異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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交渉のリザルト

「凄い方でしたね。あれが大貴族というものでしょうか御屋形さま」

 

「幾らでも負けて構わないという時と、舐められてはならぬという時の見極めは流石だったな。偉ぶらず甘過ぎずと年季を感じさせたよ」

 

 昭信たちはペルマスクの用事を終えて屋敷に、エレーヌは領主の館へ戻った。

 

他国の大貴族に圧倒されっぱなしだったシモーヌに比べて、昭信に余裕があるのは単に立場と来歴の差だろう。シモーヌは主家を支える騎士としてナーシャ家のために行動してきたので、遥かに身分が上の人物に出逢うと粗相をすまいと緊張してしまうのだ。対して昭信は良くも悪くも異世界から徒手空拳で渡ってきた無頼漢である。マイナスよりもプラスを積み上げればよいと割り切っているので、それほど緊張していなかったのもある。

 

「そういえばルミがオークションで結晶を探してきてようやく完成させたとのことですが、揃っていなかったらどうなさっていたのですか?」

 

「偶然には期待していない、最低限は揃っていたからな。やり方が変わっただけだ」

 

 厄払いのミスリルメッシュウェアを作るには幾つかの偶然が必要だった。

 

まず日常的に身に着けることが可能な装備品という前提で、三つ以上のスロットを持つ品を探してこなければならない。次にコボルトの結晶は二つしか手持ちが無かったので、三つ目のコボルトの結晶を手に入れる必要があったこと。そして状態異常解除のスキルを付与するハーブの結晶と、体力を二倍にする豚の結晶も必要だったのだ。その全てが揃ったこと自体は偶然といってもよい。

 

「その時は身代わりか何かの名前で、毒耐性を隠すアクサセリーを作ってましたよ」

 

「なるほど。手持ちだけでスキル二つの伝世品を……隠す? どういうことです?」

 

「大貴族なら芝居をする必要もあるということさ。毒耐性の装備を外してみせることで相手の信用を得るとかな? たとえば俺が山向こうのガランやその派閥の長……カラバ侯爵だったか。そいつの招待を受けた時に、毒耐性の装備を付けたままだったら信用していないことになるだろう? 身代わりのミサンガと違って警戒心丸出しのスキルだからな。それと三つ目のスキルは体力以外でもよかった、火付け対策に火耐性とかな」

 

 つまり本当に必要な物は最初から揃っていたということだ。

 

ただしそれだけでは交換材料としては手札の価値としては乏しい。『暗殺対策になりますよ』と何かの例えを話してみせるくらいは必要だろう。また誰もが身に着けていて疑わない身代わりミサンガだと、殺傷可能な攻撃を受けた場合に破壊されてしまうというのもあるので、出来れば他の効果で隠したいのだ。最終的には言葉で脅したり宥めすかされたりして外す必要性があった時に、屋内で身に着けていてもおかしくない装備品であり、それでいて迷宮に持ち込まないスキル構成であれば何でも良かったといえる。

 

「要するに最初から全てを揃えた上で、もっとよい運に賭けたというわけですね! 流石です!」

 

「運か、運といえば運だ。しかし強運の持ち主は案外、あの子かもしれんぞ」

 

「マスターが居なければ手に入らなかった代物ですしね」

 

 シモーヌはスキル付与を含めたアイテム製作に詳しくなので単純に運とした。

 

おそらくは昭信の運を讃えようとしたのだろうが、彼からしてみれば『鑑定』というボーナススキルあっての知識チートでしかない。それを用意すれば交渉が上手くいくと読み切ったのは眼力であり、TRPGなどで磨いたセンスであろう。それゆえにパターンこそ違えども運任せなどではなく、そのことを『スキルスロット説』を教えてもらってから実感しているルミもまた、『自分向きの伝世品』を受け取ったハミト少年こそが強運だと頷いたのであった。

 

「俺たちの幸運としてはやはり装備品の幅が増えたことだな。俺としたことが迂闊だったが、定番の装備品や修行用の品しか作る必要性を感じてなかった。確認するがルミ、竜革のガーターベルトというのは鍛冶師が作れる装備品なのか?」

 

「はい。アクセサリーですが効果は特にないので役割り上……ミサンガで十分です」

 

「風に吹かれた時に一つだけチラリと見えたのだがな。スロットが多かった」

 

「これは盲点でしたね。マスターならばスロットが分かるので有用かと思います」

 

 昭信は王都でミスリルメッシュウェアを買い、鍛冶師が作れることを知った。

 

その流れでミスリルベールという品が作れることも聞き出し、材料がシルバーキャタピラーのレアドロップであるミスリルスレッドであると知ったのだ。当然ながら装備品が二つだけとは限らないので、探せば他にあるだろうとは思っていた。しかし最大の収穫は竜革のガーターベルトが複数スロットが付くと知れたことである。

 

「竜革装備は最大で四つまで付くことは確認できているが、使っている材料や装備のサイズ的にそこまではないと思う。だがそれでも三つくらいは付く可能性があり、素材が少ないから数を試せるというならば、二つ付いている品を複数用意できる可能性は高い。今後は数万するアクセサリーを買う必要が無くなるし、俺の知っている最上位騎士団の一つで男はガーターベルトを腕に巻く習慣がある」

 

「そうですね……サイズ的に鎧の上から付けられます。考え方次第ですがミサンガよりも付け替えが楽かもしれません」

 

 ガーターベルト最大の利点はミサンガの上位互換ということである。

 

スキルスロットが複数あった上で、自前で作る事が出来るのだ。素材は貴重であるが消費量は少ないので大量生産することもできるだろう。もちろん材料が少ないということは薬品をかけても材料に戻せない可能性は高いし、そもそもコストに見合わない。とはいえこれまで複数スロットがある装備品を割と高額な金を使って購入していたので朗報と言える。

 

「次に来週からの予定を説明するぞ。使ったコボルトと蟻はチョコレートの代金で回収できた。俺とシモーヌの装備に付与すれば四十三層のハントアントを楽に突破できるし、四十二層のビープシープ用の睡眠耐性は既にある。一気に四十四層を目指し、もっと上の階層で戦うための修練を行うぞ」

 

「蜂の結晶もあったのはよかったですね。これで当面必要な装備は揃います」

 

 チョコレートの代金で三万ナール分の結晶を交換して来た。

 

コボルトが一つ五千で四個。蜂は向こうでは使わないのか四千とやや易く、蟻と芋虫がそれぞれ三千ずつで合計三万ナールの計算である。仲買人に支払う仲介料五百がないことでお得に見えるが、おそらくいくつかは自前で拾った結晶だと思うのでお互い様だろう。蜂はシュナイドラーに発注を掛けているが、余ったら予備に回すとして、複数用意できるなら外陣メンバーに持たせても良いだろう。

 

「確認するが四十四層のボスは何だ? 雑魚がウドウッドなのは分かるんだが」

 

「ウッズウッドですね。巨大な幹から小さな木がたくさん生えているように見える形をしています。ドロップ品は全て木材で、レアリティによってサイズと強度が変わると言われていますが……実際には木材のサイズが違うだけで、レアドロップは木材に塗ると長持ちする液体が拾えるようですね。この屋敷の大家さんである木工職人の方々が、家具の保存性を良くしたり装飾に使うので、辿り着いたら売ってくれとおっしゃってました」

 

 昭信の質問にルミはバオバブの樹みたいな巨木を描いた。

 

冗談かと思えるような太い幹を先に描き、その上に無数の小さな木を描いていく。説明を聞かなかったら丸太から枝が生えていると思ったかもしれないが、実際にはもっと大きいという。

 

「なるほど。千年杉ではなく漆や柿渋の類か」

 

「マスターの故郷では普通の樹から絞っていたのですね。言われてみれば樹液の類かもしれません。いずれにせよウドウッドを強化して、攻撃範囲を広くした物だと思えば分かり易いでしょう」

 

 昭信の言葉にルミは何となく納得した。

 

木材の状態を保存する液体と言われて薬品を思い浮かべるよりも、樹から採った樹液だと思う方がストレートだろう。その上で屋敷のオーナーに払うべき家賃が今の内から用意できるので金庫番としてはありがたい限りである。なんだったら昭信が作らせている眼鏡の(つる)が完成するかもしれないし、ここで倒しておく意味は大きかった。

 

「ならば御屋形さまと私がいる限り敗北はないですね!」

 

「とはいえ目的は迷宮の制覇。四十五層からボス戦で雑魚が増えても問題ない実力を身に着ける必要があるだろう。これからは魔法ダメージ削減や各属性の耐性を用意して、そして俺とシモーヌ以外の装備に付けておくほうがいい。場合によっては体力二倍や精神力二倍をはじめとした能力強化系も選択肢に入るな」

 

 昭信が超火力のアタッカーで、シモーヌがタンクという構成である。

 

ヘイトの殆どが二人に向いてしまうので、相性が良い相手にはまず勝てるのだ。だからシモーヌが語っているのも決して大言壮語ではない。先ほど昭信が言っていたように、毒耐性と睡眠耐性があれば四十四層の途中までは楽勝であろう。その上でここからの焦点は四十五層から五十層、そして〆の段階である五十層以降であろう。

 

「マスター。四十四層のウドウッドが落とす木の結晶は精神、四十五層のピックホッグが落とす豚は体力です。ここはじっくり戦ってもよいかもしれませんね。リーフや食材を落とすのも魅力的です。代価による交換も結構ですが、手元の資金が危ういことをお忘れなく」

 

「それはそうなんだがな。結晶はそこまで落ちんし、修練を考えればもう少し進んでおきたいところだ」

 

 ルミは金庫番として言うべきことを告げておいた。

 

何しろミスリルはダマスカス鋼と同じ価格帯なので胴体用のメッシュウェアは十万なのだ。実際には三割引きを使っているのだがルミにはそこまで説明していないし、他にも結晶をオークションで買ったことで出費は十万を超えている。それに対してここ最近はドロップ品を貯めておいて何かに使う事が多いので、資金的な余裕はまた減りつつあった。とはいえ昭信にも事情はある。彼女たちには見えない『ジョブレベル』というものであり、ほかならぬルミを隻眼にするためにもここが踏ん張り時なのであるのだから。

 

 

(む。グレースのレベルがシモーヌに追いついた? それに……勇者のレベルがまた普通に上がるようになってるな。これはレベルが階層に並んだことで適正経験値になって、漸減率が適用されなくなったからか。ということはシモーヌも直ぐに上がるし、ルミも戦闘回数次第で上がるな)

 

 なお、昭信の不安は良い意味で覆されることになる。

 

四十四層の途中でグレースのレベルが45になった。そして昭信の勇者レベルも上がって36になったが、英雄とその中位職である勇者は大量に経験値を必要としていたので成長が遅かった。それがまるで普通のジョブであるかのようにレベルが上がったのは、階層が四十四層になったからだろう。そしてボス戦を繰り返すか、四十五層に抜けて戦えば何戦かでシモーヌのレベルがあがり、さらにその先でルミのレベルも上がるものと思われたのである。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄52レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄52/剣豪45/百獣王44/勇者36/剣術指南役41

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/探索44/神官37/薬草採取士37

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

資金。16万7000ナール

 

/装備

・強権のオリハルコンの剣(詠唱中断、防御無視40%、ダメージ逓増、MP吸収、空き)

・かがほの鋼鉄短剣(火葬剣、空き)

・ダマスカスの額金(空き)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、空き)

・不眠のダマスカスのガントレット(睡眠耐性、毒耐性、空き、空き)

・駿馬のダマスカス・デミグリーブ(移動力増強、空き、空き、空き)

・よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、攻撃力二倍)

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師46

/装備

・強権の真鉄槍(詠唱中断、睡眠添付、毒牙、ダメージ逓増、空き)

・ダマスカスの額金(なし)

・鋼鉄の胸当て(なし)

・鋼鉄のグローブ(空き、空き、空き)

・加速のダマスカス・デミグリーブ(移動強化、空き、空き、空き)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士45

/装備

・強権の聖銀サーベル(詠唱中断、HP吸収、空き、空き)

・強権の聖銀盾(詠唱中断、毒耐性、空き)

・ダマスカスの額金(なし)

・不畏のチェインメイル(麻痺耐性、物理ダメージ削減、睡眠耐性)

・鋼鉄のガントレット(空き、空き、空き)

・駿馬のデミグリーヴ(移動力増強、跳躍力増強、精神二倍)

・身代わりのミサンガ(身代わり)

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者45レベル

/装備

・睡眠の鋼鉄の片手剣(睡眠添付、麻痺添付、毒牙)

・強権の鋼鉄盾(詠唱中断、空き、空き)

・竜革の頭巾(空き)

・頑強の竜革ジャケット(物理ダメージ削減、空き、空き、空き)

・竜革のグローブ(空き、空き、空き、空き)

・加速の竜革ブーツ(移動強化、空き、空き、空き)

・よりしろの黒革アクセサリー(身代わり、ダメージ逓増)

 

エレーヌ。狼人族。♀。15歳。魔法使い35レベル

・蜂和《ほうわ》の聖銀スタッフ。(ダメージ逓増、MP吸収、詠唱中断)

・聖銀のウインプル(なし)

・竜革のジャケット(なし)

・竜革のグローブ(なし)

・竜革のブーツ(空き)

・よりしろのシルバーアクセサリー(身代わり、二倍)

 

●特筆すべき事項

 

手持ちのスキル結晶。蝙蝠、貝、蛙、トカゲ、トロール、人魚、灌木、山羊・コボルト・芋虫。

 

・購入予定の結晶。コボルトx3枚・トロール・人魚・蜂(次回以降に、竜その他を発注する予定)

 

・四十四層で周回中。

 

記載ミスによる修正。シモーヌのサーベルにしていたダメージ逓増をルミの槍へ、空きを逆転。(毒コンボのためなので、こちらが正しい)




 という訳で帰って来ました。
そのうえで 成果の報告会ですね。

●収支
 十万ナールの投資で四百万ナール分の装備品!
間違いなく良い結果ですが、貰えるのはいつになるか分かりません。

結晶はコボルトx4・蟻・蜂・芋虫。実際には十種類くらい選べました(これが一番魅力的だったし、次回もコボルト多めに望んだけど)。
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