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「コボルトケンプファーは魔法に弱いからエレーヌの魔法で削っていける。最優先はラピットラビットだ。いたら俺が倒すつもりだが油断はするなよ」
「必ず食い止めてみせます、ご安心くださいお嬢さま!」
「信頼しています。でも、勝利を優先してくださいね」
昭信たちはナーシャ第一迷宮の三十五層に挑む。
これまでとは魔法使いであるエレーヌの加入と、オリハルコンの剣を実戦投入するのが大きな違いである。シモーヌが主人を失敗するのは良いが優先し過ぎないかどうかと、中々増えないコボルトを使ってまで付与したダメージ逓増がどこまで機能するかが注目のしどころでもある。
「エレーヌ。危険度から言えばさっき戦ったレムゴーレムの方が遥かに危険だ。落ち着いて唱えれば問題ない」
「動いてなかったですけどね……ふう。頑張りますアキノブさま」
この戦いに先駆けて、二十七層のボス部屋で練習戦闘を何度か行なっている。
レムゴーレムは基本的に寝ているのと、御供の雑魚もノンレムゴーレムの場合は寝ている事が多い(ついでに言うと魔法陣以外の特殊動作がない)。そこで動いてる敵は昭信が即時に粉砕することを前提に、何度か戦ってみたのだ。離れた位置から迫力満点の敵に対して呪文を唱えてみる……という程度にしかならなかったが、それでも度胸試しとしては十分だろう。
「では行くぞ。まずはラピットラビットがいない敵からだ」
「お嬢さまは呪文を唱えてください。我々は敵を止めるぞ!」
「……香り捕らえて行く風に、仇はらえる武威を乗せ、噴流、ブリーズストーム!」
こうして三十五層の敵に昭信たちは挑んだ。
この階層で一番臭いの強い敵が集まる場所へ向かって歩き、昭信は一体だけいるハーフハーブへと突撃。その間にエレーヌが呪文を唱え、シモーヌたちが時間を稼ぐという流れで戦闘を始めた。
「せ、成功です!」
「敵は大きく傷ついております。流石ですよお嬢さま!」
(……褒めるのはシモーヌにやらせておけばいいな。さて……武器の差もあるが、やはりダメージ逓増と範囲魔法の組み合わせはアリだな。初撃であるはずの俺の攻撃が連撃扱いになるのがありがたい。威力を上げるのが頭打ちだったからな、相手の防御力が上がるペースよりも上回っていけるだろう)
ブリーズストームが敵群を薙ぎ払った後で昭信がハーフハーブに斬撃を浴びせる。
今回は威力を見るために技は使っておらず、そのまま高速で連続攻撃を浴びせていった。今使っているオリハルコンの剣が鋼鉄の剣より強いというのもあるが一撃目より二撃目、更に攻撃を重ねていくたびに火力が向上するのを手応えで感じる。おそらく威力の高いオリハルコンの剣を使っているからこそ、その成果を如実に感じるのだと思われた。
「効率は考えなくていい。もう一度ブリーズストームを使ってみてくれ。まずは確実に倒す練習からだ」
「はい! 見ててくださいねアキノブさま!」
「その意気ですよお嬢さま!」
成功体験を味わせて、そのまま『私もやれる!』という気持ちを刻ませる。
そのために昭信は命中し易いブリーズストームによる攻撃を連発させた。コボルトケンプファーは魔法に弱いので、呪文は止めさせて剣で倒す方が効率が良いはずだ。だが戦いの初心者であるエレーヌが落ち着いて戦えるように、ただひたすらに同じ呪文を唱えさせたのである。
「エレーヌ。ちょっとこっちに来てくれ」
「は……はい。これでよいですか?」
「ああ。そうだ、そのまま」
「ん~」
何度か戦って休憩しながら強壮剤でエレーヌのMPを回復。
それを見届けた後で昭信はアクセサリーを取り出して、一度剣を迷宮の壁に立てかけてエレーヌを傍に呼び寄せた。すると何かを勘違いしたのか、あるいはおねだりなのか目を閉じて顔を顔を仰向かせていた。仕方がないので首の後ろに手を回しつつ、軽く触れ合うようなキスをする昭信であった。
「……このアクセサリー。アキノブさまが身に付けられている物と同じですよね?」
「お揃いというより対になっている『よりしろのシルバーアクセサリー』だな。ただし激情じゃなくて、ひもろぎになってるのが俺のと違っている。身代わりのミサンガはグレースに渡してやってくれ。その上で装備し直すんだ。今のままだと先に付けているミサンガの方が有効だからな」
おずおずと目を開けたエレーヌは首に掛かっているアクセサリーを見た。
それは以前から購入しているシルバーアクセサリーに、ひもろぎと身代わりを付けて完成させたものだ。婚約式の時には付与していたのだが、装備させるのがこのタイミングになったのは理由がある。魔法使いの力を計測し、ある程度戦い慣れたところでパワーアップ。迷宮での戦いでは装備品に大きく影響されるという事と、段階的に強くなっていくことで戦いに対する好感触を与えるためであった。
「あ、ありがとうございます。結納の品なのでしょうけど……嬉しいです」
「気にすることはない、必要だから渡すだけだ。何よりエレーヌが無事であること、強くなって迷宮を討伐するのを見るのが楽しみだからな」
流石に昭信も『実験のついでだ』と言うつもりはない。
このアクセサリーはシモーヌに渡して実験するつもりだったとか、先にエレーヌにプレゼントしてから貸し出しをしてもらおうとは思っていた。しかし、そんなことを今言う必要はないのだ。ただ能力が上がることと命を守るために、そしてエレーヌのために用意したことだけ伝われば良いだろう。
「お幸せなところを見せつけてくれますね、マスター」
「すねるな、いずれルミにも何か用意するさ。もちろん装備品というだけじゃないぞ。喜びそうな物をそれぞれの性格を考えて用意するのは男の務めだからな。ルミにはルミが喜びそうな物を、シモーヌやグレースにはそれぞれの好む物を用意するだけだ」
昭信はルミが差し出すオリハルコンの剣を構え直しながら語った。
婉曲的にエレーヌが羨ましいとルミが言っているくらいは分かる。とはいえ物をプレゼントするだけでも意味がないことも分かった。何度も繰り返すが昭信は空気が読めないだけでデリカシーくらいはあるからだ。だが、ルミが喜ぶモノが何かを即座には理解できない。よってプレゼントを選ぶことを伝えて、経営的なパートナーであるる彼女にだけ相談できることをすることにした。
「蜂によるダメージ逓増は全体の5%、または武器のみである代わりに20%ほどだ。おそらく5%の方で、焦点は技のダメージも乗るかどうかでボスへの攻撃が変わるんだが……集団戦でも思ったより使えそうだ。ここで相談なんだが他の者にも付けるべきだと思うか? あって損はないがスロット数の問題と、改善したとはいえ予算の問題があるからな」
「攻撃するたびに威力が加算する。付けてない者の攻撃で途切れるんですよね?」
「そうだ。俺とエレーヌだけなら間違いなくプラスなんだがな」
「5%のチャンスをどう見るかですか。難しい問題ですね……」
ここで重要なのがストーム系からのリンクは全員にチャンスがあることだ。
範囲攻撃だから初撃が確実に命中するので、白兵攻撃を当てた瞬間に一回目の連鎖が発生する。一緒に攻撃する者がいれば二回目のチャンスであり、仮にいない場合でもエレーヌが唱える二回目の呪文が二回目の連鎖になり得るのだ。以降は敵の数が減るたびに連鎖の回数が増えていくわけだが、ダメージ逓増のスキルを武器に付けていなければ連鎖はその時点で途切れてしまう。ここで問題をややこしくさせているのが、昭信が超火力であるゆえに戦闘が直ぐに終わること、そして彼に頼りきりだからパーティー全体の火力が心もとないことである。
「確認です。この能力が力を発揮する時、それはどんな状況なのですか?」
「いずれ俺の力でも一撃では倒しきれない状況がきたり、一人で対処していたのでは間に合わない状況がやってくるだろう。それを乗り越える力を持つことだ。前者は俺とエレーヌがこの能力を発揮すれば問題無くなるだろう。だから求めているのは後者への対応力だな。グミスライムやクイックラビットなど危険な敵は居ただろう? ああいう存在と戦う時に雑魚であろうと速攻で数を減らしたくなる時があるんだ」
これまで昭信は殆ど一撃で敵を倒せており、例外はボスのみだった。
ただ、敵が強くなる過程でそれを果たせない時も出てくる。特に十一層ごとに敵のランクが上がる時であったり、そのランクの中でもタフネスで装甲の厚い相手と戦う時だ。だが魔法使いであるエレーヌの攻撃とダメージ逓増のコンボがあればその心配が要らなくなる。問題は危険な敵数体と同時に戦う時だ。
「そうですね……。ではマスターの技を数種ほど使ってみて試してください。その攻撃にダメージ逓増が適用されるかを確認します。それでボスへの攻撃の懸念が解決されるでしょう。その際にソニックブレードでしたか? あの技にも適用されるのでしたら幅が広がります。そして技や呪文に乗るのであれば、属性剣にも乗るでしょう。その場合はシモーヌさんのサーベルに付与することを予定に入れれば良いと思います。あれは数体を巻き込める時がありますからね」
「そうだな。まずは確認してみるか。それ次第で応用範囲が変わるからな」
「はい。もし技に適用されない場合はこの槍に用いる方が良いでしょう」
こうして蜂のスキル結晶に関する検証が進められることになった。
もっとも呪文にダメージが適用される以上は技にも適用されるのは当然のことだ。
「やはり技にも効果が適用されるみたいだな。シモーヌの剣にも付与する前提でいこう」
「光栄です御屋形さま。お嬢さま! これで私も攻撃に貢献できます!」
「よかったわねシモーヌ。これからも頼りにしているわ」
ひとまずシモーヌが持つ聖銀のサーベルに付けることを前提に蜂の結晶を発注することになったのである。なお、シモーヌはダメージ逓増による連鎖を主人との絆の産物と捉え、非常に感激したということである。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄51レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄51/剣豪40/百獣王38/勇者32/剣術指南役31
剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30/探索44
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師42
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士41
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者40レベル
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い17レベル → 21レベル。
資金。24万2000ナール
●特筆すべき内容
・アイスクリーム製造技術販売の代金納入
・強権のオリハルコンの剣(詠唱中断、ダメージ逓増、空き、空き、空き)
・手持ちのスキル結晶。蝙蝠、貝、蛙、トカゲ、蟻、牛、トロール、人魚、兎。
・発注中の結晶。コボルトx3枚・灌木・トロール・人魚・蟻x2を入手予定。一部、割高注文中。
・コボルト数枚・蜂・芋虫を追加発注予定。
という訳でエレーヌが戦闘に参加。戦闘が劇的に変わります。
具体的に「あとちょっとで倒せない!」が解消されることになりますね。
加えて蜂のスキル結晶の効果もあり、主人公の叩きだせるダメージが増しました。
●ダメージ逓増
1:全体ダメージの5%
または
2:武器のダメージの20%
どっちであるか悩んだのですが、呪文での攻撃に乗るので技にも適用されるでしょう。つまり何が言いたいかというと、仮に通常攻撃が100pで技使うと300pになる場合、通常時は105でしかないけれど、技は315pになるわけですね。もちろんスキルを複数使うと500が525になります。