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「旦那さま。これを」
「御苦労。……そうかコボルトイェガーもちゃんとボスだったんだな」
グレースが拾ったスキル結晶を昭信はしげしげと眺めてから受け取った。
ちょっと前に何度も戦ったハーフハーブからは落ちず、少しだけラピットラビットと戦った時に落ちたのと対照的である。エレーヌの訓練もあって三十五層のコボルトケンプファーと何度も戦い、そのボスであるコボルトイェガーと何度か戦った結果であった。ボスの方が良い物が落ちるので順当と言えるし、僅かな間に二個目のドロップ(それでも何十体と倒しているが)とあって奇妙な物を感じる。
「コボルトのスキル結晶ですかマスター? 幾つあっても足りないので得しましたね。この後の予定はどうされますか? 明日はオークションに行ってからシュナイドラーさまのところに赴きたいのですが」
「そうだな。……コボルトフラワーとコボルトスクロースが潤沢に用意できるようになったが、確か次のボスが落とすのはカメリアオイルだろう。それがあれば揚げ物の菓子が作れる。ボス部屋まで直行した後で、ボス戦を何度かやってから帰還して午後は休みにしようと思う」
ここでルミが予定を尋ねてきたので午後からは休みにすることにした。
次の日が休日なのとオークションがある日なので、ルミは早めに休んで朝からスキル結晶が無いか探しに行く気なのだろう。ここ暫く手元不如意で買い出しに行かなかったのだがアイスクリームの代金が届けられたので、シュナイドラーが集めている筈のスキル結晶ともども買いに行くつもりなのだろう。
「エレーヌとグスタフは悪いが明日、ペルマスクまで付き合ってくれ。それとグレースは菓子を作るのを手伝ってもらう。色々と覚えてもらいたいからな」
「ふふ。デートというものですね、楽しみです」
「ワシも構いませんぞ主殿」
「旦那さまの思し召し通りに」
エレーヌとグスタフの反応は予想通りだ。しかしグレースも心做しに嬉しそうだ。
そんなに甘い物が好きだったかな? と思いつつ、それとも料理を覚えて『他の者では出来ないことを学んで捨てられないようになるのが嬉しいのか?』と思ったところで、昭信は原作のワンシーンを思い出した。
「……ああ、そうだな。菓子を覚えたらカメリアオイルは幾らかグレースの管理にしようと思う。それで良いな、グレース?」
「はい。旦那さま。腕によりを掛けさせていただきますね」
不思議なことにまだレシピを教えてないのにグレースが反応した。
どことなく嬉しそうに見えるのは、昭信が『侍女の嗜み』というプレイに関して思い出したからだ。いわゆるローションプレイでありカメリアオイルを使うのだという。
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「グレース。菓子の方はこんなものだが……。『侍女の嗜み』以外に習っているワザはあるのか?」
「名前までは存じ上げませんが、ロウギョという魚を特定のスパイスで揚げた料理を侍女が食するという物があります」
その日に戦ったカナリアカメリアの記憶を昭信はあまり覚えていない。
ボス戦を何度か繰り返したが、グレースに尋ねた性技の数々があまりにもショッキングだからである。イメージと言う物は大切で、彼にとってカナリアカメリアというのは変わったプレイを愉しむ日の前段階にしか感じられなくなったのだ。人間であった時と比べて性的欲求に波が出てしまったので、あまり倒したい相手ではないと認識してしまった。
「ロウギョ……撈魚……いや蝋魚? 蝋が多いのに揚げる? どういうことだ?」
「その、尾籠な話でも申し訳ありませんが……お通じが良くなりますので、御不浄の処理やその後の行為が楽になります。その代わり出しきるまでは粗相をしかねないので日常の業務からは外れることになるのですが……」
普段は変化に乏しいグレースの顔が歪んだ。
顔を赤らめるだけではなく、ある種の嫌悪感というか『あまり口に出すべき事ではない内容を話している』という自覚があるからだろう。その行為自体は別にどうでもよいのだが、代わり映えの無いグレースの行動に変化が出た事に昭信は興味を示したのである。
「……もしかして尻でするワザか」
「はい。特定のスパイスを使うのは、狼人族の方は鼻が鋭敏ですので……。その、御不浄の処理をしても臭うことがあるそうで……予め良い匂いを付けておくのです。その道の達人は果物や香り高い野菜のみを食して過ごすとか……」
要するにアナルプレイというやつである。
昭信は聞くのではなかったと思うと同時に、この日の記憶が曖昧になるのを感じた。人はあまりにもショッキングな体験をすると記憶が押し流されてしまうのだろう。というか暗記術というのは思い出し方の方が重要なので、『ワックスの多い魚に香辛料を振って食べる』ということがイコール『アナルプレイ』であり、『カナリアカメリアのカメリアオイル』がイコール『プレイ用の道具』とインプットされてしまったのかもしれない。
「あ、あの……旦那さまが望まれるのでしたら……努力いたしますが?」
「いや、要らん。偶には趣向を変えるという意味では、両手に余るほどの女性が存在するのだ。無理にそんなことをする必要も、その先をする必要もない。忘れろ。ああ、そうだ。他に特徴的なワザがあれば、そっちの方が面白いかもしれないな」
後ろですることにあまり興味がない昭信はこの日の会話を忘れることにした。
ちなみに後日、この話が女性陣で共有されて各人一回は試すことになる。これに対して常識的なシモーヌは『子供を産むのが重要なのに、どうして後ろで?』と理解不能という反応を示した。一方でルミは好奇心旺盛なタイプなので『一回くらいはしても面白いかもですね。お通じが良くなるだけなら効用と言えるでしょうしね』とあくまで実用本位で認識したという。当然ながらグレースは『自分だけが行うプレイ』として、後の世代への伝承者となったということである。
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「家督継承おめでとうございますナーシャさま。それとタケダ殿はお見事でした」
「いえいえ。全てはアキノブさまのお陰なんですよ」
「これからはエレーヌも大活躍しますよ」
ペルマスクに訪れた昭信たちはまず外交辞令を受け取った。
エレーヌの家督継承が認められたのも、昭信が決闘で勝利したのも確かである。その上で今回は様々な取引があるのでグスタフを連れて訪れたのである。
「さて、本題に入るとしてグスタフ。例の物を頼む」
「承知しました、主殿。こちらになります」
「おお、これがあの菓子の……」
昭信たちが持ってきたのはアイスクリーム製造機としての円筒だ。
以前にドワーフたちに作ってもらった物と同様の存在であり、筒の中に氷・塩・硝石を入れ、筒そのものは材料に浸して回転させていけば銅製の筒が次第に冷えてアイスクリームが製造できるという代物である。
「作り方は説明しましたので試されたでしょうが、コレを用いればもっと簡単に作成できますよ。大きくすればアイスも大量生産も出来ますが……身内のパーティーにお客を招待するくらいにしておいた方が、当面は無難でしょうね」
「その通りですな。試作品も好評でしたし、末永く使わせていただきましょう」
昭信がもたらしたアイスの概念と、この道具の組み合わせは有益ではある。
だが有益なものはコピーされ、場合によっては劣化した物が量産されてしまうものだ。特に大型のアイスクリーム製造マシンを作って、大規模なパーティー会場で披露してしまえば即座に広まってしまうだろう。そのことに釘刺して情報と道具に関しての価値を昭信は高めておいたのである。
「いやはや、ペルマスクの大工房主には余計な説法でしたな。ただ、もしこれをコピーしてご友人に譲り渡す時はご注意ください。それさえ気を付けていただければ……」
「分かっておりますとも。価値の分かる者にだけ相応の利益で譲ります」
昭信が渡したのは概念そのものであり、エックハルトが利益にしても良い。
そのことを伝えに来たのが用事の半分と言ってもよかった。今日はこの都市でオークションなど無いし、武器屋や防具屋を覗きはするが、早々に優良な装備品が入荷しているとは思えなかったからである。
「それで例の件なのですが、アイスクリームを作ってみせたところ高評価でしてな。これほどの知識を譲ってくださる方ならば、信じてもよかろうという話になりました。ただし、どのような内容なのか概要だけでも教えていただきたい……と申しております」
「それは重畳。ではレンズを戴ければ現物を作って参りますが……紙をくれるか?」
「主殿、こちらに」
残りの用事は適量のレンズを受け取る事だった。
数枚程度ならばエックハルトでも独自に入手できるのだろうが、それでは完成品である上に数が限られてしまう。売り物のサンプルを作るならば、厚みが異なるレンズがなるべく多く有った方がよいのは確かだ。また、工房主同士の駆け引きもあって、エックハルトは時間をくれと以前に言っていたのである。その上で、アイスクリームの概念を聞いてから試作し、食べさせることで信じさせたという。
「概念の一つ目は定型の枠を用意しておき、レンズを交換するものですな。例えば私と、このエレーヌでは目の良さが違うでしょうし、何十年かして年老いた時に差も出てくる。しかし一定の枠を用意してレンズを当て嵌めて、この以前よりも厚みを増す、あえて歪みを持つレンズを使うことで、視力を楽に補えます。大きくて分厚いレンズで拡大して上下させるよりも、余程に楽ですよ」
「ほう……ほほう。これは良い商売になりますな。同じ方に何度も売れるのも良い」
昭信がまず伝えたのは眼鏡の作り方だった。
現時点では大きなレンズを用意して、上下させることで画像が拡大する現象を利用しているらしい。一枚一枚が貴重品な状態ではそうそう売れはしないが、ペルマスクの技術ならばある程度は量産できる。それをやっていないのは単純に作っても売れないからであり、眼鏡という概念を普及させればレンズを幾らでも売ることが出来るだろう。穴が二つ空いて頭の上から定位置で吊り下げるような帽子であったり、仮装舞踏会に現れそうなマスクをコピー用紙に描いてみせた。
「これはこれで素晴らしいと思いますが、先ほど一つ目とおっしゃいましたな?」
「ああ、これだけでは即座に商売が出来ぬでしょう? 新しく来た来賓に売りつけるために、先日の覗き窓を覗かせるのは面倒だ。そこで最初から目標を作り、一定の距離から読めるかどうかで目の力を計るのです。例えばそう……そこの人物画が本物の人間であると仮定して、間違え易い文字であったり、一部が切れた円のような簡単な図形を読み取れたら『貴方の目はどのくらい。このレンズを付ければ小さい物が見えるようになります』と謳い文句にするのです」
昭信が用意した二つ目の概念は視力の測り方である。
先ほどの眼鏡に関しては、困っている人は困っているが『別にこれで構わない』で済ませてしまうのが当然である。レンズのことを知っているエックハルトだからこそ売れることを確信しているが、たとえばエレーヌやグスタフは視力の変化など気にしないだろう。だが実際に一定距離における視力が下がったと知り、ちょっとした出費で補えるならば購入する可能性が出てくるだろう。具体例として『C』を紙に描き、それを大きさ順にならべて(切れている側はランダム)視力検査で使うような検査表を紙に追加で描いたのである。
「……ふう、流石ですな。では以前と同じ白金貨一枚分の代価で契約させていただきましょう。もちろんレンズのサンプルは要るだけお持ちください」
「それは良かった。サンプルが完成したらお持ちします。今度はご友人も一緒しましょう」
その時、エックハルトは肩をすくめて昭信はウィンクをした。
単純に絵の向こうに
「アキノブさま。白金貨の契約だなんて凄いですね!」
「知っていて実物があれば可能なことを伝えただけさ。それよりもせっかくペルマスクに来たんだ。武具を見るとして、そのついでにこの島を観光しようじゃないか」
そして昭信たちはペルマスクの帰りにデートをしたという事である。
褐色の肌とゆったりとした布製の着物を着て、この都市が島にある都市国家であり、帝国には所属していないことなどを伝えた。ガラス製品の技術を守り、国々の間柄に関わらず購入してもらうためだとガイドに聞いたような話をして帰還したのである。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄51レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄51/剣豪40/百獣王39/勇者33/剣術指南役33
剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/神官30/薬草採取士30/探索44
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師43
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士42
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者41レベル
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い24レベル。
資金。24万5000ナール
●特筆すべき内容
・レンズに関する白金貨の契約(残り100万ナール分のツケ)
・カメリアオイルの使い方に関するレシピ(裏)
・カナリアカメリアに関する記憶が飛んだ。次は三十七層だ(棒読)
というわけでデート……デートな会になります。
しょっぱなから汚い話で、次が商売の話メインですが。
●蝋魚
バラムツという魚は主成分がワックスで、とても美味しいけど、便意も無くただオイルを垂れ流す存在になり、尊厳が破壊されて危険だそうです。その話をもじって、『プレイの為の御用達』としてネタを作ってみました。
●新しい契約
アイスクリームの概念と作成装置を売却。
前回にお金は貰ったけど、それ自体を売っても良いよという話。
持ったなさすぎだけどアイスの概念と技術を開拓し、ペルマスクに研究させる為。そして何より、色んな事で便宜を図ってもらうからその見返りですね。
・眼鏡の概念
・視力検査の概念
は隠れて様子を伺っている、レンズ工房の工房主に売ってまた白金貨分の代金をもらう感じですね。おそらく十数万の聖銀製防具か、数十万のオリハルコン製の手足防具複数で終了になると思いますが。