●
(四十九層に移った甲斐があったな。剣豪が剣聖になった。いずれ百獣王や剣術指南役も上位ジョブには辿りつけるだろう。勇者は条件が分からんし、なれるか少し怪しいが……それはいい)
昭信たちは攻略階層を四十九層に移しマダムバタフライと戦い始めた。
その過程で新しく『剣聖』のジョブを得たのだ。もはやここまでくると達成条件が何であるかまったく分からない。昭信の超攻撃力であれば、戦闘中に自然に達成できるだろうということだけである。
『剣聖』
・能力値:
腕力:大成長。HP:中成長。器用:小成長。精神:小成長。
・スキル
スライス。リポスト。
(スライスは攻撃技だろうが、名前的にも大人しくなっているな。想像でしかないが、スマッシュの反動が少ないタイプか? それまでの全力を普通に出せるということで剣聖らしいというか。問題はもう一つだが……『いつ』だと?)
昭信が軽く念じてみるとスライスはいつもの攻撃技だった。
対象指定であり一時的に6thジョブにして使ってみても、火力があまり変化したような感覚がない。使ってみるとイメージ通りに反動無しに敵を切裂くことが出来た。これ以上強くならないのが残念なところだが、ボス以外は一撃である以上はそれほど影響はなかったといえる。そしてよく分からないのはもう一つの方であった。
(リポスト……リポスト? 何かの技なのは間違いがないが……何のルールで読んだ技だったかな。俺があまり覚えていないんだから、補助か防護用なんだろうが……。付与系のバフなら俺が覚えているだろうから防御として……、剣聖が防御? ということはカウンターか!)
昭信は部活や稽古で習った技と、TRPGの知識を動員して考えてみた。
だがメジャーな攻撃技の類にリポストという言葉の記憶がないのだ。そしてサイドステップだの蜻蛉の構えだの、何かしら補助効果がありそうな名前でもない。やがて思い至ったのは、相手の攻撃を弾いて即座に反撃するカウンターアタックであった。相手の攻撃を弾いて反撃とイメージすれば、受け流した瞬間に発動した。おそらく『相手の攻撃が自分に当たった瞬間に反撃』という指定でも可能な筈だ。
(技など使えるのが一つあればいい。問題なのはジョブの数がもう限界だということだ。ここは暫く火力が落ちるのを承知で剣豪と入れ替えるか、原作を考えるとやはり必要経験値二十分の一を削ると影響が大きいからな。せめて百獣王か剣術指南の上が出るまではこのまま成長させておきたい)
そして恒例のジョブ入れ替え問題の時間がやって来た。
だが原作では迷宮を攻略する頃に冒険者レベルが41(実際には43か44くらいになってる可能性はある)であり、あまり成長しなくなっている。これはボス戦を中心にデュランダルを出す機会が多くなり、必要経験値二十分の一を十分の一にした影響だろう。昭信は四百倍を維持した上で、原作よりも時間を掛けているのでようやく50レベルに至ったと言える(今は冬に差し掛かっているので原作よりシーズン一つ分ほど時間を掛けている)。せめて戦闘に影響を与える百獣王が50レベルに達するまでは今のままがよいと判断した。そうすれば残りのジョブは生涯目標でも問題ないのだから。
「今日は少し早めの食事にしよう。アウレリア卿へ渡す武装の費用問題に関して相談したいし、第二迷宮では三十三層に到達しておきたいからな」
「「「はい」」」
昭信は安全策として5thジョブのまま午後にレベルを上げることにした。
剣豪の代わりに剣聖を入れ替えそのレベルを10まで上昇させ、やがて20を目指せるように。翌日にはルミの鍛冶師が50を目指せるようにまずは地味にレベルを上げることにしたのだ。
●
「アキノブさま。山向こうのカラバ侯爵は定期的にダマスカス鋼や竜革を寄り子たちから徴収して、作り上げた装備を見返りに渡しているそうです。ガレス伯は少し値を配慮してあげてほしいとおっしゃられてました」
「それはなんとも剛腕だ。だが、分かり易い寄り親の在り方ではある」
女騎士からの頼みで戦法を教えて装備も供給することになった。
それに際して『スキル武器を発注する時の十倍価格』ではなく、『スキル武器を持ち込む時の五倍価格』で良心的に供給するつもりだった。だが山向こうのライバル派閥が剛腕を発揮して『俺の言うことを聞けば見返りはたんまりやる』というタイプであるならば、想定している価格で売却するのは問題だろう。こちらの寄り親であるガレス伯の言うことを聞くかは別にして、ライバルを意識した価格にせざるを得なかった。
「ルミ。いい機会だから値を決めてみるか? いずれ訪れる解放の時のために経験にはなるぞ」
「気にはなりますが、装備の価格設定に詳しくないので何とも言えませんマスター」
「分かった。その辺りからレクチャーしよう」
ここで昭信は鍛冶師であるルミに話を振ることにした。
強くなった奴隷の待遇を良くするのは当然のことだし、少しずつお金を与えて自分を買い戻させるのは既定路線だった。その上でルミは隻眼のジョブにするつもりだし、そうなれば周囲から引く手
「まず素材であるダマスカス鋼に関してギルドは一つ2000で買い取って4000で鍛冶師ギルドや商人へ、鍛冶師には8000で販売する。この差額で職員や倉庫(高レベル探索者含む)に払う金を蓄える訳だ。もちろん売れ難い不用品を抱えるリスクや、ギルド神殿の持ち主である領主へのアガリもここから払う。鍛冶師はギルドからならいつでも買えるが、自分で取りに行く場合は探索者を含む傭兵や奴隷を抱える必要がある。つまり素材一つが8000ナールと計算上は仮定するが、ここまではいいか?」
「外陣メンバーから4000で引き受け解放用に充ててますが、衣食住もですしね」
自前の戦力があれば安く済むが、それは不安定な上に即時ではない。
もし大量に装備を作る必要があり、しかも短期間で揃える必要があるならルミでも一つにつき8000ナール出して購入するだろう。日ごろから蓄えておくにせよ、メンバーを揃えて裏切られたりポッケナイナイで誤魔化されないように、一つ4000ナールと更に諸費用をこちらで持つ必要があるだろう。急ぐなら緊急手当てを出すのでやはり8000ナールに近い数値になる筈だ。
「次にダマスカス鋼三つと他の材料を使い、ザックリ二万五千ナールで武器・鎧・盾が製造されるとしよう。一つだけなら四倍の価格で売れるだろうが鍛冶師は欲しい相手に伝手はないから、商人に二倍の五万ほどで売る。商人はその二倍の十万で販売する。鍛冶師も商人も何かの用事やオークションなどで安く売ったり、逆に品薄だから高く売ることがあるかもしれん。だが、基本価格は十万だ」
「おおよそ、そうなりますね。そしてスキルは失敗込みで、五倍から十倍……」
スキルスロットが付く可能性は十分の一なのが最終価格に影響する。
注文する場合は『絶対に成功させてくれ。十回目までに仕上がったらボーナスだ』と十倍の価格までで引き受ける相手を探す。ただ高級装備の場合は、増えていく最大スロット枠の確率が集束していくことで三割ほどで成功することになる(もちろん素人客は知らない)。このため、持ち込みの場合は五倍くらいの価格でも折り合いがつくのだ。オークションではスキルの人気次第なので、実際にはもっと変動するだろう。初期価格が最初の一回で成功したものとして十一万ナールから始まり、睡眠添付などの人気の品は高級装備であるダマスカス鋼製であることもあって五倍を超えるのはまず間違いなさそうである。
「とはいえそれは一々装備を購入して、そこそこの腕前の鍛冶師に付与させる場合の価格だ。高級装備の場合は腕利きの鍛冶師に直接頼むだろう。その場合は失敗するごとに、失われる素材と結晶の分を加算していくことになる。商人に売る場合と違って、装備自体の価格を釣りあげられるから、最終価格ではそれほど値を上げない筈だ。頻繁に来られては困るが、また来てほしい程度の価格にするだろうな」
「となればダマスカス鋼が失われた分の追加の材料とスキル結晶のみ十倍……いえ七倍までで完成しますね。そこからその後の取引を考えると……」
製造できる腕のある鍛冶師に直接依頼できる意義は大きい。
成功するまでチャレンジし続ける時のハードルが下がるからだ。伝手があるから安く頼める以上、こちらも最初に武器一本分は高く売らせてもらう。よって基本価格は十万スタート、そこに失敗したダマスカス鋼と結晶の分が乗る訳である。今はコボルトの結晶が高いので平均して一万一千で素材が九千の合計二万が一回ごとのチャレンジ価格。これを七倍して十四万、最初の十万に加えて二十四万というところだろうか? 持ち込み価格扱いで五万というならば、十万と十万で二十万ほどが妥当額になるのかもしれない。どちらにせよオークションで数十万になる装備がその価格ならば安上がりだと言えるだろう。
「では製造可能だから二十四万で特別に今回のみ二十万、スキル武器二つで四十万ナールというところでいかがでしょうか? マスターのお力をお借り出来ない場合を考えると、そのくらいならば妥当かと思います。鋼鉄の装備でスキル付きの装備が同じくらいの価格でした。ダマスカス鋼でこのくらいの価格であれば、損はないと思われるでしょう」
「そうだな。こちらで戦闘方法に合わせた武器を売り込んだわけだし、結晶を幾らか持ち込む前提でその価格としたといえば立派な理由になると思うぞ」
この判断の是非はスロットが判別不能でも製造可能な価格である。
ダマスカス鋼の装備が制作できないならこんな価格にはできないし、素材自体を自分で取ってこれるから安く抑えられるだけ。もちろんフラヴィアがダマスカス鋼を持ち込めばもう少し安くしても良いし、隻眼を目指すから今だけの限定で雑多な結晶も受け取ることにしている……とでも言い訳を付けておけばよいのだ。重要なのはフラヴィア自身の伝手でルミに頼んでいるのではなく、エレーヌの伝手で頼んでいる形なのだから、『次もまた同じ値でお願いしてもよいか』とは気軽に言えまい。少なくとも四十万以上を用意するか、エレーヌの御願いを聞くことでまたこの価格ということになるかもしれない。
「後はそうだな……アウレリア卿を交えてウッズウッドと何度か戦ってみるか? 暗殺者グレースを外して代わりに入ってもらい、俺のジョブも鍛えておきたいものに変更しておく。皆の装備をある程度は普通の物にするからランクは下がるから、多少は危険だし時間は掛かると思うが」
「それは名案ですね、アキノブさま! 素敵だわ!」
「あの……それは止めた方がよいかと……」
フラヴィアに戦闘訓練を施すことを昭信は思いついた。
どうせ寄り子仲間なのだし、これからも仲良くするならば戦法を覚えるまで教えること自体は悪くないと思ったのだ。この案にエレーヌは『お友達と一緒に戦える』とはしゃいだが、シモーヌが苦笑を浮かべて首を振ったのだ。もちろんフラヴィアが聖騎士だから嫉妬しているわけではない。別の嫉妬である。
「どうして一緒に命を懸けて戦えば仲良くなれると思うのよ?」
「お嬢さま。御屋形さまがご一緒なのですよ? 横恋慕されたら手に負えません。それに……私はあの方に近しいものを感じました。反発した後ですから間違いなく御屋形さまに関心を寄せられるでしょうね。たとえ複数ジョブや英雄のジョブがなくともです」
その意見は想像よりも仲良くなり過ぎるという点であった。
生真面目なシモーヌには憶えがあるのだろう。それにシモーヌは狼人族なので自分以上の強者に対して従順なところがあるから猶更だ。人間であるフラヴィアがそこまで昭信を好きになるかはともかく、避けておいた方がよいとシモーヌが言うのは分からないではない。もちろんフラヴィアからみて誰か好きな人がいれば、この話は完全に空振りになるのだが。
「そうねえ……アキノブさまは素敵だし、ありえるかもしれないわね。問題ないかもしれないけれど、ショックが大きかったみたいだし止めておきましょうか」
「ええ。蒙を啓かれた直後なので止めておいた方がよいかと思います」
「よく分からんが二人がそうするというならばそうしておこう」
面白いのは二人の女性感ではないかと思う。
エレーヌは共にある者に対してかなり抵抗が緩い。ルミもシモーヌも共に昭信を支える女として心強く思い、新しくやってきたグレースに警戒心を抱いた。シモーヌの方は同格のルミに対抗心を持ち、格下のグレースには関心がない(エレーヌに至っては最初から上だとみなしている)。おそらくは『群れにいる者はみんな仲間』と認識するエレーヌと、『序列が大事』と思うシモーヌとの差であろう。もちろん昭信は女性の心理に詳しくないので、余計な口を開かないでおいた。
「そうだな。……外陣メンバーのノンレムゴーレム狩りに混ざってもらって、戦利品に関してはこちらで調整するというところでどうだ? 本当にできるかどうか分からない戦法を押し付けたいとは思わん。それに納得してくれればエレーヌも今後に付き合い易いだろう」
「それでよいかと思いますマスター。結晶を持ってきてくださる方ですしね」
「ならば午後からグスタフに手紙を持っていってもらうか」
「ではそのようにしておきますぞ主殿」
こうして一同は常識の範囲で丁寧な対応を行なった。
ルミが独立する場合に備えて特に安くしたりはしない。値段を抑えている理由もちゃんとしており、フラヴィアが用意した費用と結晶をありがたくいただくことにしたのである。結果としてフラヴィアは木材三百本分までの報酬を吐き出すことになるだろうが、四十四層までなら何処でも通じる戦法とそれ用の装備を入手できるわけだ。昭信たちも報酬で資金に余裕が得られ、特にコボルトの結晶の数が充実したことにフラヴィアたちへ感謝したいくらいであったという。
●リザルト
アキノブ・タケダ。狼人族。♂。24歳。英雄54レベル。
活性枠。入替枠。不要枠。
英雄54/百獣王49/勇者43/剣術指南役47/剣聖10
獣戦士51/ソードマスター50/探索44/神官40/薬草採取士40/料理人35/剣豪50
村人5/錬金術師1/僧侶1/魔法使い1/戦士30/賞金稼ぎ1/騎士1/剣士50
更新順(古 → 新)
キャラクター再設定、鑑定、必要経験値二十分の一。65
獲得経験値二十倍・5thジョブ。詠唱省略。79。余りは結晶促進。
ルミ。ドワーフ。♀。17歳。鍛冶師49
シモーヌ・ナーシャ。狼人族。♀。23歳。騎士48
グレース。人族。♀。22歳。暗殺者48レベル
エレーヌ。狼人族。♀。魔法使い44レベル。
という訳で前回の続きと新しいジョブの紹介です。
長くなったので、技とかの動きは次回にですね。
●『剣聖』
剣豪50レベルでの進化。全体的に一段階上位互換になっている。
・能力値:
腕力:大成長。HP:大成長。器用:小成長。精神:小成長。
・スキル
スライス。リポスト。
「スライス」
反動の小さいスマッシュ。威力は同じ(ジョブ修正を除く)。
スマッシュが態勢を整えてないと使えず、その後に反動が大きいという欠点が消えている。その為に存在したリバウンドスマッシュと言う技も消えたと思われる。
「リポスト」
指定反撃。『いつ行うか?』と言う部分を指定できる。
主人公は気が付いていないが、明確に意識して居れば別の『技』をコンボの様に放てる。これは複数ジョブが存在しないからこそのバグである。
という訳で剣士の最上位ジョブになります。
使い勝手が良くなったけど、あんまり内容的には変わらない。
剣の聖はただ殺すとでしか得られない。
ちなみに戦士の最上位は『闘仙』一騎当千の千、剣閃の閃。普通に強い。
●高級装備の製造元価格
以前に挙げていた価格から、かなり下げています。
これはダマスカス鋼製の武器を製造できるようになった、素材も簡単に手に入るから。強権の鋼鉄武器が二十三万で、毒牙・眠りのダマスカス鋼の武器が二十四万なのだから、「ボッタクリだ!」とは言わないでしょう。もちろん、これはレベルを育てた者の力であり、主である昭信やエレーヌが持つ力であり、フラヴィアさんにとってはコネの力になります。頭を下げ、何かで協力するだけでディスカウントなのでお得と言えばお得。
(これは相場が限りなく上昇する話と矛盾することなく、貴族が高級装備を持ってることへの補正にしてます。実際にそのくらいの価格で作れるでしょう。鍛冶師さえいれば)。
●次回
ちゃんとした戦闘と帝国解放会入りの話になる予定です。