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「旦那さま。工房主のエックハルトさまから招待状が届いております」
「ペルマスクで行われるオークションの日に合わせてチョコレートを持ってきてくれだと? なるほど、ヒルダの主人がやって来るのか」
四十一層を攻略した日の夜、夕食後にグレースが手紙を持ってきた。
チョコレートの情報を知る者は限られている。そもそも試しに配ったのが寄り親であるガレス伯を含めて数人しかいないのだ。それを考えたならばペルマスク経由で隣国にあたる場所からきたというヒルダの線が怪しいだろう。直接に出逢っては周囲に勘繰られるので、オークションの日にかこつけて会いたいというサインであると思われた。
「通常は六人までの随行員であるが、子供がいるならば連れてきても構わない……か。子供がいる家庭に配慮しているように見せているが、これはあちらの次代と面会させるつもりかもしれんな。いや、それとも既に継承していて若当主が望んだのか?」
「特に何も聞いておりません」
「そうか、まあいい」
昭信の推測にグレースは口を挟まない。それは彼女の役目では無いからだ。
それでも何か思いつくようなタイプだったら適当に答えて簡単な討論をしていたかもしれない。だが生まれながらの奴隷である彼女にとって、そんなことはできないし思いつきもしなかった。ただ昭信が本気で何かを尋ねたら分かる範囲で答えを見つけ、伝言があればそれを実行するだけである。
「思案をまとめているのでルミを呼んできてくれ。階層の攻略とスキル付与について話したいと伝えてくれ」
「承知致しました、旦那さま」
お前役に立たないとグレースに言うつもりはない。
相談事は彼女の性格には合わないと最初から知っているからだ。もっとも政治とか陰謀の相談もルミには合わないので、本当の意味で攻略に関する相談のつもりで呼びにいかせた。それでもグレースはホっと一息を吐くし、昭信は『悪いことをしたかな?』と思うのであった。『穴埋めに今度、何か考える』と直球で言えば良いのだろうが、そう言うと却って無能扱いしているようで中々口に出せない昭信であった。
(媚薬をどの程度欲しいのか分からんが、チョコレートと並行して購入したいというなら少し貯めておく方がいいな。となると少し攻略速度が遅くなるから、素早く進む必要がある。問題は四十三層か……)
昭信はルミがくる前の間、パピルスに書き込んだメモ帳を取り出した。
そしてただの板切れにペンでピックアップしたデータを記載していく。別に暗記で済ませられる内容だし、パピルスを回し読みしてもよいのだ。しかし、こうして案をまとめた方が誰もが分かり易いないようで話すことが出来る。昭信は直感で話したり、話していく間にまとめ直して二歩も三歩も突き進む癖があるので、重要な話はこうしてまとめるようにしていた。
「参りました、マスター」
「よくきてくれた、そこに座ってくれ。話を聞いたかもしれないが、この間の客がチョコレートを買いたいと手紙を寄こした。実際には媚薬を求めているという風評を隠したいだけかもしれんから、どちらも用意しておいた方がその場で方を付けられる。その前提で話を聞いてほしい」
やってきたルミに昭信は前置きをおいた。
話を聞いているかもしれないし、聞いていないかもしれない。その上で何をするかという予定を最初に話しておく。こうしておけばルミの方も考えをまとめられるだろう。
「三十七層のボス戦を繰り返すのですね。カカオはともかく傾国人参もだとすれば、かなりの戦闘回数が必要そうですね。その件ですか?」
「レアドロップ品だし贈答用になるから損はない。だが時間のロスは惜しいからな」
ルミはまず余計なことを聞かずに、今後に起き得ることだけを再確認した。
ボス戦を繰り返すだけで時間が取られるのだが、これをどうにかして埋めたいという話なのかを確認したのだ。その分を第二迷宮の攻略に使っている午後の時間を充てればよいかというと、地図がないから攻略時間を必要としているし、中層に誰も挑んで居ない独占状態だからこそ、そこで手を抜くわけにはいかないのだ。
「ボス戦を繰り返すから修練にはなるが、四十層を少人数で挑んでいる今より効率が悪いのは確かだな。そこで四十一層から四十四層を効率的に抜けていき、四十四層のボスで戦闘を繰り返して穴埋めを行いたい。ここで問題になるのが四十三層のハントアントどもだ」
「そうですね。急ぐつもりはなかったので、蟻の結晶を一つ使ってしまいました」
「そこで蟻の補充を急ぎたいが、せっかくシュナイドラーの所へいくなら他にもな」
「ふふ。マスターは冒険者に払う費用をケチくさいという方ではないでしょうに」
ルミにも昭信が縁を大事にしており、この機に何かする気なのが分かってきた。
スキル結晶を多めに発注するというだけならば、適当な機会にでも伝えれば済む話だ。わざわざルミを呼んだのは複数案からよい選択をするためか、あるいは博打めいた案に採算があるのかを相談したいからだろう。そういうことならばルミも色々と考えることができる。
「ということはトカゲで火耐性とかサンゴの石化耐性や、竜の魔法ダメージ削減を用意する話だけではないですよね?」
「そうだな。その辺りはついでになる。今考えているのは『高価な贈り物』になる」
「贈り物に関して私を呼ぶということは、スキル付きの装備ですか?」
「そうだ。アクセサリーまたはメッシュウェアに二つか三つくらいな」
以前から防具に耐性を付けていく話は出ていたが中々進まなかった。
どうせ付与するなら竜革やダマスカス鋼製で四スロット以上の防具にしたかったし、予算の方も潤沢というにはほど遠かったからだ。だが現時点では四スロットの防具は幾つか持っているし、コボルトを使わない火防御や毒防御などをスロット一つの竜革装備などにつけ、外陣メンバーに使わせたり売り払って財源にしようかと思っていたのだ。しかし、今更それだけではないだろう。そう思ってルミが尋ねると、昭信はニヤリと笑ってシルバーアクセサリーを取り出した。
「おそらくスキル結晶で媚薬の代金と交換してくれと言ってくるだろう。だが宝物一つ分で済ませようとしてくるかもしれん。当主自ら来ているなら、その辺りの交渉も機嫌次第だしな。そこで夢のような装備品をこちらが提供できるとしたらどうだ?」
「呆れた……困ってる人に付け込んで秘蔵の財宝を掠め取る気ですか?」
「なに。使う気がない装備と、存在する筈もない装備を交換するだけの話さ」
「悪い人ですねマスターは。でも商品としては実に面白いです」
要するに昭信の提案とは、『もう使わない伝世品』をでっちあげようというのだ。
たとえば昭信が付けているシルバーアクセサリーには、身代わりに加えて攻撃力二倍がついている。念のために身代わり装備を身に付けたいが、少しでも戦闘力を高めたい者には垂涎の代物だろう。同様にエレーヌの方には、ひもろぎによる知力二倍が付いているので貴族の子女には何倍もの価値があるだろう。そして今回は『直系一族が全滅しかかっている大貴族』という分かり易い客がいるのである。ルミもジト目で呆れた声を出していたが、かつては鉱山主の一族であり今では腕利きの鍛冶師である。昭信の計画を聞いて、下種いと思うより魅力的な商売だと思ったのである。
「例えば身代わりの他に毒耐性のあるアクセサリーなら若き当主には相応しかろう。もし他にも面白いスキルがあれば猶更だな。ただアクセサリーでスキルスロット三つの品を見たことはない。二万や三万で買える品ではないのだろう。最低でも五万から十万はする品でないと難しそうではある。それを考えたら聖銀のメッシュウェアか、存在するならそのワンランク下あたりが妥当じゃないかと思うんだ。すると今度は身代わりが不要になる」
「ハーブの結晶をお勧めします。状態異常を戦闘後に解除なので伝え忘れたとか」
「なるほど。確かに俺たちだと使わないな。だが今回は都合がいい」
「後はイザという時に備えて体力二倍や精神力二倍でしょうかね」
ハーブの結晶は厄払いのスキル名で戦闘後に状態異常の解除判定があるらしい。
以前にシュナイドラーへ『状態異常に関する結晶は無いか』と尋ねたことがある。この間までシュナイドラーは伝え忘れていたと言い、ルミの方もそのあまりの微妙さに昭信へ伝え忘れていた。何しろ戦闘終了後まで待つくらいならば、薬で回復して戦闘に復帰する者の方が普通なのだ。ましては昭信たちは超火力と強権装備の数々で敵をアッサリ倒していく方が多い。ただでさえ微妙なのに、速攻型の昭信たちには更に微妙であった。だが、今回はその効果が役に立つ。
「ではその辺りの路線でいこう。午後は第二迷宮だから戦闘力は下がっても問題ないし、第一迷宮も四十二層まで辿り着きさえすればボス周回だけだから問題ない。ルミは明日から可能な範囲でオークションを巡ってくれ。そうだな……もしシュナイドラーにであった場合は、蜂の結晶が有用だったので、奴隷全員に持たせてレムゴーレムを狩るつもりだとでも言えばいい」
「そうですね。ではそうさせていただきます」
こうして昭信たちは余力の範囲で悪戯をすることにした。
上手く結晶が集まれば『こんな物があるのだが、我々には不要だから譲ろうか?』と交換を持ち掛ければよい。身代わりと毒耐性のついたアクセサリーであっても十分有用だし、仮に状態異常解除があれば大貴族や大商人ならば誰もが欲しがる代物になる。だが地方の貴族にはそこまで有用ではないし、耐性装備としても身代わりがついていたら壊れるので微妙であった。高額なアクセサリーでなければ問題の無い試みであろう。
「後は程ほどのアクセサリーやメッシュウェアか何かがあるか次第だな。そちらは余裕があれば俺がペルマスクへ行って調べてこよう。あそこは高級品が揃ってるからな」
「これから結晶を買い込むことになると思いますので、無駄使いはお控えを」
「分かっているさ。ほどほどの買い物をするか、エックハルトのツケで何枚か買う程度にしておくよ」
ちなみに付与対象であるが、昭信は単独行動をよいことにワープで巡る心算だった。面白いのはそこまでした後で、『メッシュウェアならミスリルスレッドを使って、ミスリルメッシュウェアという下位互換品を作れるよ』と聞いたことである。同様にミスリルベールという聖銀のウィンプルの劣化互換品を作れると知って、悩むことになるのであるが。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄52レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄52/剣豪44/百獣王43/勇者35/剣術指南役40
剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/探索44/神官37/薬草採取士37
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
資金。27万5000ナール
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師46
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士45
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者44レベル
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い37レベル。
●特筆すべき事項
・四十二層到達
・三十七層ボス・四十二層ボスの周回中
・ハーブのスキル結晶は、厄払いの●●で、(戦闘終了時に通常判定+@で状態異常解除判定1~2回)
・高額交換品となるスキル付きアイテムを製作予定
・チョコレートと媚薬核種を貯蓄中
という訳で今回は『サクサク階層を攻略する理由造り』となります。
サンゴ系は足が遅くコンボ前提ボスなので相性が良い、眠りのシープは眠り耐性があるから楽勝。と書くのでは面白くないので、夢想して快進撃していく理由造りとして背景としての話を用意した感じです。
●相手に合わせた高額品の納入
今回は大貴族の宝物庫狙いで、『相手なら欲しがる品を狙って作る』計画の話です。足元を見るので下種いですが、本来は存在しないから仕方ないね。ドラえもんじゃあるまいし、そんな都合の良い品は存在してないのです。主人公の懐以外にはね?
●ハーブのスキル結晶
以前に『状態異常に関する結晶を探してくれ』と言っておいて、出しませんでした。理由としては他の方が抵抗強化で出され、能力値UPも被ったので、たくさん被りをしたくなかったのですよね。それで今回、『病弱な老人と若過ぎる当主しかいない』という大貴族の話をつくってたので、都合がよいやと今回出しました。
・『ハーブの結晶』
・スキル名『厄払いの』
・効果『状態異常の解除判定+20%で戦闘終了後に解除判定を行う』
コボルトを使用した場合、二倍になって40%で二回判定になる。
基本的に迷宮攻略では役に立ちません。
待ってる暇があるなら薬を使うし、こんなの付与できる高レベルの人ならば、薬んで戦闘した方が早いからです。
●ミスリルスレッド
ストッキング作るだけだと寂しいので、聖銀ほどではないレベルの装備品(鍛冶師45レベル以上。ダマスカスと同じで柔らかいけど僅かに魔法系)としました。聖銀は隻眼か、50レベル前後の想定です。
よーし周回してメッシュウェアやアクセサリー作るぞ……と思ったのですが、アクセサリーは別のネタを思いついたので、別の素材で作ります。