異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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流星

「パーンは下層のボスでも屈強と知られた存在だ。白兵戦も魔法も得意で、スピードもパワーもあるから隙が無い。魔法陣潰しは鉄則だが、固まっている場合は過度なツッコミを避けろ。魔法陣を潰したところで、もう一体の個体から殴られるからな」

 

 三十七層の攻略を開始したが、ラピットラビットの代わりにパーンが現れる。

 

強敵がいなくなったと思ったら次の強敵出現であり、なかなか楽をさせてもらえない。だが逆にいえば緊張感を保って戦えるということだ。迷宮に挑むということは何処かで強い敵と戦うものなのだ。ナーシャ第二迷宮みたいに集中してないだけマシだろう(あちらは集中している分だけ、抜けてしまえば楽ではあるが)。

 

「仲間のために犠牲になるというわけではないですが、モンスターの怖い所ですね」

 

「ルミの言う通りだ。生まれては死ぬから恐怖も無く、経験も累積しない。こちらも別個体という性質を利用している以上は仕方あるまい」

 

 敵は攻撃に全振りで、味方の犠牲を気にせずに攻撃し続けられる。

 

それは脅威であるが、逆にいえばこちらの張った罠に対して対応しないということである。何らかの必勝パターンを組んで戦うと、必ずその罠に嵌ってくれるのだ。迷宮に挑む以上は避けて通れない仕様といえるだろう。眠りから目が覚めようが麻痺が解けて動き出そうが即座に判断できる脅威と共に警戒すべきモンスターの生態ではあるが、乗り越える手段さえ確立してしまえば以後恐ろしくなくなるという良い面もあるといえるだろう。

 

「御屋形様。予め盾役と組んで突入するのが確実でしょうか。ただ、それだと魔法陣を全て潰すことが難しくなりますが」

 

「範囲魔法の一発くらいは覚悟すべきだろう。シモーヌの提案を採用しよう」

 

「これまでの戦いの集大成ということですね。御屋形さま」

 

 ここでシモーヌは議題に関してストレートに対応した。

 

魔法陣を展開した敵に対して詠唱中断のスキルを付けた武器持ちが突入。それを守るように盾を構えた仲間が援護するという考えだ。引き算の問題で援護する物の人数と、後方で魔法を唱えているエレーヌの分だけ手数が減るのは仕方がない。ゆえに相手が魔法攻撃を成功させ、それが範囲攻撃で味方全員がダメージを受けてしまう……そんな可能性を論じ、昭信は素直に受け入れたのだ。

 

「旦那さまの思し召しのままに。過去の主に仕えていた時に比べ、格段に攻撃を受ける回数は減りました。戦うたびに一度であれば、大した傷ではありません」

 

「グレースがそう言ってくれるのはありがたいな。ただ序盤に固まっていれば俺が両方切り倒すし、中盤以降なら数が減っているから、この場で考えるほどには危険ではないさ。恐れずに戦っていくことにしよう」

 

 あまり過去の主人に関して口に出さないグレースがあえて言葉に出した。

 

それは世間の常識と比べて、昭信のやり方が優れている。だから心配ないと仲間たちにフォローしたつもりなのだろう。その心意気が分かるからこそ、昭信は素直にフォローしてくれたことに感謝し、気楽に戦っていこうと告げたのである。

 

(とはいえ馬鹿正直に戦うのも馬鹿馬鹿しいな。山羊のスキル結晶が欲しいわけでもないし、経験値効率もそれほど変わるまい。盾役と中断役が共同する戦い方に慣れたら、さっさと三十八層に……いや、三十九層や四十層まで駆け抜ける方が楽だな。原作での描写的にもおそらく、今の戦力なら四十四層までは問題ない。戦闘経験を積みながら、ペース配分を調整していこう)

 

 昭信は口では注意を促していたが、それほど心配はしていなかった。

 

何しろ雑魚との戦闘は数がいるから脅威だが、そのどれもが今までに戦ってきたボスだからだ。素早いラピットラビットが六体並んだり、攻撃魔法を使うパーンが並ぶのは確かに脅威だろう。だがまだ一撃で倒せる状態だし、エレーヌの魔法が加わったので四十層を越えてもそれが続くという確信がある。また原作でも三十四層から四十四層は一層に一日・二日程度で駆け抜けており、それほど脅威ではないこと自体は分かっていたのだ。それでも戦うと決めているのはロクサーヌのような天性の才能がないことを自覚していること、原作で奴隷たちの成長が非常に緩やかになったのは、三十三層以降では一層ごとに数日で駆け抜けていたからだと知っていたためである。

 

(このところの成長率の低下は冒険者の数を考えればレベルキャップではなく、適正経験値の低下という説の方が合っている気がする。その上で原作よりレベルが高いのは少人数で戦ったりボス戦を繰り返す回数が多かったり、要所で一週間以上の時間をかけることがあったせいだろう。その例を考えればここで時間を費やすよりも、もっと美味しいドロップの存在する層で経験を稼ぐ方がいいだろうな。ひとまず四十層・四十二層・四十四層で稼ぎながら成長していくことにするか)

 

 昭信はこれまで掛けていた時間を振り返り、これからの予定を決めた。

 

戦う敵は十二層から二十二層のボス敵と分かっているので、ドロップ品と戦闘方法を予測するのは難しくない。三十七層はパーン、三十八層はスパイススパイダー三十九層はハチノスと欲しい結晶が落ちないのだ。ドロップ品も美味しくないことから、四十層のホワイトキャタピラーに四十二層のビープシ-プ、四十四層のウドウッドとスキル結晶もドロップ品も美味しい相手がいる階層でこそ時間を使うと決めたのである。

 

「……御屋形さま。御思案のところ申し訳ありません。敵が参りました」

 

「よし。ちょうと思案の区切りもついたころだ。まずは注意してパーンを倒していこうじゃないか。みんなを任せたぞシモーヌ」

 

 昭信が考えをまとめているとシモーヌが声を掛けてきた。

 

言われてみれば確かに臭いがするのだろう。昭信もオリハルコンの剣を構え直して敵が移動している方向へと向かった。相手から攻めさせるのも悪くはないが、やはり先手を取り続けるのが自分には合っていると昭信は戦い続けるのだった。

 

『レオナルド。37レベル』

 

『レオナルド。37レベル』

 

 その階層のボスは黒い羊が直立して歩いている姿であった。

 

ただし腕は四本あり、乳房を持つと同時に、股間から触手に尻尾にも見えるナニカが三本生えていた。だが恐ろしいことにそいつが持つ最大の特徴は、そんなものでは無かったのだ。

 

『……バーンストーム』

 

「ちぃ! オーバードライビング!」

 

「散開!!」

 

 魔法陣の展開が異様に早い。知力とスピードが非常に高いのだろう。

 

詠唱を中断させるために突っ込めたのは昭信ただ一人。シモーヌは咄嗟に離れているエレーヌとグスタフに、せめて聞こえていてくれと叫ぶのが精一杯であった。

 

「きゃあっ!?」

 

「お嬢さま! 御無事ですか!?」

 

「モータルストライク! 保てよ……オーバードライビング! これ以上、呪文を唱えさせるわけにはいかん!」

 

 昭信は切り札の一つであるオーバードライビングを使用、それも連発した。

 

明らかに焦っていたこともあるが、万が一にもこのまま呪文を喰らい続ければ悲惨なことになるからだ。特にレベルが低いエレーヌが危険なので、躊躇なく自分の体を酷使して凄まじい連続攻撃を仕掛けたのである。

 

「ラウンドスマッシュ! う、おおおおおおお!!!!」

 

「鳥よりも速い……まるで流星……」

 

「お嬢さま。どうかお薬をお飲みください! 一刻も早く、お早く!」

 

 昭信の動きはまさしく流星であった。

 

オーバーホエルミングは若干の威力上昇効果があると言われているが、オーバードライビングはスキル効果を増すという。本当かどうかは知らないが、昭信は剣速を上げるシャープエッジの効果もあって凄まじい連続攻撃を仕掛けていたのである。惜しむらくは自分からは見れないことであろう。ただ衝撃に流されて体感の遅れが気になったので、一度目のモータルストライクの反動はラウンドスマッシュで相殺し、今度は二体目に対して突っ込んだ。袈裟斬りから逆袈裟、体をひねって体勢を整えながら再び袈裟斬りを繰り出した頃には、大技を使うことをすっかり忘れていたという。

 

「ううん。もう問題ないわ、だってアキノブさまが倒してくださったもの」

 

「それでもです! 御屋形さまはお嬢さまの怪我を何より嫌われます」

 

「大丈夫ですか、マスター? かなり無茶をされたようですが……」

 

「一応はな。……やはり魔法ダメージに対する備えは、して……おく、か」

 

 エレーヌはシモーヌの制止を振り切って昭信の下に駆け寄った。

 

そこではルミに支えられた昭信が、息も絶え絶えに立ち上がっている。あまりの連続攻撃を繰り返したのと、その途中で敵が消え失せたことでバランスを崩してしまったのだろう。エレーヌは自分も昭信を支えようと、反対側に移動してルミと挟み込んだという。

 

「主殿、これをご覧ください」

 

「……装備品? なるほど。全滅後に直ぐ踏み込んでしまったのか迂闊だったな……。しかしここまで来るような奴が全滅だと? いや、装備は思ったよりも貧弱なようだな……だとすると余計に解せん」

 

 グスタフが拾ったらしい物を持ってきたが、それは竜革のグローブだった。

 

鑑定してみたが特になし。部屋中を鑑定してみて、装備品が散乱しているのを見かけた。おそらくは魔法を受けた後で格闘戦を挑まれ、ふっ飛ばされたのだろう。あるいは取り囲んで攻撃しようとして四本ある腕で殴られたり、やはり魔法を喰らって全滅したのだと思われる。

 

「旦那さま。以前にレオナルドからは媚薬の材料が採れるのだと聞いたことがあります。もしや、コレでは?」

 

「……カカオか。確かに媚薬の一種だな。興奮剤と言った方が早いが媚薬にもなる」

 

 全ての疑問はグレースの言葉で解決してしまった。

 

おそらくは媚薬を求めてやって来た冒険者なり探索者の一行が敗北したのだろう。よく見れば詠唱中断のついたダマスカスの片手剣のほか、詠唱遅延のついた鋼鉄剣も数本ある。一人分だけスキル付きの良い防具があるのでそいつが隊長格だったのかもしれない。スキルの無い防具も竜革と鋼鉄装備と、そこそこに整えられたメンバーだったようだ。惜しいところで死んだとも言えるし、中途半端な実力で無謀にも挑んだから全滅したといえるだろう。

 

「え、えっと……ピンチにはなりましたが得をしましたねマスター」

 

「それで全滅しかけては笑い話にもならんがな。しかも財政が回復した後で中途半端な物を拾ったのでは慰めにもならん。いや、励ましてくれているのは分かるがな」

 

 何とも言えない表情でルミが苦笑いを見せた。

 

どう考えてもリスクありきの大技を使ってピンチを乗り越えたとしか思えない。そんな昭信に何を言えば良いのか分からなかったのだろう。昭信にもそのことは分かったが、手に入った装備が微妙だったのと、アイスクリームの技術が売れてペルマスクで新しい契約を締結した直後で笑うしかないタイミングであった。

 

「でもアキノブさま。みんな無事でよかったですわ。それに……素敵でした」

 

「そうだな。そう思っておこう。とりあえず三十八層に移ってから昼食に戻るか」

 

「「はい」」

 

 昭信はジョブを入れ替え、神官の全体手当を使用してから態勢を整え直した。そしてボスに挑む時はちゃんと状況を確認してから戦おうと心に決めて、その日の午後は第二迷宮であまり使ってない神官や薬草採取士を伸ばしたりしながら、少しのんびり戦いを繰り広げたそうである。

 

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄51レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄51/剣豪41/百獣王40/勇者33/剣術指南役35

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/探索44/神官33/薬草採取士33

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

/装備

・強権のオリハルコンの剣(詠唱中断、防御無視40%、空き、空き、空き)

・強権の鋼鉄の剣(詠唱中断、MP吸収、防御無視40%)

・かがほの鋼鉄短剣(火葬剣、空き)

・鋼鉄の鉢金(空き、空き、空き)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、空き)

・不眠のダマスカスのガントレット(睡眠耐性、空き、空き、空き)

・駿馬のダマスカス・デミグリーブ(移動力増強、空き、空き、空き)

・よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師42

/装備

・強権の真鉄槍(詠唱中断、睡眠添付、空き、空き、空き)

・鋼鉄のオープンヘルム(なし)

・鋼鉄の胸当て(なし)

・鋼鉄のグローブ(空き、空き、空き)

・ダマスカス鋼製のデミグリーブ(空き、空き、空き、空き)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士41

/装備

・強権の聖銀サーベル(詠唱中断、HP吸収、空き、空き)

・強権の聖銀盾(詠唱中断、空き、空き)

・鋼鉄の額金(空き、空き)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、睡眠耐性)

・鋼鉄のガントレット(空き、空き、空き)

・駿馬のデミグリーヴ(移動力増強、跳躍力増強、精神二倍)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者41レベル

/装備

・睡眠の鋼鉄の片手剣(睡眠添付、麻痺添付、毒牙)

・強権の鋼鉄盾(詠唱中断、空き、空き)

・竜革の頭巾(空き)

・頑強の竜革ジャケット(物理ダメージ削減、空き、空き、空き)

・竜革のグローブ(空き、空き、空き、空き)

・加速の竜革ブーツ(移動強化、空き、空き、空き)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

エレーヌ。狼人族。♀。15歳。魔法使い24レベル

・蜂和《ほうわ》の聖銀スタッフ。(ダメージ逓増、MP吸収、詠唱中断)

・聖銀のウインプル(なし)

・竜革のジャケット(なし)

・竜革のグローブ(なし)

・竜革のブーツ(空き)

・よりしろのシルバアクセサリー(身代わり、二倍)

 

資金。20万1000ナール

 

●特記するべき事項

・迷宮敗退者の装備品




 というわけで今回は『さっさと上に行くぜ!』という決意と同時に窮地。
ゆっくり戦ってもよいけど危険ばかりが多い。なのでサクサク進むのですが……落とし穴も待っている感じですね。とはいえ苦戦する相手では無いので、「直前に全滅した奴がいる。既に召喚されていて即座に攻撃して来るからピンチ!」というネタを同時に使ってます。

●レオナルド
 いわゆるサバトの黒山羊ですね。腕四本で両性具有、しかも三本あるぜ!
ドロップ品はカカオ豆で、稀にもっと良い物も落とします。
ギルドに売るよりもエロ目的で買いあさっている貴族に持ち込む方が高く売れる代物。

なおドロップ品はあえてしょぼくしてあります。
あんまり良い品だと全滅するはずないし、そいつらの装備で自分が強くなるのも寂しいので。
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