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「無理に最大数は狙わない。少しずつ慣れながら狩れるだけ狩っていくぞ」
「御屋形さまはご存分にドラゴンのお相手を! 我らで支えましょうぞ」
「ご自由になさってくださいマスター! ドラゴン相手だとその方が楽です」
「旦那さまの思し召しのままに」
昭信たちはクラータルの三十三層に訪れていた。
ナーシャ第一迷宮の三十二層で数が六体に増えた状態でも問題なく戦えると分かったので、経験を積んでレベルを上げるためと竜革の素材集めのためにドライブドラゴンを狩りに来たのである。
「早速だな。俺は数を減らしていく!」
「承知! ゴーレムは無理に倒さず放っておきなさい。下がるだけでよい!」
「「はい!」」
最初に出会ったのは五体までで、ドラゴンも三体だった。
昭信は危険なドライブドラゴンを狩り、その間にシモーヌたちがロックバードやノンレムゴーレムの足止めを行う。それぞれに足並みが違うこともあり、出遅れたノンレムゴーレムは放置。ロックバードを防いだりドライブドラゴンの魔法陣を中断させている間に戦闘が殆ど終わった。一撃で一体ずつ倒れていくので、魔法陣を使った個体など何もしないうちに倒されてしまう程だ。
「流石に毎回こうではあるまい。あまり無理はするなよシモーヌ」
「心得ております。しかし御屋形さま。本来は傷つき時間をかけて戦うもの。傷を負ったくらいでは恐れることなどありません」
盾役であるシモーヌに声を掛けると彼女は笑って首を振った。
何しろ昭信は一撃でドライブドラゴンを倒すし、時には走りながら牽制にソニックブレードを放ったりする。都合よく命中などしないが、それでもヘイトが彼に向かってシモーヌにダメージがこないこともあるのだ。それでなくとも暫く守ってさえいればよいのだから、彼女から見れば騎士修行の方が大変だったような気がしてくるほどであった。グミスライムとの戦いのように何をやっても通じないと思えてくる戦いでなければ苦労の内にも入らなかったといえる。
「旦那さま。この先は分かれ道ですがいかがなさいますか?」
「……臭いが両方から来るな。さっきの場所に戻って待機し、順番に倒していくぞ。このまま戦うと連戦になりかねん」
今回はいつもと場所が違うので、地図を買ってグレースに渡していた。
その上で『分かれ道』や『行き止まり』であったり『小部屋』などの少し変わった場所だけ説明させている。複雑な判断が苦手な彼女だが、警戒などはさせずに地図読みに専念、変わった地形だけ説明するのみなら別に戸惑う事は無かった。
「そういえばマスター。製造の方はどのようにされますか? 素材の量次第ですが何を作るかや複数のスロットを目指すかで変わってくると思います」
「前も言ったが十分の一ほどだからな。身内に供給するのを前提にしよう。その上で地元の商店に定期的に流しておいて、派閥から頼まれたら供給を考える程度でよいんじゃないか? 要するに作れるから今は数を揃えようという程度だな」
昭信はロマンチストだが効率を無視するわけではない。
だからルミの質問に対しては、壊して作り直すスクラップ&ビルドは行わないと告げた。あくまで身内に竜革装備を行き渡らせておけばおそろいの装備みたいで格好良い。それがスロットが一つは付いているならば、子孫が自分でスキルを付与する時に助かるだろうという程度である。実際の話、国中の防具屋を回った方がスロットMAXの装備は見つかり易いのだから(見つかるとは言ってない)。
「ならば沢山のドラゴンを倒す必要がありますね、御館さま!」
「そうだな。確実に落とす訳ではないし、ルミの腕も上げておきたい。移動費用と宿代のどちらが安いかを考えるのも億劫だ。可能な範囲で倒していこう」
こうして昭信たちは集中力の許す限り戦うことに決めた。
竜革はレアドロップであり、食材としての竜皮や竜肉の方が普通のドロップだからだ。以前にルミのレベルが上がったのが三十一層中心だが、40レベルに達したことで再び上がり難くなってしまった。そこでこのクラータル三十三層で盛大にレベリングをするつもりだったのである。なお……その行為が他の者たちに波及しないというわけではない。
「お待ちあれ! バラダム家の御家中とお見受けする! 暫しお話がしたいのだが、よろしいか?」
「……そのような者ではないが、お話は聞かせていただこう」
昭信のやる気を最も削いだのがこの質問である。
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「おそらくは……どこかの大騎士団が上級騎士の選抜でもする予定だったのだろうな。ホテルを取るから暫く遊んでいるか、もっと深い階層へ行ってくれないかと頼まれましたよ」
「まぁ。アキノブさまならドライブドラゴンなど一人で獲り尽くしかねませんもの」
昭信はムスッとしているが、エレーヌはくすくすと笑っていた。
婚約をするための条件である三十三層攻略を、わざわざ難しいドライブドラゴンのいるクラータルでやろうとしたのが嬉しかったのかもしれない。あるいはドライブドラゴンですら容易く狩れてしまう男の他愛ない失敗をほほえましく思ったのかもしれない。
「しかし、他家の方と間違われるとはよほどのことですね。それほどソックリであられたのでしょうか?」
「ドープ薬を限界である50まで使った獣戦士と聞いたが……むしろ構成だろうね。あちらは本家のお嬢さんと分家の荒くれものと、それを支える者たちらしい。シモーヌが奮戦しつつ俺が一体ずつ仕留めていく姿を見て誤解したのだろう」
言われてみれば勘違いされる要素はあった。
グレースは頭巾をかぶっていたし、目立つ二人が腕利きの獣人族ならば勘違いする要素はある。ドワーフ二人がいるのだから違うのではないかと言いたい昭信であるが、それは原作を知っているからだ。第三者から見れば探索者など誰でもよいだろうし、鍛冶師を鍛えるのも間違ってはいない。その上で獣戦士99レベルのサボーならばドライブドラゴンを一撃で倒せてもおかしくはないのだから、昭信が間違われる対象としては妥当であろう。
「それは災難でしたわね。それで……その……」
「もちろんボスであるランドドラゴンは倒してきたよ。第一迷宮でも三十三層を突破する予定だけれど、婚約式の手続きを進めよう」
そしてもじもじしながらエレーヌがはにかむと昭信は微笑みを見せた。
三十三層を突破できるというのが貴族の娘が婚約するに相応しい相手ということだ。それも最難関であるクラータルのドライブドラゴンを物ともしなかったのだからこれ以上ない成果である。地元であるナーシャ第一迷宮で踏破するが、もし周囲が注目しているとしたらこのタイムラグは利用できるかもしれない。だが、それ以上に婚約できることに二人は感動を覚えるのであった。
「もちろんですアキノブさま! 私、嬉しいです!」
「俺もだエレーヌ! どれほどこの日を夢見たことか!」
エレーヌも昭信も夢見がちだが、どこか距離を取る面があった。
貴族の子女であり唯一の後継者になってしまったエレーヌには我儘が許されておらず、一緒に歩くどころかダンジョンで戦うことも自重を要求されていた。昭信も異世界転移して最初に出逢い、震えている彼女を助けることを目標と定めた。だが自身が突っ走っていく性質であることを自覚しているがゆえに、公式的な場所では自重していたのである。だが、婚約式さえ行なってしまえば誰憚ることなく一緒に居られるだろう。
「……では、内々には正式な婚約者といたしたいと思います。その上でナーシャ家のことも相談に乗っていただければ幸いです」
「そうさせてもらおう。その上で、俺が抱える秘密を少しずつ聞いてもらいたい」
「はい、よろこんで」
とはいえ抱擁を交わす以上のことをするのも問題だろう。
そこでエレーヌは不安であるがゆえに昭信に相談したいこと、そして昭信のような男子ならば口出したいであろうことを叶えることにした。これだけならば自然な話だし、相談した上で聞き入れない選択肢もあるのだ。対外的に問題ないし、心配事があるならば提案してくれるだろうという判断である。そして昭信の方はエレーヌが聞きたかったであろう、この国の人間ではなく秘密の多い彼の情報をこの世界の人間にも受け入れられるように真実と嘘を混ぜながら説明することにした。
「ではアキノブさまのことを教えていただけますか?」
「そうだな。俺から話すのが筋かな。俺はこの国の出身ではなく性格の問題や、抱えている大きな問題があったことから旅に出た。俺の国では魔法使いやその知識が少なかったこともあって、昔から長男より後の者は継承争いを避ける意味もあって、エレーヌの神殿のような場所に一度預けて教育を施すことが多かったんだ。今ではその風習も無くなってきたが……だからこそ、俺は問題に直面してしまった。ここでは話せんジョブの話だがな」
まず様々な秘密の知識を有している理由造りから始めた。
中世日本には魔法使いはいなかったし、戦国時代になると寺院に次男以降が預けられるのはよくある事だった。地方での教育機関であり、一度外に出すことで後継者争いを抑えるためである。そこで様々な知識を身に着けて大成した者の中に、今川義元や上杉謙信が居たと言えばそれらしい理屈にはなる。そして現代にはその風習は残っていないことも語ることで、匂わせはするが嘘にはしないでおく。最終的に家を出ようと思った時に、例のサイトを見つけてこの世界にやって来て『英雄』になったことも大筋では嘘では無かった。
「シモーヌから聞いているお話ですね……」
「そう、その件だ。そこで様々な知識を得たし、自分には使えない知識も術もある。話しておいた方が良い知識としては、スキルスロット説が正しいらしいということ。俺が分かるようになったのはこちらに来てからだがな。……ああ、そうだ。聞いたかもしれないが俺は詠唱短縮の奥義にも至った。これでエレーヌが魔法を唱えても共に技を使う事が出来る」
昭信は英雄のジョブに関することやジョブの入れ替えについて説明を省いた。
インテリジェンスカードを出すのは簡単だが、皇帝が就いていたとされる伝説のジョブについて語るのは問題だろう。ジョブを入れ替えることができるというのも同様で、他者のジョブを勝手に入れ替えて暗殺するのも容易いとか、迂闊に口にすべきではない。その一方でスキルスロットであるとか、詠唱共鳴が起きないことは今の内から説明しておくべきなのでちゃんと語っておいたのだ(ワープやボーナス武器は語る必要が無いので省略)。
「特に疑問が無ければまたの機会に次の話をするとしよう。エレーヌに心配事があれば教えてくれ、相談してくれるなら俺の意見を言うよ」
「えっと、はい。……わたし、ちゃんとやれてたかなぁ……」
昭信が話を向けるとエレーヌが何か言おうとして失敗した。
本当は相談したいこともあったのだろう、思いつかないなら思いつかないなりに『何をしたら良いのかな?』と聞けば良かったはずだ。だが、そんな考えも簡単に消え去ってしまう。未熟だしそもそも後継者ですらないスペアだったのだ。お嫁さんになって素敵な人の下へ嫁ぐ……というのが唯一の世界であり夢だった女の子には今の環境は優しくなかったに違いあるまい。
「問題ないさ。何かあっても全て俺が切り伏せる。それにここまで保てたんだ、あとちょっと。婚約式まで現状を維持できれば誰も文句は言えなくなる。あと一年もあれば第一迷宮も第二迷宮も俺が攻略する」
「えっ……第二はともかく第一もなの? 残した方が良いかもってみんな……」
「ナーシャは辺境域ゆえに広い。いずれまた増えるなら討伐する方が安心できる」
エレーヌの心配を排除するために昭信は全力で挑む気でいた。
その決断の中には難しい問題とされる、この領地の食糧事情に貢献している第一迷宮の討伐も入っていたのだ。エレーヌは残した方が良いという意見を周囲からもらっているが、迷宮に敗北するかどうかの瀬戸際だったのも確かだ。どちらが正しいと判断出来ないからこそ悩んでいたのだし、その助言をするとしたら自分だろうと、現状での迷宮討伐をハッキリと提案したのである。
「第二迷宮を討伐したら弱くなるって……だから残した方がって……」
「その可能性が高いが、そうとも限らないのが迷宮の恐ろしいところだ。それをクラータルでドライブドラゴンと対戦して理解した。この国で最も古いということは、これまで何度も近隣で倒されるかしたのだろう? それなのにあの強さということは、迷宮の弱体化は一時的なものか、さもなければ癒す手段が迷宮の進化の一つに存在する可能性が高い。ならば第一迷宮がいつのまにか大きく、そして再び強くなる可能性も捨てきれない」
エレーヌの迷いを絶つため、昭信はハッキリと断言した。
クラータルの迷宮はモンスターが討伐されている数も、近くで迷宮が討伐された事もある筈。それなのに第一迷宮で戦ったドライブドラゴンよりも強く、三十三層の中で最強格と呼ばれる理由も判ったのだと説明する。ならば迷宮には『階層を増やして強くなる』、『子となる迷宮を殖やしていく』以外にも第三の進化として『傷を癒してまた強くなる』可能性がある。だからこそ倒すのだと力強く語ったのだ。
「そっか。……危ないんだね。でも、そうしたらナーシャは……」
「迷宮以外の方法で食料や金になる物を増やせばいい。だから俺は農業も産業も育てたい。君と一緒にね」
そうすることで力なく笑っていたエレーヌが、ようやく心から笑えるような気がするのだ。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄51レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄51/剣豪34/百獣王32/勇者27/剣術指南役20
剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30/探索44
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師41
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士40
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者38レベル
資金。3万4000ナール
●特筆すべき内容。
・クラータル三十三層攻略
・寄り親への婚約式スケジュール調整の伝達
・エレーヌの迷宮入りの準備(ナーシャ家の残存装備確認。親族への通達)
・頑強の竜革ジャケット(物理ダメージ削減、空き、空き、空き)がグレースの胴鎧に
というわけで三十三層達成です! ようやく話が進みます。
●婚約式のシーズン
ハック&スラッシュだけでは面白くないので、背景としての婚約式です。
しばらくこの内容を背景に、お話とダンジョン探索が進みます。
一日・二日でレベル上がるはずないけど、「あれから一週間が経過した」ならおかしくないですからね。今後もこう言った話を入れて、ルミが五十層前に隻眼になれそうな経験値蓄積と、スキル付与を行って行こうと思います。
●もしかしてサボー?
サボーとドリルさん合わせて獣戦士130レベル越え。
仮に中成長が3pの成長として敏捷が390p。器用が小成長の2pと仮定すると260p。合わせると550ダメージ(デュランダルを100pとする)が発生する訳です。その位あったらドライブドラゴンも一撃でしょう。そしてサボーという乱暴者が居て勝手に倒しまくり、傍に本家のお嬢さんが居る訳です。こういう組み合わせって目立ちますよね。なら、クラータル三十三層で活躍してたのはサボーなのでは疑惑。まあ笑い話であり、原作とは時間軸の差とかパラレル的なつながりだったとしても、背景として利用したネタですね。
なお、真実を話したところで「百獣王がドラゴン狩り? 迷宮ボスにもで挑んでろよ!」と苦笑されそうな気はしますね。