異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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増強計画

「オークションでは幸か不幸か、つぼ式食虫植物の結晶とヤギの結晶のセットが落札出来ました。おそらくセットの組合せは微妙であることと、人気である鳥や牛人の結晶が控えていたことが影響していると思われます」

 

「確かにそれは微妙だな……しかし、ヤギか…これはこれで悩ましいな」

 

「エレーヌ様のアクセサリーと同じものを作るかどうかですね」

 

 今回は能力値上昇系の結晶が集中していたらしい。

 

牛人は腕力が上がり、鳥は敏捷性が上昇するという。他にも精神が上がる木の結晶がセットより前に出ていたとか。こういうのも運気なのかもしれないが、知力二倍の効果を持つヤギの結晶を使うかどうかが微妙であった。この間までならシモーヌのサーベルに付ける可能性があったのだが、今では蜂のダメージ逓増を付けるつもりなので微妙なのである。

 

「ダメージ逓増の方をアクセサリーに付ける手もあるが……普段使いを考えたらこちらをサーベルに付けるべきなんだよな」

 

「マスター。それなのですが、アクセサリーの方も作ってみませんか?」

 

「ほう。昨日聞いた時はそこまで乗り気ではなかったが何か聞いたのか」

 

 聖銀のサーベルには四枠しかスロットがなく、既に半分埋まっている。

 

知力二倍は属性剣と組み合わせねば意味がなく、属性剣自体を常に使う訳では無いので微妙なのである。しかし属性剣は武器にしか付けられない特性上、枠の内の一つは人魚の結晶で水触剣を付けることを決めている。となると一枠しか空いておらず、残り一枠を以前の段階であれば知力二倍の予定だった。だが今ではダメージ逓増の方が有益だと思えるので、知力二倍をつける余地が無くなってアクセサリー側に付与するしかないという玉突き現象が起きていた。

 

「はい。シュナイドラーさまの話では、毒でも加算されるそうです」

 

「……なるほど。呪文でもスキルでもその人物が発生させるダメージ全てに効果が乗るのだから、毒によるダメージにも有効であると。すると現状で試すならグレースだし、本当に意味があると分かったならルミの槍にも毒と一緒に付ける手もあるな。その場合は詠唱中断・眠り・毒・ダメージ逓増だから、一枠空くので防御無視を付けてもよいし、今は様子見のまま攻撃力五倍を将来に狙うのも悪くはない」

 

 蜂の結晶はアクセサリーに入れることが出来る。

 

鑑定があればスキルスロットの数が分かるので、そちらに入れて使い回せば色んな人物が試すことが出来るだろう。蜂の結晶は知る人ぞ知る有益な結晶であるため、競り始めたら時は高額になるがライバルがいない時は割りと簡単に購入できるのである。

 

「ならば先にアクセサリーに入れて毒ダメージから試すべきだな。その次にシモーヌに渡して属性剣を合わせた三連撃で試せばいい。有効ならば計画通りに進めて、強くないならば知力二倍を入れて伝世品らしさを出しておけばいい」

 

「それが良いと思います。エレーヌさまのアクセサリーで芋虫を使い切りましたので、それも合わせて発注しました。今あるミサンガはグスタフさんに回せばよいかと存じます」

 

 現時点ではコボルトの個数が全く足りていない。

 

それを活かして昭信たちは実験を行っていた。何の能力を優先するかを考えて順番を定め、予算の問題で買えない物がある時は、人数の都合で急がない身代わりのミサンガに使う芋虫の結晶を使わずに取っておいたりしたのだ。

 

「シュナイドラーの所で買えた結晶は何がある?」

 

「蟻と灌木。それとお祝いを兼ねてコボルト三枚を頑張って集めてくれていたそうです。この間拾った物と合わせて四つ。何を付与するか悩ましいところですね」

 

 スキルスロットがある装備なら確実に成功するのでコボルトを必ず使う。

 

能力がほぼ倍増するので使わない選択肢がないのだ。しかし一度に入荷する物ではなく、継続購入は止めた方がよいと言われているので早々集まることがない。今までは鋼鉄装備までだったのでバランスは取れていたが、それだって付与したい結晶を使っていなかったり買い控えているからである。ダマスカス製の防具やオリハルコンの剣を入手したことで、コボルトの結晶は幾らあっても足りなかった。

 

「蜂のために一つ残しておくとして、人魚に使って属性剣を付けるところまで仮決定しよう。真鉄の槍に毒牙、オリハルコンの剣に防御無視、聖銀の盾に詠唱中断……後は足防具に蝙蝠・蛙あたりか?」

 

「マスターの剣に防御無視を決定でよくないですか? その上で次点が属性剣と毒牙かと。……そうだ、次はパーンが出てくる層ですよね。聖銀の盾に詠唱中断を優先しましょう。申し訳ありませんが、足防具は暫くお預けになるかと」

 

 ここで優先順位について意見が分かれるのは方針の差だ。

 

昭信は『複数人で一体撃破』を目標としたい。彼に頼り切りなのは何かあったら危険だし、また数手の攻撃を終えた時に、もう一体倒れていると殲滅ペースが早くなるからだ。逆にルミは昭信の超攻撃力あってのパーティーなのだから、『主人の戦闘力維持と戦闘力向上の両立』を重要視している。変に全体バランスを底上げして時間と費用を費やすよりも、昭信の装備をさっさと揃えて万全の態勢を作る方が確実だと考えているのだ。

 

「そうだな……パーンに時間をかけるのは危険だ。防御無視と詠唱中断を決定として、毒牙を様子見といこう。次にコボルトだけが入れば毒牙、蜂複数枚が手に入ればダメージ逓増を二人分という案を仮決定。それとは別にスライム一個と竜二個くらい……後は牛人一個を構想に入れておいてくれ。そろそろ装備計画を新たに見直す」

 

「承知しました。私の方でも複数案を考えてみます」

 

 昭信は今までの延長線上にある計画について見直すことにした。

 

そろそろ装備が揃ってきており、スキル付きの防具も含めた防具全体も見直す必要性が出てきた頃だ。昭信に能力値ボーナスはそこまで必要ないと考えてもいるが、スキル付き防具の充実を構想に入れてよい頃だろう。グスタフにはエレーヌの護衛に徹しさせておくとして、グレースの武器だって無理にアップグレードする必要はない。ならば買い物は防具中心に見て回るとして、スキル結晶も徐々に増やそうと思ったのである。

 

「第一迷宮はこのまま三十七層・三十八層とあまり立ち止まらずに攻略していく。理由としては成長ペースが遅くなってきたことだな。師匠の冒険よりも長めに時間を取っているのに成長していないのは、第二迷宮の攻略に時間を取られているのとコボルトケンプファーの経験は思ったよりもマズイんだろう。能力相当というか、気が付いたら死んでるのはあいつらくらいだ」

 

「コボルト種は魔法に弱いですからね。おかげでラピットラビットがよく見えます」

 

「パーンやスパイススパイダーなら丁度よい緊張感が保てるだろうさ」

 

 ルミたちだけでなく昭信のレベルも上がり難くなってきた。

 

必要経験値二十分の一がないルミたちは当然のことながら、昭信の方も成長速度が緩くなった。これは中位ジョブが四十レベル前後に差し掛かったことや、特に勇者はもとから成長率が悪いのでとうとう後発の剣術指南役に追いつかれてしまった。強くなるだけなら6thジョブや7thジョブで沢山並べれば良いのだが、せっかくなので上位ジョブにまだ若い段階で達してみたいのである。また第二迷宮を放置する訳にもいかないし、マーブリーム・ビッグホッグ・クラムシェルと食料系が連なる三階層なので独占出来ているのに周回しない手はないのだ。成長が妨げられても仕方がないだろう。

 

(それはそれとしてコボルトの獲得に関して何らかの手を打たんと、いつまでも足りない状態が続くことになる。それに迷宮攻略に関わる人手という意味でも最近は足りない気がする。この辺に関してそろそろエレーヌと話し合うのもよいかもしれないな)

 

 こうして昭信は様々な事情に関して整え直す必要を感じ始めていた。

 

現状は順調ではあるが何か問題があってからでは遅い。それにコボルトの個数が足りなかったり、原作主人公と比べて迷宮攻略が遅くなっているのは前から感じていることだ。もちろん野生の英雄とまで言われるロクサーヌの存在は大きいし、彼女に引っ張られながらも何とかしてしまう原作主人公の努力あってのことだろう。しかし、負けているからといって負けっぱなしで居られないのが男というものである(無理に張り合う必要もないのだが)。

 

「この度は素晴らしいお菓子を教えてくださり感謝いたしますヨ」

 

「お礼にもなりませんが、この村が発展するように美味しい料理を作りますネ」

 

「そうしてほしい。アイスクリームは果実を並べてもよし、果汁を練り込んでもよし。菓子の中で相性がよい物や、タレとして酒やカラメルを掛けると味が変わってくるからな。俺はそれを知っていても、再現しきれないと思ったから二人に託すんだ」

 

 領主の館に向かうと双子の料理人、グリルとグラルが待っていた。

 

エレーヌと面会する日を確認してタイミングを合わせたらしい。ちなみに二人からは料理人の上のジョブに関する情報を貰ったが、食材以外のドロップ品をゲットする確率が上がる攻撃技があるらしいことを教えてもらった。ただしスキル結晶は特に落ちないので、その時点で興味を失っている。

 

「そういえば今回、第二迷宮で暫く独占させていただけるそうですネ」

 

「ああ実は自分達だけで回る余裕がないんだ。利益性としては二十層がビッグホッグ、二十一層がクラムシェルだった。これまでの傾向的に二十二層はマーブリームで確定だろう。エレーヌが爵位継承者として認められたお祝いの祭りをしたいから、一緒に巡るのも悪くないと思うぞ。うちにも料理人がいるから、三パーティーに分かれて手分けすれば乱獲できる。報酬として揚げ物のレシピを幾つか渡そう」

 

 双子の料理人は奴隷を数人抱え、必要に応じて数名募集しているらしい。

 

モロクタウロスなどを狩る場合は一パーティーで挑み、ビッグホッグなどを狩る場合は少人数のにパーティーに分かれるそうだ。そこで昭信はドワーフたちを加えて三パーティーを編成することで、食材を落すモンスターを徹底的に狩って迷宮の力を落とすと同時に、お祭りに備えたいらしい。

 

「揚げ物ですか。興味がありますヨ」

 

「料理の基本形は同じだな。出汁に漬け込んで寝かせておいたり、揚げる前に粉を塗すことで衣を作ったり、パンを千切ってパン粉を作って塗すとそれだけで触感が違う。後は食べる時に溶かしたチーズに浸すとか、幾つかのレシピは二人が旅の途中で聞いたことがある郷土料理にあるんじゃないかな」

 

 二人が昭信のスケジュールを尋ねた時点で、昭信にもお伺いがあるのは当然だ。

 

そこで昭信は事前にメモを用意して、その一部を二人に手渡した。その一つ一つは確かに何処かで聞いたような内容であり、この世界にまったく存在しない訳ではないだろう。だが明らかに体系化された知識と、レシピの料理過程を読んで二人にも何やら感じ入ることがあった模様である。

 

「これも……故郷の料理の再現ですか? 凄いですネ」

 

「しかし、これだけの料理を迷宮踏破しながらは無理ヨ。だから選んだのですか?」

 

「そういう事だな。二人はエレーヌの亡き父上に縁があったという。そこにはお互い様の面もあったと思う。しかし、俺は縁というのは重要だと思うんだ。究極的には誰に教えても同じかもしれん。だが、どうせなら縁の深い人たちに作ってもらって、磨いた技術の結晶を食べさせてほしいとな」

 

 どんな世界でも賢者は知識を秘匿し、技師もまた技を隠すものだ。

 

そのことは理解した上で昭信は情報を売り買いするつもりでいる。双子の料理人だって自分たちの夢があるだろうし、それこそ故郷には料理屋を開く予定だってあるかもしれない。だがそもそもが元の世界から持ってきた知識に過ぎないのだ。料理の道に生きる人々に使ってもらって何が悪かろう。それに迷宮の力を削り、食生活を豊かにできるならば何の問題もあるまい。

 

「そう言われては仕方ないですネ。迷宮を踏破し切るまでは居ますネ」

 

「残さず滅ぼすと聞きましたヨ。ならば期間限定の協力、構わないですヨ。その後は弟子を送ります」

 

「それはかたじけない。必要ならばドライブドラゴンを倒す特訓に呼ばせてもらう」

 

 こうして双子の料理人とそのパーティーがナーシャ領の戦力になった。

 

決して部下という訳ではないが、声を掛ければ協力してくれるだろう。それに食材を落とすタイプのモンスター限定とはいえ、安定して狩り続けてくれる者が存在するのはありがたいことである。昭信はこの後でスキル結晶を落としたら買い取る契約もしながら、エレーヌたちが戻ってくるのを待ったのである。

 

「アキノブさま! 教えていただいた通りに作ってまいりました。ね、シモーヌ」

 

「ええ、お嬢さま! ちゃんと味見もいたしましたのでご安心ください」

 

「待っていたぞ。ささ、お二人とも。まずはカツレツと串揚げをご賞味いただきたい」

 

「「ほほう……」」

 

 ナーシャ家は所詮、地方の男爵家なので貴族と言えど料理を作る。

 

今回は予め伝えたレシピのうち、割と作り易いものを選んでエレーヌとシモーヌに作ってもらった。素人料理ではあるが領主自らの接待であるし、また技術や素材の一つ一つは見たことがあっても、それらがまとめて一つになって居れば違った味わいにもなるものである。

 

「小皿は追加の調味料です。お好きな味付けでどうぞ」

 

「カツレツは先ほどのパン粉が塗してあって、ザクザクと面白い歯応えしてますネ。これは……揚げ焼きではなく大量の油で揚げていますネエ。普通の塩と味付けした塩……これは果実と野菜の汁を魚醤と混ぜ合わせてますネ。おお、タレに付けると衣の触感が変わっていく……」

 

 カツを食べるだけだが、食べ慣れない者には興味が勝る。

 

衣の食感を愉しみその変化を愉しんでいるようだ。味付けについて特に何も言わないのは、料理人から見て想像が付き易いものだからだろう。もし『これなら自分の考案したソースの方がおいしい』と思っていたとしても、口に出さない良識が二人に備わっているのは間違いがない。

 

「こちらは食べ易いサイズに限定していますヨ。ふむ……大皿の前に小皿があるということは、好きな物を選んで食べてよいということですか。卵や野菜もあるのが嬉しいですヨ」

 

「そうです。もしここに侍女しかいない場合は持ってこさせることも可能ですが……ここは自分の選択を愉しむ方が面白いでしょう。それとお二人に言う必要はないでしょうが……調理台を前にして揚げたてを食べたり、小さい鍋を使って自分で揚げるのも面白いでしょうね」

 

 串揚げの方は、小さいサイズに意味がある料理として仕上げてある。

 

自分好みの食材を、自分好みの量で、自分好みの味付けで食べていく。特に形式などなく、自分が好きなように食べるための料理だと説明したのであった。

 

「今日は御馳走を戴きましたネ。ありがとうございます」

 

「明日から早速、迷宮に潜ってきますヨ。また教えてください」

 

「ありがとうございます! お二人も、アキノブさまも!」

 

「これでお祭りは大丈夫そうかな? みんなで料理をして楽しもうじゃないか」

 

 こうしてナーシャ領に愉快なメンバーが加わり、迷宮攻略の戦力が増えたそうである。

 

●特筆すべき事

・双子の料理人との契約

 

1:今回入手した結晶。コボルトx3、灌木、蟻、山羊、つぼ式食虫植物。

 

2:過去発注した結晶。コボルトx3。芋虫、蜂x2、はさみ式食虫植物、トロール。

 

3:手持ちのスキル結晶。蝙蝠、貝、蛙、トカゲ、蟻x2、牛、トロール、人魚、兎、灌木、コボルト4、山羊、つぼ式食虫植物(1計算済み)。

 

・購入予定の結晶。コボルトx3枚・トロール・人魚・蟻・芋虫・蜂x2、はさみ式食虫植物(2計算済み)




 という訳で、結晶を買ったり戦力を殖やす契約とかの話ですね。
目新しい情報としては、蜂だから毒にも効きますよねというネタ。
新しく殴って適用され、毒でも適用され、刺客に成ったら毒の追加も可能な設定にするつもりなので、どくどくと蜂で回っていきます。まあ、決定打ではないのですが、面白いアタッカーなれるかなと。

後は追加戦力として、部下でも奴隷でもなく契約料理人。
数年の契約で戦ってくれて、その後はフランチャイズのコックを派遣してくれる感じ。もちろん場所とかの優遇はしますが。
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