異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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外伝:婚約式

●ガレス伯の人々

「辺境の村にしては思ったより人数が集まっておりますね。船長」

 

「母方の親族を始め、この地に口を出せると思った人間がそれだけ多いってことさ。いや、そういう奴が気に入らない保護者気取りもか。愛されてるねえエレーヌちゃんはさ」

 

 婚約式に参加する近隣の有力者は意外と多い。

 

いち早く到着した寄り親(ガラリア)とそのお付きの魔導士(ガエリオ)はつまらない出し物を見るように列席者を眺めていた。本来、婚約というだけでここまで人は集まらない。貴族の当主が『我が家の娘が良い相手を見つけました。よろしくお願いします』と手紙を送って終わりだ。貴族同士なら双方の親族込みで集まって、久しぶりに顔を合わせる言い訳にすることもあるのだろうが……エレーヌの場合は少し違っていた。

 

「エレーヌ嬢が貴族家の当主として認められるかの瀬戸際です。仕方ありますまい」

 

「聞かせてもらってる範囲での案は手堅くて面白くないけど、いかにも王宮好みで問題ないんじゃない? 第三迷宮さえ生まれてこなければ、あの手並みだと討伐するのは時間の問題だろうねぇ」

 

 参加者が多い理由はエレーヌの進退問題だ。

 

両親も兄も死んだから『ハイ、貴女が当主ね!』『私、頑張ります!』とはいかないのだ。だから領地を経営できる手腕と、それ以上に迷宮を討伐可能だという実力を見せつけなければならない。だからこそ昭信は有力者が参加して文句を付ける口実を与えるために呼んだし、彼らが認めれば王宮も貴族会議も認めるだろう。問題は素直に認めるかなのだが……。

 

「それほどまでの強さだったのですか?」

 

「それほどそれほど♪ いやークイックラビットが跳んできたらさ、横殴りに転がして後はトドメを刺すだけ。その間に仲間たちがもう一匹を抑えて……その後はボスを相手に戦闘の練習をやらせていたよ。普通、出来てもやらないよねえ。クラータルで解放会の試験を邪魔したアホってあいつなんだろうなあきっと」

 

 昭信は一応手加減をして詠唱省略を控えていた筈だった。

 

だが、それでも普通の人間から見たらやり方が特殊過ぎる。危険な程の速度を持つクイックラビットは、ボスの中でも凶悪な部類なのだ。それをボール扱いして叩き落とし、みじめに惨殺した後は練習戦闘。『船長』のジョブであるガラリアがいるとはいえ、余裕があるから超高速のボスで訓練しようというアホは中々いないと笑いこけた。

 

「なるほど。それほどの人物ならば文句は付けられませんね。エレーヌ嬢を思えば良い事であるかと思われます。まさかとは模擬戦闘など挑みませんよね?」

 

「やらないやらない。僕はね(・・・)、無駄は嫌いなんだ」

 

 魔道士であるガエリオは親族ゆえにガラリアの事をよく知っていた。

 

面白い事が好きでモメ事が好きで、伯爵家の令嬢なのに喧嘩っ早いし迷宮へは成人してから早々に入り浸っていた。その上で地元の迷宮を踏破する実力を身につけるや、交易などにも関わり猫人族にありがちな気まぐれさであちこちに顔を出していたのだ。飽きっぽいとも言うし、熱し易く冷め易いとも言う。何処まで本気なのか主人を最後まで疑っていたという。

 

●有力者たちの諸事情

『家の存続が危ぶまれるほどの窮地に陥って、どこの馬の骨と婚約したのやら』

 

『いやいや。なんでもいずれかの家の次男坊で、既に百獣王らしいですぞ』

 

 婚約式の当日、ナーシャ家の窮乏を口にする奴はかなり居た。

 

しかし、昭信が姿を現してそのジョブを公開し、自由民であると聞いて露骨に文句を言う奴は減ったという。誰だって命は惜しい。若くして百獣王になる武人であり、自由民ならば自力救済権で決闘を挑める。そんな相手に喧嘩を売って死にたくはないし、勝ったとしても怪我したら割りに合わないのだ。それならば援助の代わりに何らかの利益を申し出た方がはるかにマシであろう。

 

『しかし、家が窮地であるというのは確かであろう? 見よ、あの娘が付けている装備の中で立派なのはウィンプルくらいではないか』

 

『どうかな? 見よ、あのスタッフ。聖銀製で婚約の品を整えるとはな』

 

『しかも伝世の品らしいぞ。吸精はもちろんのこと蜂和と強権もあるとか」

 

 なおも文句を付ける男が口にしたのは聖銀を縫い付けた白ベールだ。

 

母親が輿入れした際に装備した品であり、特にスキルが付いていない事から、記念品でもあり途中から装備されなくなった。そのために残っているだけの品しか存在しない。そう言った男に対して、貴族の娘を迎えるにあたり結納として納める『吸精のスタッフ』という習わしで送る品が言及された。

 

『なんと! 三つもスキルがあると? もしやこの家はまた栄えるやもしれんな』

 

『何を馬鹿な。ひもろぎが無いではないか。あれこそ魔法使いの要よ。足りぬわ』

 

『まあ、だからこそ家から持ちだせたのであろうよ。ひもろぎと吸精では外に出すはずがないからのう』

 

 昭信が蜂和(ほうわ)のスタッフを作るにあたって留意した理由が幾つかある。

 

一つ目は分かりにくい能力を最初に付与し、名前と能力確認を簡便にしたこと。二つ目は『婚約の品として外に出しても問題ない範囲』であることだ。ひもろぎがあった方が強いのだが、それでは実家が持ち出しを許すはずがない。現時点でも白金貨数枚分の価値はあるが、ひもろぎ・吸精があったうえでスキル三つならば優に白金貨十枚を超えてしまうからだ。最後に三つ目は、『将来に知力五倍を付与可能にする』という前提があったので、ひもろぎを付ける気が無かったというのもあった。

 

『とはいえ家一つでは力も多寡がしれるぞ。ナシオは弟のナシアスも失っていよう』

 

『それが迷宮に敗北した理由だからのう。確か娘がおったはずじゃが……』

 

『ふん。そやつも一緒のパーティーなのであろう? おおかた財産に目がくらんで尻尾を振ったのよ。父親はどんな教育をしたのやら』

 

 現実的に貴族家を支える騎士家がなく、母親の実家も余力がない。

 

更に昭信も外に出た身であり、伝世の杖を持ちだした立場から、それ以上の援助は無理だと見る筋も多かった。大方は家督争いになる適当な財を与えて前に追い出したとか、騎士家に収めるには惜しいので他家の婿養子にしたという見方が主流であった。どこも貴族はそんなものだし、迷宮を討伐して領地を栄えさせたいが、そのためには家の団結と他家との交流が重要とみる向きが多いからだ。

 

『いやいや。あれを見よ。グリルとグラルの兄弟が協力を申し出ているぞ』

 

『奴らは料理人ではないか。大方、さっきの氷菓子に釣られたのよ。意地汚い』

 

『料理人の家系ならナーシャに好意的であろうよ。それより、あそこで土産物を漁っているのは薬師の一族だろう? 奴らも呼ばれていたのか』

 

 婚約式は簡単なものであり、既に宴に入っている。

 

見守っていた人々も席を離れ、昭信とエレーヌの下へと挨拶に行っていた。先陣を切ったのは双子の兄弟であり、この辺りの有力者としては料理人としてしられていた。先代の故ナシオ氏とも親しく、食材が落ち易いナーシャの迷宮では便宜をよく図ってもらっていたと伝え、その縁でアイスクリームの作り方を尋ねようとしているのだろう。

 

『土産物? ああ、万能丸や万金丹の他に石鹸とやらを置いていたな』

 

『連中の商売に使えると思ったのであろうよ。そういう意味ではペルマスクもだな』

 

『氷菓子をガラスの器に盛るとは……。奴ら貴族というものを舐めておるのではないか? ワシがこの地の領主に選ばれておれば、とっくに迷宮なぞ討伐してくれように』

 

 招待客には様々な人物がいる。薬師の一族もだしペルマスクの工房主もだ。

 

他にも鉱山をルミの一族から引き継いだドワーフの有力者であったり、木工職人やら細工師であったり、最近になって服飾関係など親方たちも招かれていた。とはいえ全員が好意的な筈も無い。中には口さがなくばかりを言い、尻軽とは言わないまでもエレーヌやシモーヌの事を馬鹿にしている者もいた。そして宴が進むと、その人物から次第に距離を取りはじめ……。

 

「先ほどから貴殿は我が妻となるエレーヌたちに誹謗中傷が酷いな。それほどまでにナーシャ家が復興するのが悔しいか? そう思うならばもっと早く口を出して、『自分が貴族になるからお前たちは我が騎士になれ、面倒はすべて見てやる』とでも言えば良かったではないか。見たところ、炭焼き職人や猟師でもあるまいに。実力はあるつもりなのだろう?」

 

「言いおったな小僧! このワシをグラングラッド家のガランと知ってのことか!」

 

「知らん。だが腕は立ちそうだ。ならば剣で物を言え、腰の逸品が泣いているぞ」

 

「吐いた唾は呑めぬからな! 決闘だ! この場の全てが証人だぞ!」

 

 先ほどから文句を付けている人物は度が過ぎていた。

 

そういった自分は最初から招待されていないか、さもなければ妥協案を根回ししておくものだ。しかし、そういう申し出がなかったからこそ文句を垂れ流していたのだ。昭信は彼の佩刀であるオリハルコンの剣を見て逸品が泣いていると挑発していたが……その口ぶりは、まるで『逸物に自信が無いのか。女を正攻法で泣かせられないのか?』とでも言わんばかりであったという。

 

「まさか船長……余計な事などしておりませんよね?」

 

「にゃははは。グラングラッドの三兄弟にもお手紙を出しちゃった。てへ♪ でもさー、余計じゃないよ? どうせ向こうから理由付けて私闘を挑むつもりなんだから手間が省けて良いじゃなーい」

 

 ちなみにこの事態を招いた元凶は、よりにもよって寄り親であった。

 

ガラリアは楽しそうにこの事態を見物しつつ、『この方が絶対に良くなるからね』と笑っていたという。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄51レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄51/剣豪39/百獣王37/勇者32/剣術指南役29

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30/探索44

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師42

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士41

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者40レベル

 

資金。4万5000ナール




 というわけで婚約式の話です。
といっても詳しい儀式とか知らないので、今回は他者目線で眺めてる感じ。

●ナーシャ家の諸事情
 エレーヌしか直系の子弟が居ないのですが、はい今から当主は無理。
このまま任せても大丈夫と分かってから継承ですね。
その意味では主人公との婚約は重要です。何しろ迷宮を討伐出来そうな婿ですからね。

なお、露骨に反対する奴も居て揚げ足取りをするので、エレーヌも迷宮に潜って居たら『出先で男をたぶらかして味方につけた』とか言われかねないので、外出は公式的な時のみでした。魔法使いにジョブチェンジもその一環で、記録があるし、主人公が面会するときも時間は限ってる感じですね。

●なぜ、ひもろぎがないのか?
 今回はダメージ逓増・MP吸収・詠唱中断の三つで、ひもろぎはアクセサリーです。なんでそんなもったいない事をしたかというと、『知力二倍でMP吸収? そんな装備を有力な家が他家に渡す訳ないじゃん。嫁取りなら別だけどさ婿養子でしょ?』となるからですね。あとはやはり、ルミを隻眼にするのを目指しているので、知力五倍を見据えているからです。

●有力者のプロフィール
・ナシオとナシアス
 エレーヌとシモーヌの両親です。二人が家を正式継いだら、エレーヌ・ナーシャ・アンナシオとなり、主人公はアキノブ・ナーシャ・アンタケダになるかと。

・グリルとグラル
 偉大な山の住人。料理人の兄弟で双子。好きな事はお料理すること食べること。

・グラングラッド家
 偉大な山の住人。三兄弟で暴れ者。両手剣使いの長兄、槍使いの次兄、片手剣と盾を使う三男坊の組み合わせで三人とも中位ジョブ。
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