異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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決着

「ぐははは。よく逃げ出さずにこれたものよのう」

 

「がははは。ワシらに勝てる気でおるかもしれんぞ」

 

「兄者ら、相手は百獣王。成りたての若造でも油断は禁物ぞ」

 

 グラングラッドの三兄弟と中立の貴族の館で顔を合わせた。

 

互いの勢力圏では問題があるとして急遽選ばれた形になる。それ自体は正しい行為であるが、結構な人数のギャラリーが押しかけていた。

 

「忠告させてもらうならばな。俺が勝つんじゃない、貴殿らが自分で勝利を捨てただけだ。『六対六で連戦を禁じる』、そう要求するだけで俺は負けていたからな」

 

「なんだと! それでは数でも個人でも貴様が勝つというのか!」

 

「他の言葉に聞こえたならば謝罪させてもらおう」

 

「「なっ……」」

 

 勝つ気まんまんの三兄弟に対して昭信は微笑みかけた。

 

棘のある言葉を相手にぶつけるのではなく、自分が負ける要素がない。まるで罠に嵌めたようなやり方で申し訳ないと謝罪してみせたのだ。どう考えても慇懃無礼な言い様であり、言葉こそ丁寧であるが三兄弟にも劣らぬ毒があった。

 

「死にたいようだな……審判! まだ待つのか!」

 

「いえ、問題ありません。必要な人数が揃いましたので間もなく開始します」

 

(……見届け人であるガレス伯以外も中位ジョブか。イザとなったら止めるためだろうな……幸いなのはソードマスターや剣術指南役がいないことか。これでバレずに全力が振るえる。しかし三兄弟の装備は足以外、想定内だな)

 

 長兄のガランが審判に選ばれた聖騎士に時間を確認している。

 

その間に昭信は軽く鑑定してみたが、遅れてやって来たゲストたちは全員が前衛系の中位ジョブである。三兄弟も中位ジョブだし、昭信も同様だ。それを考えたら止めるだけでも一苦労であろう。剣こそ抜いていないがいつでも動き出せるような態勢を取っており、イザとなれば介入してくるのが窺えたのである。

 

「聞いたか? 貴様の減らず口もそこまでよ!」

 

「随分と貧相な武具だが、我らに奪われるのを惜しんだのか?」

 

「兄者。油断は禁物と言っておろう。粗末だが伝世やもしれんぞ」

 

「そうだ。鋼鉄の剣だがスキル三つが付与されてある。そして共に戦う二人は聖銀のサーベルと真鉄の槍で、共に強権装備だ。貴殿らに見劣りはすまい」

 

 相も変わらず暴言を吐く三人に対して昭信は正直に答えることにした。

 

ギャラリーがいないならば黙っているのも手なのだが、『負けても装備を渡して済ませられるように勝負法を決めた』と思われても損なので公開することにしたのだ。装備の質はともかくスキルが複数という意味ならばシモーヌや昭信の防具もそうなのだが、そちらの件については説明する必要はないので黙っておく。

 

「それでは只今より決闘を開始する。勝負は三対三の集団戦、それぞれへの攻撃は身代わりのミサンガが切れるまで。それ以上の追撃は禁止するものとし、勝者は敗者より一つずつ武具を奪えるものとするが、それ以上の遺恨は捨てて再戦を挑まぬこと。異存はないか?」

 

「異存など無いわ! さっさと始めろ!」

 

「こちらも同じだ。お手数をかける」

 

 審判である聖騎士の確認に双方の代表者が頷いた。

 

互いに一定の距離を離れていくが、油断はせずに不意打ちを避けるような動きであった。昭信は三兄弟の事を信じてはいないが、あちらもそうなのかもしれない。あるいは三兄弟の方こそが、ポッと出の自由民である昭信の不正を疑っていたのかもしれない。何しろ自分たちが負ける要素など、それ以外は存在しないと信じていたのだから。

 

「二人とも。戦いが始まったら一度下がれ、奴らの戦術は読める」

 

「承知しました。御屋形さま」

 

「御武運を。マスター」

 

 昭信は自陣と言える場所まで戻ってくるとシモーヌとルミに声を掛けた。

 

二人は会話に加わる気がなく、最初からその位置で待っていたのだ。もちろん三兄弟が不意打ちを仕掛けてきたら前に出て援護をする気ではあったのだが。

 

「それでは。勝負、はじめ!」

 

「「「っ!」」」

 

「ふっ」

 

 作戦を相談していたのはあちらもなのだろう。

 

開始の合図があった瞬間に三兄弟が動きだした。否、動きだしたのは昭信もである。三人の動きから見て僅かに遅れたが、それは勝負勘に欠けるというよりは、相手の動きをあえて待ったというのが正しい。何故ならば、昭信は一直線にある人物(・・・・)の下へ走っていたからだ。

 

「ゴウリー! ゲンダー! いくぞ!」

 

「おう! 任せたぞゲンダー!」

 

「おうよ。仕えし司の……っ!?」

 

(やはりな! 跳躍二倍の足装備。そう来ると思った!)

 

 三兄弟は兄たちが跳躍、三男が盾を掲げて突っ込んできた。

 

聖騎士である三男のゲンダーが防御を高めて足止めをして、その間に跳躍した兄たちが上から連続攻撃を掛ける予定だったのだろう。だが、このタイミングで昭信が突っ込んでおり、移動力増強の効果もあって既に到達していたのである。

 

「……モータルストライク!!!」

 

「おおきみの……おおお!?」

 

「「ゲンダー!!」」

 

 盾で防ぎながら呪文を唱える筈のゲンダーは一瞬でボロ雑巾になった。

 

一瞬で裏手に回り込んだ昭信がモータルストライクを食らわせたからだ。それでも頑健付きの防具をはじめとして防御力の高い装備を身に着けていることもあり、からくも耐えるのだが……。凄まじい速度での連続攻撃で切り刻まれてしまった。昭信は対人戦で経験値がもらえないこともあり、格闘経験値二十倍を外して、一時的に7thジョブにしてソードマスターや獣戦士も入れていたのだ。剣速という意味では帝国内で随一であろう。

 

「ゲンダー卿脱落! それ以上の追撃は控えられよ!」

 

「馬鹿な……」

 

「速過ぎる……」

 

(判断が遅い……な)

 

 ゲンダーの足元に身代わりのミサンガが落ちていた。

 

ガランとゴウリーが驚く間に昭信は既に動き出している。彼が走り出してから審判が連れてきた猛者たちが介入しており、茫然自失としたゲンダーがそのまま連れてしまう。どうやら駄々をこねてその場に残り、三人掛かりで攻撃することも警戒していたようだ(もちろん昭信側が同じことをするのも警戒している)。

 

「ぐあっ! こんのおおおおお!? いないだと!?」

 

「兄者! 奴は既に離れた!!! 動きに気を付けろ!!!」

 

「そういうことだ! 悪いが貴殿は最後にさせてもらおう!」

 

 次の獲物は長兄のガランであり着地して振り向いたところを襲っている。

 

ところが先ほどとは逆に即座に移動を行い、ガランを挟んでゴウリーから離れた位置に移動している。しかもゴウリーが持つ大剣の間合いの外であり、斬り掛かっても下がることが可能で、逆に攻めようと思えばいつでも斬り掛かれる位置であった。

 

「むうううう!!!! 卑怯だぞ! 逃げるな!」

 

「悪いな。俺が習った流派では『一挙到一足の間合い』という立派な戦術だ。攻撃に関しては袈裟斬りと逆袈裟、あとは突きの三つしか教えてくれないんだがな。足技だけなら色々と覚えさせられたよ」

 

 ガランが切り掛かるが昭信はカウンターで切ってから間合いを外した。

 

先ほどと同じようにゴウリーを置き去りにして、一撃離脱で走り続けて間合いを維持している。しかも走り方に工夫があり、一度に十歩走ることもあれば、半歩をずらすように待ち構えてガランに一撃食らわせてから立ち去るようなこともしている。しかも駿馬のデミグリーブで移動力が増強されているものがやっているのだ。まともにやって追いつけるはずもない。

 

「シモーヌ。奴らが再び跳んだらお前も飛んで叩き落とせ。それ以外では手を出さなくていい」

 

「承知しました。御屋形さま」

 

「くっ……奴らにも同じ装備が……」

 

 昭信はここでシモーヌに声を掛けることで敵の動きを牽制した。

 

ガランとゴウリーだけがジャンプできるならまだ合流することもできるだろう。あるいは別々の方向に移動し、昭信を撹乱するためにジャンプし続けることも出来た筈だ。しかし事前に動きを制され、言葉で戦術を乱されてはどうしようもない。ならばここで賭けに出るか? そう思った時には昭信は既に走りだしていたのだ。そう、相手を焦らすような戦い方をしているからといって、最後までそうする必要などはないのだ。

 

「悪の獣のもののふの、百煉の力を解き放つ。致命! モータルストライク!!!」

 

「こ、こっちにくるだと!? うおおお!! 兄者、今のうちに俺ごとやれ!」

 

 昭信は先ほどまでと手順とルートを変更した。

 

今度は迂回して辿り着こうとするゴウリーに対して逆行。即座に距離を詰めることで機先を制して攻撃を掛けたのだ。モータルストライクをあえて槍で防がせ、先ほど見せた連続攻撃で鎧越しに何度も斬撃を叩きつけている。昭信の攻撃は基本的に袈裟胴ばかりであり、『走りながら当てる』『ジャンプしてタイミングをずらして当てる』といった攻撃ばかりだ。深い傷を負わせるというよりは、『相手にだけ攻撃を当て続ければいつか勝てる』『その積み重ねで勝利する』という身も蓋もない戦い方であった。

 

「貴様……その動き、対人戦用の教えか」

 

「そうだ。今のは『縮地』ならぬ『借地』といってな。ようするに移動に対する移動のカウンター。相手の動きに逆行し、あるいは斜めに踏み込めば機先を制せるというものさ」

 

 戦士の中位ジョブである『戦さ人』であるゴウリーには理解できたようだ。

 

昭信の動きはモンスターを相手にするための術理ではない。対人戦で勝つために練り上げられた動きなのだ。しかも剣の技ではなく、動きで相手を制することに主眼を置いた流派である。道場や迷宮の中で戦うならまだしも、中途半端な場所で戦うのは三兄弟側に勝ち目など最初から無かったといってもよかった。

 

「兄者。どうする? 一か八かで意地を見せるか?」

 

「……ここまでだな。これ以上は擦り傷が大きくなり過ぎる。だが、時間を稼ぐようなみっともない戦いをしては侯爵さまに申し開きが立たん」

 

 ゴウリーが腰を低くして突撃体勢を取るとガランが首を振った。

 

攻撃力が高く敏捷性ゆえに回避力も高い百獣王の昭信には勝てない可能性が高い。もちろんこれが戦場や迷宮であれば、命懸けで動きを止めて致命傷を食らわせることも出来ただろう。だが試合であり審判たちに介入される可能性が高かった。これ以上の戦いをするよりも、騒ぎを収めることで貴族としてのメンツを立てることにしたのである。

 

「降参だ。まだ戦えるが……その辺りを配慮してもらいたいものだな」

 

「分かった。貴殿が持つオリハルコンの大剣。聖銀の盾と……そっちのダマスカス製の籠手をもらって手打ちにしよう。オリハルコンの大剣以外は人質交換に準じて金でも応じるぞ」

 

 殺し合いの決闘ではなく、貴族が意地を通すだけの戦い。

 

それゆえに昭信は最後までやらず、『負けを認めて詫びを入れる』ことに主眼をおくことにきめた。形式として長兄のオリハルコンの大剣を奪い、三男の持つ聖銀製の盾、そして次兄が身に着けているスキル付きのダマスカス製のガントレットを奪うことにした。金額的には大したことはないがスロット数はあるので、昭信として価値は高い方であり、第三者から見ても妥協の産物であったからである。

 

「勝者! アキノブ・サマー・タケダ殿! これにて決闘は終了する!」

 

「……詫びはいずれ入れにいく。悪いがこの場ではするわけにはいかん」

 

「うちの女たちに謝ってくれるならいいさ」

 

 こうして戦いは終り一応の決着を見た。

 

殺してないので恨まれるかもしれないが、公衆の面前での体面は保てている。殺しても相手の寄り親が復讐してくる可能性を考えれば、こんなものだと昭信は手打ちを受け入れたのであった。

 

●リザルト

オリハルコンの強権剣・不眠のダマスカスガントレット・聖銀の盾(いずれもスロット多数)




 という訳で一騎打ちは勝利で終わりました。
まあ7thジョブでしかも剣士系のジョブがあったら負けはないですよね。
とはいえそれでは決闘で勝利した! 以上終了なので、『貴族的に殺しても禍根は残るから殺さない』という妥協の戦いにしています。

●勝機
 冒頭でも述べていますが、主人公は一回だけしか戦うな!
と言われるのが一番困ります。それ以外では勝てますね。
もし三人が固まっていたとしても、シモーヌが足止めしている間に相手のアタッカーを先に仕留めて終わったでしょう。もし苦戦する様ならオーバーホエルミングを連発すればいけたでしょう(勇者の方は使いたくない)。

●戦利品
1:オリハルコンの強権剣(詠唱中断、空き、空き、空き、空き)
2:不眠のダマスカスガントレット(睡眠耐性、空き、空き、空き)
3:聖銀の盾(空き、空き、空き)

今回は妥協なので1以外は微妙です。
ちなみに装備全部奪えば、全員が頑健を始めとしてスキル付きの耐性装備を付けていました(殺して奪ったら相手の派閥から恨まれるけど)。あと、遠慮したのは婚約式にこっちから呼んだのに、イチャモンつけて殺したら問題だからですね。
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