で、ルミのレベルが40に達したのだ。以前に鋼鉄の装備を作ってから定期的に行なっている製造実験において、とうとう竜革装備の中でも作り易いと思われるグローブを製造できたのである。スロットは一つも無かったがその辺は仕方ないところである。
「おそらくだがブーツや頭巾も作れるだろう。問題はチュニックやジャケットのような胴装備、あるいはヘアバンダナのような防具屋でもあまり見かけない装備を作れるかは分からんが……。このまま腕を磨き続ければ可能になるだろう」
「レムゴーレムに三人で挑むような特訓はどうかと思いましたが……嬉しいです」
「あれは十分に採算があると分かっていただろう。まあ、これも経験だな」
実のところ、経験値だけならば二十七層ボスのレムゴーレムが一番だろう。
ボスから得られる経験値は何倍もある筈なのと、レムゴーレムは殆ど寝ているので倒し易いのだ。そこで人数を徐々に減らしながら、ルミの他には探索者であるグスタフ込みの三人で戦ったり、偶に昭信が探索者のレベル上げを兼ねてシモーヌであったりグレースを連れて特訓していたのである。
「御屋形さま! これで竜革の装備を騎士団に配備できるようになりますね! 今ならば二十六層で戦闘を繰り返しても楽に戦えるかと思います。腕を磨くには少々低い層ですが、スロットでしたか? それも含めた装備の充実を考えれば悪くないかと」
「その件なんだがな。俺も以前はそう考えていたが、少し考えを変えてみようと思う」
「と、言いますと?」
「場所を変える」
竜革の防具は高級な装備であり騎士団レベルでは滅多に装備してはいない。
理由があって防御力は鋼鉄装備とほぼ同じだが、動き易さとスキルの付き易さが段違いというものだった。値段も倍半分の差があり、高額な鋼鉄の胴鎧が一万五千から一万八千なのに対して、竜革は安価な手足の防具ですら同じ金額であった。高額な胴部に至っては四万から五万と(厚みと男・女の差)、防御力の面では騎士団の下位メンバーに持たせるのは高額過ぎるのだ。それを自前で用意できるとなればシモーヌが興奮するのも仕方があるまい。
「第二迷宮でドライブドラゴンの層が見つかるまで待ちますか? どうせ戦う必要がありますし悪くは無いかと」
「いや。クラータルの三十三層がドライブドラゴンだった筈だ」
「この国で最も古いとされる、あのクラータルですか!?」
「そうだ。腕を磨くにも舐められないためにも丁度よい」
これまで基本的にナーシャの迷宮を巡っていた。
この地を迷宮から解放するのだから当然ではあるが、薬草採取士のジョブを得るために他の迷宮へいったことがある。それを考えるならば一時的にメジャーな迷宮を巡ることくらい問題はないだろう。そして『三十三層を越えた』というのが登竜門だとしても、弱めのモンスターと戦うのとドライブドラゴンと戦うのでは強さも評判も大きく違うのだ。ならばソレを目標にしておいて、ついでに竜革の装備を作るくらいでちょうど良いだろうと昭信は考えたのである。
「もちろん三十二層で敵が増えることに慣れ、スキル結晶が充実してからだぞ。今のところは最低限を確保しているが、エレーヌへの引き出物を考えたら使いたくはなかったからな」
「そうですね。せめてコボルトの結晶がもう少し欲しいところです、マスター」
ドライブドラゴンは以前にも倒したが、三十二層から雑魚が六体になる。
もちろん階層が上がることで個体としての強さは増している筈だ。それを考えたら装備を全体的に強化したいところだが、生憎とコボルトの結晶二個を含む五個の結晶しか手に入っていなかった。それで手持ちのコボルトは三個、シモーヌに渡すつもりの聖銀のサーベルにある四つのスロットを埋めきれないどころか、エレーヌに渡す予定の吸精のスタッフを考えたらまるで足りなかったといえる。
「結晶に関しては現実的にいこう。確か兎が手に入っていたな? 聖銀のサーベルにつぼ式食虫植物と一緒に入れてコボルト二個消費。浮いたシミターをグスタフに渡し、盾をグレースに戻す。残りのコボルトをルミが使っている槍へ眠りを付けるために使おう。これでかなり安定する筈だ。その上で、次に手に入ったらスライムで頑健だろうな」
「その順番として最低でもコボルト一個、出来れば二個欲しいところですね」
「次のオークションと買い物で最大限努力するしかないな」
「善処します」
この話で何が面倒くさいかといって、婚約式の話がトントン拍子に進む可能性である。
寄り親の貴族が『そこまで順調なの!? イクイク!』とか言ってやって来る可能性がゼロではない。もちろん派閥の重鎮でありトップの片腕らしいので本来はそんなに腰が軽くない筈なのだが……どうも話を聞く限り猫人族の伯爵さまらしい。猫人族は気まぐれらしいので、三十三層に出入りし始めたと聞いたら速攻でやって来かねなかった。その意味でも三十三層デビューだけは他所でしたかったのもある。
「そういえば御屋形さま。引き出物の吸精のスタッフに関してですが、ひもろぎを付けたりはしないのですか? 二重付与は夢物語と聞きましたがスキルスロット説が正しいならば可能だと思うのですが……」
「俺も考えたよ。ただ、手持ちが鋼鉄のスタッフだからな。直ぐに物足りなくなるぞ」
「伝世の品を渡したということで評判にもなるでしょうが……確かに……残念です」
ここでおずおずとシモーヌが意見を挟んできた。
いつもの積極性が感じられないのは、パーティーに参加していないエレーヌの分だからであろう。引き出物としては素晴らしい物になるのは間違いがない。思い出としても評判としても優れているだろう。しかし、ドライブドラゴンとの戦いにコボルトの個数が必要であり、必要数にまるで足りていないという話の後であった。優先度が低い装備に使ってくれとは言えなかったのだろう。
「良い装備が買えたら考えなくもないが、そんなに都合よくはあるまい」
「……そうですね。お嬢さまの運に期待しておきます」
なお、以前にも言ったが世の中にはフラグというものがある。
こういう時に限って見つかるものである。ただし、それが幸運ばかりとは限らない。偶然が複数重なるとピンチになることもあるのだ。
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「なん……だと。聖銀製の……しかもロッドじゃなくてスタッフだと?」
「お目が高いですね。ロッドやタクトは売れましたが、それでも自慢の品ですよ」
昭信はオークションが複数ある日に自分でも街を巡った。
そこで偶然見つけたのは聖銀のスタッフである。スロットは三つしかないがそれで十分。むしろ知力二倍とMP吸収以外には何を付けるのか不明なので、二つでも十分な程であった。そしてもう一つの理由もあって、このスタッフを買わないという選択肢はなかったのである。
「しかし……この店は防具も売ってるのだな。この竜革の防具は良い物だ」
「この町はあまり大きくありませんからね。装備は全てここで扱っております」
なんと武器と同時に防具が売っており、竜革の装備までおいてあったのだ。
間が悪い事に作れるようになったばかりの竜革のグローブと、まだ作れない竜革のジャケット。この二つのスロットがどちらも四なのである。無理に買う必要はないのだが、ここで買わなければ確実に売れてしまうだろう。そしてここで買えば三割引きにもなるのだ、同時に買わない選択肢など存在しなかったのである。
「いや、この町はなかなかのものだぞ。今日だってオークションの為に訪れたのだし、この店が武器と防具を同時に扱えるならばみんな寄るだろう。うちの契約している鍛冶師もそろそろ竜革の装備が作れるはずだ。この防具は見事だから参考にするとして、作れるようになったら卸しにくるとしよう。この三つで幾らだ?」
「そうですね。町の事を褒めてくださりましたし、竜革の装備が作れそうな鍛冶師を抱えておられるならば……期待を込めて二十万ナールといたしましょう」
聖銀のスタッフは安い方だが二十万を超えているらしい。
これでロッドやタクトであればどのくらいの値段になるのか分からないほどだ。とはいえ竜革のジャケットやグローブを足して三割引きを掛けるとほぼ二十万だった。昭信としては狙っていた品ではないが満足の出来る一品であろう。
(どうせならダマスカス鋼の防具一式の方が良かったんだが……。いや、それはただの贅沢だな。少し前を考えたらあるだけマシというものだし……イザとなったら俺の装備も竜革で済ませる手もある。問題なのはルミにも金を渡しているからオークションではもう結晶を一つか二つしか買えんな。コボルトがあれば御の字と思っておこうか)
そしてフラグというものは次から次へと重なるものである。
蜂とコボルトの結晶が
「マスター! お喜びください! コボルトの結晶が三個も手に入りました! それとトロールやスライムの結晶もですね!」
「そうか……手に入ったのは素晴らしいことだ」
ちなみにルミの方でも高額な結晶ばかり手に入れていた。
幸運と言えば幸運なのだし、無いよりは有るだけ百倍マシであろう。しかし、こんな時に全部重ならなくとも良いだろうにと思う昭信であった。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄50レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄50/剣豪32/百獣王30/勇者24/剣術指南役15
剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30/探索44
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
/装備
・強権の鋼鉄の剣(詠唱中断、MP吸収、防御無視40%)
・かがほの鋼鉄短剣(火葬剣、空き)
・鋼鉄の鉢金(空き、空き、空き)
・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、空き)
・鋼鉄のガントレット(空き、空き、空き)
・駿馬のダマスカス・デミグリーブ(移動力増強、空き、空き、空き)
・よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師40
/装備
・強権の真鉄槍(詠唱中断、睡眠添付、空き、空き、空き)
・鋼鉄のオープンヘルム(なし)
・鋼鉄の胸当て(なし)
・鋼鉄のグローブ(なし)、
・ダマスカス鋼製のデミグリーブ(空き、空き、空き、空き)
・身代わりのミサンガ(身代わり)
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士39
/装備
・強権の聖銀サーベル(詠唱中断、HP吸収、空き、空き)
・鋼鉄の盾(空き、空き)
・鋼鉄の額金(空き、空き)
・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、睡眠耐性)
・鋼鉄のガントレット(空き、空き、空き)
・駿馬のデミグリーヴ(移動力増強、跳躍力増強、精神二倍)
・身代わりのミサンガ(身代わり)
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者37レベル
/装備
・睡眠の鋼鉄の片手剣(睡眠添付、麻痺添付、毒牙)
・強権の鋼鉄盾(詠唱中断、空き、空き)
・竜革の頭巾(空き)
・竜革のジャケット(空き、空き、空き、空き)
・竜革のグローブ(空き、空き、空き、空き)
・加速の竜革ブーツ(移動強化、空き、空き、空き)
・身代わりのミサンガ(身代わり)
資金。3万1000ナール
●特筆すべき事項。
シュナイドラー経由で購入した結晶。コボルトx2が2回。人魚・兎・羊・つぼ式食虫植物・トロール。
オークションで購入した結晶。コボルトx2と蜂x2のセット。コボルト・スライム。
所有している結晶。蝙蝠。はさみ式植物、ヤギ、貝、芋虫、蛙、トカゲ、蟻、コボルトx5・牛・スライム・人魚・蜂x2・トロール(消費・購入した結晶は計算済み)
発注中の結晶。コボルトx3枚・灌木・スライム・人魚・蟻x2を入手予定。コボルトのみ割高注文継続中(オークションでの入手や、一部成功したと告げて調整中)。
という訳で順調に成長中です。
●竜革装備作成!
これでもう地方のド三流騎士団とは言わせませんよ!
まあ料理人が筆頭で探索者28レベル・27レベルとかが上澄みなのでド三流確定です(結成すらしてない)。
なお、作製品に関してはドロップ品の数を割り出して、製造ごとに十面体ダイスを振ってるので、中々スロット付きは出ません。出る時は出るのでしょうが、施行回数が少なすぎます。迷宮で結晶がなかなか落ちないし、ドロップしても欲しい物が落ちないのも同様ですね。
次回でクラータルでドライブドラゴンを乱獲して竜革の大量仕入れを狙います。よくよく考えたらワンパンでドライブドラゴンが落ちるので、詠唱中断複数持ってて戦い慣れてるなら、二十六層で戦うよりこっちが経験値的にも美味しいんですよね(低い階層だとメンバーが成長しないし)。
●寄り親の情報
直接の寄り親は猫人族の伯爵です。
前に『潮の香りがする』と少しだけ描写した手紙の人。もちろん気まぐれ。
もう少ししたら顔を合わせるでしょう。
●買い物のフラグ
イベントでサイコロを振って、ルミやら主人公が買い物するたびに判定をしてます。実際にはルミが一番出ているのと、いつも起きているのは『順当な結果であった』ばかりです(サイコロに来振って期待値である6~8とか5・9あたり)。オークションの日は二回、キリの良い日だと主人公合わせて三回振ってるので、こういう感じに成ります。面白い物が見つかった判定の後、望みのものが●個あったとか、数だけあるけどMAXないとか、全部あるけど買えない……みたいな第二表を振る流れですね。なのでイベントの買い物では良い物も出ますが、少し惜しい物・今は必要では無い物が出ます(じゃないと面白くないし)。
逆説的に言うと、面白い結果の日じゃないと、お買い物に関する描写をしてない感じですね。「鋼鉄装備を幾つ買った」「ルミが結晶買って来た」とか特に記載してないようなものです。ダマスカス製の大剣・槍とか被っても仕方が無い物が売ってる時も書いていません。