異世界迷宮でロマンスを【完】   作:ノイラーテム

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山ほどの木材

「これはこれは。ウッズウッドを退治なされるようになったのですな。これは素晴らしい、要るだけギルドの相場以上で買い取らせていただきますよ」

 

「そうしてくれると助かる。何分、色々と入り用だったのでな。資金を補充したい」

 

「はは。皆さんからみたら資金繰りも討伐の一環ですな」

 

 屋敷のオーナーである木工職人の下へ昭信は訪れていた。

 

四十四層ボスの部屋を周回し、ボスであるウッズウッドから大量の木材であったり、レアドロップの樹液を採取したからだ。ルミ経由でこの素材を売ってほしいと伝えられていたので、グスタフに持たせて売りにきた形になる。

 

「しかし、そうやっておられると先代を思い出しますな。この村が小さかった頃に来られて、一緒色々やったもんです」

 

「辺境の村を富ませるのではなく、共に歩もうとでも言ったのか?」

 

「概ねそんな感じですな。大言壮語を吐く面白い方でした」

 

「しかしその大言壮語を本当に叶えた……と」

 

 職人たちは懐かしそうに笑った。先代も随分と無茶をやったらしい。

 

昭信がドワーフの奴隷たちにやらせることや、木工職人に依頼するようなこと。同じような感じで開拓村で色々と依頼したようだ。やれ森を切り拓け、街道を延ばしてドワーフの山につなげよう、できれば寄り親になってくれそうな貴族のもとへ道を繋げたい……そんな苦労をみんなとして笑い合って成功させたそうである。

 

「そういえばウッズウッドの所へ行ったなら、そろそろ寄り親の方が来られると思いますよ。それほど高くは買ってくれませんが、結構な量を引き取っていただけるはずです。先代はよく『ギルドの値と変わらないくらいまで買い叩かれた』とおっしゃって阿呆みたいな量を持ち込まれたそうです」

 

「なんだ? 木造の要塞でも建てたのか?」

 

「船ですよ。新造船を作って交易に回したとか」

 

「なるほど。それは売れそうだ」

 

 ガレス伯は海辺の領主なので船は重要な資産である。

 

それをギルドで買う相場以下の価格で木材を購入できるのだから幾らでも買うだろう。塗れば保存性が高まるという樹液も、船底に塗れば貝殻が付き難いというならば相当に重宝されるはずだ。仮に千ナールの木材を木工職人が二千ナールで買うとして、千五百以下まで値切ればかなり費用が抑えられる。沢山購入したとしても、材木商から購入すれば四千ナールは掛かるのだから。

 

「それはよいことを聞いた。売り込みに行く気はないが、注文を受けてから納入まで時間が無いと困る」

 

「偉い方には逆らえませんからなあ。大貴族は恐ろしいとか」

 

「そういうことだ。さて、戻るが例の物は頼んだぞ」

 

「最低限なら既に。美品の方に凝ってましてね」

 

 その内にガレス伯が木材を買い付けにくる可能性が高いらしい。

 

買い叩かれるとしても、最初から無かったと思えばそれは全て利益だ。どちらかといえば時間を拘束される方が痛いだろう。昭信は職人に礼を言って、眼鏡の蔓に関して確認してから帰還した。村の開拓費用を稼ぐほどだったのだ、何十万ナールか分からないが苦労しながら用意したと思われる。木材一つ千ナールとして、百か二百をドロップさせるのは実に面倒なのだ。修行を兼ねて一週間は籠るつもりでいたが、どこまで時間が掛かる物やら。

 

「にゃっほー! 聞いたよ~。四十四層から四十五層に挑んでるんだって~?」

 

「木材ですか? 三十だか四十程なら手元にあるはずですが」

 

「全然足りにゃ~い。最低でも二百は欲しいにゃあ」

 

「値段次第ですな。第二迷宮に費やす時間が惜しい」

 

 暫くして聞いていた通りガレス伯がやって来た。

 

おそらくはギルドで売却されるドロップ品と迷宮の階層構造を参考にやってきたのだろう。過去に推測したことだが、ギルド職員は寄り親から紹介してもらった可能性が高い。要するに情報がダダ漏れなのである。

 

「そーだーね。一本を千ナールでギルドが買ってるけど、百本あるごとに百ナール上乗せしちゃうよ~。五十本あればなんと一本あたり千五百ナールだ!」

 

「指定買い取りは五割増しから二倍でしょう。話になりませんな」

 

「可愛いボクの頼みでも駄目かなぁ? ねっね?」

 

「寄り親としての報酬を用意していただけるなら」

 

 買い取り交渉は実に低い所から始まった。

 

まずはギルドと同じ値から始まり、労力的にも最大値と思われる所が指定買い取りの標準額ではお話にならない。ゲームにおける納品クエストだと思えば納得は出来るが、迷宮討伐をやってる身としてはこんな所で足踏みなどしていられなかった。だから本当に『クエスト』にしてくれるなら受けると昭信は答えたのだ。

 

「んじゃあ、帝国でも権威ある人も参加してる名誉騎士団への推挙は?」

 

「察するにクラータル三十三層でやっていたのは推薦試験でしょう? 名前が売れて迷宮討伐間近な人間に対しては、一般参加枠として四十五層あたりと見ました。ということは放っておいても誰かが推挙するでしょうし、貴女の推薦に乗るのはむしろ寄り親への顔を立てる行為なのでは? もちろん『寄り親として号令をかける行為』をやっておくというならば否応はありません。それが正しい姿ですからね」

 

 そして出てきた話は『帝国解放会』への推挙である。

 

一見、魅力的に感じる話ではあるが、作中屈指の面白エピソードが帝国解放会絡みのあれこれである。昭信もファンとしてその辺りのエピソードはだいたい暗記している。推薦枠が三十三層で、一般枠が四十五層というのはデータスキーとしては面白い部分なのでよく覚えていた。ちなみに『寄り親としての号令』とは命令に従った姿を他者に見せて上限関係を宣伝するだけではなく、『イザという時の戦力動員』に関係する話であった。

 

「手ごわいにゃあ。やっぱりあそこで口を出したのは失敗だったか。でも、あの時は本当にヤバかったんだよ? 迷惑者のバラダム家と混同されてたしさ。あそこで推挙するわけにはいかなかったんだって」

 

「その辺りの事情ならお詫びいたしましょう。それで、誤魔化されませんが?」

 

「いけず~」

 

 なお、今回の木材納入クエストは別に寄り親としての要請ではない。

 

あくまで余ったドロップ品をガレス伯が厚意で買い取っているだけであり、財政難のナーシャ家が勝手に売り込むだけなのだ。このままガラリアの話に乗った場合、寄り子の窮地を寄り親として見捨てなかったお涙頂戴の流れになるだろう。自分の所で新造船を作る計画を立てているのに、名声も利益もいつのまにかガレス伯の下に集まっている。どちらが手強いのか分かった物ではあるまい。

 

「とはいえ『寄り親の頼み』を断ったのではエレーヌ嬢も立つ瀬がありますまい。百本の納入で一本当たり千五百、それ以上は『あればあるだけ良い』ということでは?」

 

「それじゃあ足りないんだって~。千三百で三百は欲しいー」

 

「しれっと二百を落としどころに調整しないでくださいよ。ガレス伯爵」

 

「とか言ってー。実は既に百だけならあるんじゃにゃないのかにゃー」

 

 結局のところ、今回の背景には『時間拘束問題』が存在する。

 

ガレス伯は大貴族なので材木商から購入すると同時に、領地の木こりに森の木を切らせ迷宮へ騎士団を派遣すれば、自前でも十分に揃えられるはずだ。だがそれを素直にやったのでは費用は嵩むし、領地の木々は丸裸になる可能性がある。また建造できる船のサイズは小さく収まってしまう傾向にあり、『もし木材が余ったらあれをやろう!』という計画は無理だろう。結局はナーシャ家を始めとして寄り子の貴族に負担を配分する代わりに、経済援助として資金を提供した方が楽なのだ。一本あたり千五百ナールで五百本集めたとしても、総額で七十五万ナールということになる。下級貴族にはダマスカス鋼製の装備が揃えられる途方も無い金額だろうが、大貴族にはオリハルコンの剣以下の出費でしかないのだから。

 

「ガレス伯の自由になる船の用途と積載量を教えていただけますか? いずれ交易に借りられるなら受けることに損はないでしょう。寄り親の頼みを聞いて、推挙はちゃんと貴女から受けて顔を立てるとします。それ以上を望まれるならちゃんと書面でください」

 

「わーい話が分かる~。最低二百で目標三百ってラインでよろっ!」

 

 最終的に昭信が折れる形で交渉が終わった。

 

ガレス伯としては船の建造費が総額で何百万ナールも掛かるため、その経費を少しでも抑えるためには木材の徴収が必要だったのだ。かといって強く出て動員してはイザという時に問題が起きるし、権力に笠を着て下っ端貴族に労力を押し付けていることになってしまう。対照的に昭信の方も寄り親の申し出であり、金欠気味なので断るつもりはなかった。問題はもっと高額なドロップ品を落とすモンスターが存在したり、迷宮攻略に費やす時間を拘束してしまうため、割りに合わないので値段交渉をしただけに過ぎない。『寄り親の顔を立てる』というのは貸し・借りと一緒に口約束に過ぎないが、次回以降に釘を刺せるなら悪くはないだろう。

 

「せっかくです。このまま五百本収めましょうマスター!」

 

「そんな時間的余裕はないし、短期間に出来たとしたら明らかに異常だぞ」

 

 四十四層のボスであるウッズウッドを退治し続けるマラソン周回。

 

金庫番のルミは乗り気であるが、どちらかといえば飽きっぽい昭信はそれほど続ける気はなかった。一日ぶっ通しで一週間ほどか、午前中だけ挑んで十日というところか。

 

「御屋形さまならば可能ではありませんか? その力を知らしめるべきでは」

 

「それが可能な実力がある場合は、成長し過ぎている迷宮の深層に挑まされるだろう。お前の所の迷宮は派閥で何とかするから、クラータルの六十六層以降で最上位モンスターから貴重なドロップ品を拾ってこいとか言われかねんぞ」

 

 シモーヌとしては自慢したいらしいが目立って良い話ではない。

 

貴族家として浮沈の掛かった時や、本当にパーティー全体がそれだけの実力を身につけている場合は別として、現時点で六十六層に挑んでも全滅するだけだろう。レベル差を無視できるデュランダルで大技を連発するにしても、七体以上出てくる雑魚ですら倒しきれるとは限らないのだから。

 

「確かにアキノブさまなら可能としても私たちは無理でしょうね」

 

「実力が足りてないと与えるダメージが減衰されるそうだからな。特殊なスキルでも付与しない限りは、俺でも難しいと思うぞエレーヌ。問題はその結晶を手に入れたとして、意味があるのは無理して挑んだ奴にだけだ。全員が中位ジョブになってから個別に鍛え直すとしても、相当先の話になるだろう」

 

 色んな秘密を抱えており、部分的に伝えているせいもあるが期待が重過ぎる。

 

エレーヌなどは物語に登場するヒーローか何かのようにイメージしているような時があった。確かに英雄のジョブを持っているし、複数ジョブを持っているからヒーローと言えなくもない。だがあくまで異世界転移時に貰った特典を使い回しているに過ぎず、ロクサーヌ級の天才には及ばないのだ。

 

「旦那さまの思うがままになされるのがよろしいかと。その上でどの程度のスケジュールといたしましょうか?」

 

「全力で五日か、午前中に絞って十日。第二迷宮の踏破が本命だし十日の方だな」

 

 ここでグレースがいつものように昭信の決定こそが全てだと告げた。

 

今はただ教えたままにそう言っているが、いつか彼女がちゃんとした自分の見解を持った上で、そう言われるに相応しい実力を身に付けたいものだと昭信は思っていた。ひとまずグレースはそこまで至っていないようだが、『ではどうするのか?』と聞いてこられるようになっただけ成長していると言えるだろう。

 

「では第一四十四層のボスを倒して四十五層で何度か戦い、また四十四層へ戻ってくる。昼になったら食事に戻り、午後から第二迷宮の攻略を進めるという行程なのですね?」

 

「そうだ。木材の納入が終わる頃にはボスに挑んでもまったく問題ないだろう」

 

 グレースは愚直なので分かっていることでも一々尋ねてくる。

 

だがこういう確認も必要なのではないかと思うようになった昭信である。何しろ赴くままにボスに挑んで、パーティーを全滅させて居残った時に焦ってしまった。他にも脳内で聞いたころのある情報を思案しながら、『きっとこうだろう』と途中で案を絞っていくようなところが昭信にはある。それが正しいか正しくないかに関わらず、強引に突破してしまうところが彼の才能なのだろうが、元の世界で人と合わなかった部分でもあるだろう。もっと落ち着いて考え、行動できたならば兄や兄嫁とも疎遠にはならなかったのではないかと思う昭信であった。

 

「そういうことでルミ、スケジュールをもとに階層ボスの情報と結晶の入手を頼む。シモーヌは四十五層以降で増える雑魚に対して、効率的な足止めの動きを模索してくれ。エレーヌ・俺・グレースと連続で攻撃を当てればダメージ逓増が活かせる。俺たちが確実に攻撃を当てていければ、ボス二体を先に倒すにしても、雑魚を先に片付けるにしても問題ないからな」

 

「「お任せください!!」」

 

 こうして昭信たちは四十四層ボスから四十五層序盤で戦い続けた。

 

途中でシモーヌとルミのレベルが上がり、グレースのレベルとまた差が出来て、再度グレースのレベルが追いつきシモーヌがまた引き離す。そしてルミがかなり遅れてレベルを上げて48レベルに達したところで材木の納品を終えた。

 

●リザルト

 

アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄52レベル。

 

 活性枠。入替枠。不要枠。

 

英雄53/剣豪47/百獣王46/勇者39/剣術指南役43

 

剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/料理人32/探索44/神官40/薬草採取士40

 

村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1

 

 更新順(古 → 新)

 

キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65

 

獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。

 

ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師48

 

シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士47

 

グレース。人族。♀。22歳。暗殺者46レベル

 

エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い41レベル。

 

●特筆すべき事項

・ガレス伯への木材納品クエスト(必要数は達成、未届け)




 という訳で納品クエストです。

●何のための納品か?
 ボスが落す大量の木材を集め、それを寄り親に納品するクエスト。
もちろん拒否権はありません。向こうは命令する権利はあるけど問題があるのでやらない。舐めた価格設定をするから文句を付けるけど、最初から予定調和なので、釘を刺すために文句を言っただけですね。

なお船を借りる権利を得たり、眼鏡の蔓とかの経過を確認したりしつつ、時間を経過させるためのお話でもあります。お宝を貰う話をしたけど、即座には貰えるはずがないので時間が欲しかったとか、『その間に第二迷宮を攻略していた』ということで、語るのが面倒くさい部分を省略した部分もあります。

ちなみに結晶・財宝を代わりに要求しないのは、そこまで相手方が困って居ない、せいぜい何万ナールか浮く程度の話なので、OKくれないだろうという見込みもあります。
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