異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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サマー

「エレーヌ、万金丹と万能丸を何組か用意した。他の迷宮で探すにしろ見つからずにこれだけ探すのは無理だろうから、証拠として十分だろう。効用とサイズを考えれば引き出物としても問題ないはずだ」

 

「お疲れ様です。あ・な・た」

 

 三十三層攻略達成に関して、二つの情報段階を設けた。

 

根回しとして準備に時間が掛かったり早めに教えておいた方がよい相手……親族であったり後援者などには、ドライブドラゴンとランドドラゴンをクラータルで倒したことを伝えてある。逆に反対しそうな相手……領地の境が接していたり過去に諍いがあったという相手などには、ナーシャ第一迷宮で達成した段階で連絡を送った訳だ。どちらにせよサイズが小さく幾らあっても困ることのない、ハーフハーブとハートハーブのドロップ品から作成した薬が引き出物になる予定だった。

 

「そういえば名乗りはどうされますか? いずれ家名は同じ物になるのでしょうけれど、こういう場合は称号的な名乗りを入れるそうです」

 

「ではサマーで頼む。故郷であった武家の好む役職と同じ響きであり、武田家で優秀な次男が名乗られた役でもある。何かの本で読んだマスター以上の称号に引っかけてある。武田家の左馬守昭信だ」

 

 どうせ日本人はいないので、昭信は歴史とロマンを同時併用することにした。

 

諱といって武家は本名を隠して呼ぶために、弾正など役職を勝手に名乗る事が多かった。その中でも左馬守は高過ぎない地位であり武官職であったことから、次男以降の武人が名乗る事が多かったものである。特に有名なのは武田信繁の左馬守と書いて中国名の典厩と号するやり方であろう。甲斐武田家で活躍した武将の名乗りであり、昭信は自分が次男であるがゆえにコレを選んだのだろう。どのみちこの地に土着すれば、ナーシャ武田家として名乗りを変えるのだからあまり気にしていなかったともいえる。

 

「マスター以上の称号ってあまり聞きませんけど、どんなのがあるのですか?」

 

「物語だから正しい物ではないと思うぞ。達人としてマスターを名乗り、その次はドラゴンの如く。更に冬枯れの厳しさウインター、苛烈なる夏の日差しサマー。俺が攻撃特化であるし、今は夏だし、先ほどもいった左馬守と色々な意味を引っかけてあるわけだな」

 

 エレーヌは時々、こんな他愛ない話を聞きたがった。

 

歴史的なたとえの場合は深い事情を語る必要もあるが、物語に登場する架空の称号などどうでも良いはずだ。しかし、昭信が様々な物語を読んだことがあると知って色々と話をせがんだものである。

 

「へー。面白いですね。そうだ、聞いてくださいよ~。私の名前は偉大な大魔導師の名前からとったそうなんですよ? しかも最初は魔術師って意味のマグスで良いかと思ったけど、反対されて偉大なマグヌスという人からとったことにしたんですって」

 

「大魔導師、良いじゃないか! そういえば俺の好きな物語にあった一節なんだが……。複数ジョブにより魔法使いと僧侶の能力を持った者を賢者とその物語にはあったんだ。しかし、主人公の相棒であった魔法使いがその能力を得た時に敵から尋ねられてこう言い返した。『師匠ならばこう言うぜ、『大魔導師』だとな……』と。実に格好良い切り返しだとは思うが……女の子の名前には合わない逸話だったかな?」

 

 実のところ、エレーヌが欲したのは一緒に他愛ない話をしてくれる人なのだろう。

 

そのことに気が付いた昭信は機会を見つけて話をした。途中でマズイと気が付いて方向修正することもよくある。一緒に笑って一緒に泣いていこう。その上で様々な苦労は自分が背負い、エレーヌがそれを支える。時にはそれを逆転させて、エレーヌしか入れない場所ではエレーヌが活躍し、昭信が支えるのだと改めて心に誓ったのである。

 

 

「領地に関する話は完全な正解なんてないから好きにすればいい。その時に長所と短所を考えて問題があればみんなで考えてなんとかすればいいさ」

 

「えっと……では第三の迷宮に関してはどうでしょう? 本当に出ますかね?」

 

 笑い話が終わったところで真面目な話を再開する。

 

エレーヌが色々と迷うことに昭信はシンプルな提案をした。『どちらが正しいのか?』とか『どっちも正しくないのでは?』なんてことはいつだって起き得るものだ。だからいつまでも迷うよりも、自分の好みで決めるくらいの気持ちになればいい。みんなと相談すればよいと伝えたのだ。それに対してエレーヌは直近で一番恐ろしい第三迷宮の可能性について尋ねた。

 

「第三の迷宮に関しては時間を掛けたら出てしまうものとして、時間を掛けないことや兆候を見逃さないことだな。一年以内に第二迷宮と第一迷宮を討伐するとして、それ以前に見つかったら場合によってはそっちを先に倒すしかない。そうなると時間が掛かるが、危険なのは第二迷宮の時のように兆候を見逃して後から判明することだ」

 

「そっか。いつの間にか第三の迷宮が出来て、いつの間にか成長が困るんだ」

 

「そうだ。知っていれば対処は出来る。知らなければ不意打ちをくらう」

 

「うーん。情報って大切なんですね」

 

 迷宮は生態がよく分かってないので急な成長をするかもしれない。

 

外にモンスターが徘徊すればそれだけで手が取られるし、栄養を吸い上げる可能性もある。たとえば第二迷宮は五十一層から五十二層と思っていたのに、第三迷宮が出現したことで五十五層以上になったらそれだけで困る。最後の迷宮ボスを攻略するつもりで装備とメンバーを整えたら、雑魚の群れに囲まれて大怪我して脱出。昭信やシモーヌのような重要な人間が重傷で寝込む……などという事態になることだってあり得るのだ。知っている場合は、さっさと撤退して仕切り直せばよいので情報というのはそれだけで重要であった。

 

「簡単な対処法は騎士団の拡充と組織改革だ。この場合は騎士団の下位グループを幾つかに班分けして、迷宮で戦うというより領内の巡回や村の警邏を目的とする班を作るとかな」

 

「調査する専門の班がいれば確実ですね。ん……自警団や狩人に任せるのは?」

 

「民に任せるなら領主は要らんとか言われそうだ。最低でも主導は騎士団でだな」

 

「なるほど~。税金を貰ってますものね」

 

 なお、この世界に限らず貴族が領民を守るのは義務ではない。

 

やらなかったら領地が荒れて税金は減るし、迷宮で強くなった盗賊が調子に乗って領主の館を襲撃する可能性があるので、そうなったら積極的に退治していくべきだという話である(セルマー伯が分かり易い例)。そうすれば領主は領民のことを守ってくれる良い人という扱いになるわけだ。

 

「領地を巡回する班がいれば見逃す可能性はグっと減るだろう。盗賊も近寄り難くなるから行商も訪れ易くなる。街道を広くしたり橋を架けて通行税をとらなければ、ナーシャを訪れてこの村で買い物したり、宿泊して辺境域の先……他の国へ行こうと思う者も現れるかもしれんな」

 

「っ! ようやくアキノブさまが道を広くしようと言ってた理由が分かりました!」

 

「そういう話だな。もちろん行商じゃなくて、こいつで開拓地を増やしてもいい」

 

「ええと……それは畑に力をくれる『寄生虫』でしたか。その手もありますね」

 

 なお、昭信は凄い考えみたいに言っているが定番だからでしかない。

 

ネット小説の中に出てくる知識チートには、『街道のメリット』が存在すると同時に『街道のデメリット』も存在する。だがこの世界では国同士が争っていない、領主同士が争っていないのだ。『街道のデメリット』である余所者の襲撃がないのであれば、街道を拡げることにはメリットしかないと思っていただけである。そういう意味ではケープカープのドロップ品である寄生虫で畑が豊かになるとか、そちらの方が分かり易いチートなので無理に交易を目論む必要はない。

 

「まあ、こういう話は憶えておくだけでいい。検討しながら他の案と一緒に並べて、『今はこれが良さそう』と思えば実行するという感じだな。ドワーフたちが下位の騎士団から中位くらいになるとして、新しくメンバーを募集して育て代替わりに備えるのも兼ねて考えるとかだな。迷宮で戦うのは直ぐには無理でも、巡回くらいなら出来るだろう?」

 

「そうですね。何もかも出来るようなお金も時間もないですから」

 

 提案したものの昭信はそこまで固執はしていない。

 

現時点で第三迷宮は見つかっていないし、下位メンバーである外陣チームに不満は無いのだ。もちろん獣戦士や神官などを育ててもよいだろうが、そこまでは喫緊の課題ではないのである。

 

「御屋形さま。引き出物として配る事を考えたら、手持ちに残す意味でもハーフハ-ブやハートハーブをもう少し倒しておきたいですが……。どうしますか?」

 

「ラピットラビットに慣れておきたいが、急いでも仕方がないからそれでよかろう」

 

 ナーシャ第一迷宮の三十三層ボスであるハートハーブを既に何度も倒した。

 

見慣れた場所に出現したことで、先頭を警戒するシモーヌが振り返って今後の予定を尋ねてくる。三十三層で戦う探索者もいないではないが、今は婚約式を行うために領主家が狩って回っているという触れ込みをしているので、ライバルが減っているから儲かるのもあった。手持ちの金が数万しかなく、それもスキル結晶を購入したら無くなる昭信としては反対する理由など無かったのである。

 

「む……言っている間にやって来ましたね。連中は耳も良い」

 

「なら倒してから移動しよう。尻尾を巻いて逃げるのは合わん」

 

「ラピッドッラピットは兎の肉を普通に落としますからね。幾ら倒しても良いという意味では同じですよマスター」

 

 話している間にシモーヌと昭信が剣を構え直した。

 

狼人族である二人は臭いで判断しているので対応が早い。ルミはドワーフなのでスピードの速い相手は対処が苦手なのだが、火の車の家計を預かる身としては笑って出迎えるしか無かったのである。

 

「では俺はいつも通り先制しておく。後は任せたぞ」

 

「魔法陣の数がある場合、構わんから撃たせろ。二人一組で確実に処理を」

 

「「「はい!」」」

 

 ラピッドッラピットは異様に素早く、その数が多いので油断ならない。

 

これまでが鈍い相手と戦っていたこともあり危険な相手だと言えるだろう。エレーヌが合流すればストーム系で薙ぎ払えるのだが、今はそんなことも言ってはいられない。昭信はソニックブレードに大技を混ぜることでワザとブレさせ、当て易くして牽制攻撃を放った。その間に彼が突っ込んでいく中、残りの四人が距離を調整しながら対応した。あまりにも素早いので、一人が初期対応し二人目が軌道変化に対応するという二列突撃陣形を編み出したのである。

 

「旦那様……これを」

 

「ありがとうグレース。……こういうタイミングで出てくるのか。回数的には……」

 

「兎の結晶は有用ですから幾らあっても良いと思いますよ。さあ、肉を拾って移動しましょうかマスター」

 

 そしてラピッドラピットを殲滅したところで、兎の肉だけではなく結晶も落ちた。あれだけ戦ったハーフハーブもドライブドラゴンも落ちなかったのに、迎撃しただけの一戦で落ちるとか幸運なのか不運なのか分からず苦笑した昭信であった。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄51レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄51/剣豪36/百獣王34/勇者30/剣術指南役24

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30/探索44

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師41

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士40

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者39レベル

 

資金。3万9000ナール

 

●特筆すべき内容。

・ナーシャ三十三層攻略

・兎の結晶入手

・万金丹と万能薬のお土産セットの充実




 とうわけで婚約式までの話になります。
高額ドロップ品も落ちていますが、引き出物なので収入外です。

●セカンドネーム
 エレーヌが正式に貴族になって、昭信が婿になったらちゃんと付きます。
それまでは異名と言うか、仮名の処理ですね。『諱』を使いたかったのもあります。

左馬守と書いて典厩と号する、最勇の次男、武田典厩信繁から。
そこからサマーです。あとは何かのダンジョン物でネタ的に『マスター忍者の称号』として、マスター・ドラゴン・ウインター・サマーと見たのを覚えていたので、その流用ですね。

●第三迷宮とか街道とか
 ハクスラだけしていても面白くないのと、せっかくなので領主物の話を混ぜます。今はこんなものですが、そのうちに婚約の代わりにネタとして背景に入れることもあるでしょう。

●ラピッドッラピット
 第一層のボスが三十四層の量産型に。苦労してますが仕方がないです。
面白いのはサイコロ振ってるの結晶ですが、ここで出るとは思いませんでした。魔法ダメージ削減とか状態異常抵抗とかの方が高額だし、欲しかったんですけどね。

●レベルUp
 主人公の低いジョブが少しと、レベルがやや低いグレースだけ。
三十四層から三十五層までは強くなるのはお預けですね。
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