異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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良い知らせ

「ルミ。戻ったら昼食の前にダマスカス鋼で額金を作ってみてくれ。可能だった場合は額金を八つ頼む」

 

「分かりましたマスター。試してみますね」

 

 第一迷宮で四十層のボス戦を繰り返していた日の帰り、昭信が一つの提案をした。

 

その週の昭信たちは第一迷宮の三十九層を早々に越え、午前中は修練として四十層のボス戦を繰り返していた。午後からは第二迷宮で二十四層のボス部屋を見つけ、奴隷たちに挑ませる準備をしているところであった。第二迷宮の二十五層はドライブドラゴンで、『もっと後で出会いたかった』と自分たちの修練には向かず、かといって奴隷たちを挑ませる訳にもいかない強さだと苦笑していたところである。ちょっとした悪い知らせの後に、予定より早い良い知らせがあったのだ。

 

「今ぞ来ませる御心の、言祝ぐ蔭の天地の、防具製造! ……で、出来ました。マスター! 私にもダマスカス鋼の装備が作れました!」

 

「おめでとう、これでルミも一流の鍛冶師だな。奴隷から解放する必要がありそうだ」

 

「マスター……」

 

 見事に防具を作り出したルミだが、昭信の言葉にどう答えるべきか悩んだ。

 

季節はようやく秋に差し掛かったところであり、僅か半年でここまで成長できたのは異常である。いや、理由は分かっているのだ。深層で戦っていることや、特に最近繰り返しているシルバーキャタピラー戦では戦い慣れてからは少人数で特訓を繰り返していたのが理由だろう。しかし、それは昭信の超火力あってのことであり、また彼女がスキル融合に成功できているのもやはり昭信の眼力あってのことだった。

 

「ははは。今はゆっくり悩めばよいさ。奴隷のまま支えてくれても構わないし、解放された後で協力してくれてもいい。他の選択肢も含めてルミのよいようにしよう」

 

「ありがとうございます。今はどうしたらよいのか分からないので考えてみますね」

 

「そうするといい。まずは装備を頼む、余ったらガントレットかな」

 

「はい、マスター!」

 

 昭信としては協力してくれるならどの選択肢でも構わないのだ。

 

迷宮を踏破するつもりだし、ルミにはいずれ隻眼になってもっと良い装備や上位のモンスターが落すスキル結晶で融合もしてもらうつもりである。またパートナーとして様々な面で助けてもらっている。激しい愛とは違う、ゆるやかで暖かな間柄……そういう意味でもやはりパートナーというのがしっくりくる間柄だと思っていた。もちろん妻の一人として結婚してくれと言うならば、エレーヌが反対さえしなければそれもよいかなと思ってすらいる(おそらくエレーヌは反対しないとも思う)。

 

(ボス戦後に近くにモンスターがいることもあるから、四十一層でも多少は戦っているとはいえ予定より早いな。やはりボス戦を少人数で戦えるようになったのが一番の理由か。色んな形状の装備を作る意味でも、隻眼を目指すという意味でも更に上の層で同じ状態にしたいな。やはり強さが一ランク上がる手前の四十四層か。薬系のウドウットの層だから都合もいい)

 

 ルミが44レベルになったのは三十九層の半ばだった。

 

ここのところ二層を越えないとレベルが上がらなかったが、今回は一層と半分というところだ。全体の四分の一ほどペースが早くなっているのは、おそらくボス戦を少人数でやっているからだろう。昭信が知る限りでも冒険者は沢山存在しているので、やはり時間を掛けて経験さえ積めば三十層以降で戦い易いボス戦を繰り返すことで、いつかは50レベルに達することが可能なのだろう。

 

(原作では四十五層くらいで44レベル、その後で45レベルだったはずだ。記憶違いがあるかもしれんが、やはり主人公たちは駆け抜けていて俺たちはジックリ戦っているという差だろうな。基礎経験値は四十層でも四十五層でもそう差がなく、適正レベルの問題で減算されるだけだからだろう。戦闘回数を増やせば、それを補えるわけだ。ということは44層を目指す過程で46レベル……となると時間を掛ければ五十層より前に50レベルを狙えるかもしれん。ここは頑張り甲斐がありそうだ)

 

 レベルがイコール適正階層だとすれば五十層で到達できるのは妥当であった。

 

問題はそれでは安全マージンがとれないことである。出来れば階層ごとに数レベルは上で戦っておきたい。その意味で今回の件は装備の充実以上に大きかった。以前から感じていた『時間次第でパーティーメンバーも中位ジョブが目指せる』ということなのだから。そして必要経験値二十分の一を維持する限り、昭信もそのうち上位ジョブを獲得できるだろう。中位ジョブの40レベルから上に必要な経験値が初期ジョブの五倍・十倍であったとしても、二十分の一があれば到達し得るのだから。

 

「マスター。ガントレットを幾つか作ったらダマスカス鋼が尽きました。今後の計画はいかがしましょうか?」

 

「足防具、頭防具、胴体、武器の順で製造して外陣メンバーの分も用意したい。そうすれば安全に戦えるようになるだろうし、余裕が出来たら一つでもスロットがある物を残して、必要数以上は売ってしまう流れとしよう。最初は他の町で売却することで事実を隠し、第二迷宮攻略後にナーシャの村にも武具をまとめて売る店を出そう。そうすれば冒険者が訪れ易くなる」

 

 昭信は額金とガントレットを一つずつ別の場所に分けながら説明をした。

 

十以上の装備を作ったはずなのに、その中でスロットがあったのは二つ。鋼鉄装備を作った時の経験を考慮すれば、二つでそれすら幸運の産物または装備の質が向上したおかげであり、確率的にはやはり十分の一なのだろう。もっと多くの装備を作れば確率が収束し、鋼鉄装備よりもダマウカス鋼の方がスロットが多く付くかもしれない。しかし、現状では素材が足りてないので計測しようもなかった。だが、その先は話が変わってくるだろう。昭信が提案しているのは、素材が十分に供給されるようになってからの話である。

 

「よいですね。でも、それなら幾つかはコボルトを付けないスキル付与をしてみませんか? 敗退した方の装備を見て思ったのですが、普通の冒険者は鋼鉄にコボルト無しの付与が精々なのでしょう。流石にスライムやサイクロプスは結晶が高額なので惜しいですが、間に合わせの強化にはなりますし、そのレベルであれば『装備を更新したから売る』としてもおかしくないと思います」

 

「考慮はしてみよう。とはいえ現状ではコボルトの個数も素材も足りないからな」

 

「ですね」

 

 迷宮で拾った装備品はダマスカスの片手剣以外はコボルト無しだった。

 

ダマスカス鋼製の片手剣だけコボルトを付けた強権装備だったのは、その冒険者が武器だけは頑張ったのか、あるいは雇ったヒルダの主人が援助として貸与したのかもしれない(契約中はずっと貸し出す、いずれ売ってもよいという契約で)。それを考えれば火防御や水防御だけを付けたダマスカス鋼の製の防具を製作して装備し、いずれは売却するのも資金的にはアリかもしれない。たとえ五倍くらいに落ち着くとしてもダマスカス鋼製なら十万ナールを超えるのだから。

 

「それでスキルの融合の件だ。ルミは午後からシュナイドラーから複数個入荷したと手紙があった、午後から買い取りにいってくれ。もし蜂の結晶があったらアクセサリーで試したい。俺たちの方はいつも通り二迷宮で攻略を進めておく」

 

「毒にダメージ逓増が効くかの実験ですね? 承知しましたマスター」

 

 そして今度は遅れていた良い話がようやく届いていた。

 

以前に結晶を購入してから時間が経過している割りに連絡がなかった。オークションがあったり休日などキリのよい時に取りにいくから、連絡は一定数揃った時で十分だと伝えていたのだが……。ここのところ、買いにも結晶が買えてなく当然ながら手紙が届いてもいなかった。ルミがシュナイドラーから聞いた話では、高止まりしている物と急いでいないから値段設定を下げている物しかオークションに出ていないのだという。その状態で複数個に入れたという事は、高止まりしていた物に加えて安く購入出来た物があったのだろう。そこで午後は難易度が低い階層であることから、ルミを買い取りにいかせることにしたのである。

 

「グレース。今日はこのアクセサリーに付けたダメージ逓増の効果が、毒にも及ぶかを確かめたい。今日は同じ敵を選んで攻撃して経過を観察してみてくれ。その間は他の者はエレーヌの魔法以外で攻撃を控えること」

 

「承知しました、旦那さま」

 

「「承知しました」」

 

 ルミがシュナイドラーの下へ買い物へいったら本当に蜂の結晶もあった。

 

はさみ式食虫植物や芋虫の結晶もあったので、おそらくは『融合を試していた誰か』のチャレンジが終了したのだろう。特に急いでいない人魚や蟻の結晶は相変わらずなかったので、そちらは防具用に回がそこそこ続いているものと思われた(コボルトも一つしか買えてないし)。ともあれ蜂の結晶が買えたのであればダメージ逓増を試すべきだろう。

 

「御屋形さま。実験でしたら堅いコーラルコラールがいる四十一層で戦いますか?」

 

「いや、ここのところ四十層で戦ったからな。その経験は活かしておこう。以前と比べて早くなったのならグレースが気が付き易い。その後は余裕があれば毒だけで倒して時間を測っておけば確実に分かる。四十一層に向かうのはその後でよかろう」

 

 シモーヌの提案に昭信は首を振った。

 

実験というものは一部を固定して計測するものと、ザックリ条件を変えながらアタリを出すものがある。今回は四十層でずっと戦ってきたホワイトキャタピラーやシルバーキャタピラー相手という条件は変更せず、ダメージ逓増を付けた黒革のアクセサリーだけで様子見するつもりだったのだ(もっとも付与した鋼鉄の剣にも効果が効いているので、それでも以前と感触が違う筈ではあるが、そこは気にしないことにした)。

 

「毒、入りました。……一回目……二回目……」

 

「お嬢さま。今回は余裕があります。これ以上の呪文は不要です!」

 

「わ、分かったわ……」

 

 それから暫く計測しながらの戦闘が続いた。

 

指揮担当でシモーヌを置いている意味は大きく、昭信が雑魚狩りに熱中している間もちゃんと指示をしていてくれる。『多分効いている』と分かった段階で昭信の指示通り、途中からは毒だけで倒す試みをしてくれていたのだ。

 

「三回以上、毒の回数が減りました。アクセサリーをミサンガと換えてみましたが、変わっている……と思います。モンスターの顔色は分かりませんので……何となくですが」

 

「御苦労。次はシルバーキャタピラーで……いや、そこまでは別に構わんか」

 

 普段はパっとしないグレースだが今回は大きく貢献していた。

 

言わなければ仲間のフォローもあまりしないタイプなのだが、言ったことには専念してきっちりやる。その上で分かる範囲のことを正確に伝え、勝手に断定しないという意味で地味な検証には向いているのだろう。昭信はどちらかといえばザックリやるタイプなので案外、相性はよいのかもしれない(二人とも無関心なことには興味がないのでお似合いともいえる)。

 

「ここで実験は打ち切って四十一層に進む。シルバーキャタピラーの反応は『いつもより早い気がするな?』と思ったら教えてくれればいい」

 

「承知しました、旦那さま」

 

 こうしてひとまずの検証を終え蜂の結晶は有益だという結論に達した。

 

昭信たちは探索者役であるグスタフ以外にダメージ逓増を入れる事にしたのである。

 

そしてこの日の出来事は実はもう一つある。屋敷に帰ると手紙が一通届いていた。ペルマスクのオークションに合わせて夜会を開くので、チョコレ-トを持ってきてほしい。という内容であったという。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄52レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄52/剣豪43/百獣王41/勇者34/剣術指南役39

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/探索44/神官37/薬草採取士37

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

資金。26万2000ナール

 

/装備

・強権のオリハルコンの剣(詠唱中断、防御無視40%、ダメージ逓増、MP吸収、空き)

・かがほの鋼鉄短剣(火葬剣、空き)

・ダマスカスの額金(空き)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、空き)

・不眠のダマスカスのガントレット(睡眠耐性、空き、空き、空き)

・駿馬のダマスカス・デミグリーブ(移動力増強、空き、空き、空き)

・よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師45

/装備

・強権の真鉄槍(詠唱中断、睡眠添付、毒牙、空き、空き)

・ダマスカスの額金(なし)

・鋼鉄の胸当て(なし)

・鋼鉄のグローブ(空き、空き、空き)

・加速のダマスカス鋼製のデミグリーブ(移動強化、空き、空き、空き)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士44

/装備

・強権の聖銀サーベル(詠唱中断、HP吸収、空き、空き)

・強権の聖銀盾(詠唱中断、空き、空き)

・ダマスカスの額金(なし)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、睡眠耐性)

・ダマスカスのガントレット(空き)

・駿馬のデミグリーヴ(移動力増強、跳躍力増強、精神二倍)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者43レベル

/装備

・睡眠の鋼鉄の片手剣(睡眠添付、麻痺添付、毒牙)

・強権の鋼鉄盾(詠唱中断、空き、空き)

・竜革の頭巾(空き)

・頑強の竜革ジャケット(物理ダメージ削減、空き、空き、空き)

・竜革のグローブ(空き、空き、空き、空き)

・加速の竜革ブーツ(移動強化、空き、空き、空き)

・よりしろの黒革アクセサリー(身代わり、ダメージ逓増)

 

エレーヌ。狼人族。♀。15歳。魔法使い34レベル

・蜂和《ほうわ》の聖銀スタッフ。(ダメージ逓増、MP吸収、詠唱中断)

・聖銀のウインプル(なし)

・竜革のジャケット(なし)

・竜革のグローブ(なし)

・竜革のブーツ(空き)

・よりしろのシルバアクセサリー(身代わり、二倍)

 

●特筆すべき事項

 

手持ちのスキル結晶。蝙蝠、貝、蛙、トカゲ、蟻、トロール、人魚、灌木、コボルトx2、山羊

 

・購入予定の結晶。コボルトx3枚・トロール・人魚・蟻・蜂

 

・ダメージ逓増と毒の検証

 

・ペルマスクからの手紙

 

・スキル装備のお蔵入り(複数スキル)、および外陣チームへの貸し出し




 という訳で四十層でミスリルスレッドを集めながらレベリング。
ストッキングを作る伝手はありませんが、何かの材料になるでしょう。
その過程で予定よりも早くルミのレベルが上がり、ダマスカス鋼の装備が製造可能に。

こうなってくると未来の展望が開けますね……もっと早く前に達成できれば加速度的に強くなってカタルシスを感じられるのですが、原作と同じ二十倍で時間を二・三倍程度かけてるだけ(原作が二日に対して、一週間弱)ではこんな物かと思います。

なお、作中でも述べていますが、翌年に武具屋がオープンして鋼鉄・ダマスカス・竜革の装備が売られるようになります。

●仲間の中位ジョブと主人公の上位ジョブ
 仲間は鍛冶師・聖騎士・刺客まで、物語終了後に魔導士・冒険者も。
主人公に関しては剣豪が剣聖に達して、百獣王と剣術指南役は将来目標になるのではないかと思います。この辺は経験値問題で中位ジョブになるのが遅かったですしね。勇者に至ってはかなり足踏みしてるので、将来目標としてもかなり遅めになるかと。

●ショボイ装備の価値
 奴隷に持たせるならそれで十分、持たせておけばレムゴーレム相手に勝てる。彼らが勝てばダマスカス鋼製の装備を量産できる。その後は金策を兼ねて、『装備更新したから』とショボイ装備群を売ることになります。一つ十万以下でも十・二十と売れば高額ですしね。(あと、外国の伝手で高額装備を売っても良いし)。あとは隻眼の条件にスキルの付与種類を入れる予定なので、ショボイ装備を作る意味がある感じですね。

●毒とダメージ逓増のコンボ
 何気に毒は相手の体力依存で倍率型なのでボスに有用で(でも抵抗率は高い・状態異常解除あるからバランスが取れてる)、それとダメージ逓増は別計算なので、かなり有用なコンボとしておきます。HPの●十分の一固定で、そこに5%増強が乗る感じですね(主人公が何回か殴ったら倒せることから目を背けつつ)
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