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「ルミ。四十六層のボスについて教えてくれ」
「はい。ケルドタイガーシャークという敵で、獣のような毛並みを持つ獰猛な魚です。その姿の通り素早く攻撃力が高い相手ですが、耐久性や防御力が低いということはありません。特殊な攻撃として鱗を矢のように飛ばしてこともあるそうです」
四十六層のボス部屋でいつものようにミーティング。
直前に他のパーティーが挑んでないか臭いを確認したりするついでだが、このタイミングでの情報共有は重要だ。手を抜いてもよいことはないし、周回疲れもあって同じ敵と何度も戦うのが敬遠されたのもある。さっさとボスと戦い、ドロップ品が必要ならまた戻ってこようとサクサク進む気でいた。ルミたちの成長のために、どうせ繰り返すならもっと上の階層で戦う方がよいというのも大きな理由であっただろう。
「なるほど。四十五層からの傾向がなんとなく見えてきたな。今までのモンスターを一回り強くして、何かしらの得意な分野を持たせつつ、欠点はそれほど存在しないというところか」
「レオナルドは物理と魔法の攻撃力。ピークホッグは大きさと素早さの両立でしたものね、マスター。厄介な相手ではあるのですが……」
昭信とルミがそんな風に話し合う中、他の者たちは黙って聞いていた。
データと状況分析に関してはこの二人が得意なのもあるだろう。シモーヌが戦場を支える戦い方を尋ね、エレーヌが魔法は何の属性がよいのかを相談したら、後は詰めの相談をするだけの話でしかない。もっともそれが重要な関心事だったりすると話は変わってくるものだ。
「暫く連戦はしたくない気分なんだが、そうもいかないのか」
「ええ。通常のドロップ品はスリミーという食材ですが、淡泊で大きいのもあってそれなりの価格で売れます。しかし美容に良いフカヒレという食材と、健康に良い薬の材料が稀に取れるので、皆さま方から注文が入っております」
このモンスターはドロップ品に関して恵まれていた。
似たような例で言うと、ボスタウルスが肉以外にもレア食材を二種類落とすようなものだ。フカヒレは高価な食材というだけでなく美容にも良いので、貴婦人方から人気がある。そして薬の材料になるということは薬師の一族と提携している以上は収集を断り難いのだ。
「売ってくれるなら結晶を売っても、交換でもよいという方もおられましたわ」
「シュナイドラーさまからも要請されております。第二迷宮で回収する結晶以外でも、一族経由で回収した結晶を一部でよいなら融通してもよいとのことです」
しかも最近になって、結晶収集に力を入れていたのが影響を与えている。
エレーヌに寄り子貴族仲間と交渉してもらい、ウッズウッドが落とす木の結晶などを売ってもらえるかどうか検討してもらっていた。同様に薬師の一族にも話を通しており、ルミが『隻眼になるための条件』と思われる幾つかの内容をこなそうとしていたのだ。早めに条件を叶える意味でも、出費を抑える意味でもここで周回する価値はあるだろう。
「ふう……これが『貴族の柵』というやつか」
「適正価格であろうとも、お願いにはお願いが返されるそうですわ」
「仕方ないな……とはいえ素直に繰り返すのも面白くはない。ここから暫くドロップ品も結晶もよい物が並んでない。他のボスの周回する回数を減らして、戦闘を経験するために通り抜けるだけにしつつ、修練の為にボス周回をするのはこの階層で行う。その次は四十九層辺りで周回かな」
結晶の買取りは話を持ち掛けただけだが、相手はそう取らなかったようだ。
昭信からしてみれば『使わないなら仲買人の手数料分を上乗せして買うよ』と伝えただけであっても、貴族家からみれば『当家の計画に使うから協力してほしい。差額はご笑納あれ』として受け取るそうだ。そして『お願い』をした以上は同じ熱量の『お願い』を返すのがセオリー。何しろ貴族家にとって結晶を使ったスキル付与など、余裕の範囲で行うものなのだ。それが他の貴族家に声を掛けた段階で商売ではなく『お願い』と見なされるのだろう。
「四十九層では香水の材料が採れるそうです。それでよいのではマスター?」
「賛成です、御屋形さま。育っていない迷宮は五十層ですので、四十九層で本番前の調整を行う者も多いとか。この迷宮はまだまだ続きますが、強さにそう変わりはないはずです」
ここでシモーヌが本格的に話に口を出してくる。
間で尋ねた時はちょっとした対応の手順に過ぎなかったが、こと難易度に関しては彼女も親世代から聞いていることもあるのだろう。そしてルミのレベルが途中で49となるとして、50レベルを目指すなら適正階層的にも四十九層で巡回するのが妥当だろう。そこで幾つかの条件をクリアしていき、全てこなしても足りなければ、もっと上の階層に進みつつ結晶作成や装備作成を繰り返すしかあるまい。
「ではその流れでいこう。改めて敵との戦いに関してだが、浮かび上がって戦う相手だから油断はするなよ。俺は跳躍して戦う回数が増えるし、シモーヌも足止めのために跳ぶことが増えるだろう。上下の位置関係には気を付けろ。戦い方は以前に戻すので、まずは各自が適切に戦うように」
「「「はい!」」」
こうして新しい狩場での戦いが始まった。
これから何度も戦う場所であるとはいえこれが初戦である。油断など出来る筈がなく、もし苦戦するようならば抜本的な計画見直しが必要だろう。とはいえ四十五層を問題なく抜けてきたので攻撃力は十分。どちらかといえば宇宙を水であるかのように戦う魚タイプの敵であることかもしれない。
『ケルドタイガーシャーク。46レベル』
『ケルドタイガーシャーク。46レベル』
『ブラックダイヤツナ。46レベル』
『ブラックダイヤツナ。46レベル』
組み合わせは順当なもので、現れた四体は全てが浮かび上がっていた。
しかも特にこれといった動きの差などなく、それぞれが勝手気ままに空中を泳いでやってくるのが見える。ボス戦ではよくある話だが、すべての敵が肉弾戦を選んだようだ。面倒なのがブラックダイヤツナ二体が高く泳ぎながら、こちらへ直線的に突っ込んできていることだろう。
「天を掴むのは我が
「……噴土。サンドストーム!」
これを見て昭信はブラックダイヤツナの一体にソニックブレードを放つ。
続けざまに浴びせられるエレーヌのサンドストーム。そして昭信が改めて跳躍した時には、シモーヌやルミがそれぞれの配置についていた。突撃をシモーヌが遮り、その脇からルミが槍を突き刺した! 万が一に備えてグスタフはエレーヌの側を動かなかったが、グレースはルミの反対側から回り込んでいる。
「止めました。おそらくは眠り……いえ麻痺かと」
「よくやった! そのままルミと共にもう一体を牽制しろ。シモーヌは奴への備えだ!」
「「はい!」」
グレースがブラックダイヤツナを麻痺させると、昭信はボス一体を仕留めていた。
ただしケルドタイガーシャークはもう一体残っており、ブラックダイヤツナ一体も生き残っている。そいつらはシモーヌやルミを狙っており、昭信が後方から救援に向かっていた。もちろん敵はそれに付き合う必要はないので、高い位置へ浮かび上がったり迂回しながら攻撃をしていたのだ。
「サンドストーム!」
「悪の獣のもののふの、百煉の力を解き放つ。致命! モータルストライク!」
やがてエレーヌが次の呪文を唱えると形勢が逆転する。
弱点属性ともあってブラックダイヤツナが煙に変わる。そして傷ついたもう一体のケルドタイガーシャークに対して、昭信がトドメを刺して最初のボス戦を終えたのである。
「やはり敵全てが同じ行動を採ると戦い難いな。しかも今回は全てが飛んでいる」
「そのお気持ちは分かりますが御屋形さま。こうまで面倒になるのは珍しいのでは?」
「それは違うぞシモーヌ。たとえ1%の可能性でも百戦うたびに一度か二度は訪れるのだ。ならば備えて悪い道理はない。ましてやこいつらと何度も戦うなら備えておくべきだし、そして四十七層のパットバットや四十九層のマダムバタフライが出る層でも空飛ぶ敵が出ることになるだろう。ならば猶更のことだな」
昭信は数少ない可能性に備えることに躊躇しなかった。
今回と同じように面倒なパターンになることを稀であるとは思わず、そのために思案を費やすことも予算を費やして対策することにも躊躇わない。何故ならばゲーマーというものはそういう存在だし、手段を確立してしまえば何度でも使い回せるからだ。そうすれば同じ状況に陥ることを恐怖だとは思えなくなる。何しろ得意パターンの一つが発生するだけなのだから。
「シモーヌ。グレースに
「グレースは様子を見てから足止めにいくので可能だとは思います。御屋形さま」
今回、ルミは真鉄の槍で即座に攻撃を掛けることが出来た。
眠りは与えやすい状態異常なので、暗殺者以外が攻撃しても成功し易いから何度も攻撃するうちに眠らせる可能性は高かった。まして暗殺者のシモーヌが攻撃すれば、成功率だけなら100%だ。実際には相手が抵抗するので、雑魚なら70%でボスには50%まで下がってしまうのだが(より深い層ではもっと下がる可能性がある)。これに対してシモーヌの見解は対策になるだろうと反応した。
「結晶は集めていますが……状況を選びますよマスター?」
「その時はレムゴーレムにでも使うさ。何だったら騎士団となった後に二班以上を編成して、それぞれのパーティーに持たせてもいいからな。後はそうだな……シモーヌが使っている鋼鉄のデミグリーブをグレースに使わせてみて、飛んでくる相手を迎撃できるなら今の武器のままでもよいかもしれん。ただ跳躍攻撃は人に依るから合わない者にはやる気があっても難しいからな」
ここまで面倒な目にあうのは稀なのだから過剰だと苦言を呈した。
それに対して昭信は躊躇なく出費を認めた。どうせルミが隻眼を目指すために同じ結晶を何度も付与するつもりなのだ。だったらそれを用意して何の問題があろうかという態度である。ただ喋っている間に新しいアイデアを思いついたので、対案としてグレースがジャンプするという案を付け加えたのであった。
「ではグレースさんに跳んでもらう案をまず試しましょう。眠りの槍も昼食時に説明すれば使い回せますからね」
「そうだな。グレースはそれでいいな? 問題がなければ次で試してみる」
「旦那さまの思し召しのままに。なんなりとお申し付けください」
「ただし合わないと思ったら躊躇なく説明しろ。我慢する方が効率が悪い」
こうして浮遊する敵、あるいは空飛ぶ敵に対する対策も行われた。
その結果は跳躍二倍だと剣でも届くが、ほどほどのジャンプで槍で刺す攻撃がし易いだろうという結論になった。こうして羊の結晶と蛙の結晶を購入し、鋼鉄の槍に催眠を添付しグレースの付けているダマスカス鋼デミグリーブに跳躍強化を付けて、ようやく万全の態勢を作り上げたのである。
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「ガレス伯が貴族を二人伴ってくる? あちらに呼びつけるのではなくて?」
「はい、アキノブさま。お一人はよく知らない御方ですが男爵閣下。もう一人は同じ寄り子仲間である勲爵士の方、こちらは女性だったのでよく覚えております」
四十六層を抜けて四十七層のパットバットと戦う中で先触れが訪れた。
貴族の来訪は事前に使者が訪れるものだ。神出鬼没のガレス伯であっても、お供を連れている時は流石にちゃんとしているのだろう。その上でエレーヌが知っている者と、知らない者を同時に帯同させていることである。
「もう御一人は用件次第として、勲爵士というと土地持ちの上級騎士でしたか。何の用事か心当たりがありますか?」
「……とても情熱的な方で、女性同士頑張りましょうとおっしゃられておりました」
「女領主は少なく肩身が狭いので? それは大変な苦労をされておられる」
「おそらくそのような意味でしょうね。ふふ、悪い方ではないのですが」
この世界では魔法やスキルが存在するので女性も尊重されている。
だから女性で戦う者も多く、もちろん女騎士や女領主はそれなりにいる。しかし、存在しているだけでそう多くはない。体格とか適性とかそれ以前に、『家と家を繋ぐ』とか『優秀な者を騎士として迎え入れるため』に嫁に出されることが多いからだ。こればかりは女性にしか出来ないので仕方がない所だが、そんな中で長子が女性で次子以降に男子が存在する家もある。今回の女性領主は、たまたま寄り親のガレス伯が女性であり、エレーヌが新しい女領主となるので親近感を勝手に覚えて息巻いているタイプなのだろう。
「では舐められない程度におもてなしを俺の方で用意しようか。エレーヌの顔を立てている、特に男女の垣根は気にしていない……くらいで」
「そうですね。できれば甘い物を用意してくださると、主に私が喜びます」
「それは腕によりを掛けなければならないな」
「ご期待しておりますねアキノブさま」
こうして昭信たちは四十七層のハットバット、四十八層のボトルマーメイドと戦いながら順次階層を突破していった。ボス相手の修練に関しては四十六層に戻ってケルドタイガーシャークと戦いを繰り広げ、午後からは第二迷宮の階層攻略を進めるといういつもの流れで落ち着いたのである。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄52レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄53/剣豪49/百獣王47/勇者41/剣術指南役45
剣士50/獣戦士51/ソードマスター50/探索44/神官40/薬草採取士40/料理人38
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師49
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士48
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者47レベル
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い43レベル。
という訳で次の階層と次のボス周回相手の決定です。
●ケルドタイガーシャーク
タイガーシャークはイタチザメの別名であり、ケルドは学名の一部。
鮫のすり身とフカヒレと肝油がドロップします。
名前が格好良いというか、エリア88で好きな名前だったので流用。
たぶん最上位モンスターは鯨じゃないでしょうか。
わざわざ装備品を用意するのは、『確実に勝てるよう』というのもありますが、『同じようなことはまた起きる』という観念からです。そういう時にいやいや戦うより、「馬鹿め! 対策してあるぞ!」という方が主人公は好きなだけとも言います。装備は作れるし、結晶はどのみち使う予定だったから、費用を気にしていなかったのもあります。