異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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媚薬の使い道

「確か君はペルマスクで見た……」

 

「はい、ヒルダと申します。現在とある(・・・)貴族家に購入されまして、窮地であることから使者の代役をやらせております」

 

 昭信はペルマスクで『戦士として使える奴隷』を見せてもらった事がある。

 

その時にグレースを購入したのだが、一緒に見せてもらったヒルダという女が、数名の仲間と共に昭信の屋敷を訪れてきたのだ。戦う練習をしながら三十七層から三十八層に抜け、見つけ難く移動力もそこそこ早いスパイススパイダーと戦っている日々のことである。

 

「僭越ながら本題に入りたいのですが……。シュナイドラーという商人を介して、薬師の一族へ幾つかのドロップ品を鑑定に出したと伺いました。相違ありませんでしょうか?」

 

「そうだ。薬か食材か分からなかったからな」

 

 ヒルダとは旧交を温めるというには縁がなかったので、さっそく本題に入った。

 

はきはきと喋る言い方も栗毛のショートカットも同じ。だが小綺麗な男装をしてキラキラとした目は力強い。どうやら運よく重用してくれる主人に出逢ったのだろう。運が悪くなければ数年もすれば騎士に叙任される可能性は高いと思われた。彼女たちの装備はスキル付きは一つもないが、ダマスカス鋼製や竜革ばかりなので、使者扱いともあってかなり待遇が良かったからだ。

 

「……ということは全滅していたパーティーは君の所のか? 試みに尋ねるが装備は返した方がよいのかな?」

 

「いえ。あくまで目的の品を確保するために契約した者です。慣例に従いご笑納ください」

 

 昭信はここで一つの確認をしておいた。

 

壊滅したパーティーの装備品は次のパーティーの物だ。宝箱として出た場合も同様の処理になる。ここで聞きたかったのは『媚薬を集めさせていたパーティーに関わっているのか』を確認しつつ、『当然の権利を認めるかどうか』で友好度合いを計ろうとしたのである。

 

「ではそうさせてもらうとして、カカオと傾国人参を譲れという話かな?」

 

「はい! ですが叶うならば、継続的な取り引きを御願いしたいと当家の主人は申されております。何分……その、一度の愉しみに用いる目的ではございませんので、継続性を必要としているのです」

 

 これまで明朗に喋っていたヒルダが一瞬口ごもった。

 

それは仕方があるまい。男装していても彼女は立派な女性なのだ。媚薬を使用する目的に関して口に出すのは憚られるだろう。だが主命とあっては躊躇できないのが苦しいところだろうか。

 

「前向きに検討するためには大前提を大枠だけでも教えてもらいたい。家の名前や所属派閥などはそれ以降で構わんよ。ただし金銭にはそれほど困っていないので、選択式の条件を用意することになるだろう」

 

「まず我が主はペルマスクを介した位置にある他国の貴族であられせられます」

 

 別に断る理由はないが、昭信は相手の事情に合わせて商売を替えるつもりでいた。

 

それこそドロップ品を高額で売却しても高が知れるのだ。数千ナールの品を一万ナールで売ったところでどれほどの得になるのか? 数年間取引を続けて数万から十万ほどの利益になっても、その後に終了したのでは何の意味もないのである。

 

「ほう……国外の。続けてくれ」

 

「はい。幾つかの問題が同時に起きてしまい、一族の血が非常に細くなってしまわれたのです。老齢であらせられる先代が奮起なさるか、若君がお早目の閨房通いをされる必要がある程度には追い詰められております」

 

 話を聞いている内に昭信は交渉をする気になった。

 

もちろん相手の話を全て鵜呑みにしているわけではない。一族の血が細くなった……つまり当主死亡なり危篤というのは確かなのだろう。だが細くなっているのは直系の血であり、親族であったり他家へ嫁や婿養子に行った子供達はまだ無事な可能性はある。そこから養子縁組という線も無いではないだろうが、出来れば直系にこだわりたいくらいには冷静に話を見ていたのである。ではどうしてその気になったかというと……。

 

(国外の貴族というがよいな。交流があればグレースを暗殺者にしたのが国外という言い訳もできる。それに国外の仲買人に売買を依頼するよいキッカケにはなる。ヒルダの家にはその仲介を頼めばよいだけだ)

 

 まず好条件なのがこの国の貴族ではないことである。

 

派閥の柵などに縛られること無く相手の伝手だけを利用できるのだ。数年経過して『もう要りません』ということになったとしても、その数年の間に必要なことをしてしまえばよいのである。それに追い詰められた貴族が立ち直ろうとするならば、エレーヌもシモーヌも同情するだろうし、ナーシャ家に直接話を持ち込まれたら断り難いのもあった。

 

「という訳で主人の願いを聞いていただければ幸いです。金銭以外ということで……たとえば、その……女性をお望みであれば、私を始めとして閨にあがることも厭いません」

 

「馬鹿馬鹿しい、女には不自由しておらん。だが交渉自体は前向きに受け止めよう」

 

「ありがとうございます! これで御家も救われます!」

 

 ヒルダは昭信の答えを聞いて二重の意味で笑みを浮かべた。

 

交渉自体は断られないとは思っていたが、女の武器として体を使うというのは憚られるからだ。彼女とて立派な乙女であり、また奴隷として買われた身であっても戦う力と忠勤をもって使えたいと思っていたのである。もちろん性奴隷となることを了承してはいたので、文句など言えないのだが。

 

「この場で答えられぬと分かっているので、まずは話を持ち帰られるがよい。それと機会があれば迷宮に連れていくとしよう。レオナルドを倒せることは理解しているだろうが、労力が掛かるからこそ時間が惜しいことも理解してもらわなければ困る」

 

「はい。何から何までご配慮、ありがとうございます!」

 

 ここまでは双方ともに納得のいく交渉段階であった。

 

全滅したパーティーの装備も報酬足り得ないと確認済みなのだ、昭信としては金銭を積まれても困る。またヒルダの方もここで断られたら、一度や二度くらいなら高額で購入できたとしても、継続的に手に入れるためにあちこちを奔走せねばならないのである。

 

「それで……選択式の条件とはどのような?」

 

「三つ考えられるが……まずは分かり易く戦力の派遣だな。君のような二十層前半で戦える者を派遣してもらい、こちらの者も合わせて騎士修業のつもりで、暫くナーシャの迷宮で戦ってもらうというものだ。もちろん拾った物は相場で買い取ろう」

 

 まず昭信は人差し指を立て、ヒルダに向けて指さした。

 

以前に出逢った時は24レベルの戦士だったが今では25レベル。買い取られてから修業したのだろうがまだまだである。ナーシャ家に足りない戦力を補う意味でも、一緒に強くなってもらうことで親しくなって両家を繋ぐという意味でも派遣してもらうという考え方だ。ただしこの考えには欠点があって、相手の家も騎士団を立て直している真っ最中である可能性が大という事であろうか。

 

「二つ目。一回限りの報酬の方が楽だという場合は、相場の金は払うので貴家の宝物庫から、何か一つ選んで購入させていただきたい。もちろん伝来の品は避けよう。あくまで市販はされ難い、聖銀の装備やオリハルコンの装備を探しているだけだ。先ほども言ったが代金は払うし、何なら強権のダマスカス剣……あれを代価の一部に戻してもよい」

 

「それは……私にはお答えしかねます」

 

「だろうな。あくまで一案に過ぎないさ」

 

 二つ目は稀少性の高い装備を売ってくれという条件だ。

 

聖銀製やオリハルコン製の装備などは早々見つかるようなものではない。実際、昭信はオリハルコンの装備を町の店先で見たことはなかった。聖銀製はまだ見かけるのだが、これは単純に魔法の威力を高める装備を欲しがる者……魔法使いが少ないからだろう。もちろん宝物庫の事情なんてヒルダは知らないが、流石に余所者を宝物庫に入れたくないのは分かるので苦笑を返す他はなかった。

 

「三つ目、これが本命になるな。代金分のスキル結晶と交換させてもらうという案だ。あるいは貴家の名前を使ってそちらの国の仲買人に購入してもらうというのでも構わない。理由としては一地方に流入する結晶の数と種類は限られることからだな。欲しいのは主に効果を高めるコボルトになる」

 

「……なるほど。その三案、まとめて主人に伝えさせていただきます」

 

 昭信が本命というだけあってヒルダもこれには素直に頷けた。

 

何しろ重要なのは『家の名前で買い物をする』というだけなのだ。一度に掛かる費用はあくまで媚薬の代金分だけであり、場合によっては手持ちのスキル結晶を一時的に放出して、その間に必要な分は再度購入するだけでもよいのだ。戦力を派遣する訳にはいかず宝物庫に立ち入らせたくないと、先に断られ易い条件を述べた後で本命を口に出すというのは理に適っている。奴隷として購入されたばかりのヒルダから見ても、この条件でまとまるのではないかと思ったのである(新しい装備を作ろうとしない限りは)。

 

「しかし貴家は運がいい」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「実はな。媚薬にも使えるカカオを使った菓子を広める前だったのだよ。手間が掛かるので面倒ではあるが、好きな者は虜になる味だ。もちろん媚薬の効果を薄めているから閨に籠らない者でも食せる。大量に食べると興奮しすぎて鼻血を出してしまうがね」

 

 それが流行ればカカオは値段以上に希少となるだろうと昭信は告げた。

 

コボルトの結晶一個分に相応する量を土産に持たせると告げ、ついでのようにチョコレートの宣伝をしてしまったのであった。

 

「三十八階層のボスはスパイクスパイダー。人間並みの巨大蜘蛛だが速度がまったく落ちていない。虫特有の複眼で周囲を観察し、八本の足を駆使して戦うから気を付けろよ」

 

「巣に隠れたり糸で捕まえようとはしてこないのですか、マスター?」

 

「隠れるには自重が重過ぎ、迷宮(・・)での攻撃手段としては遅いそうだ」

 

「なるほど。外ならともかく迷宮内ではアンバランスなのですね」

 

 先日のピンチ以降、待機部屋で臭いを嗅ぎつつミーティングをすることにした。

 

先に誰かが入っていないかどうかの確認に時間を掛け、仲間へ能力を説明する時間を掛けてもまったく問題ないのだ。今回はスパイクスパイダーの個体戦闘能力が高いのは脅威であっても、糸が『迷宮内では』脅威ではないと説明してみんなが理解するのを待ってからボスへ挑むことになる。

 

「だがドロップ品としては魅力ですね。橋を架けたり魚網を編む時には便利だと聞きました。大量に集めるかはともかく、どの程度使えるのか幾らか欲しいです、アキノブさま」

 

「エレーヌが欲しいなら修練を兼ねて幾らか繰り返し、その後は三十九層に行こう」

 

 エレーヌはペルマスクの街並みを見てから少し考えが変わったようだ。

 

これまでは村の発展はあまり気にしていなかったのに、今ではちょっとずつ良い村にすることを考え始めている。島ゆえに開発し尽くされた街並みを見たり、鏡などガラス製品という特産品を見て触発されたのだと思われた。もちろん『開拓や開発をしたい』と思っても出来ないことは多いので、影響を受け過ぎるのは問題だが発展に目を向けることじたいはよいことだろう。

 

「その上で三十九層はハチノスで以前に戦った奴だな。そのボスであるセンマイもあまり良い物を落とさないので、四十層のホワイトキャタピラーとそのボスであるシルバーキャタピラーの層でまた修練を積むという風に、これからは戦う場所と時間に差をつけていこうと思う」

 

「マスターに賛成です。三十八層だとペッパーは山ほどありますからね」

 

「旦那さまの思し召しのままに」

 

 メリハリをつけて戦う場所を決めるという昭信のアイデアに反対はなかった。

 

いつも賛成のグレースはともかく、金庫番でありスキルの融合を担当するルミとしても全く異論がない。中層以降の迷宮では基本的にどの階層のドロップ品も高額で販売できるが、人気であったり転用という意味では平等という訳ではないのだ。スキル結晶としても芋虫の結晶は幾らあってもよいので、ルミとしては間を抜かして一気に四十層でもよいくらいであった。

 

「ではボス戦といきましょう。御屋形さまが一体目を倒している間に我らは残りを足止めする! 油断するな!」

 

「「「はい」」」

 

 ここで昭信に代わって指揮担当のシモーヌが号令をかけた。

 

この時ばかりは主人であるエレーヌも元気な声を返して指揮下に入っていることを認めている。迷宮での戦闘では一瞬の躊躇が命取りになることが分かったのだ。あれから薬なども飲めといったらちゃんと飲むので、良い変化が訪れているといえよう。

 

『スパイクスパイダー。38レベル』

 

『スパイクスパイダー。38レベル』

 

 その姿はまるで八足歩行蜘蛛型ロボットという風情である。

 

もちろんロボットなどという表現を使うとしても昭信くらいだろう。だが柔らかそうに見える体でもかなり硬く、移動中に放たれたソニックブレードもそれほど効いてはいない。走り込んで昭信がザックリと斬り割くのは彼の攻撃力が異常だからだ。やや遅れてエレーヌの魔法が届き、一体目が消え去るのだが……対照的に二体目の方はまるで微動だにしていなかった。

 

「挟み込め! 突撃!」

 

「おおお!」

 

 このタイミングでシモーヌとグスタフが到着。

 

シールドバッシュを掛けながら敵を強打する。やはり小動もしていないのだが、足元に展開していた魔法陣が打ち砕かれる。やや遅れてルミが到着して真鉄の槍で串刺しにすると、ようやく傷らしい傷が二体目に刻まれた格好であった。

 

「眠りましたが……目覚めたようですね。毒ではありません」

 

「ちっ! 状態異常の解消か、深層では起き始めると聞いたが厄介だな」

 

「それでも一瞬動きは止まりました。効いただけ良しとしましょう。マスター」

 

 更に遅れてグレースが敵を攻撃し、敵の状態を報告している。

 

彼女は回り込んで包囲しながらの状態異常狙いをおこなっていた。ボス戦では数が限られるので、現在は戦闘訓練で状況把握を鍛えているのだ。これが上手くいけば相手の動きを止めたら、別の敵を止めにいくということもできるようになるだろう。

 

「スパイダーネスト……これか。どうやら通常ドロップのようだが、レアドロップは何かあるのか?」

 

「シュナイドラーさまからは医療用に使える物が採れると聞いております。簡単な傷をそのまま塞げるだけでなく、滋養剤などを鎧や盾の裏に止めておけば、即座に剥がして飲めるので便利だそうです」

 

 レオナルドがカカオの他に人参を落としたように、スパイクスパイダーもより粘着性が高く強度も強い糸を落すそうだ。名前はスパイダーバンドであり、昭信が見たところ医療用バンドのようであったという。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄52レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄52/剣豪41/百獣王40/勇者33/剣術指南役36

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/探索44/神官33/薬草採取士33

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師43

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士42

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者41レベル

 

エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い29レベル。

 

資金。27万ナール

 

●特筆すべき事項

・カカオ、傾国人参販売に関する交渉開始(装備品の戦果計上は次回)

 

・緑結晶売却




 という訳で全滅したパーティーの派遣主に関わる話です。

●求める理由
 媚薬を求めて背景のある貴族家が接触してくる話になります。
ただ『全滅したパーティーがいた』『危険な目にあったが、装備分得した!」では面白くないのと、そのまま新しい流れが作れるので、こうなっております。

以前に出逢ったヒルダは真面目タイプであり、出逢ったのは異国というか都市国家であるペルマスク。なら花慰藉信用できそうだし、丁度良いので他国の貴族と交渉する感じですね。上手くいったら定期的にコボルトの結晶を始めとした、他愛ない結晶(高額ではない品)が手に入る様になるかと思います。

・カカオ。
 媚薬、レオナルドの通常ドロップ品。チョコレート・ショコラの材料。
これからはお菓子の材料として認識されるようになる。
一つ千五百ナールでギルド買い取り、薬草採取士ギルドで六千ナール購入扱い。今回のようなケースだと中間である三千から四千ナールで直接販売することになる(医療用チョコレートに加工すると手間賃込みで五千ナール以上)。

・傾国人参
 媚薬。レオナルドのレアドロップ品。いわゆる朝鮮人参で体に良い。
これからは薬用酒や薬膳スープの材料として認識されるようになる。
一つ五千ナールでギルドが買い取り二万ナールで販売ということになっているが、大抵は皇帝や派閥の寄り親に献上するのが定番(横山漫画や本宮漫画のノリ)。

●レベル
 さっさと三十七・三十八層を通り抜けたのであまり変わってないです。
次回で三十九・四十と攻略した所で、みんなレベルが上がるでしょう。
これは作中でも述べていますが、ドロップ品があまりおいしくないからです。
ちなみに主人公は気が付いていませんが、スパイダーの糸から高級紙の材料が採れます(製造技術はない)。

●ドロップ品
 今回で所有しても問題なさそうだと分かったので次回で戦利品として計上します。スロットはあまりないのと、スキル付きも属性耐性とかなので微妙ではあります。
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